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2007年2月28日 (水)

第45回 SPZタッグ初代王者決定戦 草薙、小川×秋山、沢崎

12月シリーズ「スノーエンジェルシリーズ2014」が開幕。

「社長、新日本女子さんからEXタッグリーグに草薙選手と伊達選手の招待状が・・・」

「あ、断っていいよ。SPZタッグ王者決定戦やるから」

「秋山選手が負傷、軽傷ですが」

「参ったな、2戦目の埼玉大会のタッグ王座決定戦だけ出させて対応しよう」

新咲祐希子をAACに海外修行に出す。「上位が鉄板状態なので」海外で経験を積ませることにした。

12月最初の試合は札幌キターアリーナ大会。この団体、北海道と東北はきちんと回る。うまい物好きの社長の性格が現れているのかも知れないが。

「さあ今日も超満員です、精一杯戦ってお客さんを喜ばせて、終わったらおいしいものを食べましょう」

試合前の赤コーナー側控室、今野社長が選手に檄を飛ばす。

「おおーっ!」

しかし、メインに出る上原と伊達は浮かない顔をしていた。

札幌大会第1試合、6時半の女の定位置に戻った保科が渡辺と手堅く戦って手堅く勝利。

第2試合は小川ひかる対ウィン・ミラー。武闘館でも2回組まれたファン好みのカード。

「オアーッ」

気合いを発しながら小川をコブラツイストで絞るミラー。

「オガワ、オガワ、オガワ、オガワ・・・」

館内に響くオガワコール。小川は必死の思いでロープに手を伸ばした。そのあともややミラーが優勢で小川得意の関節技を出させなかったが、12分ごろ結末は唐突に。小川が出したステップキックでミラーが少しぐらついた。その隙を狙ってミラーの背中に回り両腕をフックして

逆さ押さえ込み。

あっけにとられる対戦相手のミラーと満員の観衆。この団体は殴り極め投げが主流なので、こんなムーブをやるのは小川しかいないし、小川も裏技にしているので時々しか出さない。

ワン、トゥ、スリー。

井上レフェリーの手がマットを3つ叩く。

「12分4秒、逆さ押さえ込みで小川ひかるの勝ち」

一瞬の静寂、そして歓声。まだ余力があったミラーだが今回はしてやられたぜといった感じで小川と握手をして退場。

「いやーうまいね小川さん」

「あんなので決まるところ、生ではじめてみたよ」

小川は一礼してから退場。ファンは大歓声。

第3試合は沢崎対ドリュークライ。前の2試合で会場のファンはすっかり出来上がっていて、沢崎の繰り出す技一つ一つに声援が飛ぶ。沢崎が地力の差を見せて、最後はジャーマンで完勝。その試合が終わると休憩。ファンは好カードのシングルマッチ3試合の余韻に浸った。だが本当に面白いカードはまだまだ残っている。

休憩明けはSPZ王者吉田龍子と永沢舞のシングル戦。どちらも相当の実力者なので激戦が予想された。だが吉田は強いときは強いのだが、草薙のような安定感がない。永沢に終始主導権を握られ、最後はキャプチュードで動きが鈍ったところを、両腕を交差されて捕まえられ、肩車で担ぎ上げられてそのまま後方へスープレックス。JOサイクロン発動。強靭な足腰とブリッジワークがうまくないとできない高難易度の技だが、ガタイのいい吉田にも決めてしまうのだから恐れ入る。これを吉田は返せなかった。ノンタイトル戦なのでベルトは移動しないが、吉田は憮然とした表情で引き上げた。

セミファイナルは草薙、富沢の異色タッグ(でも2期生の同期)に南姉妹というカード。やはり草薙の実力が抜きん出ているので南姉妹は苦戦したが、富沢が出てきたところで南がラッシュをかけ、ジャーマンでカウント3。

メインは伊達、上原対チョチョカラス、ナスターシャハンのAACタッグ戦。伊達とのタッグ解消を宣言した上原だったが、AACタッグのベルトを持っている以上は防衛戦をしなければいけないので久しぶりに伊達とのタッグ。でも大会場札幌のメインなので目の前の相手に集中。なにしろ相手はAACエースのチョチョカラスにEWAエースのナスターシャなので穴がない。試合はハンの決め技絞め技ショー。まずドラゴンスリーパーで上原に大ダメージ。ついで出てきた伊達にもSTFで長時間しめあげて大ダメージ。そのあとチョチョカラスが華麗な戦いでつないだあと、ハンが出てきて上原にアキレス腱固め。これが極まってしまい。突然もがき苦しみだす上原。伊達がカットに入ろうとしたときにはもう上原はギブアップの言葉を口にしていた。勝負タイム24分1秒、ハンの技術がギラリと光った。これでベルト移動。

