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2007年1月31日 (水)

4年目4月 SPZ選手権 伊達遥×草薙みこと

旗揚げ4周年記念大感謝シリーズが始まった。初戦の鹿島大会のセミで沢崎が初めてチョチョカラスからフォール勝ちを収めた。メインではAACタッグ挑戦の決まっている伊達、秋山が南、上原と対戦し、合体パワーボムで上原を倒しタッグベルト奪取をアピールした。

2戦目の新潟大会、メインで組まれたのは上原今日子対小川ひかるのAACジュニア戦。4ヶ月連続での同一カード。しかし両者の力関係は逆転したか。関節技でねちねち攻める小川に対して中盤、上原が新技を出した。首と足を掴んだままスープレックス気味に投げるキャプチュードで小川の意識を刈り取り優位に立ち、最後は2発目のキャプチュードで小川を沈めた。上原は初防衛に成功。

「もう、上原さんには勝てないのかな・・・」

小川ひかるは追い抜かれる苦しさを感じた。

第4戦の大阪舞州大会、新人の永沢舞のデビュー戦。相手は保科優希。

うーん、なんか緊張してきちゃった、どうしよー。

スリーパーで絞められ苦しい展開。アームホイップやフロントスープレックスなどで反撃させてもらえたが、最後は腕十字で痛めつけられた後、強烈なチョップで倒され3カウントを奪われた。勝負タイム10分46秒。

よくわからないまま控室へ戻った永沢に先輩レスラーから祝福の言葉。「これでレスラーの仲間入りだ、頑張れ」

第3試合で上原今日子がミミ吉原越え。中盤まではミミ吉原が関節技や掌底で優勢に進めたが、キャプチュードで頭から落とされて形勢逆転。弱ったミミ吉原を見てここが攻め時だと感じた上原は、ジュニア王座を獲ったフェイスクラッシャーで吉原を叩きつけカウント2.5、直後にフランケンシュタイナーを繰り出す大技の波状攻撃。吉原は3カウントを聞いた。勝負タイム10分42秒。

「そんなぁ・・・デビュー1年のコに負けるなんて」

その夜、ショックで落ち込んだミミ吉原を社長と井上秘書が飲みに連れ出したが、吉原はがっくりと落ち込み続けた。

さて、大阪大会のメインは沢崎、草薙組対秋山、伊達組のAACタッグ選手権。一進一退の攻防が続いたが、中盤に伊達が放ったSPZキック(ハイキックから改称)で草薙の動きが止まり、そのまま孤立した草薙が攻められて、最後は合体パワーボムで大ダメージを負った後の秋山のDDTに3カウントを奪われ王座移動。秋山、伊達組は約1年ぶりの王座奪還。

「やられた・・・決して油断したわけでは・・」

悔しさを押し殺して引き上げる草薙。AACシングルのベルトを獲って何とか勝てる相手だと心のどこかで慢心があったのだろうか・・・

第6戦の滋賀大会、保科優希の地元である上メインでタイトルマッチが組まれたので超満員。第3試合ではまた上原今日子対ミミ吉原の「残酷な世代交代」カード。

これで負けたらあたしは・・・

積極的に攻めて、ドラゴンスリーパーも出して、上原の若さとパワーに負けないよう精一杯の力を出した。フランケンシュタイナー、フェイスクラッシャーをもらったが立ち上がり、フロントスープレックスで投げ返す。

―この一撃にすべてをかける!

上原が立ち上がってくるや右ハイキック一閃。頭に命中。

―入った。ゴメン上原さん。

ワン、トゥ、・・・

カウント2.8でフォールを跳ね返す上原。

―そんな、返された?

ここで決めないといけないと焦った吉原はドラゴンスリーパーを再度繰り出したが、あまりにもロープに近く逃げられてしまった。

ハァ、ハァ・・・

焦る吉原に上原が組み付きロープに振って、帰ってきたところを頭をつかまれて、この日2度目のフェイスクラッシャーを食らい、吉原は頭を打って動けなくなった。そのままフォールされてカウント3.

デビュー1年の若手相手によもやの2連敗。

「ちょっと、ごめん、一人にさせて・・・」

心配した社長が控室前まで来たが、吉原は振り切ってコスチュームの上からジャージを着てそのまま体育館を出てタクシーに乗り、宿泊先のホテルへ一人で帰ってしまった。

このバタバタで動揺したのか、次の試合は南対沢崎のシングルマッチだったが、荒れた展開の末に南はフォール負けを喫した。

大津大会のメインは草薙対チョチョカラスのAAC選手権試合。「クサナギはダテのようなデンジャラスなハードヒットを持っていない、スープレックスでオーソドックスに攻めてくる選手だ。強敵だがチョチョなら勝てる、頑張レ、ベルトを持ってメキシコに帰ろう」ハヤトール氏のアドバイスを受けチョチョカラスがベルト奪還に動いた。

ハヤトール氏の暗示?を受けたチョチョカラスはリングを縦横無尽に飛び回る本来の持ち味を出し草薙を追い込む。しかし中盤、草薙も兜落とし、ノーザンライトスープレックスで反撃。チョチョカラスもジャーマンで応戦。カウント2.8で返す草薙。チョチョカラスはバックドロップを狙うも空中で切り返されて押しつぶされた。そのあと草薙の2度目のノーザン。叩きつけられた際に草薙の肩がチョチョカラスのみぞおちに入り、チョチョカラスは無念の3カウントを聞いた。

―去年の秋には何もさせてもらえなかったチョチョカラスさんに勝てたー

「クッ、負けてしまった」

「ドント・ウォーリー、前半は勝ってた、あのカブトオトシとかいう投げを早めに繰り出してきたクサナギがウマカッタ。次ヤレバ勝テル、信ジロ」

「・・・そうね」

翌朝、大津のホテル前、集合時間にミミ吉原は現れた。

「-もう大丈夫よ、後輩にひとつやふたつ負けたぐらいで落ち込んでられないわ」

―よかった。

バスは東京へ戻り、移動日をはさんで行われた八王子大会―メインは南、吉原、小川のチーム関節地獄と、沢崎、草薙、上原の6人タッグマッチ。相変わらずの大熱戦。個々の力で上回る一期生プラス上原、連携で対抗する関節地獄。試合は6人の持ち味が入り乱れる大激戦となった。

「もう逃げられないわよ!」

小川ひかるのSTFが草薙を捉える。草薙もしかしAACチャンプの意地をみせ振りほどき、タイガースープレックスで逆襲。カウント3直前で南のカットが間に合った。小川はフラフラになりながらも逆片エビで草薙に一矢報いたあと、

「ミミさん!」吉原にタッチ。

草薙も沢崎にタッチ。

「これで終わりですっ!」

ミミ吉原、渾身のドラゴンスリーパーが沢崎を捕らえる。これはなんとか逃げた沢崎だったが、もはやフラフラ状態で、続く掌底に倒されて、ミミ吉原が格上の沢崎からカウント3を奪取。草薙も上原もコーナー下でダメージを負っていてカットにすばやく入れなかった。場内割れんばかりの吉原コール。32分30秒の大激闘。チーム関節地獄の3人で手上げ。

「やっぱりプロレスは面白いわ」

控室に戻った吉原がしみじみと呟く。

最終戦横浜大会、SPZのタイトルマッチが行われるとあって館内は超満員の盛況。初代王者・伊達遥の初防衛戦の相手は、よりによって先月AAC戦で敗北を喫した草薙みこと。

中盤、草薙がフロントスープレックスの連打で活路を見出し、前回の決め技のサソリ固め、ドラゴンスリーパーなどで伊達の動きを止めた。しかし伊達も切り札のSPZキックからフォール。

まだ動ける、まだ闘える。

カウント3直前で右肩を上げて返す草薙。すぐに伊達のアキレス腱固め。草薙はロープに逃れる。そのあと草薙がボディスラムで転がして、コーナー最上段からボディプレス。これは意地で返す伊達、しかしー

チョチョカラスを下したノーザンライトがここで火を噴いた。叩きつけられた衝撃、伊達返せず3カウントを聞いた。

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SPZ世界選手権試合

○草薙みこと(30分23秒 ノーザンライトスープレックスホールド)伊達遥

初代王者が初防衛に失敗。草薙みことが2代目王者となる。

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「解説のミミ吉原さん、勝敗を分けたポイントは」

「うーん、総合力の差が出ましたね、草薙選手は投げ技、極め技、飛び技と有効な技の引き出しが多いですからね、蹴りしかない伊達選手との違いが出たと思います」

かくて30分23秒の激闘を制した草薙みことがSPZの2代目王者に輝き、AACと合わせてシングルの2冠王。富沢レイが草薙の腰にベルトを巻いた。

2007年1月30日 (火)

第19回 4年目開始時点の「プログラム」から

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4年目4月

小川ひかるに写真集のオファー。

「ダメダメ、上原選手とリターンマッチ組むんだから」今野社長は「雑念」をふりきって断った。

その週末、今野社長は井上秘書、ミミ吉原を伴って飛行機で福岡へ飛んだ。

「あー、ミミさんだぁー」

福岡にとてつもない運動神経の持ち主がいるとの情報をキャッチし、さっそくスカウトに向かった。福岡某所のホテル会議室で彼女の両親同席の元交渉。

「あ、どうも、私がSPZプロレス社長の今野です。じつは永沢さんにぜひうちの団体で活躍して頂きたく・・・」

「でも、プロレスって最初のうちはものすごく痛くて、苦しいんでしょう、うーん」

15歳の彼女なりに悩んでいるようだ。

「永沢さん」ミミ吉原が優しく諭す。

「うちの団体は・・・自分で言うのもなんだけど、和気あいあいとした雰囲気よ。厳しいシゴキとか、うーん、スポコンな雰囲気は、ないっていったらウソになるけど、みんなが自分からやる気を持って練習してる。頑張れば永沢さんは強くなると思うわ」

「で、プロレス団体のいいところは、コスチュームとシューズを持って日本全国を回れるところだと思う。こんど夏に北海道巡業やるんだけど、試合やるのは夜だから、昼に旭山動物園とかクマ牧場とか観光できますよ」

動物好きの永沢の性格を予めリサーチした上での今野社長の甘言。あっさり永沢は陥落した。

「わ、わかりましたー、お世話になりますー」

4月上旬、金曜日の深夜、今野社長は2階の事務所でプログラムに印刷する選手プロフィールの原稿作りに精を出していた。いよいよSPZも選手12名を擁する本格的なプロレス団体の体をなしてきた・・・

チーム関節地獄・頼れる姉御 ミミ吉原

本名:吉原瑞穂。1989年4月4日、神奈川県横浜市出身、元全日本空手王者の経歴をひっさげて、2005年9月30日、ワールド女子プロレスのリングで、対ブラック・ヘルバトラー戦でデビュー。SPZには旗揚げ当初から参加。草創期の団体をエース兼若手選手の指導役として引っ張り団体を今日へ導く。プロレスの試合では空手の打撃技はあまり見せず、関節技や締め技を主体としたレスリングを見せ、南利美、小川ひかると団体内ユニット「チーム関節地獄」を結成し、2011年3月には南利美と組んでAACタッグ王者に輝く。最近はタイトル戦線から離れ、南のサポート役に回る場面が多いが根強い人気を持っている。決め台詞の「悪く思わないでね」はあまりにも有名。得意技はドラゴンスリーパー。

戦う舞台女優 ミシェール滝

本名、滝香津美。1990年7月15日、兵庫県神戸市出身、2006年5月15日、ワールド女子プロレスのリングで、対ミミ吉原戦でデビュー。ワールド女子崩壊後はフリーで各団体に参戦する傍ら舞台女優としても活躍。SPZにはミミ吉原に誘われて旗揚げ直後の2009年7月から参戦。スピーディーな動きと足腰のバネを利した飛び技が得意で、ムーンサルトプレスなども使いこなす。

関節のヴィーナス 南利美

1993年3月1日、高知県高知市出身、SPZの一期生として旗揚げ直後に入門し、2009年5月15日、名古屋市体育館での小川ひかる戦でデビュー。デビュー戦を勝利で飾る。関節技の切れ味は世界でもトップクラスで、一瞬の隙を突いてギブアップを奪うことも珍しくない。そして関節技を警戒する相手には裏投げで痛打を与える立ち技もこなせるファイター。1年目からタイトル戦線に抜擢され、SPZジュニア、AACタッグ等のベルトを奪取。チーム関節地獄の一員で決め台詞の「この技に耐えられるかしら?」はあまりにも有名。SPZ初代王者決定戦では惜しくも伊達に破れ、今後の巻き返しに期待がかかる。得意技は飛びつき腕ひしぎ逆十字固め、裏投げ。

完全燃焼娘 沢崎光

1993年6月17日、広島県尾道市出身。SPZの一期生として第2回新人テストに秋山と同時合格し、2009年5月15日、名古屋市体育館でのジュリア・カーチス戦でデビュー。練習熱心でプロレスにかける情熱は人一倍。努力を積み重ねてAACジュニア、AACタッグ王座などを戴冠。得意技はタイガースープレックス。

ヤングライオネス 秋山美姫

1993年10月8日、鳥取県米子市出身。SPZの一期生として第2回新人テストに沢崎と同時合格し、2009年5月15日、名古屋市体育館でのアリッサ・サンチェス戦でデビュー。投げ技も関節技もバランスよくこなす器用なファイトを見せ、AACジュニア、AACタッグ王座を戴冠。伊達遥とのタッグは相互に助け合う名タッグの呼び声が高い。得意技はDDT、ドラゴンカベルナリア。

静かなる不死鳥 伊達遥

1993年10月23日、宮崎県都城市出身。SPZの一期生として旗揚げ直後から参加し、2009年6月20日根室市体育館、アリッサ・サンチェス戦でデビュー。長身を生かした蹴り技の威力はすさまじく、長い足を生かした膝蹴りは多くの選手が「身体を剣で串刺しにされるようだ」と評している。人見知りが激しく無口な性格だが、リング上では熱い戦いを繰り広げる。秋山とのタッグでAACタッグを戴冠し、直近では南利美を破って初代SPZヘビー級世界王者に輝く。得意技はSPZキック。

不屈の大和撫子 保科優希

1992年9月3日、滋賀県大津市出身。中学時代は合気道で身体を鍛える。SPZ一期生として第1回新人テストに合格し、2009年4月21日横浜赤レンガアリーナ大会で、アリッサ・サンチェス戦でデビュー。温和な性格で選手たちの信頼も厚く、合宿所の初代寮長を務め、団体の草創期を陰から支える。現在はおもに前半戦で若手選手の壁として熱いファイトを展開。ファンの人気もかなり高く、映画にも多数出演している。得意技はアキレス腱固め。

関節キラー 小川ひかる

 1993年11月30日、長野県松本市出身。中学時代からアマレス、柔道などで体を鍛える。井上霧子に見込まれ、SPZプロレスにスカウトされ入門第1号となる。2009年4月21日、横浜赤レンガアリーナ大会で、対 ジュリア・カーチス戦でデビュー。SPZ草創期から団体を支える。パワーでねじ伏せるファイトスタイルからは最も縁遠く、小柄な身体で連日奮闘し、やられてもやられても立ち上がるその姿にファンは共感、いつしか大声援が飛ぶようになった。デビューからシングル戦15連敗を喫するなど素質はなかったが、連日の猛特訓でタイトル戦線にも食い込める実力をつけ、2011年5月には南利美とのタッグでAACタッグ、12月にはAACジュニアを戴冠。チーム関節地獄の一員で「もう逃げられないわよ!」が出ると会場は盛り上がる。得意技はSTF。

最強巫女伝説 草薙みこと

1994年9月21日、山形県朝日町出身。幼い頃から草薙神社の巫女として修行を積み、その傍ら古武術に通じる草薙流体術を伝承体得した。この素質が井上霧子の目にとまり、SPZにスカウトされ2期生として入団。2010年4月27日、富山市体育館で小川ひかる戦でデビューし、プロ初戦を勝利で飾る。物静かなタイプだが、リング上では強力な投げ技を次々と繰り出す派手なファイトスタイル。また、ミミ吉原から関節技を教わるなど研究熱心な一面もある。瞬く間に一期生に追いつきトップ争いに食い込み、沢崎光と組んでAACタッグを戴冠し、直近では伊達遥からAAC世界ヘビー級のベルトを奪取するなど若手の中では驚異のスピード出世。得意技は変形裏投げの草薙流兜落とし、タイガースープレックス。

ダイナマイトガール 富沢レイ

1994年5月10日、千葉県八千代市出身。柔道などで身体を鍛える。SPZには二期生としてスカウトされ、2010年8月8日、新潟・柿崎アリーナ大会の草薙みこと戦でデビュー。現在は前座戦線で会場の盛り上げ役を担う。オフの日は秋葉原、年末には有明に出没することで有名。得意技はアキレス腱固め。

未来のエース候補 上原今日子

1995年12月31日、沖縄県那覇市出身、第3回新人テストに合格しSPZ三期生ろなる。2011年5月11日、青森スポツァルト黒石大会の保科優希戦でデビュー。琉球空手の経験を生かしたローリングソバットなどの蹴り技を武器に着々とのし上がり、直近では小川ひかるを破りAACジュニアのベルトを巻くに至った。得意技はフェイスクラッシャー。

期待の新人 永沢舞

1997年3月29日、福岡県二日市市出身。2012年4月、SPZ4期生として入門。今シリーズデビュー予定。

レフェリー ピンクシューズ阪口

1957年8月8日、静岡県浜松市出身。1974年6月20日、徳島市佐古駐車場特設大会の粕谷純戦でプロレスデビューを果たすが、故障もあって1982年に現役引退し、レフェリーに転向。フリーの名レフェリーとして国内海外を問わずさまざまな試合を裁く。2010年にSPZにレフェリー兼コーチとして入団。

レフェリー 井上霧子

1980年9月15日、神奈川県川崎市出身。1995年5月1日、関東女子プロレス・後楽園プラザ大会のユリシーズ島宮戦でプロレスデビュー。2004年11月に現役引退。SPZには旗揚げ前から社長秘書兼レフェリーとして参加。選手のまとめ役として貢献。試合数が選手の負傷等で減ったときのトークショー(暴露話)は好評。

リングアナウンサー 今野和弘

1974年7月31日、山梨県塩山市出身。特にプロレスとの接点もなく会社員をしていた。SPZには2009年3月の設立時から社長兼リングアナウンサーとして団体を陰から支える。

ここまで打ち終わったのが深夜3時。車を運転して帰るのも面倒なので床にダンボールを敷いて社長は泊り込むことにした。

翌朝午前7時、合宿所を出た若手選手が1階の道場に到着し、朝練習を始める。

「あれ、2階の明かりついてる」

「あー、社長さんまた泊り込んだな」

やがてリングから受け身の音が聞こえ出し、社長は目を覚ました。「ああもう朝が来たのか」

今日も忙しくなりそうだ。社長はプログラムの原稿をメール送信すべくパソコンへ向かった。

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一期生年長組の南利美と保科優希が19歳になったので、退寮の許可が出て、それぞれ道場近くに社宅扱いでアパートを借り、そこで一人暮らしを始めた。練習には通いで参加する。2代目の寮長には秋山美姫が選出された。保科の部屋には新人の永沢舞がそのまま入った。

2007年1月29日 (月)

第18回 SPZ初代王者決定戦 南利美×伊達遥

3年目3月仙台大会

メインイベントはAAC世界タッグ戦。

「ゆっくり、じっくり、いじめてあげるわ・・・」

米英・悪の女帝コンビ、ジョーカー・レディ、マリア・クロフォードが挑戦者。

「さあ、参りましょう!」「今日も完全燃焼してきますッ」

王者組はいつもの対照的なテンション。試合は沢崎が悪の女帝コンビの攻撃を受ける矢面に立って、時折鋭い投げ技で反撃していい流れを作って草薙にタッチ。クロフォードもベルト獲得へ向けアキレス腱固めなどをくりだしたが及ばず、最後は草薙のタイガースープレックスに3カウントを喫した。王者組が5回目の防衛に成功。

翌日の山形大会ではAAC世界ヘビー選手権。チョチョカラスの連続挑戦が濃厚だったが「もし伊達に負けたら同一カード3連敗になってイメージが傷つく、伊達の蹴り技に相性が良くないのであれば別の選手にタイトルが渡ってから取り戻したい」とAACサイドがカード編成の要望を申し入れ、今回は昨年夏のSPZクライマックスで伊達から白星を挙げている草薙が挑戦者になった。しかも山形は草薙の地元。王者は戦う前から重圧を感じていた

「修行の成果を見せないといけませんね」

草薙みことは伊達からのベルト奪取を本気で狙ってきた。蹴りを食らう前にともかく投げまくらないといけない。タイガードライバーやフロントスープレックスで投げ続け、相手にペースを与えない。最後はアキレス腱固めで動きを封じてから、サソリ固めを繰りだした。

「ウアーッ」伊達が力ない悲鳴を上げる。場内からも女性ファンの悲鳴。

「伊達さんは立ち技は凄いけど、極め技の受けが甘いからそこを突けば勝てないことはないと思うよ」

ミミさんのアドバイス通りに絞り続ける。しばらく耐えた伊達だったが、

「ギブアップ・・・・」

しゃがみこんで意思確認をする阪口レフェリーの手を叩いた。これでAAC王座移動。リングサイドに陣取った草薙神社関係者が歓声を上げる。

「26分58秒、サソリ固めで、草薙みことの勝ち」

デビュー2年で草薙みことは団体のトップに立った。同期の富沢レイが草薙の腰にベルトを巻く。

「や、やった・・・」

伊達は呆然としながら退場。翌日はよりによって南利美とのSPZ初代王座決定戦。

「負けたショックを引きずらなければいいけれど・・・」

井上霧子が呟く。決戦前日、極め技締め技の対応が弱いという課題を露呈した伊達、相手はその道のスペシャリスト、「関節のヴィーナス」南利美である。

翌日は埼玉川口で最終戦。SPZ初代王者決定戦が開催されるとあって超満員の盛況。

SPZと新女若手同士対抗戦2試合の後の第3試合、ミミ吉原対小川ひかるの玄人好みの試合。チーム関節地獄の同門対決だが容赦のない極めあいが続き、最後はリング中央でストレッチプラムを決めたミミ吉原がギブアップ勝ち。恒例のマイクは「フゥ。、勝ちました。まだまだチーム関節地獄ナンバー2の座は渡しません(場内笑い)きょうはうちの団体のベルトの初代王者決定戦です。リミちゃんが勝つと思う人!(場内歓声)伊達ちゃんが勝つと思う人!(場内歓声)凄い試合になると思いますので応援よろしくお願いします!」ここで休憩。

休憩後の第4試合、秋山対チョチョカラスはムーンサルトプレスが炸裂しチョチョカラスの勝ち。セミファイナルは沢崎・草薙のAACタッグ王者チームがデスピナ、クロフォード組と対戦し、沢崎がデスピナからタイガースープレックスでカウント3を奪った。そしていよいよメイン。

場内が暗転され、リング中央に「1億円のベルト」が置かれた。青コーナー側から伊達遥が鋭い眼光で入場。赤コーナー側から南利美がいつも通り淡々とした表情で入場。

「ただいまより、本日のメインイベント、SPZ世界ヘビー級初代チャンピオン決定戦、60分1本勝負を行います!」

立会人の京スポ新聞記者、若林太郎氏が認定証を朗読。

「えー、この試合は、えー、スーパースターズプロレスリングゼットが、えー、認定する世界チャンピオンのえー、初代王者決定戦として行い、えー、勝者が初代チャンピオンとなることを宣言する、えー2012年3月28日、SPZコミッショナー今野和弘、えー、代読、京スポ新聞、若林太郎」

両選手がコールされる。旗揚げから3年、ついに自前のベルトを作成し、草創期から団体を支えてきた一期生の両者が激突する。社長は感無量の思いで両者の名前を叫んだ。

「青コーナー、宮崎県都城市出身、伊達―、ハルカーッ」

「赤コーナー、高知県高知市出身、南―、としーみーッ」

「レフェリー、ピンクシューズ阪口」

投げ込まれる大量の紫色の紙テープ。セコンド陣が総出で片付ける。この間に社長が本部席に戻って木槌を手に取る。

「ファイッ!」

阪口レフェリーが右手を掲げて試合開始を宣し、今野社長が木槌でゴングを叩き試合が始まった。

まだシングルでは南は伊達に負けたことはないが、油断できないので先手必勝で攻める作戦を南は考えた。

負けるとしたら戦いが長引いてキックをもらってというパターン。そうなる前に関節技で潰す。そう考えてスリーパーなどで攻めていった南だったが、伊達も手数を返してゆく。

そしてー

試合後半に放った伊達のミサイルキック、顎に入ったのか南が派手に吹っ飛び、めっきり動きが鈍くなった。この隙を逃さず伊達がジャーマンを決める。カウント2で南は返す。スリーパーで体制を立て直そうとする南だが、振りほどいた伊達が組み付いていってー

ニーリフトの乱射が南の腹にグサグサと炸裂。

「うっ、くっ・・・」苦しみにもだえながらのた打ち回る南。

ここで伊達が距離をとった。フラフラと立ち上がる南にー

走りこんで右腕を南に振るようにたたきつけた。ラリアットがみごとに決まり、南は頭からマットに沈んだ。すかさずカバー。

「ワン、トゥ、スリッ」阪口レフェリーがマットを3つ叩いた。

場内大歓声と悲鳴が相半ば。

「25分26秒、ラリアットからの片エビ固めで、伊達遥の勝ち」

南さんに・・・勝てた・・・

伊達の目から涙がこぼれた。秋山美姫が伊達の腰にベルトを巻いた。

「アー、負けたわ・・・悔しい」

腹を押さえながら小川ひかるの肩を借りて控室に引き上げてきた南利美。

「よく頑張った、チャンスは近いうちにまた来るからその時獲ればいいよ」ミミ吉原が言葉をかける。

大会終了後、バスで横浜に戻った一行はチーム関節地獄を除く全員で、横浜某所のイタリア料理店「アレグロ」で祝勝会を行った。

一方戸塚の和食料理店「よこ川」ではチーム関節地獄と今野社長の4人で残念会。

「きのう草薙さんに負けて、伊達さんも死に物狂いというか目の色がちがってたと思う」社長がフォローする。

南利美の拳はまだ震えていた。旗揚げ直後から団体を引っ張ってきて、ようやく団体が大きくなって本当の意味でトップに立てると思ったところに伊達さんに足元を掬われた・・・ウーロン茶のグラスを思わず握りしめる。