試合後、手早くリングを撤収し、選手たちは札幌の街へ。4期生以降の5人は札幌ラーメン。今野社長と井上秘書、小川、南はすすきのでカニ鍋をつついた。

*****************

「埋まらなかった・・・」

2戦目のさいたまスペシャルホール大会。3万人収容の会場で2万5千人の入り。メインのSPZタッグ王者決定戦のカードが先月のブトウカン大会と一緒なので訴求に乏しかったのだろうか。

さてメイン。青コーナー側から秋山沢崎、赤コーナー側から草薙小川が入場。

「えー、この試合は、スーパースターズブロレスリングゼットがえー、認定する、えー、タッグ選手権試合であることを認定する。えー、2014年12月10日、えー、SPZ代表取締役今野和弘、えー、代読京スポ新聞若林太郎」

いつものように京スポ新聞の記者若林氏が認定証を読み上げる。

「さて解説の保科さん、この試合のポイントは」

「そうですね~、草薙さんひとりでどれだけ秋山選手沢崎選手を追い込めるかというのと、小川選手が捕まらずに草薙さんにスイッチできるかがポイントだと思います」

「そうですか、秋山組はやはり小川を狙ってきますか」

「そうですね~、小川選手、4人の中で実力的にはいちばん・・・そのまあなんですから。でも、小川選手と組んだときの草薙選手は強いですよ~」

試合は大熱戦となった。中盤小川が秋山のコブラツイスト、ドラゴンカベルナリア、そして合体パワーボムに捕まりもうダメかと思われたがなんとかステップキックで反撃し草薙にタッチ。草薙が獅子奮迅の活躍を見せ、秋山を投げまくり草薙流兜落とし、しかしここで秋山が場外へエスケープ。ここが勝負の分かれ目、場外DDTで追い打ちをかけた後リングに戻ったが、秋山がなんとか反撃して沢崎にスイッチ。草薙の息も乱れていたのでいったん小川にタッチしようかと目を向けたが、小川はまだリング下でうずくまっている。

「あ、孤立したか・・・それでもやるっ・・・」

それでも沢崎をノーザンで攻めるが、草薙も長時間二人を相手にし続けてスタミナ切れ。足が止まったところを沢崎がジャンピングネックブリーカー炸裂。草薙はこの後のフォールを返せなかった。小川がふらつきながらカットに入ったが秋山が妨害。勝負タイム54分17秒。4選手大の字。館内は大声援。

______________

SPZ世界タッグ初代王者決定戦

秋山美姫、○沢崎光(54分17秒、ネックブリーカーからの片エビ固め)草薙みこと×、小川ひかる

※秋山・沢崎組が初代王者となる

_________________

こうして一期生の同期入門のふたり、秋山・沢崎がSPZタッグ初代王者に輝いた。

勝った秋山沢崎組、渡辺智美にベルトを巻いてもらい満面の笑顔。控室に戻ってビールで乾杯した。

敗れた小川草薙は控室でバッタリ倒れこむ。ハイブリッド南が二人のシューズの紐を解く。

「ハァ、ハァ、草薙さん・・・後半助けに入れなくて、本当にごめんなさい・・・」

「いや、私もまだまだ・・・修行が足りない」

「みこっちゃん、小川さん」今野社長が現れた。

「いい試合だったよ、また次がある」

2007年2月27日 (火)

6年目11月 SPZタッグリーグ戦後編

前回のあらすじ

旗揚げから6年め、いちおうビッグな団体に?成長した「お嬢様プロレス団体」SPZ(スーパースターズ・プロレスリング・ゼット)はついに自前のタッグベルト「SPZ世界タッグ王座」を新設し、初代王者決定戦出場チームを決めるタッグリーグ戦が開催され、リーグ戦3試合を消化して、全勝は「穴のない1期生チーム」秋山美姫・沢崎光組と「くーるびゅーちー連合」草薙みこと・小川ひかる組となった。

1日のオフを置いて第5戦は宇都宮大会。

伊達○、保科(6点、殺人ヒザ魚雷からの片エビ固め)チョチョカラス×、M・シウバ(2点)