「やばいリミさん、割れちゃうから、私も前やっちゃって」

小川ひかるが止める。

「・・・次やるときは、こっちも死ぬ気で腕を壊しに行くつもりでやるわ」

2007年1月28日 (日)

第17回、負けるのは、な、慣れてますから・・

第7戦の高岡大会で大波乱。メインでは集客のためにAACの絶対王者チョチョカラスに、伊達遥が挑むタイトルマッチが組まれた。南でもダメ沢崎でもダメ秋山でも草薙でもダメという絶対王者ぶりを発揮するチョチョカラス。今シリーズは南がいないので伊達を挑戦者に起用したら、序盤から蹴り技で攻めた伊達が優位に立ち。チョチョカラスもムーンサルトプレスを繰りだすがそれまでのダメージ蓄積がないので返され、そのあと伊達がアキレス腱固めで攻め立て、チョチョカラスも必死にバックドロップ、ミサイルキックで反撃するも、最後は疲れで動きが止まったところを、

バキッ。

チョチョカラスの側頭部に伊達のハイキックがまともに入った。

意識が落ちたのか、前のめりにバタリと倒れるチョチョカラス。ひっくり返してカバーして、

「ワン、ツゥ、スリーッ」

AACエージェント権レフェリーのハヤトール氏がマットを3つ叩いた。

「21分13秒、ハイキックからの体固めで伊達遥の勝ち」

館内エエーッ!の驚きの声。チョチョカラスはダメージが深いのかデスピナ、ジョーカーらAAC勢に背負われ退場。信じられないと言った表情の伊達。立会人の京スポ新聞記者、若林氏からベルトを受け取る。上原今日子が伊達の腰にベルトを巻いた。館内大歓声。先にチャンスをもらいながら届かなかった秋山、草薙は複雑な表情をしていた。

翌日は最終戦、横浜体育館での決戦。メインでは沢崎、草薙対秋山、伊達組のAAC世界タッグ戦が組まれた。前日のチョチョカラスとの激闘の疲れが残っていないと言えばウソになるが、伊達は2冠王を獲りにかかった。

試合中盤、早く勝負を決めたいと考えた伊達は草薙に、チョチョカラスを沈めたハイキックを一閃。だが草薙も堪えて頭をおさえながら沢崎にタッチ。沢崎は秋山に狙いを絞りタイガースープレックスで追い込む。最後は草薙と伊達の攻防になり、草薙のフライングボディプレスで大ダメージを負ったのか、直後のサソリ固めであっさり伊達はギブアップ。王者組が防衛に成功した。

3年目2月

団体の至宝であるベルトを3本とも日本の新興団体に奪われたSPZは驚愕した。メキシコ本国のAACコミッショナー、ビル・アクセスがチョチョカラスがシングルで日本人選手に負けたと知り天を仰ぎ、ベルト奪還を選手に厳命した。二時間後AACエージェント、ハヤトール氏からメール。

「よくもチョチョカラスをやってくれたな、次のシリーズ、AACは全力でベルト奪還しに行くからシングルとタッグのタイトルマッチを組め」

ということで2月シリーズ「SPZ対AAC全面戦争―エキサイティングシリーズ」が始まった。初戦の高知大会、南利美の地元凱旋なので超満員の盛況。しかしメインは久々に揃い踏みした南、吉原、小川の「チーム関節地獄」がチョチョカラス、デスピナ、カーチスのAACトリオに敗北、最後はチョチョカラスのムーンサルトプレスがミミさんを沈めた。試合後珍しくチョチョカラスのマイクアピール。

「SPZ、カイメツ!」

2戦目は京都大会。あまりSPZ人気の浸透していないエリアだが、メインに草薙、沢崎組対チョチョカラス、デスピナ組のAACタイトル戦が組まれたので超満員の盛況。本国ではチョチョカラスはタッグ戦線に絡まないのだが、ベルトを日本人の手から取り戻すためにそうも言ってられなくなりデスピナと組んで出陣。試合はチョチョカラスが飛び技投げ技で王者チームを翻弄したが、20分過ぎに草薙みことが必殺「草薙流兜落とし」を決めてチョチョカラスをグロッキーに追い込み。代わったデスピナをかわるがわる攻め込んで、草薙がタイガースープレックス炸裂、万事休すかと思われたがデスピナが常連外人の意地を見せカウント2.9でクリア、そしてチョチョカラスにつないで勝負は分からなくなったーと思われたがー

チョチョカラスに本来の力は残っておらず、草薙みことのノーザンライトスープレックスホールドで無念の3カウントを聞いた。36分22秒の激闘となった。

第5戦の長野大会。メインでは先月と同じ顔ぶれながら小川ひかる対上原今日子のAACジュニア戦。他に有力な選手がいないので上原が連続挑戦。

―小川さんは勝つために作戦をキッチリ立ててくる、それなら相手の予想を上回るくらい暴れないと勝てない。

そう考えて、フェイスクラッシャーやヘッドバット、ローリングソバットなどを積極的に繰り出して小川にかなりのダメージを与えたが、終盤は小川が関節技を出してきて、最後はストレッチプラムがガッチリ決まり。上原は無念のギブアップ。20分8秒の激闘。

「勝てました!社長、見てくれましたか?」

コアなファンの間ではSPZの社長は小川ひかるを「個人的に」応援しているのは有名であり、それを逆にネタにした小川の勝利コメント。だが小川は控室に戻ると倒れこんだ。

「あー、頭痛い、苦しかったー、たぶん次の次ぐらいは勝てないと思う」

ミミ吉原が笑いながら諭す。

「ダメダメ、彼女のためにもカベにならないと」

そして最終戦、幕張コンベンションホール大会。この会場での興行は初めてだったが、メインに伊達遥対チョチョカラスの再戦が組まれたこともあって超満員札止めの盛況となった。

きょうは全6試合の豪華版。第1試合は富沢レイ対カーチス。順当どおりカーチスの勝利。第2試合はミシェール滝対上原今日子。進境著しい上原は5つ年上の滝相手にも果敢に攻め込んだが、今回は滝が意地を見せミサイルキックで上原を倒した。第3試合はチーム関節地獄の師弟対決、ミミ吉原対小川ひかる。

SPZを関節技使いだらけの団体にしてしまった責任?の一端は初代エースのミミ吉原にある。この試合も地味な腕や足の極めあいが続く。しかし最後は修羅場をかいくぐってきた経験の差がでたか、ミミ吉原が掌底で小川を流血に追い込み、小川の足が止まったところを豪快なボディスラム一閃。カウント3を奪った。

シュート気味な試合のせいか、試合後の吉原のマイクも今日はありがとうございましたという短い内容。ここで休憩。休憩明けの第4試合は早くもタッグ王者の草薙、沢崎が登場しデスピナ、クロフォード組と対戦。草薙がドラゴンスリーパーでデスピナからギブアップを奪った。セミファイナルは南利美対秋山美姫。関節技を挟みながらテンポよく攻めた南が終盤も裏投げ、裏拳とたたみかけて勝利。

そしてメイン。雪辱に燃えるチョチョカラスが猛然と攻め、中盤にはムーンサルトプレス、ミサイルキックで伊達の体力を大きく奪う。これで闘志に火がついた伊達、必殺のハイキック一撃。またこれでチョチョカラスは意識が飛んで前のめりに倒れ、先月同様に伊達が覆いかぶさって3カウント奪取。伊達が初防衛に成功。

3年目も終わりに近づく3月、保科優希の出演映画「OBLIVION=絶望の戦い=」が公開された。例によってアクション映画の悪役で、今をときめくアイドル向山志穂演ずる女戦士、その前に立ちふさがる悪の傭兵が保科優希で、「あなたにこの先は必要ありません~、死んでもらいます~」などと言ってごついコンバットナイフを振り回し追い詰めるが、最後は謎の助っ人に撃たれて殺されてしまう役であった。

その数日後、SPZヘビー級ベルトの新設記者会見が開かれ、今野社長、井上秘書、南利美、伊達遥の4人が出席して行われた。

「作成に1億円かかりました。ベルトそのものの制作費用のほかに世界レスリングコミッションさんへの認定手続きもろもろで、ええ。貧困にあえぐうちの団体にはきつい出費でしたが、先シリーズAACさんがベルト奪還にかける気迫を私も見まして、自前のベルトを作ることを決意いたしました。つきましては次のシリーズ、いまのうちの団体エースの南利美選手と、あのチョチョカラス選手に2連勝している伊達遥選手との間で王座決定戦を行い、勝った方を初代チャンプとして認定したいと思います」

「・・・やるからには勝ちに行くわ」

「・・・・あの・・・がんばります・・・」

ぶっ殺してやるとか潰してやるとかといった威勢のいい言葉が出てこないところがここの団体の特徴でもあり怖さである。

「新女さんから参戦表明だって?」

「ええ、先方の佐久間部長から打診がありまして、昨年末のEXタッグリーグ戦でSPZのレベルの高さを実感したので、若手を3名ほど送り込むので修行させてほしいと」

「良かろう、人員が増えればシングルマッチで5試合確保ということをやらずにすむので、タッグ戦が増やせて選手の負担も減るだろう」

こうして3月シリーズ「輝く!SPZ初代王座決定シリーズ」がスタート。タイトルマッチ4本がくまれる豪華版だ。

開幕戦は北海道釧路大会、メインはSPZ初代王座決定戦の前哨戦として、南利美・ミミ吉原・小川ひかるの「チーム関節地獄」対伊達遥・秋山美姫・上原今日子の「一期生2強プラス若手一番星」の6人タッグ戦が組まれた。個々の力は伊達・秋山を擁する一期生チームが強いが、チーム関節地獄は攻め込まれたら即タッチという早いタッチワークで的を絞らせない、司令塔ミミさんのせこい作戦もあって白熱した。上原今日子もうまくこの戦いについていき、38分の熱闘の末、秋山がミミ吉原をドラゴンカベルナリアに捕らえギブアップを奪い、伊達組が前哨戦をものにした。

第4戦の岩手大会、メインでは3回連続の同一カード、小川ひかる対上原今日子のAACジュニア戦。序盤は小川がスリーパーや脇固めでペースを握ったが、中盤、上原が放ったステップキックが小川の集中力を乱したらしく、バックドロップ、再度のステップキックとたたみかけて小川をグロッギー状態にした。

今だ

「かわいそうだけど、これで終わりッ!」

上原の必殺技、フェイスクラッシャーがまともに決まり、小川は顔面をマットに強打し、そのまま3カウントを聞いた。

デビュー1年でのジュニア王座奪取は南利美と並ぶスピード記録。

「13分38秒、フェイスクラッシャーからの片エビ固めで上原今日子の勝ち」震えながら社長がアナウンス。上原今日子は井上レフェリーからベルトを受け取り自分で腰に巻いた。

やった。ついに小川さんに勝った。

敗れた小川は重い足取りで控室へ。

「くっ・・・」2年後輩に抜かれた悔しさ。

その夜、今野社長は井上秘書、沢崎光と小川ひかるを「おー、飯食ってこう」で盛岡市内の焼肉店に誘った。

「しゃ、社長、気になさらないでください、上原さんに負けたことやベルトを失ったことは悔しいですけど、負けるのは、な、慣れてますから」

「いやほら、格上にぶつかって玉砕するのは見慣れてるけど、後輩相手でああいう獲られ方をしたから、気にしているかなと思って」

「・・・ごめんなさい、気を使わせて」

「いいよ小川さん、次のシリーズで再戦組むから、もう社長の横暴とかマッチメーク権の乱用といわれても組むから、そのときは『もう逃げられないわよ』って言ってよ、これは社長というか一ファンとしてのお願い」

「ぶっ」井上霧子が噴き出す。

「・・・分かりました、頑張りますっ・・」

小川ひかるはハンドタオルで目からこぼれたものをふいた。

翌々日仙台大会、超満員の盛況。

セミファイナルではチーム関節地獄の南利美、小川ひかる組がチョチョカラス、デスピナ組と対戦。最後は南がデスピナを裏投げ2連発で仕留めた。人気選手の勝利に会場の熱気は最高潮。

そしてメインイベントはAAC世界タッグ戦。

「ゆっくり、じっくり、いじめてあげるわ・・・」

米英・悪の女帝コンビ、ジョーカー・レディ、マリア・クロフォードが挑戦者。

2007年1月27日 (土)

第16回 小川ひかるJrベルト戴冠

翌月11月シリーズは第3回SPZタッグリーグ戦。海外遠征から小川ひかるも帰国し、はじめて全8チームで争われる豪華なリーグ戦である。

出場チームは下記8チーム

AACタッグ王者:沢崎光、草薙みこと組

前回優勝:南利美、ミミ吉原組

元AACタッグ王者:秋山美姫、伊達遥組

元AACタッグ王者:ジョーカー、デスピナ 組

AAC代表:チョチョカラス、サンチェス 組

一期生雑草魂:小川ひかる、保科優希 組

若手コンビ:富沢レイ、上原今日子 組

予測不能チーム:クロフォード、ミシェール滝 組

シリーズ3戦目、優勝候補同士の激突。前回優勝の南、吉原対沢崎、草薙の好カード。試合中盤、草薙が覚えたばかりのノーザンライトスープレックス、タイガースープレックスとたたみかけて吉原を沈めにかかった。

いけないやられる。

吉原は投げられた直後に腕のフックをもがいて切って、とりあえず場外へ逃げた。場外でひとまず休む作戦だなと判断した草薙が追ってくる。吉原を捕まえリング内に引き戻そうとするところをうまく身体を入れ替え、

―みこっちゃん、ゴメン。

鉄柱に頭をぶつけさせる鉄柱攻撃。SPZ始まってから始めて出さざるを得なかった。どんな手を使ってでも勝ちたい。しかしそんな吉原の思いも空しく、南にタッチしたあと吉原がダメージで動けなくなり、その間に南が捕まって沢崎のジャーマンの前にカウント3を聞いた。

その翌日、宮城大会では沢崎、草薙組対秋山、伊達組。20分を越す熱戦にケリをつけたのは初公開のダブルインパクト。沢崎が肩車の要領で担いだ伊達、そこへコーナー最上段から草薙がダイビングラリアット。さすがにこれは受け身がとれない。伊達はこれで無念の3カウントを聞いた。

最終戦千葉大会。セミ前の試合で沢崎、草薙組が最後の対戦相手である富沢、上原組を破って全勝優勝を決めてAACタッグ王者の面目を保った。けっきょくメインに組まれた前年の優勝決定戦対決の再現は消化試合となった。それでも準優勝を決める戦いで、金一封と副賞の「シャンプー詰め合わせ」がかかっていることもあり両チームは前年同様の激闘を繰り広げた。しかし、最後は1年間の成長の差が出たが、伊達が吉原をニーリフトの連打で悶絶させてフォール勝ち。

「優勝・・・日頃の修練の賜物でしょうか」

「優勝!感動!完全燃焼ッ!みんなありがとう!」

喜び方も対照的で、どちらが先輩かわからない状態だが。優勝した沢崎、草薙組には賞状と金一封、副賞として「高級タオルセット」が今野社長から贈られた。

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3年目12月。

ミミ吉原選手に「4冊目」の写真集依頼。社長が「バス買い換えたい!会場設備に投資したい!自前でベルト作りたい!」と嘆き叫ぶ姿を見ていたのでまたもミミ吉原は写真集「ASAGIRI」を出して団体に「1000万円」の現金収入をもたらした。

「社長、新日本女子プロレスからEXタッグリーグ戦の参戦要請が着ておりますが、どうしましょうか」

「ふつうに考えたら、自分のところの興行に出ないで競合他社の興行に出るわけで問題あると思うんだけど、業界的にどうなの、井上さん」

「こちら側の選手が強ければ・・・自団体の選手の力量を見せ付けて、新しいファンを引っ張ることができますし、いまのうちの団体は主力が複数いますから1人や2人抜けても観客動員にさほどの影響はないでしょう」

「・・・わかった、それでは先方の要望どおりリミさんと伊達ちゃんを参戦させよう。」

しかし、沢崎光も右肩痛で欠場、ミミ吉原は写真集で欠場とあって主力4名を欠く状態でのサーキット。残った秋山、草薙らはAACのチョチョカラス、クロフォード相手に日々激闘を繰り広げた。第7戦新潟大会では秋山対チョチョカラスのAACヘビー選手権が組まれたが、チョチョカラスを追い込みはしたもののムーンサルトを食らってこれはカウント2で返したが、続くスクラップバスターを返せず、チョチョカラスが絶対王者ぶりを示した。

第8戦、埼玉吉川大会のメインは、AACジュニア選手権、チャンピオン・アリッサ・サンチェス対チャレンジャー、小川ひかるの対決。通常の試合では何回か勝っているので小川が有利との下馬評であった。試合はやはり小川ペースで進み、最後は執拗な逆片エビ固めで相手の体力を奪っておいて棒立ちになったところを、ショルダータックルで倒してカウント3を奪い王座が移動。

「12分45秒、ショルダータックルからの片エビ固めで、小川ひかるの勝ち」

南利美に遅れること2年弱、小川ひかるもようやくAACジュニアベルトを戴冠した。そんなに激闘でもなく比較的苦しまずに勝ったので小川は獲って当然と思っていたようだが、社長は喜んでその夜選手全員を和食レストラン「よこ川」に連れ出し「大忘年会」を行った。

いっぽう同日同時刻の後楽園プラザでは新日本女子プロレス主催のEXタッグリーグ戦の優勝が決まる大一番が行われていた。

南利美、伊達遥対GWAの外人その1、その2の一戦。序盤は両軍互角の戦いを繰り広げた。普段はタッグを組まない南と伊達だが、SPZの威信をかけて、連携もそつなくこなした。中盤以降外人チームがGWA主力らしい戦いを見せ、南が対応に苦しんだが、最後はラリアットを決めようとしてきた外人その1の動きを見切った南が脇固めにとらえ、あまりにドンピシャのタイミングで決まってしまったため外人その1は思わずギブアップ。館内えええの声。

「アレが関節のヴィーナスか!」

「すごい!一瞬で決めた」

こうして南と伊達は賞金「1000万円」を手に入れた。ただし賞金は所属団体への支給となるので彼女たちの懐に入るのは社長からの金一封のみである。

年末恒例のプロレス大賞。なんと南利美がプロレス大賞を受賞し、賞金「3000万円」が団体に入った。チョチョカラスとの死闘や吉原、小川と組んでのAACタッグベルト戴冠、SPZクライマックス、EXリーグでの優勝などの華々しい活躍が評価されての受賞。なお上原今日子も最優秀新人賞を受賞。なお最優秀外国人はチョチョカラス、ベストバウトもチョチョカラス対南の一戦が選ばれた。またタッグのベストバウトもEXタッグリーグ決勝戦の南、伊達組 対 ヒューイット、シアター組戦が選ばれ、まさにSPZがプロレス大賞を総なめ。今野社長は3年目での快挙に胸を張った。

そして年が明けて2012年、のっけから小川ひかるに映画出演の依頼。

「だめ、断る、チャンピオンといっても弱いんだから」

草薙みことに映画出演の依頼。

「ダメダメ、断る、タッグチャンピオンで将来のうちのエースなんだから」

保科優希に映画出映の依頼。

「どうぞどうぞ、いやー副収入、うれしいっ」

さてここで団体資産も3億9000万溜まったので会場設備にバーンと投資してでかいハコで興行・・・と今野社長は思ったのだが、普段まったく経営に口出ししない手塚オーナーから呼び出しのメールが。

エスピーグループの総帥、手塚オーナー、ネットショップ会社の社長がのしあがり、いまではIT業界ではそこそこ名の知れた経営者。SPZプロレスも手塚が発案し出資したことで生まれたのである。

「おー今ちゃん、さいきんSPZ儲かっているらしいねぇ」

「ええ、おかげさまで」

「でさー、大変申し訳ないんだけど、オレ今度家電チェーン店に出資して役員送り込んでさ、店頭にうちのソフト並べたいからさあ、で、今ちゃんにお願いなんだけど、その会社の株買うお金出してよ」

「い、いかほど」

「さっき今ちゃんところのBSみたけどキレイだよねえ、現金の25%、1億くらい出資してよ」

「い、いちおくですかい」

「悪いね、頼むよ今ちゃん」

子会社の悲哀、手塚オーナーの頼みを断るわけにもいかなかったので彼女たちがEXリーグやプロレス大賞で稼いだ賞金、およそ1億を拠出した。

(筆者註:空き巣イベントで1000AP持ってかれたのを脳内変換しました。そうでも考えないとやってられましぇん)

会場設備拡張は予定通り進めたが、そのせいでSPZはまた借金生活に逆戻り。悪いことは続き南利美、富沢レイの2人がケガで欠場。しかたがないので今野社長はいま考えられうるベストなカードを組んで1月シリーズに備えた。

「ポスターがグレードアップしてる」

沢崎光、秋山美姫、草薙みこと、伊達遥、小川ひかるの主力5人が正月ということで振り袖姿でポスターに収まっていて「―新年早々の超絶激戦、新春ビッグファイト・シリーズ」とコピーが入っている。

「フッフッフッ、社長業が激務でエクセルでポスターを作るのももう限界やから知り合いのデザイナーと契約した。やはりここまで規模のある団体になってくると、ある程度は投資しないとね、照明や音響にもだいぶお金かけましたよ」

そして新春シリーズ、初戦は後楽園プラザで1月4日。第1試合開始前に全選手がリング上に整列して社長の挨拶。「ことしもこの団体は突っ走ります。春ごろには自前のベルトを創設して争奪戦を行う予定です。まあ今日は、正月ということでおとそ気分の入ったヌルいバトルを展開いたしますので楽しんでいってください」と挨拶。実際はその逆で、第二試合ではミミ吉原が新年早々、沢崎に一方的に攻め込まれタイガースープレックスに沈んでしばらく起き上がれないほどのダメージを負った。次の試合では格上相手にはからきし弱い小川ひかるがジョーカーレディ相手に玉砕。セミファイナルでは草薙みことがチョチョカラスに攻め込まれ、最後は裏拳2連発で完敗。メインはAACタッグへの挑戦が決まっている伊達、秋山組がクロフォード、デスピナ組を退け上々の滑り出し。

第5戦静岡大会のメインはAACジュニア選手権、富沢も保科もいないので、新人の上原今日子が挑戦者になった。

「ウリャアッ!」

覚えたてのフランケンシュタイナーが決まる。だがダメージをあまり受けていない小川はカウント2で返す。ここで小川がそろそろ行きますかとばかりにリング中央でストレッチプラムを繰り出した。

―痛い、ねじ切られるようだっー

阪口レフェリーが「そろそろ参ったしたら?」とささやく。

「い、イヤダ・・・」

上原はひたすら耐える。これ以上角度をつけすぎて上原に怪我を負わせても仕方がないので、いったん小川はストレッチプラムを解いて、間合いを取った。大ダメージを負った上原が夢遊病者のようにフラリと起き上がったところを

走りこんでのエルボー一撃。

倒れた上原に小川が覆いかぶさる。

「ワン、トゥ、スリッ」

「19分49秒、エルボーからの片エビ固めで小川ひかるの勝ち」

ベルトを巻いて勝利をアピールする小川。人気のある選手だけに館内は大声援。

2007年1月26日 (金)

第15回 3年目・SPZクライマックス

「ファンクラブかぁ。なんか照れるなぁ」

ようやく一期生のラスト、秋山美姫にファンクラブができた。

9月上旬、ミミ吉原出演映画「コレクティブ2~鉄屑の脳から~」が公開された。吉原の役割はまた悪の組織の用心棒役で、人気絶頂のアイドル向山志穂演じる主人公を追い詰めたが、こんどは決戦場に仕掛けたレールキャノン発動に気づかず惨殺されてしまうというひどい役であった。

9月シリーズ「第3回SPZクライマックス」が開催された。出場選手は以下の8人

沢崎光(前回優勝)、ミミ吉原(第1回大会優勝、前回4位)

南利美(前回3位)、デスピナ(前回準優勝)

伊達遥(前回5位) ここまでシード枠で、

秋山美姫、草薙みこと(予選会1,2位)

ジョーカー・レディ(AAC推薦)この8名で争われる。

SPZ選手関係者スタッフ、マスコミのみならず常連ファンまでがSPZで年間で最もきついシリーズだと評するシングルリーグ戦、「SPZクライマックス」が始まった。第一戦、滋賀で前夜祭ファイトの後、

第2戦、大阪大会。

○デスピナ(2点、ローリングソバットから片エビ固め)吉原

旗揚げ戦メインと同じ顔合わせ、休まず攻めたデスピナが勝利。

○沢崎(2点、ジャーマンスープレックス)秋山

1期生テスト組同士、手の内を知り尽くした同士の戦いはやはり好勝負。投げ技を的確に決めた沢崎がジャーマンで勝利。

○伊達(2点、ミサイルキックから片エビ固め)ジョーカー

○南(2点、裏投げから体固め)草薙

草薙はこの試合南越えを本気で狙っていた。「ロープ近くで戦えば南さんの関節技は封じられる」これでディフェンスを固め頃合いを見ての草薙流兜落とし一撃、しかしそれを2.5で返した南が裏投げ。これを草薙は返せなかった。

第3戦、京都福知山大会。

○草薙(2点、草薙流兜落としから片エビ固め)吉原(0点)

前日の悔しさを晴らすかのように草薙がミミを獣のように攻め立て、ちぎっては投げの猛攻。最後は草薙流兜落とし。10分15秒で敗北のミミ吉原「強くなったね」リング上で呆然。

○沢崎(4点、ネックブリーカードロップから片エビ固め)デスピナ(2点)

○伊達(4点、ニーリフトからの片エビ固め)秋山(0点)

28分28秒の激闘。最後はハイキック、ニーリフトとたたみかけた伊達が勝利。

○南(4点、裏投げからフォール)ジョーカー(0点)

第4戦:福井小浜大会

○草薙(4点、タイガードライバー)デスピナ(2点)

○ジョーカー(2点、ギロチンドロップから片エビ固め)吉原(0点)

ミミさん3連敗。暗然とした表情で引き上げる。

○沢崎(6点、タイガースープレックス)伊達(4点)

○南(6点、裏投げからの片エビ固め)秋山(0点)

第5戦:石川川北大会

○ジョーカー(4点、アキレス腱固め)デスピナ(2点)

○秋山(2点、コブラツイスト)吉原

まだ白星がない両者の対戦、お互いが関節技でギブアップを迫る白熱した展開。最後はコブラツイストで秋山が勝利。ミミさん4連敗。初代エース、早々と負け越し決定。

○草薙(6点、草薙流兜落としから片エビ固め)伊達(4点)

2勝1敗同士の対戦、投げの草薙、打撃の伊達、やや伊達に分があるかと思われたが、草薙が伊達のハイキックにもくじけない。最後は草薙流兜落としを決め伊達越えを果たす。場内騒然。

○沢崎(8点、タイガースープレックス)南(6点)

去年の公式戦に続き沢崎に軍配。投げ技で的確にダメージを与え、飛びつき腕ひしぎを耐えきって、最後はタイガースープレックス、ガッチリ決められた南は外せず3カウントを聞いた。

第6戦:富山魚津大会

○ジョーカー(6点、掌底から片エビ固め)秋山(2点)

○草薙(8点、逆水平チョップからの片エビ固め)沢崎(8点)

沢崎の連勝が4でストップ。タッグパートナー同士がノーガードの投げ合い。中盤で草薙がサソリ固めを仕掛けスタミナを奪い、勝負をかけたタイガースープレックスは2.9で返されるも続く逆水平チョップで倒れてフォールされる。返す力は沢崎には残っていなかった。草薙最強伝説の足音が聞こえてきた。

○伊達(6点、ニーリフトから片エビ固め)デスピナ(2点)

○南(8点、飛びつき腕ひしぎ逆十字)吉原(0点)

セミ、メインは順当通りの結果。

第7戦:新潟・柿崎大会

○秋山(4点、DDTからの片エビ固め)草薙(8点)

草薙、関節技では秋山に歯が立たず、優位に試合展開できず、兜落としを出すも最後は秋山のDDTに屈した。

○伊達(8点、ボディスラムからの片エビ固め)吉原(0点)

初代エースが白星配給係、ミミさんファンの悲鳴がこだまする中、伊達が危なげなく勝利。

○ジョーカー(8点、掌底から片エビ固め)沢崎(8点)

沢崎連敗。凶器攻撃で流血が影響したか。

○南(10点、ショルダータックルからの体固め)デスピナ(2点)

メインは南の完勝、最終戦を残して、南が単独トップをキープ。最終戦の相手は伊達なので油断ならないが・・草薙、ジョーカー、沢崎、伊達の4選手にも可能性が残っている。

最終戦:埼玉・吉川

○草薙(10点、草薙流兜落としから体固め)ジョーカー(8点)

負けたほうが優勝可能性が消える一戦。両者果敢に攻めてゆく。タイガースープレックス2連発を返したジョーカーも凄いが、そのあと容赦のない兜落とし。草薙が残った。

秋山(6点、ドラゴンカベルナリア)デスピナ(2点)

沢崎(10点、ジャーマン)吉原(0点)

沢崎が積極的に攻めて、最後はジャーマンでカウント3、ミミさん全敗と言う結果。2年で力関係はこうまで変わってしまう。肩を落として引き上げる吉原。もうトップ戦線に絡むことはないのか・・・

南(12点、脇固め)伊達(8点)

今野社長は気が気でならなかった。メインで南利美が勝てばすんなり南の優勝が決まるが、伊達が勝ってしまうと4人による優勝決定戦を行う羽目になり、試合終了時刻の見通しがつかなくなる。21時には終演しないと後片付けやら会場へのおわびやらでえらいことになる。南の勝利を願いながら選手コール。

草薙、沢崎はジャージに着替えずコスチュームのまま観戦。試合は一進一退の攻防。中盤から南は伊達の右腕に照準を絞り脇固めを連発。24分51秒、ついに伊達は痛みに耐えかねギブアップ。

「思い描いていた通りの結果が出せてうれしい」

第3回SPZクライマックス、ようやくエースで本命の南利美が優勝を成し遂げた。南には社長から賞状と金一封、副賞としてデジタルカメラが贈られた。2位は草薙、沢崎が10点で並んだが直接対決で勝っている草薙が準優勝、賞状と横浜中華街のお食事券、3位の沢崎にはスポーツドリンク1ケースが贈られた。4位は伊達、5位はジョーカー・レディ。ここまでは翌年の出場権が与えられ、秋山、デスピナ、ミミ吉原は来年は予選会スタートとなった。

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3年目10月

灼熱の死闘、SPZクライマックス・・・この特集記事が「週刊ハッスル」にカラー記事で大きく取り上げられ、SPZプロレスはプロレスファンの間でも異色の団体として知られるようになり、前売りチケットの売れ行きも上々であった。

しかし良い事は続かず、先シリーズで傷めた南の右足首の痛みが引かず、本人は大丈夫よといっていたが社長が休養を命じた。そして小川ひかるも海外に置いたままなので、チーム関節地獄はミミ吉原一人ということになった。

沢崎光がヘビー級王座への挑戦を表明したので、AACジュニアのベルトを自ら返上。AACはさっそく本国で王座決定戦を行い、アリッサ・サンチェスが新王者になった。そして10月シリーズ「秋のスーパースターズバトル」がスタートした。

第2戦札幌大会のメイン。AACジュニア新王者のサンチェスに誰を挑戦させるか迷ったが、サンチェスは小川にも負けるあまり強い選手とは言えなかったので、デビュー5ヶ月の上原今日子が起用された。タイトルマッチなので先輩方を押しのけてのメインイベントである。

沢崎さんの持っていたベルトに私が挑戦するのか・・・

いつもは前座の試合に登場する上原だが今日はメイン。胸がドキドキしてきた。

「うりゃああッ」

気合を込めてヘッドバット、ローリングソバットとたたみかけてサンチェスをカウント2.5まで追い込む。

「ひょっとしたら、獲れる・・・かも」

しかしサンチェスも粘って、ヒップアタックからのラリアットで上原の後頭部をマットに叩きつけ、カウント3を奪った。

「くっ・・・」

闘っている最中は夢中だったが、破れて大きなチャンスを逃したことに気がつく。

「・・・もっと・・・強くならないと・・・」

上原今日子は悔しさをこらえて引き上げた。

第7戦、海老名大会のメインはAACタッグ選手権。王者チームの沢崎、草薙組に元王者組の秋山、伊達が挑む。

「草薙ぃ、出て来い!」秋山が草薙を挑発。挑戦者チームの作戦は分断して草薙を沈めるといったものであった。沢崎が捕まりかけたが、タイガースープレックスで秋山を半失神に追い込んでから草薙にスイッチ。草薙も一期生の中で引けをとらない戦いぶり。決着はあっけなくついた。足に狙いを絞った草薙が伊達にアキレス腱固め。しばらく耐えた伊達だったがあえなく後輩相手にギブアップの言葉を吐いた。

最終戦後楽園大会、メインのAACヘビー選手権はチョチョカラス対草薙みこと。ほんらいはSPZクライマックス優勝者の南が挑戦するはずだったが、負傷欠場により2位の草薙にチャンスがまわってきた。

-南さんでもシングルでは勝ったことのないチョチョカラスさんに勝てるんだろうか。

-それでも、迷いを捨ててやるしかない。先輩方を差し置いて起用してくれた社長のためにも。

だが試合は一方的にチョチョカラスが連続攻撃で押しまくり、草薙の意識を断ち切ってムーンサルトでカウント3.最近では負けても手ごたえのある敗戦だったので一方的な負けざまに草薙は悔しい思いをした。

一回も、投げられなかった・・・

翌月、タイトル戦線での活躍がファンの間で評判になったのか、草薙みことのファンクラブが設立された。所属選手11名中8名がファンクラブをもつ人気団体となった。

2007年1月25日 (木)

第14回 3年目8月、盛岡大会

3年目8月、AACから沢崎光と草薙みことの防衛戦依頼が来た。前回優勝者がいなくなってしまうのでSPZクライマックスは翌月に持ち越し。また小川ひかるも首を痛めたのでAACに海外遠征に出された。

そして8月シリーズ「サマースターナイツシリーズ2」がスタート。今回は東北地方各所のサーキット。初戦の青森大会のメインは秋山、伊達組対南、吉原組という元AACタッグ王者同士の戦い。22分の激闘の末、まずミミ吉原が南にタッチしたものの激闘についていけなくなり、孤立した南に集中砲火。最後は合体パワーボムで南がやられた。

さて、SPZ選手の移動は2台の車で行われる。外人選手5人はワンボックスカー、日本人選手はマイクロバスでの移動。前日、弘前市内のホテルに投宿した彼女たちは朝8時集合で車に乗り、今日の興行場所、岩手県一関へ5時間かけてバスの旅。資金難団体なので高速は使えない。昼食は道中のドライブインで適当に食べる。

マイクロバスは24人乗りだが、フルメンバーでの興行のときはけっこう窮屈である。今回は3人を海外遠征で欠いているので選手は2人分のスペースで眠りながら過ごす。いちおうエアコンはついているが、長時間の移動には狭く感じるので大型バスの導入も検討しているが、いまのSPZにそんな資金余裕はない。社長はノートパソコンを操作しメールの送受信に追われ、井上秘書はお菓子などを食べている。長途のドライブが終わり、午後2時過ぎに会場入り。まず全員でリングの設営、そして椅子並べ。だいたい設営し終わるのが3時半ごろ。そこから選手たちは短い練習をする。

リング上では南利美がデビューしたての上原今日子相手に関節技のスパーリングを行い、秋山美姫は黙々と受け身の練習。リング下では伊達遥は井上霧子にミットを持ってもらってキックの練習。保科と滝がまったりと柔軟体操で汗を流し、ミミ吉原と富沢レイは客席の外周をひたすらランニング。今野社長は音響や照明関係のセッティング。阪口レフェリーは客席の後ろで練習を見ながらお茶を飲んでいた。

セッティングが終わると売店の設営。といっても会議用テーブルの上に商品を並べるだけ。

午後5時半、「それでは開場しまーす」社長の一声で選手がゾロゾロと控室に引き上げる。休憩前に出る選手はこのへんでコスチュームに着替える。お客さんがドカドカと入ってくる。プログラムの配布(この団体はプログラムは無料配布する)は会場整理員に任せ、社長と井上霧子はひたすら売店でグッズ販売をすることにより「増収」に励んだ。なお今日の売店当番は伊達遥で、売店の奥に座りながらDVDや写真集にサインを入れて「増収」に貢献した。

「あ、社長さんだ!」「霧子さーん」

もうこの2人の存在も有名と言えば有名。社長がグッズ販売に出るのはTシャツやパーカーの売れ具合で各選手の人気をチェックするためであった。小川ひかると保科優希のTシャツが最近の売れ筋。

物販のさばきが一息ついたところで店番を運転手兼営業スタッフの人にお願いし、社長はスーツに着替えて、ゴングと木槌を抱えて本部席に移動。だいたいこの辺で試合開始の6時半少し前。よしっ、きょうも3000人埋まって超満員。儲かるぞ。そう社長は思いながら開始時間を待つ。

午後6時30分・・・・社長は左手の腕時計で時刻を確認すると、「カン、カン、カン、カン」とゴングを鳴らし、来場お礼の挨拶と本日のカードを読み上げる。あいかわらず保科、ミミ吉原、南利美の登場カードでは観衆が沸く。きょうは5試合あるので時間稼ぎのトークショーを挟まずそのまま第1試合開始。

青コーナーから上原今日子が軽快なテーマ曲に乗って入場。続いて保科が一昔前の映画音楽のテーマに乗って入場。両選手がリングに入ってから社長と井上レフェリーがリングに上がる。きょうはテレビ収録はないので本部席に座っている記者は京スポ新聞の若林氏のみである。

第1試合は会場の雰囲気を作る大事な試合で、通常は新人選手対前座要員のシングルマッチが組まれる。試合は上原が果敢に攻め、回し蹴り2連発に会場がどよめくも、保科がアームホイップの連発でダメージを与え、最後は逆水平チョップで倒して、そのまま押さえ込んでカウント3。最後があっけない技で終わったが、保科の貫録勝ち。四方に手をふってから退場。上原もそのあと起き上がって一礼して退場。

第2試合はミミ吉原対ジョーカーレディの一戦。先に入場したミミ吉原がカラーボールを何個か客席に投げ入れ、そのあとジョーカーが入場。カラーボールを受け取った人ははあとでグッズと交換できる。会場は「ミミさーん」の声援で早くも盛り上がりを見せる。試合はじっくりと吉原がスリーパーでジョーカーを責めたが、ジョーカーも自分得意の蹴り技飛び技でペースを握らせない。徐々に押されてゆくミミ吉原に会場から悲鳴が。中盤にもらった掌底でミミの動きが止まる。焦った吉原は必殺のドラゴンスリーパーで勝負をかけたが、それまでにダメージの蓄積のないジョーカーは外して、井上を左手でスリーパーに捕らえると右手でシューズの中から鉄製の凶器を取り出し、吉原の額を一撃。吉原が善玉なので自分は悪役であると言う空気を読んだジョーカーの一撃。

会場悲鳴。ミミ吉原もだえ苦しみのたうち回る。井上霧子レフェリーは今の凶行を見てみぬふりをしている。そのままフォール。さすがにこれは2.8で返したが、起き上がったところをとどめの掌底。ミミ吉原は無念の3カウントを聞いた。ブーイングを浴びながらウァハハハハと高笑いして引き上げるジョーカー。

リング下からセコンドの上原が吉原を介抱する。凶器攻撃と言ういまどきありえないギミックで敗れたミミ吉原はさすがにバツが悪そうな表情。やられたところが出血していないのを確認してリング下に降り、マイクを取った。

「・・・ハァ、ハァ、ごめんなさい、今日は負けてしまいました。・・・きょうは暑い中、観戦に来ていただいてありがとうございます。次のシリーズ、選手が口をそろえていちばんきついと言う(場内笑い)SPZクライマックスがあります、ぜひテレビ観戦してください、えー、私もエントリーしていまして、優勝・・・、ええ優勝目指しますよ賞金目当てに(場内爆笑)そのためにはあの南選手に勝たないと・・・うーん、ま、頑張ります、きょうは最後まで楽しんでいってください」とマイクアピール。ここで15分間の休憩。社長と井上レフェリーはまた売店に陣取って「増収」に励んだ。

休憩あけの第3試合は秋山美姫対デスピナ。力関係からいって秋山有利とみられたが、序盤からソバットやドロップキックで猛攻をしかけたデスピナが優位に立ち、悪いことにエルボーが鼻に入って秋山流血。これでなすすべなく2発めのエルボーで秋山は崩れ落ちカウント3を聞いた。デスピナも旗揚げ時からの常連外人なので館内からは大きな拍手。秋山は呆然として保科の肩を借りて引き上げた。

セミファイナルは2期生でセミに抜擢された富沢レイがエースの南利美と組んでAACのチョチョカラス、カーチス組と激突。この試合のレフェリーはAACエージェントのハヤトール氏。もう出来上がった観衆はハイテンション。試合は相変わらずチョチョカラスの飛び技が冴え、南は防戦一方。中盤、必殺の飛びつき腕ひしぎが決まったがあまりにもロープに近い。そのあとは極めあいの熱の入った攻防。息を整えるためにいったんカーチスにタッチしたが南も容赦なくカーチスを攻めて富沢にスイッチ。しかしここでチョチョカラスが出てきて富沢を叩き、なんとかタッチを受けた南が踏ん張るも、最後は必殺のムーンサルトプレスを食らった南がフォール負け。勝利をアピールしながら引き上げるAAC勢。南と富沢にも暖かい拍手が送られた。

メインは伊達遥対マリア・クロフォード。序盤中盤は互角の攻防。伊達が蹴り技、クロフォードが極め技。だが中盤にクロフォードが出したサソリ固めが効いたのか、足を気にしだした伊達を見るやクロフォードがアキレス腱固めをしつこくかけ続ける見事な一点集中攻撃。伊達の右足の感覚は徐々になくなっていった。涙を浮かべながらに耐える伊達、館内にこだまする女性ファンの悲鳴。これ以上は危険だと判断した阪口レフェリーが試合を止めた。試合終了のゴング。

「ハーッハハハハハハ、本当ニ弱イワネ」高笑いしながら引き上げてゆくクロフォード。伊達は上原と保科の肩を借りながら退場した。

全試合が終わったのが午後8時半ごろ。試合終了の日本人側控室。きょうは全敗だったので野戦病院状態。富沢はまだ転がっているし、南はジャージに着替えたが座り込み、今帰ってきた伊達はやられた右足の応急措置。撤収は動ける選手とスタッフ総出。10時過ぎに撤収が終わり、選手・スタッフがバスに乗り込んで会場を後にした。宿舎のビジネスホテルまではすぐで、各自部屋に荷物を置いて、夕食は各選手で適当に行く。一期生の5人はみんなでファミレス。激闘直後なので全員が一心不乱に飲食した。2・3期生の富沢と上原は今野社長に連れられ寿司。負け続けの新人選手を「高級」食事で懐柔する社長なりのベタな心遣い。「年長組」のミミ吉原、ミシェール滝(今日試合はなかった)、井上霧子の3人は居酒屋で飲みつつ食事。

「社長さんってさあ、やっぱりヒカルちゃんに気があるのかな」

「本人は耳を赤くして『そ、そんなことないだろ、年が違いすぎるぞ、オレもう38なんだから』と否定してましたよ」

「いやー、でも中年はとつぜん暴走するかも知れないから、霧子さん」

社長をネタにビールを飲むが、それでも0時前にはお開き、ホテルに戻って就寝。翌日も秋田で興行なので早い。

シリーズ最終戦は千葉ポート大会。メインではタイトルマッチが組まれたAACの絶対王者チョチョカラス。今回の挑戦者は5連敗中の南ではなく秋山にチャンスが与えられた。しかし一方的にチョチョカラスに攻め込まれ、フランケンシュタイナー2発で頭が朦朧として、裏拳で流血させられ、最後はムーンサルトでフォール負け、完敗に近い内容。

2007年1月24日 (水)

第13回 プロレスの神様

第7戦鹿沼大会、前日の初勝利で気をよくした上原は小川ひかるに挑んだが、ストレッチプラムや逆片エビなどの締め技で痛めつけられ、ドロップキックで反撃したがそこまでで、最後はアームホイップで倒され、立ち上がると、小川ひかるが手早くコーナー最上段にいた。

ミサイルキックがふってきた。顔面に命中し吹っ飛んだ上原、すかさずフォールされ3カウントを奪われた。

「私が・・・タッグベルトに、挑戦ですか?」

「そう、小川さん人気はあるから。それに吉原さんいないから南さんと組ませられるの小川さんしかいないから、勝ち負けは気にせず頑張ってきてください」

人気は、と言う部分がちょっとひっかかったが、小川はいつものスマイルで答えた。

「・・わかりました、全力をつくします・・・」

最終戦の千葉大会、観客動員狙いでAACタッグタイトルマッチが組まれた。とはいえ外国人が1人しかおらず、ミミ吉原も「写真集撮影」で不在なので、対戦相手のチャレンジャーはチーム関節地獄から南利美、小川ひかるという苦しいマッチメイクであった。ファンの間でも大方の予想は一人格落ちの小川が捕まって負けて終わりだろうというものであった。

しかし大番狂わせ。中盤小川が捕まって、伊達のニーリフトでもうダメかと思われたが小川がカウント2.8で返してステップキックで反撃して南にタッチ。南は一人奮闘し、まず飛びつき腕ひしぎで秋山を戦闘不能にして、代わった伊達も裏投げでたたきつけて逆片エビ固め。腰が落ちて伊達の体がグイグイと反り返る教科書のような逆片エビに思わず伊達はギブアップ。館内ええええ!の、声が上がる。関節技の攻防が多かったためか、勝負タイムは51分19秒の死闘。

勝って当然のカードで負けてしまった秋山と伊達は呆然としたまま退場。南と小川の腰にベルトが巻かれた。

「やっぱりプロレスの神様っているのかもしれないわね」井上霧子が慨嘆する。

「あの一期生の中でいちばん弱くて、一番手のかかる新人で、特訓やらせたら動けなくなるヒカルが、いくらリミちゃんの力が大きいとはいえタッグベルト獲っちゃうなんて」

「そんな・・まぐれですよ」

社長は大喜び。社長自身もタイトル移動はまったく考えていなくて、客寄せに組んだカードでベルトを獲ってしまって、泣くどころではなく喜ぶしかなかった。デジカメを取り出しベルトを巻いた小川ひかるを撮りまくる状態であった。

「小川さん、タッグベルト獲得おめでとう!」

小川ひかるは素直に喜べなかった。やったことといえば中盤までうまく立ち回って伊達や秋山の攻勢をしのいで南さんにタッチしただけ、勝利にはあまり貢献していない・・・

で、続く6月シリーズ、

ミミ吉原が映画出演、2ヶ月連続で欠場となった。そしてタッグ王座を失った失意の伊達には写真集のオファー。

「・・・私は・・・アイドルみたいに・・・かわいくない・・・」

どうにか伊達を説得し、

「なら・・・やる・・・」と同意させ、伊達遥のファースト写真集「NICHIRIN」が発売された。

さらにここで南利美に写真集のオファー。南は呆れながらも団体の窮状を察したのか、こころよく?OKした。こうして南のセカンド写真集「SHIMANTO」が発売された。この写真集発売攻勢がけっこう話題になった。リング上ではかつてのU系団体のような激しい殴り合い極めあい投げあいをやっている連中が写真集を出すギャップ。ともあれこの3件のオファーを受けることにより団体に「4000万円」の臨時収入を得た。

「やたー、これでAACさんと再契約できるぞワハハハハ」

主力選手が軒並み不在で、しかたがないので6月の企画は、8月に行われるSPZクライマックスの予選会を行うことにした。 参加選手は前回のリーグ戦で6位以下となった秋山に草薙、小川、保科、富沢、上原の6人で争われ、上位2名にSPZクライマックスの出場権が与えられるという企画。とはいえこのメンツなら秋山と草薙が1.2位通過で決まりそうであった。第3戦で草薙が小川を兜落としで沈めて、事実上通過を決めた。第4戦で秋山も小川をストレッチプラムで下し通過を決めた。あとはほぼ力関係どおりの結果となった。

最終戦の埼玉吉川大会で、沢崎対デスピナのAACジュニア選手権が組まれた。ほんらいは元タッグ王者のデスピナはAACのナンバー3なのだが、提携先といえど1年以上も自団体のベルトが流出してしまっている異常事態に立ち上がり、打倒沢崎に名乗りを上げたが、試合は一方的な内容で最後は沢崎がヒップアタックからフォールしてカウント3を奪った。沢崎は1回目の防衛に成功。

そして7月シリーズ、「サマースターナイツシリーズ2011」が開幕。タイトル戦が3回も組まれる豪華版である。初戦は後楽園大会、首都圏の会場なので超満員札止めの盛況。第3試合で小川ひかるはクロフォードに玉砕。ファンは小川のやられっぷりに拍手を送った。

次のセミファイナル、ミミ吉原、南利美の元祖関節地獄コンビに対するは沢崎、草薙の「パートナーがいない実力者同士なのでとりあえずくっつけた」コンビ。しかし試合は2ヶ月のブランクがあった吉原が捕まり、早々に戦線離脱。残った南が沢崎草薙の2人を相手に奮戦するが・・・

「これがあたしのとっておきです!」

沢崎のタイガースープレックス炸裂。これはバタつかせてカウント2.8で返した南だったが続けて合体パイルドライバーを食らって万事休す、17分0秒、3カウントを奪われた。

「南!・・・・さん」

試合後珍しい沢崎のマイクアピール。おおおと館内沸く。

「愛知県、草薙と組んであなたのタッグベルト、獲りますッ!あなたと小川のふたりまとめて潰しますッ!」

何しろ、誰もがまぐれで戴冠したと思ったタッグチャンピオン、獲って自分の経歴に箔をつけるのは今だという欲が働いたのである。メインの秋山、伊達対チョチョカラス、デスピナも大熱戦で、30分を越す激闘の果てに合体パワーボムが決まりなんとAACトップのチョチョカラスからカウント3。前タッグ王者組もタッグ王者再挑戦をアピールした。

そして第2戦、神戸大会のメインは秋山対沢崎のAACジュニア選手権。1期生どうしで入門も同じ新人テスト上がりで普段は仲良しなのだが、リングに上がると性格が変わって容赦のない殴りあい投げあいを展開する。試合はやはり35分を越すロングバトルとなり、秋山がドラゴンカベルナリア、コブラツイストと締め技で追い込んだが沢崎が耐え切り、最後は息切れして秋山が棒立ちになったところをチョップで一撃、そのまま上から覆いかぶさってカウント3。沢崎は2回目の防衛に成功。

そしてシリーズ第7戦愛知大会。メインは南、小川対沢崎、草薙のAACタッグ選手権。

「みこっちゃん、今ならタッグベルト獲れるよ、私がリミさんの相手をするから、みこっちゃんは小川さんを仕留めて。最近シングルでは勝ってるからできるでしょ」

「はい、わかりました」

タッグマッチでは弱いほうを捕まえてたたく。これは男女東西とわず鉄則である。

ただいまよりAACタッグ選手権60分1本勝負を行います。青コーナー、山形県朝日町出身、最強巫女伝説、草薙―、みこーとー、広島県尾道市出身、AACジュニア選手権者、沢崎、ひかーるー」

「赤コーナー、AACタッグ選手権者、小川、ひかーるー、みなみー、としーみー!」

会場から大歓声が飛ぶ。

―ごめん小川さん、2ヶ月しかいい思いさせられなくて。

試合はいきなり沢崎がジャーマンで小川を殺しにかかった。試合の流れを作ってから草薙にタッチ。草薙の攻めをひとしきり受けて、脇固めで反撃してからようやく南にタッチ。しばらくは南が優勢に2人を相手にしたが、南の裏拳で沢崎が流血。怒った沢崎が南にタイガースープレックス。なんとか返した南だが大ダメージを負ったので小川にタッチ。ここで沢崎も作戦通り草薙にタッチ。すかさず必殺の草薙流兜落としを決めて小川の意識を断ち切る。すぐに沢崎が南の前に立ちふさがりカット妨害。

「ワン、トゥ、スリッ」

阪口レフェリーの手がマットを3つ叩いた。これで王座移動。

草薙はデビューから1年3ヶ月でのタッグ王座戴冠、異例の早さでいわねばならない。

「やったー、これで2冠王!」沢崎が草薙の手をとり観客にアピール。

頭を押さえて引き上げる小川、そして南利美。

「・・・・ごめん、南さん、つなぐ前に負けちゃって」

「・・・気にしないで、こんなこともあるわ」

たぶん次に南さんが挑戦するときはミミさんをパートナーにするだろう。当分私がタッグベルトへ再挑戦するチャンスはない・・・そう思うと小川は悔しさがこみ上げてきた。

最終戦の海老名大会、メインは久しぶりのチョチョカラス対南利美のAACヘビー級タイトルマッチ。前日タッグ王者を失った悔しさをぶつけ、関節技攻勢でチョチョカラスを追い込んだ南だったが、終盤チョチョカラスが底力を見せ、ムーンサルト、バックドロップ、ジャーマン2連発の大技攻勢で南からカウント3を奪った。勝負タイム51分12秒。チョチョカラスもハヤトール氏に手を上げてもらってからはそそくさと控室に引き上げバッタリ倒れこんだ。一方の南はセコンドの小川の肩を借りて控室に戻って、やはりぶっ倒れた。これでチョチョカラス戦5連敗。

「まだなの・・・勝てなかった・・・」

2007年1月23日 (火)

第12回 上原さん初勝利

レッスルエンジェルスサバイバー プレイ日誌のようなもの

「輝くエッセンシャル」

(かなり脳内妄想はいってます)

3年目 春 

3年目の春、SPZを待ち構えていたのは例によって「資金難」の現実であった。3億円を投じて合宿所を全面改装して定員を増やしたが、保有資産のほとんどを使い切って、AACとの契約延長に使うお金やテレビ放送契約の延長に使うお金が残っていないという惨状。やむを得ず今野社長は手塚オーナーのつてを頼って銀行から4000万円を3ヶ月以内に完済する条件で借り入れ、当座の運転資金に当てた。AACとすぐに契約延長する資金余裕がなかったので、とりあえずフリー外人選手のマリア・クロフォードと参戦契約を結び興行の目玉とした。

4月シリーズ「SPZ、春の香シリーズ」が開幕。新外国人選手のクロフォードはなかなかの手慣れで、2戦目の福知山大会のメインで団体内最強の南利美とあたったが、レスリングの基礎も関節技の防御もしっかりしていて、徐々に南を追い込んでいって、最後はリング中央でストレッチプラムががっちり決まり、南はギブアップの言葉を吐かざるを得なくなった。

「エスピーゼット?コノテイドカ!」勢いに乗るクロフォードは3戦目の魚津大会で秋山からアキレス腱固めでギブアップ勝ちを収めたが4戦目の松本大会で沢崎が38分の死闘の末タイガースープレックスで勝ち面目を保った。5戦目の山梨大会でも伊達と対戦、このときも伊達は相当苦戦したが最後はハイキックでフォール勝ちを収めた、主力どころとの対戦で2勝2敗、クロフォードは今後のSPZ外人トップになりそうな予感であった。

第6戦の柿崎大会、AACジュニアのタイトルマッチ。先月タイトルを沢崎から奪った秋山、初防衛戦は同期でタッグパートナーの伊達。手の内を知り尽くした両者、試合は互い譲らず、気がつけば50分を越える男子でもあまりない超ロングマッチとなった。最後は体力の尽きた伊達に秋山がDDTを決めてカウント3を奪い、初防衛に成功。両者リング上で大の字。新潟のファンは大歓声で両者のファイトに応えた。

第7戦古河大会、草薙みことがついにミミ吉原をシングルで撃破した。関節技でせめて来る吉原に対して投げ技で対抗し、流れが不利になりそうになると草薙流兜落としで大ダメージを与えた。

-ミミさんに勝つ。絶対勝つ。そして上へ行く。

最後はこの日3発目の草薙流兜落としがミミ吉原の意識を断ち切りカウント3。勝負タイム10分39秒。

「・・・くっ」

2期生にも負けたミミ吉原。明日の防衛戦に暗雲が立ち込めた。

第8戦海老名大会、メインでは南、吉原のAACタッグ王者に秋山、伊達の1期生コンビが挑むカードが組まれた。くしくも4ヶ月前の同じ会場でタッグリーグ戦優勝決定2試合と同一カード。試合は中盤、伊達のヘッドバットでミミが額から流血。ここで吉原の動きが鈍り、伊達が吉原のどてっぱらに剣を突くようにヒザでメッタ刺し。悶絶した吉原にフォールを返す力は残っていなかった。こうして21分32秒、王座が移動。秋山はジュニアと合わせて2冠王となった。

21歳で初タイトルを取った吉原だったが、1ヶ月の在位で王座を明け渡した。腹を押さえながら控室に戻り

「リミちゃん、ごめん」と一言。南はそれほど息が乱れていない。

    ******************

3年目5月、

資金難の折、三たびミミ吉原が一枚脱ぐことになり、サード写真集、「ASAKAZE」が発売されて、困窮にあえぐ団体に干天の慈雨のような現金収入が入ってきた。そしてその資金を元手に3期生の新人テストが行われた。今回の合格者は一人で、沖縄から来た上原今日子15歳。さっそく「ニューはまかぜ寮」に案内され、寮長の保科から説明を受けた。

南利美さん18歳、SPZの1期生で現エース、関節技に関しては国内でもトップクラスの使い手にのし上がり、リング中央で関節技が決まれば脱出不可能らしい。

保科優希さん18歳、SPZの1期生だが、同期は素質のある人が多く現在のポジションは前座要員と自分でも云っていた。でも穏やかな人柄で人気は団体の中でもトップクラスとの事。

伊達遥さん17歳 SPZ1期生、極度の人見知りだが蹴りなどの打撃技は強く、このあいだも初代エースのミミ吉原を膝蹴りの連打で葬ってタッグチャンピオンになった人との事。

沢崎光さん17歳 SPZ1期生、完全燃焼が口癖で、1期生の中でも根性はトップクラスで、ジュニア王者にまで登りつめた。いまは秋山さんにベルトを奪われ無冠。

秋山美姫さん17歳 SPZ1期生、投げ技関節技をバランスよくこなすファイターで、現在ジュニア王者・タッグ王者の2冠王、だが人気がなく1期生の間で唯一ファンクラブが結成されていないことを本人も気にしているとの事。

小川ひかるさん17歳、SPZ1期生、身体の線が細くこれでもレスラーかと思わせる。しかし関節技についてはそこそこできる人らしい。社長が「個人的に応援」していてこの人が勝ったときには機嫌がよくなるとの事。

草薙みことさん16歳、SPZ2期生、山形県の山奥にある神社の巫女さんで、幼い頃から古武術みたいな武道をやっていて、投げ技は威力があり将来強くなると言われている人らしい。ただ山奥の神社で育ったせいか電化製品の扱いができないらしい。

富沢レイさん16歳、SPZ2期生、独特の趣味を持っていてアニメ形とか同人誌の話をよくする人らしいが、実力はまだまだ駆け出しらしい。

このほかにた団体からの移籍組で通い待遇のミミ吉原さん(この団体の裏番とのこと)、ミシェール滝さん、この10人プラス外国人選手で興行を回しているとの事。

合宿所に荷物を置いてさっそく練習。基礎練習はどうにかこなしたが、受け身の練習と称して投げられるのが続いたところで立てなくなった。上原は琉球空手の心得があったが、投げられるのははじめてであった。

「これがこの団体の恐ろしさか・・・」上原は唇をかんだ。

そして5月シリーズ「SPZ3周年記念ファンタジスタシリーズ」が開催された。入門したばかりでほとんど素人の上原今日子にいきなりコスチュームとシューズが与えられ、第1戦の青森黒石大会でいきなりデビューを命じられた。

「赤コーナー、滋賀県大津市出身、保科優希~」

人気のある選手らしく歓声がワーッと上がる。

「青コーナー、沖縄県那覇市出身、上原―、きょおーこー」

「なお上原選手は本日がデビュー戦となります、レフェリー井上霧子」

ここでゴング。

うわ始まっちゃった。

いきなりスリーパーで絞められる。何とか振りほどいて練習で保科さんから教わったチョップを打ってみる。だが逆に打ち返されて、倒れて立ち上がって打たれてまた倒れる、の繰り返しで息が上がったところをタックルで倒されて、逆片エビ固め。この返し方はまだ教わっていない。ギブアップするしかなかった。ほとんど何もできないまま終わった。

「7分18秒、逆片エビ固めで保科優希の勝ち」

-これがプロレスの世界か。

2戦目の岩手大会、相手は2期生の草薙みこと。ドロップキックをひとつ打たせてもらえが、背後から腕をつかまれてタイガースープレックスで投げられ、腕のフックが甘かったのでどうにかカウント3手前で逃げたが、もう戦う力がなく、うつろな目を察した草薙がチョップを一発叩き込んで覆いかぶさってカウント3。6分4秒で敗退。

上原はふらつきながら控室へ戻った。

ちょうどセミ前の休憩中で、次の試合に出る小川ひかるに話しかけられた。

「上原さん、プロレスのリングはどう?」

「まだ・・・あっという間にやられちゃってて・・・戸惑ってます」

「・・・ふふ、そのうちこの世界が好きになりますよ、上原さんも」

3戦目の能代大会、相手は富沢レイ。富沢は初めての格下相手と言うことでカサにかかって攻めたてた。殴られ蹴られて上原の闘争本能に火がついた。

ウォーッ!

一言叫ぶや富沢に後ろ回し蹴り一閃。富沢は吹っ飛び苦しそうな表情を見せたが、組み付いて決め技のストレッチプラムを繰り出した。

    ・・何だこの技は上半身がねじ切られるように痛いっ。

上原は持ち前の根性でしばらく耐えたが、抜けられそうもないのでギブアップの言葉を発した。

「悔しい・・・」控室でうなだれる上原。

「上原さん、お疲れ様」練習をよく見てもらった一期生の秋山が声をかけた。

「あの蹴りはけっこう入ってて、レイちゃんけっこう苦しそうだったよ。あそこで休まず攻めればひょっとしたら勝ててたかもしれないよ、次は頑張ってね」

「あ、ありがとうございます」

で、4戦目の多賀城大会も上原対富沢のシングルマッチが第1試合。油断ならないと考えた富沢がスリーパーで動きを止める。上原もドロップキックで反撃したがストレッチプラムに捕まる。

昨日もやられた技だ。

「上原さん、右ひじで抜けられる」

リング下から小川ひかるがアドバイス。上原は右ひじに力を込て暴れて、体勢を崩してストレッチプラムを抜けた。で、組み付いてきた富沢に頭突きをかました。

「こーのーやーろー」

ちょっと怒った富沢レイがコブラツイスト。がっちりと決まった。

―わき腹がものすごく痛い。

たまらず上原はギブアップ。

「勝ったーッ!やりました!」新人相手に臆面もなく富沢が勝利をアピール。

第6戦の相馬大会、意外に早く上原のシングル初勝利。富沢がコブラツイストで攻めるがしのいだ上原が、ローリングソバット。これが効いたようで同じ技をもう一発叩き込んでフォール。後輩に負けられないと富沢はカウント3直前で返したが、上原は冷静に、

この人は弱っている。あと一押しで倒せそう、

「ハアアーッ」裂帛の気合とともに手刀のようなチョップを一閃。倒れた富沢に覆いかぶさって井上レフェリーがカウント3を叩いた。

「私・・・勝てた・・・」

デビュー間もない後輩に敗れたショックで呆然と引き上げる富沢。観衆の拍手を浴びながら井上レフェリーに手を上げてもらう上原。後に「マットの覇者」と呼ばれる上原のプロ初勝利であった。

これかぁ・・・すごく、気持ちいいや・・・

相馬大会のメインは秋山対沢崎のAACジュニア選手権。沢崎が終始押し気味に試合を進めて、最後はジャーマンでカウント3を奪いベルトを奪還した。

2007年1月22日 (月)

第11回 2年目1-3月 タッグベルト

2年目1月

年が明けて1月。

「社長、小川選手にまた写真集の依頼が・・・」

「断って・・・おいてください、」

しかし小川ひかるは特訓中に負傷し、富沢レイも先シリーズでの負傷が治らず、両名とも休養となった。

そして1月シリーズ「新春バトル・カデンツァ」が始まった。社長お気に入りの小川ひかるが欠場したので、社長は黙々と裏方仕事に励んだ。

第6戦栃木大会のメインはAACジュニア選手権。王者沢崎対挑戦者伊達遥。

「この技受けてみなさい!」

先に必殺技のタイガースープレックスを出してきたのは沢崎だったがこれはカウント2でクリア、しかしこれでふらついた伊達、動きに精彩がなくなって有効打を出せなくなって、最後はジャーマンで沢崎がカウント3を奪い、2度目の防衛に成功。勝負タイム39分14秒、かなりのロングマッチとなった。

最終戦は千葉大会。第3試合で草薙みことがミミ吉原に挑んだ。やはりまだ前エースの壁は厚く、最後は掌底に沈んだ。メインでは三たびチョチョカラス対南利美のAAc選手権が組まれたが、一方的な展開で投げられ、飛び技を食らい、最後はムーンサルト2連発でチョチョカラスが勝利した。

    *******************

2年目 2月

「ファンクラブ?私のですか~?驚きです~。」

おっとりとした性格で寮長も勤める保科優希(18)のファンクラブが結成された。この選手、実力的には下位グループで前座要員だが、いつの間にか人気を集めてしまった。そしてタイミングを同じくして写真集の依頼。強化指定選手以外は受けるのがスタンスなので、保科優希もファースト水着写真集「SHIRASAGI」を出すことになった。売れ行きも人気トップの小川ひかるに迫る勢いだったらしい。

「おおー!ファンクラブ!」

AACジュニア王者、沢崎光のファンクラブが結成された。これで1期生でファンクラブが結成されていないのは秋山美姫だけとなった。しかし沢崎は先シリーズ最終戦で負傷したので2月シリーズは欠場となった。

2月シリーズ「バトルエンジェル2011」がスタートした。

第5戦は山形米沢での大会。草薙みことの地元近くということで、草薙の里の神職やらみことの身内やらが10名ほど観戦に訪れた。相手は小川ひかる。ここのところ勝ち続けているのでまあ故郷に錦を飾れるマッチメイクである。試合は小川の逆片エビに苦しんだが、声援に励まされて、最後は草薙流兜落としで小川を沈めて3カウント。勝負タイム10分49秒。

米沢大会のセミファイナルは南利美対ジョーカーレディ。ジョーカーはAACのナンバー2で、一見怪奇派のようにも見える顔にペイントを施したレスラーだが、レスリングの技術は確かで、ノーザンライトなども使いこなす実力派である。まだこの選手にシングルでは勝ったことがなかった。

チョチョカラスに勝つ前にジョーカーを倒さないといけない。そう考えた南は脇固めでジョーカーの右腕に狙いを絞り、ジョーカーの攻撃をひとしきり耐えたあと、飛びつき腕ひしぎでギブアップ勝ち。

続くメインでも大波乱、伊達、秋山対チョチョカラス、カーチス。序盤はAACチームが優勢だったが、伊達のハイキックがチョチョカラスの頭を直撃したあたりから試合の流れが変わり、タッチを受けたカーチスが長時間捕まり、そして秋山のストレッチプラムで意識を持っていかれ、チョチョカラスが孤立し1対2の状況になり、最後は秋山のステップキックがチョチョカラスの戦意を奪い、3カウントをチョチョカラスから取った。チョチョカラスは日本遠征で初のフォール負けとなった。

試合後会場の隅で、草薙みことと草薙の里の長老、みことの母親が話していた。

「しっかりやっているか」

「・・・はい。今日は応援に来ていただいてありがとうございました。おかげさまで勝つことができました」

「これからも精進するのじゃぞ」

「はい」

シリーズ最終戦埼玉大会、メインにタイトル戦が組まれたこともあり超満員の盛況。第2試合は草薙みこと対ミミ吉原。草薙がミミ越えを狙って、得意のフロントスープレックスでダメージを与えにかかったが、そのくらいでは吉原の動きは鈍らず、ストレッチプラムに捕まった。

―ここは耐えて次の技をしかける。

3分ほど痛みに耐え、どうにかストレッチプラムから脱出。さあ投げるぞ、と思ったら吉原がしゃがみこんで下から突き上げるように掌底。

くはッ。一瞬視界がかすむ。

すかさずカバー。もつれる足でなんとかフォールを返そうとしてカウント2.9で返した。しかし草薙の目はもう力を失っていた。ふらふらと立ち上がった草薙めがけ鋭いドロップキックが直撃。もう返す力は残っておらず3カウントを聞いた。

吉原さんに勝てるようにならなければ、南さんを倒して頂点を目指すことなど到底できない・・・。肩を落として草薙は引き上げた。

第三試合からの4試合は「SPZ対AAC全面対抗4対4」と銘打たれており、まずは小川ひかる対カーチス。デビュー戦の相手で苦手意識があるのか、試合はカーチス優位で進み、小川も終盤STFで勝負に出たが、耐えきったカーチスがスクラップバスターで小川を沈めた。

第4試合は伊達対サンチェス。現在の力関係からいって伊達の快勝。セミファイナルは秋山対ジョーカー。地力に勝るジョーカーが冷静に試合を組み立て、ミサイルキックで吹っ飛ばしてカウント3を奪った。そしてメインはしつこく組まれたカード、南利美対チョチョカラス。中盤までは互角に渡り合ったのだが、徐々にチョチョカラスが手数を出し始め、最後はムーンサルトプレス。これは返したが続くフランケンシュタイナーに力尽きた。勝負タイム21分57秒。これで南はチョチョカラスのベルトに4回挑んで4連敗。

3月シリーズ、草薙みことが負傷したので休ませ、選手数が奇数になってしまうので小川ひかるを1ヶ月間メキシコへ遠征に出した。現地での手配はハヤトール氏が対応してくれるので心配ないと判断した。

そして3月シリーズ「SPZスプリングカーニバル」が始まった。西日本出身選手のご当地を回って利益を稼ぐシリーズである。第2戦の高知大会、地元凱旋の南利美、メインでジョーカーレディとシングルで対戦。力関係では互角、地元の声援を受けた南が奮戦するも、DDT2連発、フェイスクラッシャーで南の動きが止まり、最後は裏拳に沈んだ。

移動日をはさんで翌々日の宮崎大会、伊達遥の地元。沢崎と組んでタッグリーグ優勝チームの吉原、南と対戦。沢崎がジャーマンで吉原を沈めて勝利。5戦目の広島大会、沢崎光が地元で秋山相手にAACジュニアのタイトルマッチ。例によって京スポ新聞記者、若林太郎氏の認定証朗読のあと、試合開始。

互角の展開が中盤まで続く。秋山がステップキック、コブラツイストでダメージを与え、沢崎もバックドロップで反撃するが、秋山がスクラップバスター、DDTとたたみかけてカウント3を奪いタイトル奪取に成功。勝負タイム27分35秒。沢崎光は3度目の防衛に失敗。

「やりましたミミさん!ベルト取りました」

「おめでとう、よく頑張ったね」

同期デビューの南に遅れること1年、ようやく戴冠した。

最終戦の後楽園大会、こんかいはAACからチョチョカラスは来日しないがそのかわりタッグ王者のジョーカーとデスピナが揃ったので、南利美、ミミ吉原のチーム関節地獄とのタッグ選手権が組まれた。お互い手の内を知り尽くしている同士でのタッグ戦なので勝敗の予想もつきづらいカード。しいていえば吉原がどう王者組の攻撃を耐えしのぐかがポイント、というのが京スポ新聞の予想だった。試合は序盤から南が飛ばして、ダブルのドロップキックで突破口を開いてジョーカーを腕十字、裏投げで大ダメージを与えて、代わったデスピナにも猛攻を仕掛けたが、ここでデスピナが粘って南の攻撃を耐えジョーカーにスイッチ。しかしジョーカーに体力はいくらも残っておらず、南がジョーカーの攻撃をひとしきり受けきって、余力を残したミミ吉原にスイッチ。吉原がボディスラムでジョーカーを倒すと、

「リミ!そっち!」起き上がろうとするジョーカーを前後からはさむ。アイコンタクトで同時にダッシュしてー

サンドイッチラリアットが炸裂。前後からの衝撃にジョーカーが倒れ、すかさず吉原がフォール。南はデスピナの前に立ちふさがってカット妨害。阪口レフェリーの手がマットを叩く。

「ワン、トゥ、スリッ!」

「42分17秒、ダブルラリアットからの片エビ固めで南利美、ミミ吉原組の勝ち」興奮した社長のアナウンスも上ずる。

「やった!ミミさん!」選手全員がリング上に駆け上がる。もう自身の実力では一期生に抜かれかけているが、長年のキャリアを生かした試合運びの上手さで上手く南をサポートし、21歳でのベルト初戴冠。一時は所属した団体がつぶれ、フリーで食いつなぐ日々もあって、世界のベルトなど手の届かぬままレスラー生活を終えると思っていたが、SPZに入団して自ら育てた選手と組んでついにベルトを獲った。秋山が吉原の腰に、沢崎が南の腰にAACタッグのベルトを巻いた。会場のファンは総立ちで新王者に歓声を送った。

「皆さんの力で、AACタッグのベルトを獲ることができました。これからも応援よろしくお願いいたします!」涙ながらに吉原が叫ぶ。見ていた井上霧子秘書、今野社長までもらい泣き。

例によって、撤収後横浜某所の和食レストラン「よこ川」で祝勝会兼打ち上げが行われた。

「ミミさんベルト獲ったのか!やったじゃん!よーしそれじゃトロの刺身、おじさんのサービスだ~」リーゼント頭の店の主人が絶叫。この人はミミさんファンらしい。

こうしてSPZの2年目は最高の形で幕を閉じた。

2007年1月21日 (日)

第10回 チーム関節地獄

年末、保科優希と伊達遥の映画が公開された。両方ともアクション映画の悪役。どうせプロレスラーにはこんな役しかあてがわれないらしいと社長は苦笑した。ということで今野社長は12月上旬の日曜日、井上秘書とミミ吉原、先月17歳の誕生日を迎えた小川ひかるを伴い都内で映画鑑賞のハシゴをした。

保科優希の出現した映画は「TRUST~守りたいもの、なんですか~」で、内容は今、かなり人気のあるイケメン俳優大友勝彦が演じるボディーガード、が恋人役の歌手をテロリストから守っていって愛をはぐくむストーリーで、保科の役は最後に立ちふさがるメガネをかけた暗黒女剣士。「死んでもらいます~」と言って日本刀をぶん回し、5分ほどのアクションシーンのあと主人公の必殺剣でやられてしまう内容だった。

伊達遥の出演した映画は「ABYSS~死闘の果てに~」人気のアイドル向山志穂演じるグレネードランチャー使いが、悪の巨大薬品会社を滅ぼすストーリーで、伊達の役割は薬品会社に改造された生体兵器という代物で、特殊メイクを施されたまま壁を壊して無言のまま主人公に殴りかかるシーンは息を呑む迫力で好評だったらしい。内気な彼女なのでセリフなしは正解だったかも知れないと思いながら映画を見た。

さすがに映画を立て続けに2本見て疲れたので、帰る前に新宿某所の焼肉店で食事。

「伊達さんすごかったね、あれ人気でるよ、特殊メイクの生体兵器って」

「でもやっぱりレスラーなんで悪役が割り振られるのねー」

「・・・いいですね、私も、一回は映画に出てみたいな」

「・・・小川さんにも先月あったけど断ったよ」

「しゃ、社長」「えっ」

「人気のある人が3人いっぺんに抜けると11月シリーズ埋まんなかったし、小川さんは今後伸びていくから次のチャンスあるだろうと思ったから、それに、小川さん負けてばかりで心配だから」第一期メンバーでは保科といまだ勝った負けたを繰り広げている。

「・・・そうですね、もっと練習して強くなります」

    **********

12月シリーズはフルメンバーがそろったので、1ヶ月遅れで第2回SPZタッグリーグ戦を開催となった。とはいえ前半は通常の試合。第1戦は新潟での開催。

「ようやく3000人規模のハコも埋まるようになってきた・・・」

試合前のリング設営を終え、開場してゾロゾロとお客さんが入ってきている。グッズ売場にも長蛇の列が。

「おっ、いかんいかん」井上レフェリー兼秘書ではさばききれないので今野社長もグッズ販売に向かった。ちなみに品揃えは下記のごとくである。

Tシャツ(SPZロゴ、ミミ吉原、南利美、小川ひかる、伊達遥)各2000円

チーム関節地獄パーカー(ミミ吉原『緑』、南利美『紫』、小川ひかる『青』)各3000円

今野社長が撮影し、井上霧子が解説を入れた「激闘!SPZプロレス」紹介DVD (30分)3000円

新潟大会のメインは「チーム関節地獄」の3人と、カーチス、シウバ、チョチョカラスの3人がぶつかる豪華版6人タッグ。試合はチョチョカラスの猛攻をしのいだミミ吉原が小川にタッチし、うまくエルボーで倒したシウバに「もう逃げられないわよ!」が発動し、(ここで会場がどっと沸く)小川ひかるがSTFでギブアップを奪いチーム関節地獄が勝利を収めた。

「解説の保科さん、きょうは小川選手が取りましたね」

「そうですね~、さいごにSTFがうまく入っちゃいましたね~、まあミミさんがチョチョカラスさんの攻めをよくしのいだと思いますよ~」

「ありがとうございます、解説は保科優希選手でした。それではこの辺で実況は私、沖野がお送りいたしました」

シリーズ第5戦は広島大会。

第3試合で小川ひかる対草薙みこと。関節技の小川対投げ技の草薙はどこでも好勝負。試合終盤、リング中央で小川のSTFが決まった。

抜けられない。痛みをこらえる草薙みこと。

こんなところでこの人に負けるわけには行かない。

でも意識が飛びそうなくらい痛い。

「そろそろマイッタする?」井上レフェリーが囁く

「いや、・・・まだ、ダメ」

3分ほど耐え、全力で絞り上げる小川ひかるの息が切れ、はっと息をついた。

「い、今だ」

のがさず草薙はSTFを振りほどいた。

「ウアーッ!」無我夢中、鬼の表情で草薙みことは立ち上がって小川に組み付き、必殺技の「草薙流兜落とし」一閃。小川は頭から落ちた。

「あ、危ない!」リング下で頭を抱える社長。しかし小川もはっきりしない意識の中カウント2.8で返す。しかし草薙は容赦せず、もう一度同じ技を小川に見舞い、今度は小川の意識を完全に断ち切って3カウントを奪った。

「13分52秒、草薙流兜落としからの片エビ固めで、草薙みことの勝ち」云うやいなや社長がリングに駆け上がる。

「ありがとうございました」一礼して引き上げる草薙。

リング上で動かない小川ひかる。富沢レイがペットボトルの水をかけるが反応がない。場内は悲鳴で騒然とする。

「担架だ、担架!」

前の試合に出た伊達遥が担架を持ってきた。「あ、社長・・・試合は・・・・」

やっと意識が戻ったらしい。

「13分52秒、小川さんの負け」

「動けるか」「ちょっと、まだ・・・」

「わかった」

セコンド総出でリング下まで小川を運び、そのあと社長と伊達で担架を持って小川を控室まで運んだ。恥ずかしさで顔を手で覆う小川。場内からはものすごい拍手が送られた。

「うう・・・」控室でぶっ倒れる小川。保科が毛布をかけ、シューズの紐を解いた。

「ご、ごめんなさい、小川さん」当事者の草薙が動けない小川に謝る。

「・・・・いいのよ、リングの上ではお互い様・・・でしょ」

直前では小川もSTFで草薙を潰しにかかったのだから。

「社長・・・」「何?」

「STFでも決められなかった・・・もう草薙さんには勝てないのかな・・・、」

「・・・・気持ちは分かる、でも練習してもっと強くなってください、それしか云えない。でも今日はありがとう、お客さんはあの試合だけで満足したと思う」

控室のドアが開き、セミファイナルで(リングアナは保科優希が代行した)チョチョカラスのムーンサルトを食らって負けた南利美がパートナーのミミ吉原に肩を抱えられながら戻ってきた。

「ああ、負けたわ。・・・悔しい」と言いながら南が荷物を持って衝立の奥へ向かう。社長は控室を出て本部席へ戻った。

広島大会のメインは沢崎光の凱旋試合、デスピナ相手のシングルマッチ。激闘の末タイガードライバーからのショルダータックルでデスピナを撃破した。

第6戦の愛知一宮大会からリーグ戦が始まった。参加チームはデスピナ、シウバ組のAAC代表、「この技に耐えられるかしら」南利美、「悪く思わないでね」ミミ吉原の関節地獄チーム、秋山美姫、伊達遥の若手チーム、「AACジュニア王者」沢崎光と「人気だけなら負けない」小川ひかるのチームヒカルの4チームで争われる。結果は下記のごとく。

沢崎 ○小川(2点 STF18分24秒)秋山 伊達×

沢崎が秋山、伊達にうまくダメージを与え、最後は小川ひかるがSTFで伊達からギブアップを奪った。

南 ○吉原(2点、背面トペから体固め)デスピナ× シウバ

22分の激闘となったが、最後はうまくミミ吉原がロープに振られたところを切り返して背面トペで押しつぶしてそのままカウント3、白星スタート。

第7戦、静岡沼津大会。

秋山 ○伊達(2点、合体パイルドライバーからの片エビ固め)デスピナ シウバ(0点)

○南 吉原(4点、逆片エビ固め)沢崎× 小川(2点)

沼津大会のメインでは沢崎がうまく投げ技で南、吉原を攻めたが、先に立ち上がった南が逆片エビを決めて、ギブアップを奪った。

そして最終戦、神奈川海老名大会。

「さあ今年最後です、がんばって闘いましょう!」ミミ吉原が選手全員に檄を飛ばす。

タッグリーグ戦の優勝の行方はー

○デスピナ シウバ(2点、ローリングソバットからの片エビ固め)沢崎 小川×(2点)

チームヒカルがAACチームに破れ、優勝の行方はメインの南組対秋山組の一戦にもつれ込んだ。チーム関節地獄が勝つか引き分ければ優勝、負けたら同一カードの決定戦となる。

○秋山 伊達(4点、合体パイルドライバーからの片エビ固め)南× 吉原(4点)

メインは4選手が持ち味を発揮する大混戦好勝負、しかし20分過ぎに吉原が伊達のニーリフトを食らって場外でのびてしまい、南が孤立。粘った南だったがかわるがわる攻められ24分39秒、合体パイルドライバーで動きが止まり、カウント3を喫した。

「えー、この試合の結果、ミミ吉原、南利美組、伊達遥、秋山美姫組が4点で並びましたので、15分の休憩後に両チームによる優勝決定戦を行います!」場内地響き大歓声。

控室は4人がぶっ倒れる野戦病院状態。

「ハアッ、ハアッ、ハァ、ハァ」南は息を弾ませて横たわり、その隣にも吉原が大の字。小川ひかるがコールドスプレーで蹴られたところを手当て。

「リングに上がれば先輩も後輩も、師匠も弟子も関係ないのよ、あたしと闘うことがあったら潰すつもりでかかってきなさい」後輩たちに言ってきたことをその通りに実践されて、吉原は身体はボロボロだったがうれしかった。

控室奥では秋山と伊達が息を整えていた。

「遥、次勝てば優勝で賞金もらえるよ、少ないと思うけど山分けしようね」などと言いだし、早くも賞金の使い道を相談しだすしまつ。

「・・・あの子たち、もう勝ったつもりでいる、ふふ、ここは師匠として一発シメてやりますか、リミさん」

リング上では4人のダメージ回復までの場もたせとして今野社長と井上秘書のつまらないトークショーが繰り広げられた。

ひとしきり団体の近況や普段の選手たちの暴露話でネタが尽きたところで小川ひかるが社長に耳打ち。

「あーっと、今入りました情報によるとミミ吉原選手がようやく起き上がって、試合の準備に入ったようです。で、伝言ですが、あと20分時間稼ぎしてくれ、そうしたらどんな手を使ってでも勝ってみせる。協力したら賞金で飲みに行こう、との事。おーっとこれでは協力しないわけには参りません」

次の場もたせが「ボール投げ大会」今野社長と井上秘書が観客席へ向けてカラーボールを投げ、受け取った観客はTシャツがもらえるという趣向。なお時間が埋まらないのを見て取った社長は本部席からアコースティックギターを持ってきて

「こんなこともあろうかと考えまして、SPZのテーマソングを本日初公開いたします」

「SPZのテーマ曲、そんなのあった?」「知らない」

「合言葉は S/P/Z 

 あとがないから S/P/Z

 明日へ走れ S/P/Z

夢をあきらめるな

戦い続け 期待はずれの 日々が 何年も続く

それでも 逃げては本当に負けなんだと 信じて

ひたむきに 信じたこの道 走り続ける

合言葉は S/P/Z

あとがないから S/P/Z

いつか輝く S/P/Z

勝利の喜びめざして」

館内はダレたが、南、吉原のダメージも回復し、

「ただいまより優勝決定戦を行います!」

赤コーナー側花道から南、吉原組が入場。

青コーナー側花道から秋山、伊達組が入場。

「第2回SPZタッグリーグ優勝決定戦、時間無制限1本勝負を行います、青コーナー、宮崎県出身―、伊達―、はるーかー、鳥取県米子市出身―、秋山―、みーきー!」

「赤コーナー、 前AACジュニア選手権者―、みなみー、としーみー」

「関節技の魔術師、神奈川県横浜市出身、ミミー、吉原―ッ」

「レフェリー、ジェイ・ハヤトール」メインを裁いたピンクシューズ阪口氏に代わってAACのハヤトール氏が裁く。

午後8時40分、優勝決定戦のゴング。

試合開始早々に伊達のエルボーが鼻に入って南が流血。これが影響したのか南の関節技絞め技にいつもの切れがない。ミミ吉原が奮戦するも、2試合目で疲労しているのがありありだったが、最後の力を振り絞って秋山を「悪く思わないでね」ドラゴンスリーパーで絞め落として戦線離脱させ、ようやく南にタッチ。終盤は南と伊達が意地のぶつかり合いの攻防を見せたが、

―育ててもらったミミさんと一緒に優勝したい。

最後に南の裏投げが決まりカウント3。勝負タイム23分18秒。リング上は4選手が大の字。表彰式どころではなく、各々若手セコンド陣に担がれて退場。館内からは4選手の健闘をたたえる拍手、そして「SPZ」コールが沸き起こった。

「あー、リミちゃんアリガト、今日はきつかった。ワールド女子の新人時代よりきつかった。」

南利美は横たわりながら出血した鼻を押さえている。優勝した吉原、南組には賞状と金一封、副賞として「DVDレコーダー」が贈られた。準優勝の秋山、伊達組にも賞状と「フルーツ缶詰め合わせ」が贈られた。

「本日は最後までご観戦頂きまことにありがとうございました。来年も努力とよいファイトを提供してまいりたいと思いますので応援よろしくお願いいたします」社長、井上秘書、小川ひかる、保科優希の両選手、4人がリング上で一礼。これで2010年の全興行が終わった。

年末のプロレス大賞、今野社長は草薙みこと、南利美の両選手を伴って後楽園プラザに向かった。草薙は新人賞、南はチョチョカラス戦が敗れはしたがベストバウトに選ばれての受賞となった。

2007年1月20日 (土)

第9回 写真集

2年目9月。ミシェール滝は負傷で欠場。

南利美選手の「ファンクラブ」が結成された。吉原、小川に次いで3人目。

「ファンクラブ?アイドルじゃあるまいし・・・」

伊達遥に映画の依頼。今野社長は資金難のため依頼を受けた。

そしてはじまった9月シリーズ「魂のSPZシリーズ」、今回はAACの団体トップにしてメキシコの国民的英雄、チョチョカラスが参戦するということでチケットの売れ行きも上々であった。

「勝てました。社長、見てくれましたか?」

開幕戦の相馬大会第1試合、サンチェスを苦戦の末、フロントスープレックスで下した小川ひかるは退場前に本部席に寄って上記のセリフを吐いた。机に突っ伏す社長。

最近では女子プロレスの中でも試合の激しさは最大手の新日本女子を上回るのではないかと評され、観客動員も増え、地方大会でも京スポ新聞の記者が随行するようになった。相馬大会の第2試合、きょうはここからりんごテレビのカメラが回りだした。

ミミ吉原、富沢レイ 対 草薙みこと、保科優希組、頭ひとつ抜き出た前エースの吉原が決めるかと思われたが、試合中盤、草薙みことが草薙格闘術をプロレス流にアレンジした変形裏投げ「草薙流兜落とし」をミミ吉原に決めて、吉原は目の前が「真っ黒になった」直後のカバーはカウント2.5で返したが、もう戦う力なく、富沢にタッチした直後、草薙が富沢にも容赦のない草薙流兜落とし一閃。頭から落ちた富沢、カウント3。マット上には2人が転がっているシュールな光景。館内は新技の威力に静まり返った。しばらくして吉原は立ち上がったが富沢は起き上がれず、セコンドの小川ひかるに背負われての退場となった。館内拍手。ここで休憩。

「ヒカル・・・」

「大丈夫ですか、ミミさん」

「ちょ・・・うっ・・・頭打った・・・テレビ解説・・・やって・・・ぐふっ!」控室に倒れる吉原。

きょうのテレビ解説は団体前エースで人当たりのよい吉原がやる予定になっていたが、急きょ小川ひかるが代役となった。

「あーっと、ミレーヌシウバ、容赦のない顔面蹴りです!」

「シウバ選手の蹴りは重いんですよ、私も何回か受けたことありますが」

「そのまま押さえ込む、あーカウント2.8で返した。しかし沢崎光、目はまだ生きているか?」

「これは・・・まずいですね、さっきの蹴りが相当・・・」

「あーっと、走りこんでのジャンピングニー、カウント3!入った、入りました。沢崎光、敗れましたー、解説の小川さん、沢崎の敗因は」

「うーん、そうですね、前チャンピオン相手で、気負ってしまったっていうか、肩に力が入った部分があったと思います。」

そして相馬大会のメインイベント、南、秋山組対チョチョカラス、カーチス組の一戦。チョチョカラスの飛び技に南、秋山はついていけず、南は裏拳の当たり所が悪くて流血し、代わった秋山が合体パイルダライバーからのムーンサルトで沈んだ。

「やはりメキシコの英雄、チョチョカラスは強い!実力急上昇中の南、秋山を子供扱い!それでは相馬トレーニングアリーナからお送りいたしました。解説はSPZの小川ひかる選手、実況は私、沖野がお送りいたいました」

第4戦の伊勢崎大会でもテレビが入った。放映は週1回だが、試合は月8試合しかないのである程度録りだめせざるをえない。

第2試合、草薙みこと対小川ひかるが組まれた。序盤から草薙が押す展開だが、小川が逆転のSTF

「もう逃げられないわよ!」このセリフ、吉原の「悪く思わないでね」南の「この技に耐えられるかしら?」と並んで、ファンの間では有名になっている。体力面はともかく絞り上げられる痛みに耐えかね草薙はギブアップ。小川が逆転勝利を収めた。

伊勢崎大会のメインは南利美対沢崎光のAACジュニア戦。下馬評で行けば南が有利だが、沢崎も先月のSPZクライマックスで南を破っていて優勝までしている。解説はミミ吉原。

「吉原さん、この試合のポイントは」

「まあ、リミちゃんが、関節技地獄に引きずりこめるかどうかですね、この技にたえられるかしら?なんて。」

といって吉原が南のモノマネをしているうちに沢崎が南をぼこぼこ投げて、南は焦って技が決められない悪循環。最後はジャーマンで13分28秒、沢崎の勝ち。タイトル移動。沢崎は初挑戦で初戴冠の偉業。南は5度目の防衛に失敗。

「完全燃焼ですっ!」リング状で叫ぶ沢崎。デビュー後、一期生のなかで南の後塵を拝し続けたが、やっと追いつき追い越した。控室ではまだ沢崎は16歳なのでスポーツドリンク(ファンからの差し入れ)で乾杯。

「くっ」赤コーナー側の控室。

なんて無様な負け方だ。沢崎に2連敗だなんて、しかもほとんど攻められず13分での敗北など彼女にとっては悪夢であった。悔し涙をこぼしながら南はシューズの紐を解いた。

最終戦の千葉ポートアリーナ大会、首都圏での開催とあって超満員札止めの盛況。第2試合は小川対草薙。投げの草薙、関節の小川。ここ何シリーズか好勝負になっているカード。この日は草薙がフロントスープレックス3発を決め小川をフラフラの状態にしたが、リング中央で草薙を倒すや必殺のSTF。草薙は痛みのあまりギブアップ。

デビュー戦では勝てたのに、最近はなかなか勝てない。私の技は読まれているのだろうか、小川さんに・・・デビューして半年、なかなか前には進めない。草薙は足取りも重く控室へ向かった。セミファイナルとメインイベントは後日テレビ放映される。セミでは沢崎がシウバ相手にタイガースープレックスで3カウントを奪い、シリーズ初戦の借りを返した。メインはチョチョカラス対南のAAC選手権。今シリーズ不調でジュニア王座を失った南にチョチョカラス相手は圧倒的に分が悪い。23分も粘って、終盤は飛びつき腕ひしぎなどで見せ場は作った南だったが、裏投げからのムーンサルトに敗れた。

2年目秋

秋の気配も濃くなってきた10月、

伊達遥のファンクラブが設立された。吉原、小川、南に次いで4人目である。長身で蹴り技主体なので女性ファンが多くなってきたのである。

保科優希に映画出演の依頼。先月は伊達の映画を撮り終わったばかりなのに。まあ保科は「アイドルレスラー」として売り出す予定なので、今野社長は二つ返事でOKした。

10月シリーズ前、秋山実姫が左足首の故障で欠場が発表された。本人はたいしたことないですと云っていたが、今野社長が止めて休養をとらせることにした。

10月某日、社長は都内某所のマンションを訪れた。

「君か・・・最近女子のプロレス団体を立ち上げてそこの社長がうまく回しているというのは、業界内でも評判じゃぞ」

「恐れ入ります。」

「で、用向きは何だね」

「じつは、折り入ってお願いがありまして、阪口さんをぜひコーチ兼レフェリーとして、SPZにお迎えしたいのですが」

奥さんが紅茶を運んできた。

「知っての通り、わしには不整脈の持病がある。巡業に引っ張りまわされるのはちょっと・・・」

「そのへんはできるかぎり配慮します。レフェリングはメインイベントのみという扱いで、今でもピングシューズ阪口のレフェリングを見たがっているファンは多いかと存じます」

交渉している相手は阪口正吉。リングネームはピンクシューズ阪口。レスラーとしては大成しなかったが、レフェリー歴30年の大ベテランで、いまはフリーのレフェリーとして時折プロレス会場で試合を裁いている。

「知っての通り、私たちの団体は歴史も浅く小さい団体ですが、試合内容の激しさについては負けない自負があります。ですが、それが行き過ぎると選手が無理をしたり、危険な技に頼りすぎるようになってしまい、大ケガを負う選手が出てこないとも限りません。彼女たちの選手生命は男子に比べてはるかに短く、第二の人生に影響を及ぼすことだけは何としても避けたいのです。しかしいかんせん私は受け身を取ったことのない素人なので、判断がつきかねる部分があります。ですのでそのあたりを阪口さんに見ていただければ有難いのです。」

「・・・わかった。わしも年なので5年が限度だと思う。それでもよければ君の力になろう」

「ありがとうございます」

こうしてSPZプロレスにコーチが来た。かなり高額の契約金を払い、巡業への帯同はしなくてよい、道場には週2回練習を見に来るという契約条件だったが、最初はその力を知らなかった選手たちもコーチを信頼するようになっていった。

「頭から落ちるのは危険だから、もう少し腕と肩で受けたほうがいいナ」リング外、椅子に座ってじっと見ているだけだが時折的確にアドバイスをする阪口コーチ。

そして10月シリーズ「SPZバトルオータム」が始まった。こんかいもAACからはチョチョカラスが来日した。

4戦目の岩手県一関大会。小川ひかるが初の先輩越え。相手が故障明けのミシェール滝だったが、苦戦しながらも最後はミサイルキックで倒したところをSTFで締め上げギブアップを奪った。6戦目の仙台大会が悪天候で流れたが、あとは東北各所をサーキットした。第7戦の福島大会、メインで組まれたのは南利美、ミミ吉原、小川ひかるの「チーム関節地獄」対沢崎光、伊達遥、草薙みことの若手チーム。試合は沢崎がジャーマンで小川を叩きつけカウント3を奪った。

最終戦埼玉大会。AACとSPZのエースの一騎打ちで、チョチョカラス対南のAAC選手権が組まれた。試合はチョチョカラスが一気に決めに来て、ドロップキック2発→ムーンサルトプレス→ミサイルキックとたたみかけて南をフラフラにしたあと、意表をついて首固めで丸め込んで3カウント。勝負タイム6分55秒。あっけなく敗北した南は控室でひとり悔し泣き。

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2年目11月。

AAC王者沢崎光がメキシコでの防衛戦のため不在、ミミ吉原に2冊目の写真集の依頼。まだ1月のファースト写真集以来10ヶ月しかたっていない。

「よ、吉原さん・・・」

「写真集を2冊も出せるなんて、前居た団体でもそんな選手数えるほどしか居なかったわよ、アハハハハハ。で、社長さんとしては、どうしたいのかな~」

「すいません慢性的に資金繰りが厳しいのでお願いします写真集を出してください」

こうしてミミ吉原(21歳)2冊目の写真集「SUNRISE」が発売された。和み系キャラらしいのでそこそこ売れた。

なお笑っちゃうような状況が続き小川ひかるに映画のオファー。これはさすがに「強くしたい選手なので大変申し訳ありませんが・・・」と先方に断りを入れた。

悪いこと?は重なり、南利美に写真集のオファー。なんだか芸能事務所みたいだとぼやく社長。いちおう団体のトップスターで興行への影響も心配されたが、社長は恐る恐る切り出した。

「写真集?あのアイドルがよくやってるやつ?」

こうして所属選手3人目となる南利美(17歳)の写真集「MINAMIKAZE」が出版された。吉原選手との売れ行きは互角だったらしい。

11月シリーズは主力3人を欠いたので、タッグリーグ戦は1ヶ月延期を余儀なくされた。

第1戦は松本大会、小川ひかるの故郷凱旋興行。両親や友人知り合いが多数詰め掛けたのか満員になった。確実に勝てる相手と闘わせようと社長が気を利かせたつもりなのか組まれたカードは第1試合で格下の富沢レイとのシングルマッチ。8分41秒、ストレッチプラムで相手の戦意をなくしておいてからのエルボーで3カウント。

移動日を置いて2戦目は宮崎大会。伊達遥の地元なので超満員。第2試合で草薙みこと対小川ひかるのシングルマッチ。

-草薙流の名にかけて、これ以上こんな所でつまずいてられない。

そう考えた草薙は小川ひかるを攻める。

相手はSTFやストレッチプラムなどの関節技が上手い。無効だ出してくる前に叩いておかないと。と考え、フロントスープレックスやコブラツイストで小川を叩き、逆転を狙って出してきたSTFもそれまでに草薙にはダメージの蓄積がないので振りほどいて外した。逆にコブラツイストで締め上げ。

「・・・・ギブアップ、します・・」これで小川さんにもコンスタントに勝てるようになる。もっともっと上を目指さないとそう思いながら草薙はリングを後にした。

自分の得意な極め技でギブアップ負けを喫した小川ひかる、次の日から奮起したのか、ミシェール滝相手にフロントスープレックス、STFで2連勝、そして6戦の大阪大会では元AACジュニア王者のミレーヌ・シウバに攻め込まれながらも逆転のSTFで足にダメージを与え、直後の逆片エビでギブアップを奪う金星を挙げた。こうして各選手の奮起とメキシコからのチョチョカラス参戦という援軍もあって、興行的にもまずまずの成績となった。

2007年1月19日 (金)

2年目 7月  リーグ戦

2年目 7月

「社長、SPパブリッシングさんからの依頼で小川ひかる選手に写真集の依頼が来ています」

「何ですと」

「どうしようどうしようどうしよう、うちの新人でこんなの初めてやないの」

「くすっ、あいかわらず社長はヒカルのことになると見境なくしますね、ふふ」

「う、うるしゃい」

「まあひとつの判断ですが、目先の収入と写真集の宣伝効果を優先させるか、彼女の練習時間を確保するか、どちらかでしょうね」

「うーいーうー」

「社長、ご判断をお願いいたします」

金なし団体としてはここでの副収入はぜひとも欲しい、しかしそれでなくても弱い小川ひかるが、デビューしたての草薙にも負けるような(先シリーズも1勝1敗)小川ひかるはまだわき目もふらず練習させるべき時、うぬこれは迷った困った。

頭を抱えること5分。

「うーいーうー、決めた、写真集出す」

その翌日、

「お呼びですか、社長?」

「ああ、実は小川さんに写真集のオファーが来てるんだが」

「写真集?な、内容は?」

「み、水着の写真集だ。う、受けたいと思っているがやってくれるか?」

両方とも動揺していた。

「そのような依頼なら他に適任の選手がいるのでは?」

「せ、先方は小川さんを指名してきて・・・」

「わかりました、先方が見込んでくださったのなら・・」

こうして小川ひかるのファースト写真集「AZUSA」が発売された。今野社長はサンプルをもらったにもかかわらず、発売された当日にネット書店で3冊買った。

そのあと社長は千葉に新人スカウトに出かけた。今回のターゲットは富沢レイ、柔道などをかじっていたらしく関節技の素質があるらしい。アニメ系コス好きというのもそそったので、スカウトに出かけ口説き、入団をとりつけた。

「というわけでSPZプロレス10人目の選手です、皆さんよろしくお願いいたします」

「富沢レイです、よろしくお願いいたします」これで合宿所は8名の大所帯となった。

また、7月シリーズ「サマースターナイツシリーズ」では、次のシリーズでSPZクライマックスを行うので、前年の大会で4位以下だった選手・・・秋山、伊達、滝、保科選手および新人の草薙みことの5人(前回全敗の小川ひかるは写真集を撮影中)で予選会をリーグ戦形式で開き、上位3名が本大会に出場できる企画を行った。とはいえ現在の力関係から言って、伊達と秋山の予選通過は濃厚なので、残り1枠を保科、滝、草薙の3人で争う構図である。4戦目の広島大会、新人の草薙が滝相手に苦戦しながらも最後はコブラツイストでギブアップを奪いまた先輩越えを果たした。しかし、7戦目の京都大会での草薙対保科戦は、フロントスープレックスなどで押し込んだものの、逆転のアキレス腱固めにギブアップした。しかし最終戦の東京大会で滝が保科にラリアット、タックルと力技をたたみかけて勝ってしまい、3人が1勝3敗で並んでしまった。しかたがないのでSPZクライマックス出場権の最後の1枠は抽選により保科優希となった。あと最終戦のメインは南利美対シウバのAACジュニア選手権。もう両者の力の差が出てきたのか、危なげなく南がジャーマンスープレックス、裏投げとつないで勝って4度目の防衛成功。勝負タイムは14分1秒。

だがー

保科優希が右足首負傷が発覚。シリーズ最終戦でラリアットを食らって変な倒れかたをして、痛みが引かない。

「あら~・・・このくらいなら大丈夫ですよ~。合気道やってましたし~。」

社長一言「休んでください、お願いします」

というわけで滝と草薙で再抽選が行われ、ミシェール滝が出場権を獲得した。クジ運の悪い草薙さん。

8月シリーズ前、前月写真集の撮影で練習できなかった小川ひかるへの特訓。例によって3人の選手からひたすら投げられる受け身の特訓。10分ほどで小川は動けなくなった。

「まだまだ努力が足りないみたい・・・・」

で、8月シリーズ「第2回SPZクライマックス」が開催された。出場選手は下記の通り。

前回優勝者:ミミ吉原

シード権:南利美、沢崎光

AAC代表:デスピナ・リブレ、ジュリア・カーチス

予選会勝ち上がり組:伊達遥、秋山美姫、ミシェール滝

なお、第1戦の柿崎大会第一試合で富沢レイがデビュー。草薙みことに一方的に痛めつけられ、最後はショルダータックルでカウント3。勝負タイム6分7秒。

さて、第2回SPZクライマックス

第2戦、松本大会:

○カーチス(2点、片エビ固め)-滝(0点)、

○沢崎(2点、ジャーマンスープレックス)-秋山(0点)

○吉原(2点、掌底からの片エビ固め)-デスピナ(0点)

○南(2点、掌底からの片エビ固め)-伊達(0点)

メインの南対伊達は28分22秒の死闘。最後は裏拳、掌底となりふりかまわず南が伊達を殴り倒した。

第3戦、山梨南アルプス市大会

○伊達(2点、ジャーマンスープレックス)-滝(0点)

○沢崎(4点、ジャーマンスープレックス)-カーチス(2点)

○デスピナ(2点、ミサイルキックから)-秋山(0点)

○南(4点、裏投げからの片エビ固め)-吉原(2点)

新旧エース対決は南が10分少々で吉原を下した。

第4戦、石川加賀大会

○伊達(4点、体固め)-カーチス(2点)

○吉原(4点、ドラゴンスリーパー)-滝(0点)

○デスピナ(4点、バックドロップから体固め)沢崎(4点)

沢崎のタイガースープレックス2連発を2回ともカウント2.9で返すデスピナ。沢崎、「なぜ?完璧に入ったのに・・・」動揺してバックドロップでフォール負け。

○秋山(2点、DDTから片エビ固め)南(4点)

ドラゴンカベルナリアからのDDTで南まさかの不覚。ここで勝ちっ放しがいなくなった。

第5戦、富山・魚津大会

○カーチス(4点、体固め)―吉原(4点)

○秋山(4点、ドラゴンカベルナリア)滝(0点)

○伊達(6点、ハイキックからの片エビ固め)デスピナ(4点)

○沢崎(6点、タイガースープレックス)南(4点)

前日に続き館内はえええ!の歓声。南は繰り出した飛びつき腕ひしぎがことごとくロープ際。沢崎がワンチャンスで決めた。

第6戦、静岡沼津大会、客の入りが悪い。メインのカードが・・

○吉原(6点、ドラゴンスリーパー)秋山(4点)

負けたほうが優勝争いから脱落の一戦。秋山が攻め込み吉原をフラフラの状態にするも、吉原の執念か、「悪く思わないでね」ドラゴンスリーパーが決まってしまい秋山余力を残したままギブアップ。吉原越えならず。敗れた秋山はリングを叩いて悔しがった。30分0秒の死闘。決まったときの憤怒の表情、その後、いつもの笑顔で勝ち名乗りを受けて、直後に倒れこむ吉原、館内大歓声。

○沢崎(8点、ヒップアタックから片エビ固め)伊達(6点)

○デスピナ(6点、体固め)カーチス(4点)

○南(6点、飛びつき腕ひしぎ逆十字)滝(0点)

第7戦 愛知一宮大会

○伊達(8点、ハイキックから片エビ固め)秋山(4点)

○デスピナ(8点、体固め)滝(0点)

○沢崎(10点、ジャーマン)吉原(6点)

最終戦の相手が全敗の滝なので、勝てば優勝へ大きく前進する沢崎、一方の吉原は前日の死闘のせいか動きに精彩を欠き、投げ技攻勢の前に8分であえなく敗北。優勝圏外となった。

○南(8点、飛びつき腕ひしぎ逆十字)カーチス(4点)

最終戦:神奈川・海老名大会

ホームに戻っての最終戦、南、デスピナ、伊達、沢崎の4名に優勝の「可能性」のある大混戦。しかし頭ひとつ抜け出ている沢崎の最後の相手がアレなので優勝はよほどのことがないかぎり沢崎と予測された。

吉原(8点、ストレッチプラム)伊達(8点)

直近のシングルマッチでは何回か勝ち始めている伊達、しかし長期戦は不利と判断したベテランの吉原は序盤からストレッチプラムで大ダメージを与え、掌底を挟んでの2度目のストレッチプラムで伊達からギブアップを奪い、前年優勝者の意地を見せた。伊達は最終戦で脱落。

秋山(6点、体固め)カーチス(4点)

秋山の順当勝ち。しかし負け越したのでシード権を失い、翌年は予選会からのスタート。

沢崎(12点、タイガースープレックス)滝(0点)

全敗を阻止したい滝がドロップキック、ローリングソバットなどで攻めるも、沢崎との力の差は歴然、沢崎がじわじわと押し返し、最後は万全のタイガースープレックスでデビュー2年目の初優勝を決めた。

デスピナ(10点、逆さ押さえ込み)南(8点)

千秋楽結びの一番は消化試合。「秋山と沢崎に負けたことは本当に悔しい」とコメントした南だったが、最終戦もデスピナのスピードとパワーの前に苦戦。勝負をかけた飛びつき腕ひしぎも振り解かれ、その隙を突いて、デスピナまさかの逆さ押さえ込み、虚を突かれた南は無念の3カウントを聞いた・・

ということで優勝は12点の沢崎、賞状と金一封、副賞としてデジタルオーディオプレーヤーが贈られた。準優勝は10点のデスピナ、京スポ新聞社から横浜中華街のお食事券が贈られた。3位以下は同率で8点の南、伊達、吉原が並んだが、直接対決で両者に勝っている南が3位、週刊ハッスルからミネラルウォーター1か月分が贈られた。吉原が4位、伊達が5位。

6位は6点の秋山、7位は4点のカーチス、最下位は0点の滝となった。この3人は規定により翌年は予選会からの出場となる。

「優勝、感動、完全燃焼ッ!みんなありがとう!」涙ながらに優勝インタビューを受ける沢崎光(16)、下馬評では大穴で、予想外の出来事に会場のファンは大歓声で応えた。

可憐な少女たちだが、ひとたびリングに上がれば性格が変わる少女たちの激闘、身体と星の潰し合いにファン、マスコミ各社は惜しまぬ賛辞を送った。

2007年1月18日 (木)

第7回 2年目の春

「テレビ放映?」

「そう、毎週水曜の深夜1時から、30分番組で激闘!SPZプロレス中継」が4月から始まるってさ、地方局のりんごテレビなんで思ったほど経費かかんなかったし、これで東北地方を重点的に回ってドル箱にして、収益を安定させるのだ」

そして4月の旗揚げ1周年記念「SPZアニバーサリーシリーズ」が始まった。甲信越、北陸を回り、第6戦の富山大会で、草薙みことのデビュー戦が組まれた。

6時半の試合開始前、

「みこっちゃん、緊張してない、大丈夫?」

ミミ吉原が声をかけ。

「大丈夫です、組み手は里にいたときもやっていましたから」

そして花道を走って入場、リングイン。

みんなが・・・私を見ている。

狭い会場でもぎっしり埋まった体育館、ここで急に草薙は緊張してきた。そして赤コーナー側から小川ひかるのテーマ曲が流れ、小川ひかるがさっそうとリングインした。

今野社長がコールする。

「青コーナー、山形県朝日町出身、草薙―、みことー」

「赤コーナー、長野県松本市出身、おがわー、ひかーるー」

「なお草薙選手は本日がデビュー戦となります。レフェリー、井上霧子」

草薙は緊張したものだから小川のほうから手を出してきて、試合前の握手。そしてゴング。

小川さんは入門前に見た映像とは印象が違うように草薙は感じた。ドロップキック、フロントスープレックスで攻めさせてはもらえたが、終盤ストレッチプラムに捕まった。

腕がもぎ取られるような痛みを感じたがロープが近かったので何とか草薙は逃げられた。そのあと、2回目のドロップキックを当てたら小川選手の動きが止まったのを見て、フロントスープレックスで投げてフォールしたらカウント3が入ってしまった。

勝った・・・・。

「10分59秒、フロントスープレックスからの片エビ固めで、草薙みことの勝ち」社長の声も震えていた。

「おめでとう、デビュー初戦でプロ初勝利なんてやるじゃない、すごいよ」みんなに祝福される。

一方の小川ひかるは、リングコスチュームのまま控室裏でひとり泣いていた。自分では1年間それこそ死ぬ思いをしてやってきたつもりだが、あっさりと入門間もない新人に敗れるとは・・・自分が情けない・・・

よりによって次の日のメインには南利美対小川ひかるのAACジュニア選手権が組まれていた。前シリーズ予想外に王者になってしまったので、社長が励ますために口走ってしまった「ベルト獲ったら初防衛は小川さん」を実現せざるを得なくなった。やはり一方的に南が攻め、小川もストレッチプラムやヒップアタックで意地を見せたがそこまでで、最後は裏拳をもらってカウント3。勝負タイム9分36秒、南があっさりと初防衛に成功。

デビュー戦を勝利で飾った草薙みことだったが、さすがに皆の目の色が変わり、翌日の石川大会では保科が苦戦したものの最後はアキレス腱固めでギブアップを奪い、最終戦横浜大会では伊達遥があっさりとハイキックで草薙の意識を持っていった。

そして最終戦横浜大会のメインは、1周年記念マッチとして南利美対ミミ吉原のシングルが組まれた。最初は一進一退の攻防が続いたが、勝負をかけた南の飛びつき腕ひしぎが吉原にダメージを与え、最後は裏投げ2発で吉原をマットに沈め、団体エースに勝ってしまった。

「17分17秒、裏投げからの片エビ固めで、南利美の勝ち」「くっ、そんな・・・」まさか自分が育てた選手に1年たらずでやられるとは思っても見なかった吉原は悔しい表情を浮かべた。

こうして1周年記念大会は終わった。

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2年目 5月

「私の・・・ファンクラブ?」

負けてばかりの小川ひかるにファンクラブが結成された。やはりこの人はやられっぷりが魅力なのだろうか。そう社長は感じたが、

「応援に負けないように頑張れよ」と励ました。

「わかりました、全力をつくします」と小川は答えた。

そして5月シリーズ「SPZ UZUMAKIバトル」が始まった。開幕戦の福島大会で、小川ひかる対草薙みことの一戦がまたも組まれ、ファンクラブ結成で奮起?した小川が草薙を攻め込み、最後はタイミングよくアームホイップで投げ飛ばして3カウントを奪った。

そして翌日の鹿島大会でも第1試合で小川対草薙の決着戦?が組まれた。ふだんはにこやかで温和な小川がリングに上がるや真剣に草薙を倒そうと投げて、エルボーを叩き込む。

そうか、リングに上がれば、みんなここの人は性格が変わるんだ。

草薙の投げ技を警戒したのか、小川は早々にサソリ固めで勝負に出た。ぐいぐい絞り上げられるしロープも遠い。

草薙みことは痛みに耐えかね、ギブアップの言葉を口にした。

小川は観客の声援に手を振ってこたえてから花道をあとにして控室に戻る。

「あー、疲れました」

「どう、みこっちゃんの感じは」ミミ吉原が問う。

「力はあります。これでリングの雰囲気に慣れたらけっこう強くなると思います」

鹿島大会のセミファイナルはミミ吉原対沢崎光。先日若手トップの南があっさり吉原越えを達成したので、沢崎もひそかに勝ってやろうと狙っていた。吉原もここで負けたら団体エースの座から完全に引き摺り下ろされるとの危機感から、ヒップアタック、掌底と猛攻を仕掛け、最後は返し技の背面トペで3カウントを奪い、面目を保った。

今シリーズはメインは南が秋山か沢崎のどちらかと組んでAAC勢を迎え撃ち、吉原がセミファイナルに入ってというカード編成が続いた。第7戦のセミで、沢崎が南に続いて2人目の吉原越えを果たした。

序盤から飛ばした沢崎、焦った吉原はとっておきの空手技、上段蹴りを放ち、沢崎からダウンを奪ったが、これで沢崎の内なる闘志に火がついたか、

「この技受けてみなさい!」と言って、必殺のタイガースープレックスを繰り出した。返そうにも普段は甘いと言い続けた腕のフックがしっかり決まって抜けられない。足の力で抜けようとしたがうまくいかず、ミミ吉原は無念の3カウントを聞いた。

最終戦前日、巡業バスは横浜に戻ってきた。若手新人選手は寮で移動を疲れを取り、ミミ吉原選手と今野社長、井上霧子秘書は横浜某所のイタリア料理店「アレグロ」で飲み会をやっていた。

「ハー、さすがに自分が面倒見たコに負けるとショック大きいわ」吉原がビールを傾ける。

「でも、沢崎さんとは1勝1敗のイーブンじゃないですか、最後にタイガースープレックスがうまく入っただけで」

「でもねえ」吉原がグラスを握り締める。

「霧子さんもそうだったと思うけど、この世界にいる人はね、取った、取られたというのはすごく大事なことなのよ」

「・・・ごめん」

「いいのよ、社長さん。これで張り合いがまた出てきたから。今までは心のどこかに、新人に負けるわけがないという慢心とはいわないけど、甘えみたいなものがあった。今度からは教え子とか考えないで、倒すべき相手としてあのコたちと戦うわ」

そう言ってミミ吉原はビールをすすった。井上霧子は白ワインをがぱがぱ飲んでいる。

最終戦は通いで千葉の市原興行。メインは南対シウバのAACジュニア戦。ベルト奪還へ向けシウバが目の色を変えて向かってきて、中盤、ヘッドバット、ラリアット、掌底で猛攻をかけたがそれをしのいだ南がラリアットのお返しをしてから裏投げで3カウントを奪い、2度目の王座防衛を果たした。

シリーズオフの5月末、ミミ吉原出演の映画「コレクティブ、滴り落ちる鮮血と涙」が公開され、社長、ミミ吉原、井上霧子、小川ひかるの4人が横浜の映画館へ足を運んだ。(他の若手連中は笑われそうだから後日見に行けと吉原が命令した)

今をときめくアイドル、向山志穂演ずるヒロインが、さらわれた弟を救出するために悪の組織に単身乗り込んでいって悪の組織をぶっ潰すと言う単純明快なストーリーで、ミミ吉原の役割は悪の組織の女用心棒という役割だった。

「追い詰めたぞ、榎本」

「くくくくく、罠にはまったのはきさまのほうだ、せ、先生!先生!お願いします」

「ふふふふふ」「よ、用心棒?」

「これも渡世の義理、死んでもらおう」黒いジャンプスーツを着た吉原がヒロインに襲い掛かる。

「悪く・・・思わないでね」悪の幹部になりきれない吉原の決め台詞に館内から失笑が漏れる。

そのあと5分くらいアクション映画にありがちなアクションシーンが続いて追い詰められたヒロインに吉原が一言

「遊びはもう終わりだ、おまえの脳髄を砕いてやる」

かかと落とし炸裂、ギリギリでかわすヒロイン。

「い、いつまでかわせるかしら?ふふふふ」

しかし-

「Use This!」

屋根の上から謎の外人女が現れ、ヒロインの足元に大きな武器を落とした。ロケットランチャーだ。ヒロインはロケットランチャーを構え、ミミ吉原に向けて発射した。

「ぐぎゃあー」派手な爆発音とともに絶命する用心棒。ミミ吉原の出番はここで終わった。

「ベ、ベタな内容だわ」吉原が呆れた顔でお茶を飲む。

「ぷっ、・・・・くくくく」小川ひかるが思い出し笑いをこらえきれない。彼女のこんな表情も珍しい。

「いやあ、でも吉原さん、いい演技だったよ」

「ヒカル、道場帰ったら久しぶりに関節技のスパーリングでもしましょうか、泣くまで離さないから」

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そして6月シリーズ、「ノーザンライトバトル2010」がスタートした。初夏の北海道・東北遠征と言うことで選手も移動の合間に観光ができて好評のツアーだ。2戦目の札幌でAACジュニア選手権が組まれ、南の王座に秋山が挑んだが、若手トップの壁は厚く、裏投げ2連発で勝利した。

最終戦は埼玉大会。

「もう逃げられないわよ!」ダメージを隠しながら小川ひかるが草薙の体に絡みついて、必殺技のストレッチプラム。草薙はロープに目をやるが遠い。1分くらいこらえたがそれまでだった。体がねじ切られるように痛い。たまらず井上レフェリーにギブアップの意思表示をした。

埼玉大会でのメインはAAC世界タッグ選手権、王者のジョーカー、デスピナ組に、SPZ若手の南・秋山組が挑む。しかし、王者組の壁は厚く、最後は合体パワーボムで秋山が沈んだ

2007年1月17日 (水)

第6回 初戴冠

1年目3月

「ぜひミミ吉原選手を今度制作する映画、『コレクティブ~したたりおちる鮮血と涙~』に出演いただきたく」

打ち合わせ相手は手塚オーナーが道楽で作った映画ビデオ制作会社「エスピークリエイティブ」の担当者。

打ち合わせには吉原選手と秘書井上霧子が同席。

「どうする、吉原さん」

「ん~、女優さんかぁ、うん、いいですよ。

「というわけで次のシリーズも吉原さんは欠場となります。残った皆さんで精一杯がんばってください。」

「こんどは映画~?」「いいなー、吉原さん」

3月シリーズは西日本中心に1000名規模の会場を回ったがいずれも満員以上の盛況であった。というのも、最大手のプロレス雑誌、週刊ハッスルのカラーページでにしばしば取り上げられるようになり、「ルックス重視でファンサービスも多い団体だが、試合になるとかつてのU系団体のような投げあい極めあい殴り合いの激しいプロレスを展開し、負けたほうが歩いて帰れないこともしばしば」と書かれていたのである。

そして3月シリーズの最終戦、後楽園大会。

いつものように昼過ぎにバスで会場入りして、みんなでリングを設営した後は各自で練習。小川ひかると南利美は黙々とバーベルを上げ、秋山と沢崎が投げ技のスパーリング、保科と伊達は黙々と受け身の練習。滝は柔軟体操で体をほぐす程度。

17時半、開場しますという今野社長の声で全員控室へ戻る。ゾロゾロと観客が入ってくるなか、社長、井上秘書、小川ひかるの3人も会場スタッフに混ざってプログラムを配る。

「あ、小川ひかるだ!」「きょうは勝ってね!」この団体はファンとの触れ合いを大事にする会社である。

18時半、開演。社長兼リングアナの今野和弘がリングに上がり、本日のカードを読み上げる。メインのAACジュニア選手権のところで観衆が湧く。そのあときょうは4試合しかないので井上霧子トークショー。若手時代の話や海外遠征で暴れていた話のネタも尽きかけていて、ここ数ヶ月の話のネタは今の若いメンバーの暴露話、これで会場が盛り上がる。

「うちの団体は貧しいので、合宿所の食事は選手が当番で作っていますが、コムスメ揃いなのでおいしい料理がでてきたことがありません。このあいだも誰とは言いませんがキムチ鍋に魚を丸ごと入れた人がいました」場内爆笑。

20分くらいその奇妙なMCで会場を温めてから第1試合。小川ひかる対保科優希、現在の第1試合の定番カードとなっている。おっとり寮長さんで隠れファンの多い保科と、まぐれでしか勝てないヒロイン小川の激突。例によって小川の打たれ弱さが出てしまい、最後は一方的に殴られたあとショルダータックルで吹っ飛ばされて3カウントを聞いた。社長が顔で手を覆う。

第2試合は伊達遥対ミシェール滝、伊達がエルボーで攻めていき、最後は長身を生かしたニーリフト2連発で勝利した。

第3試合は秋山、沢崎対デスピナ、ジョーカーレディ組のタッグマッチ。終始外国人ペースで、最後は合体パワーボムで沢崎が沈んだ。そしてメインのタイトル戦。

「えー、この試合は、えー、AACジュニアの選手権試合であることを、えー、認定する。えー、2010年3月28日、AAC事務局長、ビル・アクセス、えー、代読、京スポ新聞、若林太郎」そしてゴング、きょうのメインを裁くレフェリーは井上霧子ではなく、メキシコAACのエージェントおじさん、ハヤトール氏である。試合は一進一退の攻防が続いた後、シウバがステップキックやヘッドバッドなどの打撃技で主導権を握ろうとするが、南も掌底で応戦し、倒れたところを脇固めをしつこくかけ続けて右腕に大ダメージを与え、そして

「これでお終いね!」とさけんでから飛びつき腕ひしぎ逆十字。完全に入っている。しばらく耐えたシウバだったが、ついにギブアップの言葉を吐かざるを得なくなった。ハヤトール氏がゴングの要請、今野社長がゴングを乱打し、21分9秒、飛びつき腕ひしぎ逆十字で南利美の勝ち。と告げる間もなく場内大歓声。腕ひしぎを放して倒れこむ南に同期の新人選手5名がリングに駆け上がる。

「リミさん、おめでとう」「よくやったよ」

4度目の挑戦にして初戴冠、小川ひかると抱き合う南、みんな我が事のように喜んでいた。敗れたシウバは右腕を押さえながら退場。意識が飛んでフォールされるパターンではないので悔しげな表情。立会人である京スポ新聞の若林氏からベルトを受け取り、小川ひかるが南の腰にベルトを巻いた。2000人の観衆は総立ちで新チャンピオンの誕生を祝った。

「きょうは、応援していただいてありがとうございました。これからもみんなで力をあわせて頑張りますので、応援よろしくお願いします!」マイクアピールのない団体だがきょうは別であった。

その夜、例によって戸塚某所の和食料理店「よこ川」でシリーズ打ち上げ兼新王者誕生祝賀会が開かれた。

「そっかー、リミちゃんがチャンピオンになったのか、よーし、じゃあ鯛の塩焼き、おじさんのサービスだ」リーゼント頭の店のマスターが叫ぶ。

「社長、勝てると思ってた?」南利美が意地悪くきく。

「うーん、はっきり言って見込みより半年くらい早かったかな、あれって言う感じで決まっちゃったしね、最後」

「まあ、きょうは運がよかっただけかも知れないけど、リマッチで負けないようにするわ」

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2年目 春

こうして新興のプロレス団体、SPZは最高の形で2年目へ突入した。

ミミ吉原が写真集と映画で稼いだ資金を元手に、寮の増築を行ったので、今野社長と秘書井上は東北は山形へスカウトに出た。「山形にとてつもない新人がいそうなので」しかしそこはとてつもない山奥であった。山形からローカル線で一時間、そのあとタクシーで一時間、そこから山道を3時間ほど歩くと、眼前に大きな神社が見えた。

「つ、疲れた・・・・」

「草薙の里へようこそお越しいただきました」

里に着いたのが夕方近く、社長と井上は風呂に入った後、あてがわれた10畳間に座り精進料理の夕食の後、夕方のお勤めに出た。何らかの祝詞らしきことを神主が唱え、赤い袴をはいた巫女さんが錫杖をシャリンと振る。

「あれが今回の・・・」「はい・・・」

翌日、朝のお勤めの後、神主、長老、巫女代表、本人を交えて話し合い。

「実はこのたび、みことさんをぜひうちのプロレス団体に・・・」

「我等草薙一族に古くから伝わる草薙流の武術、その力を下界で振るうことに依存はない。しかし、プロレスは所詮は見世物、そのようなところにあれを預けるわけにはいかん」

「いえ、ただの見世物ではありません、これを見てください」。と言うや社長は我慢して持ってきたパソコンとプロジェクターを取り出し、ふすまに映像を映し出した。

歓声と悲鳴が流れだす。

メキシコ人選手に殴られ、投げられてうめいているのは例によって小川ひかるだ。

「いまの蹴りはまともに入っておったぞ、こんなことをやっているのか・・・」

草薙みことはふすまに投影された画像をじっと見ている。

外人選手がフォールする。小川がカウント3直前で返し、

ウァーッ、という気合とともに立ち上がってエルボーを放つがそこまでで、最後はローリングソバットを食らった小川が3カウントを奪われて試合が終わり、動けない小川がセコンドに背負われて帰るシーンで映像は終わった。

「おっしゃるとおりプロレスは見世物です。ですがお客様からお金を頂いている以上、私たちはいつも本気で戦っています」

「うーむ」この映像が効いたのか草薙一族の面々は話し合いを始めた。それまで黙っていた草薙みことが一言。

「私でよろしければ、その戦いの場に・・・ここで留まって修行を積むより、外の場で修行を積んだほうが良いかと・・」

「みこと・・・お前はそれでよいのか・・・」

「はい」

「それで、出立はいつに」

「やると決めたからには早く、明日出ます」

「そうか、社長どの、みことをよろしくお頼み申す」

「わかりました」

けっきょく社長と井上秘書はもう一泊した後、次の日みことを連れて横浜へ戻った。

「というわけで山形からきました、草薙みことさんです、新しい仲間がまた加わりました」

「草薙です、よろしくお願いします」

はまかぜ寮でメンバーを紹介された。

「えーっと、あたしがいちおう寮長の、保科と申します~」保科優希さん17歳、物腰の柔らかそうな人だなと感じた。こんな人も試合では性格が変わってしまうのだろうか。

南利美さん17歳、この寮の住人の中ではいちばん強いらしく、関節技が得意でこの間チャンピオンになった人。

秋山美姫さん16歳、一期生の中でも活発な性格で、入門テストを通過して入ってきた人、やはり関節技が強いらしい。

沢崎光さん16歳、完全燃焼が口ぐせのレスラー。投げ技は新人離れしていてタイガースープレックスとかも使うらしい。

伊達遥さん16歳、内気で人見知りする性格だが、リングに上がれば蹴り技が凄いらしい。

小川ひかるさん16歳、スカウトのとき見た人だ。見た目は華奢な体形だがこんな人も戦っているのか。

あと寮にはいないが、ミミ吉原さん20歳とミシェール滝さん19歳が通いで参戦しているとのこと。

草薙にも二階にせまいながらも個室が与えられた。次の日から練習が始まった。基礎練習、受け身、いずれも草薙の里で幼いときから訓練を受けた草薙にはついていける内容だった。だがスパーリングで投げられるとその鋭さに驚いた。

「はーい、立ってくださーい」

保科がにこやか、かつ冷酷に指示する。

けっきょく最初の日は昼過ぎに動けなくなった。

「初日からここまでついていけるなんて、井上さんまた凄いの取ったんじゃない」と驚く一同、

道場の床に横たわる草薙に伊達が熱いお茶を運んできた。

「あの、さ、さっきは思い切り投げてしまって、ご、ごめんなさい。あの、つ、つらいと思うけど頑張って」

2007年1月16日 (火)

第5回 網走

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1年目11月

11月シリーズ「第1回SPZタッグリーグ戦」が始まった。とはいえ前半は選手ご当地めぐりの利益稼ぎ見え見え興行、後半はタッグリーグで集客を図るという内容。緒戦は小川ひかるの地元に近い諏訪での興行で、第3試合に出場した小川に声援が飛んだが、秋山のストレッチプラムにギブアップ。

移動日をはさんで高知での南利美凱旋興行。伊達遥と組んでセミファイナルでミシェール滝、秋山美姫と対戦。最後はリング中央でのアキレス腱固めで滝からギブアップを奪った。

南はセミが終わるやいなやジャージに着替えてメインの吉原対シウバのセコンドに付いた。吉原はシウバの打撃をかいぐぐって、シウバを攻め疲れさせてからリングの中央で

「悪く思わないでね?」ドラゴンスリーパーが発動した。たまらずシウバはギブアップ。

シリーズ後半の目玉は初開催となるタッグリーグ戦であった。といっても人員がいないので4チームでの開催となる。AACからシウバ、カーチス組、デスピナ、サンチェス組、迎え撃つSPZ軍はミミ吉原、南利美の現時点SPZ最強コンビと、社長が安直に考えた沢崎光・小川ひかる組の「チームヒカル」であった。結果は下記の通り

優勝:デスピナ、サンチェス組 3勝0敗 6点

2位:ミミ吉原、南利美組 2勝1敗 4点

3位:シウバ、カーチス組 1勝2敗 2点

4位:沢崎光、小川ひかる組 0勝3敗 0点

11月30日の大会後、優勝チームには賞状と金一封、最下位のチームヒカルには道場での特訓の刑となった。例によって道場に居残り、動けなくなるまでスクワット。

で、夜10時ごろ、仕事の集中力が切れた社長が2人を捕まえ、「おー、飯食ってこう」と声をかけ、「よこ川」で3人は食べまくった。

「小川さん、16歳の誕生日おめでとう」

「社長、おぼえてたんですか?」

「覚えてるよ、最初にスカウトした上で手のかかる新人だもん、でも私は信じてるよ、いつか武道館のメインで1万人を感動させる試合をやってくれることを」

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12月シリーズ「SPZ スノーエンジェルシリーズ」前、小川ひかるが道場で特訓を行っていた。シングル戦の勝率が低いので、やられる耐性をつけようと、沢崎、南、吉原の3人にかわるがわる投げられる→3秒以内に立ち上がる→また投げられるを30分間行うというハードな特訓である。だが特訓は失敗した。5分ぐらいで受けの形が崩れ、そのあとに食らった吉原のボディスラムで立てなくなった。

「ホラ、立って、ヒカル」

「うー・・・・・・」

「あ、沢崎さん待って、これヤバイ。リング下ろして寝かせといて」

そして迎えた12月シリーズは関東各地を回り、最終戦の後楽園プラザ大会を迎えた。

「さあ年内最後の大会です。力いっぱい闘いましょう!」吉原がゲキを飛ばす。初の格闘技の殿堂、後楽園進出だったが客席は埋まった。メインは南利美対シウバのAACジュニア選手権。

メインの試合はシウバが気迫で南を圧倒した。メキシコマット界はレスラー数が多く、しかもブラジル出身のシウバは長い下積みを経て王座に辿り着いた。それがこんなデビュー8ヶ月のド新人に負けてたまるかという思いと、もしベルトを失うと自らの商品価値が下がりまた低いギャラに戻ってしまう・・・そんな思いで一方的に南を殴りまくって、掌底の乱打で南の戦意を断ち切り3カウントを奪った。

その一週間後、年末のあわただしい時期、京スポ新聞社から電話が入った。

「はい、今野です、えっ、なんですと」

道場で練習していた南利美を捕まえ、

「着替えて行くぞ、後楽園プラザ」「えっ」

南利美がプロレス大賞の新人賞に決まり、賞金1000万円がSPZに贈られた。突然のことなので南もあわててコメント。

「あ、ありがとうございます。これからも技に磨きをかけていきます。」

受賞後、選手全員を集めて横浜某所にある和食料理店「よこ川」で受賞祝賀パーティーのようなものが行われた。所属選手のほとんどが未成年なのでウーロン茶で乾杯。

そのあと、社長は会社へ戻り夜遅くまで雑務雑務に追われたが、一通のメールを見て椅子ごと後ずさった。

「吉原さーん」

「お呼びですか、社長」

「じ、実は、吉原さんに写真集のオファーが来てるんだが」

「アハハハハハハ、写真集ですか?あたしの」

「そうなんだ、僕も昨日メール来てびびっちゃって、」

「そっか~、私の写真集かぁ~、てっきり若い子にお呼びが来ると思ってたんだけどね、前の団体そうだったし」

「いや、先方が観戦したことがあったらしくてメインで若い選手に指示出したり闘っている姿が印象が強かったらしく、悪く思わないでね、がツボに入ったらしい」

「アハハハハハハ、でもホントは若い子に誘いがかからないとダメなんだけどね、まあ今回は受けるわ。でも来月のシリーズ撮影で出られなくなるけど・・・」

「今度は大丈夫でしょう、南さんも力つけてきたし、ここでメイン張らせればベルトも近くなるんじゃないかな」

「そうね」

で、年が明けて2010年。1月シリーズ「新春バトル・カデンツァ」が始まった。

「いけ!そこだ!もっと腰を落として絞れ小川!」

今野社長がリングアナの立場そっちのけで小川ひかるに檄を飛ばす。ひたちなか大会の第1試合、小川対サンチェス。序盤に新技ストレッチプラムで大ダメージを与え優勢に試合を進めて、逆片エビ固めで決めにかかる。だがサンチェスもロープに辿り着いた。そのあとサンチェスが小川をロープに振って技を仕掛けようとしたが、小川がロープをつかんで蹴って背面トペを決めてサンチェスを倒し、そのままフォール勝ちした。

「ありがとうございました!」一礼して小川はリングを降りた。二本松大会のメインではデスピナとシウバが力をつけてきた南をそろそろつぶしておこうと考えたのか、分断してシウバが南に掌底の嵐をたたきこんで流血に追い込んだ、南も腕ひしぎで反撃するがカットにあい、最後はデスピナがバネを生かしたミサイルキックを叩き込んで終わった。敗れはしたが南の奮闘に館内から大きな拍手が起こった。

シリーズ中盤、エース代理の南利美とAAC軍トップのデスピナの一騎打ち2連戦が組まれた。1戦目の名古屋大会、意外にデスピナが南の関節技攻勢に苦戦し、最後はドロップキックで勝ってしまった。翌日の滋賀大会2戦目も同じような展開で、試合終盤、腕ひしぎが決まり、そのあと逆片エビが決まり万事休すかと思われたが、デスピナが2連敗だけはさけたいと考え、意地だけでロープに逃れ、最後の力を振り絞って首投げで倒してからミサイルキックを叩き込んで20分57秒、勝利した。

リングにぶっ倒れる両者。600名の観衆は総立ちで両者に拍手を起こった。カーチスの肩を借りて外人控室に戻ったデスピナは倒れこみ一言。

「ミナミ・・・恐ろしい存在だ」春先は一ひねりで勝っていたのがいまは全力で潰さないといけなくなった。一方の南も控室でぶっ倒れた。

「勝てなかった・・・これでは昨日の勝ちもまぐれなのか」

シリーズ最終戦の千葉東金大会、デスピナ撃破を果たした南が三たびシウバのAACジュニア選手権に挑んだが、南は打撃技を食らうと動きが止まる傾向があり、そこを突かれて最後は掌底で敗北。これで1月シリーズも幕を閉じた。

2月頭にミミ吉原のファースト写真集、「ODORIKO」が発売された。売れ行きはまずまずで、会社の資金繰りも好転した。

2月頭、井上霧子が社長室に飛び込んできた。

「社長、メキシコのエージェント、ハヤトール氏から電話がありまして、『先月はよくもデスピナをシングルで倒してくれたな、いままでは新興団体ということでそれなりの選手を送ってきたが、今回はうちのトップ2、チョチョカラスとジョーカーレディを送り込む』などと言ってきました」

「チョチョカラスって・・・」

「世界でも5本の指に入るくらいの強豪で、メキシコでは国民的英雄として知られてます」

「そんなのが来るのか・・・・」

で、2月シリーズ「SPZ、バトルの神話2010」網走大会。チョチョカラス効果か超満員札止め。

「OH、キリーコー」

「お久しぶりです、ハヤトールさん」今回はメキシコからエージェントが同行する。

「今回、どうして日本に?」

「新しい団体、SPZの力を見に来たのと、日本の市場調査かな。あとはチョチョのマネージメント、あとスシ食べタイ。アサヒのスーパードライもネ、モチロン、キリーコーに会いたかったノヨ」

「まあ、ハヤトールさんったら」

「HAHAHA」

厳寒の中行われた網走大会。

メインは吉原、南 対チョチョカラス、サンチェスのタッグマッチ。だがチョチョカラスの動きは人間離れしており吉原はついていけなかった。ミサイルキックから裏拳で南の動きを止めた。しかし代わった吉原も意地を見せ「悪く思わないでね」ドラゴンスリーパーで反撃。しかしチョチョカラスの必殺ムーンサルトを吉原がカウント2.9で返し南にタッチ。チョチョカラスがサンチェスにタッチするや南が猛攻を仕掛け、裏投げでサンチェスからカウント3を奪った。

その夜網走の某食堂。

「カニナベ、ウマイ」ハヤトール氏とチョチョカラスはカニ鍋をつついていた。

「キリーコー、ユーのプロモーションもヤルじゃないか。あのミナミ、タッグでうちのチョチョとアリッサから勝ってしまうとは」

「ま、うちの自慢のニューフェースです」

「ホワット?」それまでカニをほじっていたチョチョカラスが驚く。

「ミナミのキャリア、どのくらいなの」

「5月デビューですから、9ヶ月ってところですね」

「9ヶ月、グレイト、今度ぜひシングルマッチを組んでくれないか、」

「ユーがこのプロモーションのプレジデントか。1年足らずでここまで強い団体を作るとはグレイトだ。我々としてもジャパンのマーケットが充実するのは大きなビジネスチャンスだ、応援するよ、HAHAHAHA」

4戦目の岩手前沢大会、メインで南対チョチョカラスが組まれた。南もスリーパーやアームホイップで攻めたが連続で出せず、チョチョカラスのストレッチプラムで動きを完全に止められ、最後はジャーマンで敗れ去った。それでもチョチョカラス相手に15分の試合を成立させた。

2007年1月15日 (月)

第4回 悪く思わないでね?

1年目 8月

ようやくミミ吉原のケガも完治し、小川ひかるも復帰し、次のシリーズは、日本人選手が8名そろったので、「第1回SPZクライマックス」という総当りリーグ戦を開催することになった。若手選手が自信を喪失していますのでこのへんで所属選手の力関係をはっきりさせておいたらどうですかという井上秘書の提案を受け入れたのであった。

シリーズ2戦目の静岡袋井大会からリーグ戦が始まった。

結果は、下記の通りであった。

優勝 ミミ吉原 7勝0敗 14点、

南利美 6勝1敗 12点、

沢崎光 5勝2敗 10点、伊達遥 3勝4敗6点   

秋山美姫 3勝4敗 6点 、ミシェール滝3勝4敗 6点

保科優希1勝6敗 2点、小川ひかる0勝7敗 0点

最終戦の小山大会で全勝の南と吉原がぶつかり、勝った方が優勝という展開だったが、ミミ吉原が終盤の関節技の応酬をうまく制して、アキレス腱固めでギブアップを奪い、優勝を飾った。

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9月シリーズ開始前、今野社長は黙々とプログラムに入れる選手寸評の原稿を書いていた。

「ハッスルガール 小川ひかる 1993年11月30日、長野県松本市出身。中学時代からアマレス、柔道などで体を鍛える。2009年4月に素質を察知した井上霧子に見込まれ、SPZプロレスにスカウトされ入門。SPZプロレスの入門第1号となる。2009年4月21日、横浜赤レンガアリーナ大会で、対 ジュリア・カーチス戦でデビュー。まだまだ発展途上だが、やられてもやられても立ち上がるその姿はファンは共感、いつしか大声援が飛ぶようになった。7月シリーズでは同期入門の保科優希からドロップキックでシングルでもプロ初勝利を挙げるなど日に日に実力は上昇。今シリーズもAAC選手とのシングル戦が組まれているが、どこまで小川が自分を輝かせることができるか、大変楽しみだ。得意技はドロップキック、脇固め。」

手作りの団体なのでようやく選手のカラー写真入りプログラムを制作できる余裕が出てきた。今野社長は黙々と原稿を打った。

バンッ、バーンッ。

下の道場から黙々と受け身の音が聞こえる。階段の上からリングを見ると、小川ひかるが一人黙々と受け身の練習をしていた。

そして9月シリーズ「魂のSPZシリーズ」が開幕した。初戦のひたちなか大会、バスの中で新設プログラムがネタになった。

「吉原さん、SPZの女王、って書いてありますよ~」

「誰これ書いたの、井上さん?」

「いや、社長じゃないの?」

「ひかるちゃんのコメント長いね、やられてもやられても立ち上がるって、持ち上げすぎじゃないのー」

社長は移動マイクロバスの中(ようやく運転手を雇えた)眠っていた。

第1戦のひたちなか大会での第1試合、小川ひかるがプログラムの言葉に奮起したのか、保科智子相手にフラフラの状態から盛り返し、逆片エビ固めで保科の動きを止めドロップキックで3カウントを奪いようやくシングル2勝目を挙げた。

これで勢いに乗ったか、小川ひかるは第4戦でも保科をドロップキックで破り、第6戦ではサンチェス相手に逆片エビでダメージを与えてからショルダータックルで3カウントを奪い、待望の外国人選手相手のシングル初勝利を挙げた。

このシリーズ、集客のために社長が考え出した企画が「南利美試練の五番勝負」と題して、先月のリーグ戦で2位と健闘した南を外国人選手4人とミミ吉原のシングル5連戦を組んだ。結果はサンチェス戦のみ勝利の1勝4敗だったが、各地で新人離れした熱いファイトを展開した。

最終戦は東京に戻ってのタイタン有明大会。セミファイナルのタッグマッチは小川、秋山組対カーチス、デスピナの外国人コンビ。一方的に押しまくられたが、小川のドロップキックが顔面に入ってしまい、エキサイトした外人チームはフィニッシュに合体パイルドライバーを出してきた。デスピナがパイルドライバー、カーチスが小川の足を持って威力を倍加。デビュー半年の小川ひかるの意識は闇に落ちた。

試合後の控室はいつにも増して野戦病院状態。前に取材に来た京スポの記者が外人に叩きのめされた新人選手の控室でぐったり転がる様を見て「魚市場のマグロみたいだ」と言っていたが・・・

「う、うーん」ようやく小川ひかるの意識が戻った。

「井上さん、試合は・・・」「7分ぐらい、あなたの負け」

「うん・・・」普段は控室に入ってこない社長が泣いていた。

「今日は片付けはいいから寝てなさい」メインで南を一蹴した吉原が指示する。こうして9月シリーズが幕を閉じた。

1年目 秋

「えーっ、ファンクラブですか、私の~」ミミ吉原が驚く。

これまでフリーや海外で国内に主戦場がなかったが、若手だらけの団体でエースとして毎試合メインで奮闘せざるを得ない状況のため、必然的に人気が吉原選手に集まってしまった。若手はまだプロレス始めて半年という状況なのでまだ吉原選手がエースという状況は続きそうだと社長は感じた。

10月シリーズ「SPZバトルオータム」前、

「私が、タイトルマッチですか?」

「うん、提携しているAACとの契約では1シリーズに1回はうちの指名する選手とタイトルマッチをやってもいい事になっている。しかし吉原さんはジュニアの制限に引っかかるし、今までは新人選手とは力の差がありすぎるので見送っていたが、南さんなら、うーん、素人考えで申し訳ないけどあのミレーヌ・シウバ相手でもリング中央で関節技が決まりさえすれば勝機はあるんじゃないかと思って、次期シリーズ2戦目の札幌でやろうと思いました」

「わかったわ。やるからには勝ちにいくわ」

でもって、2戦目の札幌。1500人規模の会場なので満員にするためのネタとしてシウバ対南のタイトルマッチを組んだ。今まで南はシウバに勝った事がないが、こんかいは獲れなくても何回目かでとってくれるのではと期待したのだ。思惑通り札幌大会は満員の盛況となった。

第1試合はミシェール滝対小川ひかる。最近は小川も一発食らっただけで動きが止まることもなくなり、手数を返すようになったが、ここぞというときにダメージの大きい技を繰りだす滝に追い込まれ、、最後はミサイルキックで3カウント。

第2試合は沢崎光対保科優希。沢崎が打撃技でペースを握り、最後はフロントスープレックスで3カウントを奪った。

第3試合はミミ吉原、秋山美姫対カーチス、サンチェスの対決。一進一退の攻防となったが最後はミミ吉原がとっておきのドラゴンスリーパーで勝利。セミファイナルの伊達遥対デスピナ、これは一方的な内容でデスピナの快勝。そのあとメイン。

メインイベントはAACのジュニアタイトルマッチ、ミレーヌ・シウバに南利美が挑む。

「えー、この試合は、AACが認定する、。えー、ジュニア選手権であることを認定する。えー、2009年10月17日、AAC事務局長、ビル・アクセス、えー、代読、京スポ新聞、若林太郎。」いつもこの団体に好意的な記事を書いてくれる京スポ新聞の人に認定証の読みあげをお願いした。

だが残念ながら試合は一方的な内容となった。10分経過のあたりからシウバが一方的に掌底のラッシュ。これで南の意識が飛んで、あっさり3カウント。シウバが防衛に成功した。

「おー、飯食ってこう」札幌大会の終了後、今野社長は南利美、小川ひかるの両選手と井上秘書の4人で寿司屋にでかけた。

「札幌大会お疲れ様でした。おかげさまでそこそこ儲かりました」

「やっぱいホッカイドーといえば寿司よね。」秘書井上はウニやイクラを連発して社長の顔を青ざめさせた。が、南利美はカウンターで一人落ち込んでいた。負けたのも悔しいし、こうやって社長にメンタル面を心配されて寿司屋に連れて行かれたのも悔しい。小川を同行させたのは社長のお気に入りで私のなだめ役のつもりだからだろう。

「殴られたあと、ワケわかんなくなって、腕ひしぎのひとつも出せなかった・・・はっきりいって完敗よね・・」

「南さん、私も・・・はっきりいって、勝てるとは思ってなかった。シウバ選手も知らない相手じゃないし南さんの関節技がやばいのは知ってるからそれを出させないように殴ってつぶす作戦を考えてきたと思う。だけどね、私は旗揚げ半年でタイトルマッチを開けて、遠く宣伝もあまりできない北海道の会場を埋められて嬉しかった。ぜんぶ南さんのおかげだと思う」

「でも、私は負けてしまった・・・しかも内容も一方的に」

「いや、これでシウバ選手を本気で対応させた南さんの人気というか知名度は確実に上がったと思う。なんだかんだいってこの業界売れないとつぶれちゃうし、来年の春新人獲りたいし」

「うん・・・」

「で、来月はタッグリーグだから、12月シリーズ、シウバ対南、また組むよ。ていうか、南さんが勝てるまで組むよ。で、ベルト獲ったら、初防衛の相手は小川さんだ。」

「えっ」小川ひかるがマグロの握りをしょうゆ皿に落とす。

「わかった、・・・社長、ありがとう。」

「ああ、せっかく北海道に来たんだからおいしいもの食べましょう、つぎ埋まるとは限らないんだから、さあ食べよう、オレも食べたいんだから寿司寿司」

「じゃあ、すいません、トロ、うに、いくらをお願いするわ」

どうしてうちのスタッフは高いネタばかり・・・・今野社長は苦笑した。さすがにこれは経費で落とせない。

シリーズは北海道から東北地方を南下し、最終戦は千葉四街道での興行。メインはこの団体初の6人タッグで、ミミ吉原が小川ひかると南利美を引き連れて、デスピナ、サンチェス、カーチスの外人勢と激突するカード。案の定、小川が捕まったがなんとか振り切って吉原にタッチ。

「悪く思わないでね?」

吉原がデスピナをリング中央で必殺のドラゴンスリーパーに捕らえる。「小川、南、逆カット!」絞め続けながら吉原が指示を飛ばす。小川と南がカットに入ろうとしたサンチェスをリング下にはじき落とす。カーチスは終盤に吉原のハイキックをもらって場外でのびている。

「ギブアップ・・・」デスピナの口が屈辱的な言葉を発するのにさして時間はかからなかった。リング中央で3人で手上げ。

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2007年1月14日 (日)

第3回 試練

1年目5月

「前月の旗揚げシリーズは準備不足で3試合ずつしか組めず内容もいまいちであった、今月は下旬の興行の前にできるかぎり態勢を作っておきたい、まずは新人の獲得だ」

連休明けの月曜日、今野社長と井上秘書は四国は高知へ飛んで新人スカウトを行った。

「わかったわ、受けましょう・・・やると決めたら頂点を狙いにいくわ」

この新人の名は南利美、16歳。井上秘書のリストに入っていて、運動神経が抜群で精神的にもいいものをもっているということだったので獲りに動いた。

その翌々日に戸塚の道場で第2回入団テストを行った。今回は旗揚げ戦直後ということで話題性があったか、何名もの応募があり、沢崎光と秋山美姫の2名が基礎テストをパスして面接に臨んだ。2名とも井上秘書の評では「なかなかの掘り出し物」との事だったので、ともかく頭数をそろえたかったので両名とも採用し、これで選手は6名となった。

ようやく待望の寮の手配ができ、戸塚の道場からすぐ近くに古いアパートを改装した「はまかぜ寮」が誕生したので、通い待遇のミミ吉原を除く新人選手5名がいっせいに入寮した。寮長は年長、といっても1つ上なのだが、で人当たりのよい保科優希が選ばれた。とはいえしばらくはバタバタしそうなので井上秘書が「アドバイザー」として住み込むことになった。

引越しの荷物も片付かないうちに5月の興行「SPZグランドオープンバトルシリーズ」が愛知県名古屋からスタートした。ここで南利美、沢崎光、秋山美姫の3選手が一斉にデビューする。今回は外国人を入れて10名の選手がそろったので、メインをタッグマッチにして、あとの3試合をシングルで計4試合を組むマッチメイクとなった。

名古屋大会の1試合目は小川ひかる 対 南利美。

南のデビュー戦だが、緊張もせず小川の動きをスリーパーで止めてから、ドロップキックでダメージを与える。小川もドロップキックで反撃するがあとが続かず、南がショルダータックルで吹っ飛ばして、小川がふらふらと立ち上がってきたところにエルボーをヒットさせてそのまま押さえ込んで、3カウントを奪った。試合タイム8分50秒。南利美はデビュー戦でプロ初勝利。

第2試合は沢崎光 対 ジュリア・カーチス。2ヶ月連続の参戦で日本の遠征にもなれたカーチスが一方的にデビュー戦の沢崎を攻めて、最後は強烈なヘッドバットをお見舞いして沢崎をマットに沈めた。試合タイム6分14秒。

第3試合セミファイナルは秋山美姫 対 アリシア・サンチェス。アリシアが攻め込むも秋山もボディスラム、脇固め、ショルダータックルで反撃、しかしデビュー戦で息が上がった秋山をサンチェスがヒップアタック一発で沈めた。試合タイム11分15秒。

メインイベントはSPZ初のタッグマッチ。ミミ吉原、保科優希組対 ミレーヌ・シウバ、デスピナ・リブレ組の対決。メインなのでそれなりに見せる試合をしなければと考えた吉原が矢面に立って外人組の技を受ける。しかしデスピナのミサイルキックで大ダメージを受けた吉原が保科にタッチするや、保科がつかまってしまい合体パイルドライバーを食らって3カウント。まだ体が出来ていない新人の保科、頭から落とされてグッタリして動けず、セコンドの小川に背負われて退場。勝負タイム14分53秒。

2戦目は岐阜県中津川での興行、第1試合で頭にダメージを残す保科を沢崎が攻めこむも、保科が予想外の粘りを見せ、アキレス腱固めをかけつづけて動きを止めてからの体当たりのようなショルダータックルを2連発で勝利した。小川ひかるは第2試合でカーチスに玉砕。これで8連敗。メインでは初勝利を挙げたばかりの南利美がミミ吉原とタッグを組んでデスピナ、ミレーユ組相手にフロントスープレックスやアキレス腱固めを繰り出すなど健闘し、敗れたものの30分1秒の激闘を繰り広げ、ただの新人ではないところを見せた。

第三戦は滋賀での開催。保科優希の地元興行で客が入るだろうという読みでの興行だったが保科は第1試合で南のドロップキックに敗北。メインではミミ吉原が小川ひかると組んでデスピナ、カーチスを迎え撃ち、20分余の激闘の末最後は吉原の指示で合体パイルドライバーを決めて吉原がカーチスをフォール。小川はタッグながらプロ初勝利。

第四戦での大阪で、秋山が保科からプロ初勝利。小川ひかるはシングルでは負け続けで、第6戦の福島大会でも沢崎の鋭いアームホイップに受け身が取りきれず3カウントを喫し、沢崎にプロ初勝利を献上。これでシングル12連敗。小川はこのあと控室で自らのふがいなさに涙を流した。

最終戦は千葉四街道での興行、小川はサンチェスに手も足も出ずエルボーの連発でマットに沈む。これでシングル13連敗。あまりの負けっぷりに社長まで顔面蒼白。メインはエースのミミ吉原と南利美がデスピナ組相手に30分を超す激闘を展開したものの最後は南がデスピナのエルボーに散った。

最初に獲った小川ひかるだけまだシングルで勝てないのは気になったが、ようやくプロレス団体らしくなってきたと安堵したが、その翌日激震が走った。

「ごめんなさい、やっちゃいました・・・」

エースのミミ吉原が右足首に重傷を負ってしまった。捻挫かなと思って一晩様子を見ても痛みがひどくなったので病院に行ったら全治二ヶ月との診断。今野社長は目の前が暗くなった。

「わかりました、吉原さん、治るまでしっかり休んでください」

これで6月と7月はエース不在で乗り切らねばならないし、日本人選手5名は新人揃い、大ピンチ到来だと考えた。

「井上さん、6月7月は興行中止したほうがいいだろうか?、試合やってもうちの若手が叩きのめされて終わるだけでお客さんは・・・」

「ひとつの判断ですが、ここで2ヶ月休んだらあの子たちの成長もその間止まるでしょう、たとえ一方的に叩きのめされてもその中から得るものもあると思いますが」

「わかった、赤字覚悟でやろう」

「・・・ということで吉原選手は2ヶ月休場ということになりました。残ったみんなでその分カバーしていきたいと思いますので、皆さんの力を貸してください!」半分悲痛な表情で社長は新人5人に告げた。

「わかったわ、チャンスだと思ってやるわ」南利美が答える。

    **************

1年目6月

「へ、変な勧誘じゃ・・・ないですよね・・・」

井上秘書と今野社長は九州は宮崎へ飛んで新人のスカウトを行ったが、さすがにSPZプロレスの知名度がないので変な誤解をされてしまった。今度会社案内のDVDでも作ろう、そう社長は思った。交渉のほうは井上秘書がスムーズに説明してくれたおかげで「・・・・や、やります・・・」との返事。

「伊達遥 15歳、性格は極度の人見知りですが、運動神経と打撃系の素質は素晴らしいものがあります、将来を見据え獲得すべきです」とのアドバイスに従い獲得に動き成功した。

そして2週間のオフ、選手は練習に明け暮れ、社長と井上秘書は営業活動に明け暮れ、6月シリーズ「SPZグランドオープンバトル2」がスタートした。

「わー、北海道初めてー」新人選手は初めての北海道遠征に満面の笑みを浮かべた。6月シリーズは緒戦が根室、2戦目が札幌で興行が組まれている。根室大会では新人の伊達遥が人手不足の折いきなりデビュー戦に臨んだが、アリシア・サンチェスに一方的にやられて終わった。今シリーズはメインにはAACの外国人選手2人対、新人の中では頭ひとつ抜け出ている南利美ともう一人のタッグというカードを組まざるを得なかったが、観客の入りは良くも悪くもない状態となった。2戦目の札幌でデビュー2戦目の伊達遥が沢崎光をエルボーの連打で流血させ、怒った沢崎のフロントスープレックスを受けるがカウント3直前で返して、ジャンピングニー反撃してカウント3を奪いプロ初勝利を飾り大器の片鱗を見せた。

「そこだ行け!小川もっと絞めろ!」第三戦の八戸大会、小川が伊達遥をスリーパーに捕らえたが伊達は落ち着いてロープにエスケープし、そのあと強烈なドロップキックを浴びせ3カウントを奪い2勝目を挙げた。社長の声援も空しくこれで小川はデビュー以来シングル戦15連敗となった。4戦目の北上大会は台風で中止。そのあともシリーズは続く。5戦目の秋田大会でようやく小川ひかるがシングル初勝利を挙げた。

「ぐううう」保科優希のアキレス腱固めに小川の顔がゆがむ、が、なんとか手をロープに届かせた。保科もそうとう疲れが見えてきた。小川は間合いを取り、走りこんで、飛んで、ドロップキックを保科の顔面に見舞った。当たり所が悪かったのか保科は倒れてそのまま3カウントを聞いた。

「14分11秒、片エビ固めで、小川ひかるの勝ち!」我が事のように喜びアナウンスする社長。連敗は15で止まった。

やっと・・・勝てた。ここまで、長かった。

そのあとシリーズは東北地方を南下し、最終戦の埼玉で終了した。観客動員も懸念したほど悪くはなかったので赤字にはならなかった。

が、しかしー

小川ひかるが受け身の取りそこないで右手首を負傷。本人は大丈夫です心配要りませんよと言ってくれたが、右手首の包帯からしてかなりのケガだなと判断したので、7月シリーズは休場を命じた。

「私、ここで休んだら、皆においてかれちゃう・・・」

出場を訴えたが社長も諭した。「いや、気持ちは分かるよ、僕もサラリーマンやってたときはそうだった。でも体調悪かったり怪我したりしたら休めるうちは休んだほうがいいよ。ていうか休みなさい。小川さんが相手に腕を狙われてうわーとか言うシーン、見るのつらいから。頼むから、まげて承知してもらいたい」

「・・・わかりました」

そのあと、ミミ吉原に電話をかけて「誰か知ってるフリーの選手いませんか、未来あるあの子達をこれ以上無理させられない・・・」と泣きついた。吉原は以前いた団体で一期下のフリーレスラーを紹介した。ミシェール滝という選手で、所属していた団体がつぶれてからは舞台女優と二足のわらじを履いていたらしい。速攻で今野社長と井上秘書は神戸へ出向き交渉し、入団にこぎつけた。

これで日本人の団体所属選手は8名と、いちおうプロレス団体らしい布陣になり、7月シリーズ「サマースターナイツシリーズ」は南の地元高知と、伊達の地元宮崎を回る西日本巡業を組んだが、まだ団体の知名度が知れ渡ってないせいか、満員になる会場は出なかった。試合のほうは例によってメインで南が外国人選手に叩きのめされる状況が続いた。

2007年1月13日 (土)

第2回 旗揚げ

で、4月21日の旗揚げ戦当日。今野社長はリング運搬用の小型トラック、井上秘書は選手6人をワンボックスカー(借りた)に乗せて旗揚げ戦会場の赤レンガコロシアムへ向かった。みんなでリング設営、イス並べを手分けして行った。指示は営業部長と化した井上秘書と、エース兼コーチ兼現場監督のミミ吉原選手が飛ばし、社長といえども黙々とイスを並べるのみであった。

なにぶん初めてのことなので設営にはとまどい、設営とイスならベが終わったのが5時半の開場すこしまえであった。

「開場しまーす」と井上秘書が声をかけ、選手はいったん控室に戻る。今日デビュー戦の小川ひかると保科智子はやや緊張してきた。

で、6時半の開演。

「本日はSPZの旗揚げ興行へお越し頂き誠にありがとうございます。私たちはまだ小さな団体ですが、努力と良いファイトを積み重ねて大きくなっていきたいと思います。どうかこれからも応援よろしくお願いいたします」選手3名と井上さんが整列するリング上、社長権リングアナの今野和弘が挨拶。

意外に事前でプロレス雑誌への告知が功を奏したのか、新団体ということで物珍しさもあったのか、赤レンガコロシアムは超満員となりチケットは完売した。

旗揚げ挨拶のあと選手は控え室に戻り試合用のコスチュームに着替える。第1試合に出場する小川ひかるが最初に衝立の陰でジャージを脱いでリングコスチュームに着替えた。初めての実戦。小川の胸の鼓動は高まった。露出の多い水着のようなコスチュームに着替えたあと、新しいリングシューズを履く。

「あー、うまくやれるかしら・・・」

一般的にはプロレスラーは入門して数ヶ月は道場でみっちり教え込んでからデビューというのが当たり前である。しかしこの団体は資金繰りの都合で新人とってすぐに旗揚げ興行という無謀といえば無謀の流れである。

リング上では井上霧子の昔話、もといトークショーが長々と続き、7時過ぎにようやく「まあ、私はこの団体では選手を育てていく側で力をつくして行きますので、皆様も応援よろしくお願いします」としめくくってトークショーらしき場もたせが終わった。

リング下には社長権リングアナの今野が残り、

カン、カン、カン・・・とゴングを鳴らしたあと、「大変長らくお待たせしました、これより第1試合を行います」とアナウンスする。ワアーという歓声が場内に響く。

「ど、どうしよう・・・」控室扉の前で小川は緊張に震えていた。

「ほらヒカル、頑張ってきなさい」控室奥でミミ吉原が声をかける。「は、はい・・・・」小川の足は震えていた

緊張ぶりを察した吉原は小川のもとへ歩み寄り、いきなり

パーンッ!

小川の顔面を張った。「ほら、行って来い!」

小川はこれで覚悟が定まったか、控室のドアを開けて通路を走ってリングへ上がった。

「あ、保科さん、セコンドについてあげて」吉原が指示する。保科はリングコスチュームの上からTシャツを急いではおって、リング下へ向かった。

「大変長らくお待たせいたしました、本日の第1試合、シングルマッチ30分1本勝負、青コーナー、メキシコ出身、ジュリアー、カーチス!」

勝気そうなメキシコ女子レスラーがサッと右手を挙げる。

「赤コーナー、長野県松本市出身、オガワー、ヒカールー!」

小川ひかるは緊張しながらも一礼する。

「なお小川選手は本日がデビュー戦となります、レフェリー、井上霧子」この団体はレフェリーを別途雇用する資金的余裕はない。ここまで社長がアナウンスしたあと、急いでリング下へ向かい、ゴングを鳴らすための木槌を手に取る。

レフェリー井上が右手をさりげなく上げてファイッ、と一言発し、今野社長はゴングを木槌で一打した。SPZプロレス最初の闘いが幕を開けた。

×小川ひかる(5分16秒片エビ固め)ジュリア・カーチス○

試合は予想通り一方的な内容であった。開始早々カーチスがすばやい動きからドロップキックを2連発し、小川を立て続けにマットに這わせる。立ち上がったところをローリングソバットを食らって再度ダウン。痛さと苦しさよりデビュー戦の緊張感で自分を見失っていた小川はふらふらと立ち上がったところをジャンピングニーを浴びてまたダウン、ようやく立ち上がったところをこんどはカーチスがロープ際からダッシュしてのジャンピングニーを決め、衝撃で悶絶したところをフォールされカウント3。小川は何もできずに敗北した。

カーチスは、まあ当然でしょ、といった感じで勝ち名乗りを受けたあと観客にアピールしながら退場した。

あまりに一方的な結末にリング下の社長も呆然としながら「ご、5分16秒、ジャンピングニーからの片エビ固めでジュリアカーチスの勝ち」と呟いたあと血相を変えてリングに上がり井上レフェリーともども倒れたままの小川の様子を見る。

「うう・・・」

「ひかる、大丈夫、立てる?」「・・・・はい」ふらふらと小川が立ち上がり、しんどそうに一礼したあとリングを降り、保科につかまりながら控室へ向かった。会場からはパラパラと拍手が送られた。

控室でうなだれる小川ひかる。

勝てないことは分かっていたけど・・・何もできなかった。

「ヒカル、デビューおめでと、これでヒカルもあたしらの仲間入りだ」吉原が祝福の声をかける。

「吉原さん、私、何も・・何もできな・・・かった」

吉原は震える小川の肩に手をやり、「デビュー戦はみんなこんな感じだと思う、何もできなくて悔しいのはわかるけど、練習して強くなりなさい、それしか言えない」と励ました。

リングではいつのまにか第2試合が始まっていた。保科は合気道の経験があり、あまり緊張せずにデビュー戦に臨めたが、やはり一方的な展開になった。

×保科優希(9分30秒片エビ固め)アリシア・サンチェス○

 サンチェスがタックル連発で攻め込み、保科もアームホイップ、アキレス腱固めで反撃するも続かず、最後はサンチェスがアームホイップからショルダータックルへつないであっさりカウント3、サンチェスは余裕の表情で勝ち名乗りを受けた。

保科がふらつく足取りで控室にもどりついた。そのあと3試合目だがもうメインイベントの開始、

「それじゃあ行きますか!」吉原はペットボトルの水を一口含むとドアを開けてリングに向かった。

×ミミ吉原(19分21秒 片エビ固め)デスピナ・リブレ○ 

メインイベントはそこそこ盛り上がった。吉原が久しぶりの実戦で感覚をとりもどすようにエルボーやチョップ、ソバットなどでデスピナにダメージを与え続ける。しかしデスピナもメキシコではそうとう名の知れた実力者、DDTで反撃。最後はデスピナがミサイルキック2連発で吉原を沈めた。前半攻めた吉原だったが後半はデスピナのスピードについていけなかった。

「アー、負けたっ!」控え室に戻るやいなやミミ吉原は無念の思いを口にした。これで旗揚げ興行はなんとか終了した。

次の日から関東甲信地方で巡業となり、3戦目の山梨興行が交通事故で中止になったほかは順調にサーキット。小川、保科の新人2人はメキシカン相手に叩きのめされる毎日となった。ミミ吉原もデスピナ相手の連戦が続き、地力では相手のほうが一枚上であり、久しぶりのシリーズ参戦でペースがつかめずデスピナから1勝を挙げたのみに終わった。そして旗揚げシリーズ最終戦は東京のタイタン有明での開催。地方では半分埋めるのがやっとのところもあったが、首都圏では埋まった。

第1試合

×小川ひかる (15分37秒 体固め) 保科優希○

旗揚げシリーズで連日、経験とパワーのある外国人選手相手に叩きのめされ続けた2人、メンタル面での影響を考えた社長と井上霧子がこの、勝った方がシングル初勝利というカードを決めた。試合はひょっとしたら勝てるかもしれないと考えた両者がよく動いた。保科がスリーパーを連発し小川の体力を奪う作戦に出たが、小川も教わったばかりのドロップキック、腕を取っての脇固めなどで反撃し、ドロップキック連発で追い込むも攻め疲れで続かず、保科もスリーパーで態勢を立て直し、最後は体ごとぶつかるショルダータックルで小川をなぎ倒してそのまま3カウントを奪いプロ初勝利を飾った。

全敗か・・・・

控室の隅でうなだれる小川ひかる。

私、こんなんでやっていけるのかな・・・

第2試合

×アリシア・サンチェス (9分11秒片エビ固め) ジュリア・カーチス○

一進一退のスピードある攻防、最後はカーチスが走りこんでのギロチンドロップで勝利した。

そして旗揚げシリーズ最終戦のメインイベント

×ミミ吉原(17分25秒片エビ固め)デスピナ・リブレ○ 

ミミ吉原がエルボーやアームホイップなどでうまく試合を組み立てていくが、デスピナのミサイルキックをモロに食らって形勢逆転、最後はデスピナがDDT、ローリングソバット、ブレーンバスターの波状攻撃で吉原からカウント3を奪った。

人手不足の中、手作りで強行した旗揚げシリーズがようやく終わった。小規模の会場を回ったこともあり、外国人選手のファイトマネーや会場経費を差し引いても少しばかりの利益が出た。

旗揚げシリーズ最終戦が終わって吉原は横浜の自宅へ戻り、今野社長は新人2人・・まだ合宿所が手配できていないのでホテル住まい・・・に「おー、飯食ってこう」と声をかけ、秘書井上霧子と4人で戸塚の事務所近くにある和食料理店「よこ川」で慰労会を行った。秘書井上は「新人2人はこのシリーズ、叩きのめされて参っているはずですので、ぜひ社長からケアをする必要があります」と釘をさされていたのだ。

「悪いことをしたね、いきなりデビューさせて、外人選手と当てちゃって・・・」

「あ、そんな、社長、気になさらないでください」察した小川ひかるが謝る社長を制した

「まあ、今はこんな小さい会社だけど、いつかは武道館とか大きい会場でやろうと思ってる。だから小川さんも、保科さんも、苦しいこともあると思うけど・・・」

「あ、ひかるちゃん、保科さん、料理来たよ」しめっぽくなる空気を井上がとりなした。

2007年1月12日 (金)

第1回 始動

レッスルエンジェルスサバイバー 

プレイ日誌のようなもの

「輝くエッセンシャル」

(かなり脳内妄想はいってます)

1年目 春 SPZ旗揚げ

時に西暦2009年、一人の男が深夜0時を過ぎても、オフィスでパソコンの前でエクセルと格闘していた。神奈川県は横浜戸塚にある倉庫の二階を改造しただけの粗末なオフィス。男はこれから始まる新たなる戦いに向けて一人準備を進めていた。

男の名は今野和弘、35さい。話はとつぜん一ヶ月前にさかのぼる。今野はそのときさるIT関連会社のSE見習いだったが、昔の知り合いでいまはネットショッピング会社の社長にのし上がった手塚という男に突然呼ばれた。

「おう、今ちゃん、じつはこんどオレさ、女子プロレス団体を立ち上げようと思って」 「えっ、なに?」

「やっぱさあ、これからのIT会社はさ、仕組みだけ持っていてもつまらないと思うんだよね。少しはさ、世の中にさ、メセナっていうか、スポーツを通した企業の社会貢献ていうのをしてみたいんだよオレ、でさあ、知ってる通りオレさあ、もんのすごく忙しいからさあ、出資して子会社つくるからさあ、きみそこの社長やってよ」

今野はまた手塚社長のわけのわからない話が始まったと思いながら聞いてみた。

「何でオレなの」「それはさあ、今ちゃんさあ、君がプロレス好きなの知ってるからさあ、昨日寝る前にピーンと思いついちゃったんだよねえ、ほらオレの勘ってさあ、あたるから。今ちゃん社長ならまあ回るんじゃないのって思ってさあ、」

「で、いつからやればいいのですか」

「ああ、やってくれるんならさあ、あのさ、ビーエスさんには言って置くからさあ、組み込みシステム開発はほっぽっていいから、来週から事務所借りられるからそこで立ち上げやってよ、そうそうきみ一人だとスピードに難があるからさあ、元女子レスラーでこの業界のことよく知っている人ひとりつけとくからさあ、やってよやってよ、好きなようにやっていいから」

今野はここ数年いくつかの会社を渡り歩いていて、いまの仕事もどちらかといえば生活のためにやっていたので、いきなりふってわいた社長というポストに魅力を感じた。

「手塚さん、わかりました、やりましょう、で、その、業界のことをよく知っているという人の名は?」

「井上霧子さん、名前は知ってるでしょ」

「あの氷の・・・・手塚さん本気ですな」「そーだよ今ちゃん、オレはいつだって本気だよお、あーっとそろそろヤマテックさんと打ち合わせの時間だ、じゃ、今ちゃん頼んだよ、はいはーい」

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で、そのネットショッピング会社社長、手塚が出したものはというと横浜戸塚の倉庫、そして業界のことをよく知っている元レスラー井上霧子、そして初期資金3億円。用意がいいのか悪いのか、うまくいくかどうかもわからない新規事業に3億もポーンとつぎこむとは手塚さん儲かってるんだなあと思いながら次の週の月曜日、今野は横浜戸塚にある事務所に出勤した。入口にはまだ「SPインターネットサービス 横浜西倉庫」という看板がかかったままであった。

「お待ちしておりました今野社長、はじめまして、井上霧子と申します」その日は終日井上霧子さんとの打ち合わせというか彼女からの一方的なレクチャーに終始した。井上さんはやや長身で年齢不詳だが見ようによっては20代なかばに見える、頭の切れそうな美人秘書という感じを今野は受けた。

「で、早期に旗揚げ興行を行わないと資金が出て行くばかりなので、まずは選手を集めましょう、最低でも6人」最後に井上さんはそう言った。

「どうやって集めようか、新人テストとか」「そう、新人テスト、場合によってはこちらから有望な選手の元へ出向くスカウト、あとはフリーの選手への移籍交渉、そんなところですね」「わかりました、それではすぐにホームページを立ち上げて新人テストを告知しましょう」

で、その翌々日。横浜某所のイタリア料理店で今野社長はフリー選手の入団交渉に立ち会うことになった。選手の名はミミ吉原。

「実は今度、SPグループでプロレス団体を立ち上げることになりまして、吉原さんにぜひ主力選手になっていただきたく最初にお声をおかけした次第です、ぜひお願いします」

「うん、いいですよ、よろしくお願いします、社長さん」最初に声をかけた熱意が通じたのか、吉原選手の入団が内定した。

「幸先がいいですね、社長、新人ばかりをかき集めても興行が盛り上がりませんので、立ち上げのうちは団体を引っ張っていく力のある選手を何人か確保することが重要です」

「そうだな、スポーツ新聞でいつか読んだがエースと四番は必要不可欠だからね」

「吉原選手は元全日本空手王者の経歴を持ち、レスラーとしても国内国外で4年のキャリアを持っていますからきっと活躍してくれるでしょう」

で、さらにその翌々日、今野社長と井上霧子は特急列車に乗って松本へ向かった。車内で「長野に有望な新人の卵がいます。名前は小川ひかる、15歳。見た目は小柄で華奢ですが、運動神経は良いほうだということです」と説明を受けた。

「15歳・・・そんな歳から・・・」

「この業界では珍しくないと思いますよ」

「そういうものなのですか」

どうやら井上秘書は団体立ち上げの話が出た直後から有望な新人選手のリストを作っていたらしい。この人は動くのが早い。そう今野は感じた。

で、松本市某所の洋食店で食事のあと交渉。

「私が・・・プロレスを・・・ですか?」小川はやや戸惑ったが、わざわざ先方の社長が出向いてくれたことと、提示された少なくない額の契約金に惹かれた。

「わかりました、チャンスと思って、やってみます」これで二人目の選手が誕生した。そのあと紅茶を飲みながら細かい条件を秘書井上が説明した。

「4月下旬に旗揚げ戦を横浜でやるので、転校の手続きなどもあるでしょうから20日に横浜に来てください」

「はい、わかりました」

入団交渉のあと、

「って、もう4月下旬に旗揚げ戦ですか」

「5月でもいいかなと思いましたが、主力選手の吉原さんが獲得できた以上、外人選手を呼んででも興行を行ったほうが良いと思います」

「そういうものですか」「そういうものなのであります」

で、その週末に公募した新人テストが横浜の倉庫で行われた、テストメニューとかの段取りは吉原と井上秘書が考えたので今野社長は「見てるだけ」状態であった。

「やはり名前もまだない新参プロレス団体のテストですので数人の受験者がいましたが・・・正直言って厳しいですね」

「使えそうなのは?」「いちおう基礎体力はありますが・・・」といって紹介されたひとりの少女、

「保科と申します。よろしくお願いいたします~」髪を三つ編みにしてメガネをかけた穏やかそうな感じの人だと今野社長は感じた。こういう人は組織の中に一人必ずいたほうがいい、そう感じた社長は採用を告げた。

「ありがとうございます、精一杯がんばります~」

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「海外団体のAACが、2年で6000万の契約料で提携して頂けるそうです」

「その値段、井上さん、よくわかんないけど妥当?」

「まあ、新日本女子さんが横取りしないかぎり2年間コンスタントに3-4名選手を派遣してくれますし、メキシコでは名の知れた団体ですから、提携しておいて損はないと思います」

「よしわかった、そのAACと提携しておこう」「これで旗揚げ興行が打てます、ので社長、ポスターを作って会場を押さえて・・・」

「うんわかった、で、手持ち資金は、井上さん、もう3億の半分使っちゃったのか~、キャッシュの出てくの早いね~」

「最初は止むを得ないかと思います、まあ吉原選手も獲れたことですし」

「・・・そうか、それではポスターは私がエクセルでつくるとしよう」

で、深夜までかかった結果。「伝説が始まる SPZ女子プロレスリング 旗揚げ興行 4.21バトルスタート」というタイトルとーと吉原、小川、保科3選手ーといっても2人はデビューすらしていないが-の画像データを入れ込んだだけのしょぼいポスターが出来上がった。

「なんかいかにも手作りといった感じですね」といった井上秘書の指摘はスルーして、今野社長は昔から知り合いの印刷会社にポスターを300枚、安値で発注した。

SPZっていうのは」秘書井上がいきなりつけられた団体名に突っ込む。

「スーパースタープロレスリング・ゼットの略かな、というのは方便で、手塚さんの顔を立てたのと、あとのない危機感というものを表現したかったのでゼットをつけた」

「エスピーゼット、SPZ、うん、響きはいいですね、団体名はこれでいきますか」

「やれやれ、井上さん、で、次は何を」

「会場を押さえてください、最初は500人も入ればいいほうなので、500名から1000名くらいにのハコを押さえてボソボソとやりましょう」

「そうだな、まだ我々は知名度ゼロに近いものな」

で、4月末までの10日間、移動費を抑えるために関東近県8箇所を回るシリーズを組んで、AACからの外国人選手3名の参戦もとりつけーーそのあとはいろんな手配や調整や交渉で今野社長は会社への泊り込みを余儀なくされたーーが、どうにか4月21日の旗揚げ戦を迎えた。新人の小川選手と保科選手は開幕前に吉原選手が倉庫一階の道場で、「本当にレスリングの基礎の基礎だけ」を教え込んだだけという有様であった。

「6人しか選手いないのでシングルマッチ3試合、しかもメインは吉原さんがうまくやるにしても前の2試合はたぶん新人2人が外国人選手に叩きのめされて終わるんじゃないかな、興行1時間持たないんじゃないの井上さん」

「・・・そうなる可能性が強いです、というわけでこのシリーズは試合前に私と吉原選手でトークショーでもやって時間を稼ぎます」「申し訳ない」

「5月はもう少し新人を取って試合数を増やしましょう」

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