伊達のヒザが猛威。今回の沈没者はチョチョカラス。

吉田○、新咲(4点、バックドロップから片エビ固め)永沢富沢×(2点)

吉田強い。永沢をパワーで追い込んで、タッチを受けて出てきた富沢も力押し。最後はバックドロップ。

草薙○、小川(8点、タイガースープレックス)南×、ハイブリッド(0点)

なんとか一つ白星をと南利美が矢面に立って奮戦し、小川を攻め込むも腕ひしぎはロープ際で逆に「もう逃げられないわよ」STFを食ってしまう。場内どっと沸く。いい流れで草薙にタッチ。あとは草薙が南姉妹を投げまくり、最後はタイガースープレックスで南利美が3カウントを聞いた。

秋山○沢崎(8点、脇固め)上原×、ウィン・ミラー(2点)

序盤は互角の展開。10分過ぎに秋山が仕掛けた脇固めが極まって入ってしまい、突然痛がり、苦しみ出す上原。たちまちギブアップ。館内えええ!の声。

*******************

第6戦は群馬大会。

チョチョカラス、M・シウバ(4点、サンドイッチラリアットからの片エビ固め)永沢富沢×(2点)

上原、○ウィン・ミラー(4点、合体パワーボムからエビ固め)南、ハイブリッド×(0点)

南は上原を押し気味に攻略。しかしミラーが冷静にハイブリッドを攻めて、最後は即席タッグとは思えない連係を見せ合体パワーボム炸裂。南姉妹試練の5連敗。

草薙○、小川(10点、タイガードライバー)伊達、保科×(6点

草薙小川が5連勝。伊達と草薙がSPZタイトルマッチ並みの激闘を展開。草薙が押し気味に進めて小川にタッチ。小川もうまくつないで草薙に再スイッチ。最後は保科が草薙の投げ技攻勢に捕まってしまった。草薙組は2位以内を確定。

秋山○沢崎(10点、ドラゴンカベルナリア)吉田×、新咲(4点)

いくらSPZ王者の吉田でも実力者の秋山沢崎の2人を実質的に相手にしなければならないのは厳しい。沢崎をスプラッシュマウンテンで追い込むが、つないだ秋山のドラゴンカベルナリアに無念のギブアップ負け。

***********************

第7戦は浜松大会。

永沢○富沢(4点、キャプチュード)南、ハイブリッド×

完全に歯車が狂った南姉妹。いまだ勝ち星なし。

草薙○、小川(12点、草薙流兜落としからの片エビ固め)吉田、新咲×(4点)

チョチョカラス○、Mシウバ(6点、ムーンサルトプレスからの片エビ固め)上原、ウィン・ミラー×(4点)

伊達○保科(8点、殺人ヒザ魚雷から片エビ固め)秋山×沢崎(10点)

秋山沢崎ついに連勝ストップ。伊達のヒザ魚雷の犠牲者となる。伊達組は2位以内の可能性を残したまま最終戦へ。

************************

最終戦は東京九段下・ブトーカン大会。超満員札止めの盛況。

チョチョカラス○、シウバ(8点、ムーンサルトプレス)南×、ハイブリッド(0点)

結局南姉妹は全敗でリーグ戦終了。

永沢○富沢(6点、JOサイクロン)伊達、保科×(8点)

保科が永沢のJOサイクロンに散る。これで秋山沢崎の2位以内が確定。翌月のSPZタッグ王者決定戦の組み合わせが決まった。

上原○、ウィンミラー(6点、ドラゴンスリーパー)吉田、新咲×(4点)

「ま、まさか私が、タッグとはいえブトーカンのメインでやれるなんて・・・」

小川ひかるが試合前の控え室でひとりつぶやく。実力微妙の彼女だが、苦節6年ブトーカンのメインカードに名を連ねるところまで来た。

「小川さん、勝って、いい思い出にしましょう」

草薙みことが控室の奥、声をかける。すでに両チームが2位以内を決めているので、来月また同じカードでSPZタッグベルトを争う。

上原がファンの声援に応えながら退場し終わり、いよいよ草薙みことのテーマ曲が流れる。

「さあ、参りましょう」

白装束に身を包んだみことが小川を促す。小川は例によって大会場用に社長から貰った銀青のガウンを纏っている。

スポットライトを浴びながら人気抜群(草薙は実力も抜群)のふたりが花道から入場。そのあと秋山、沢崎が入場。

「向こうは連係はいいけど、小川さんを捕まえれば必ず勝てる、今日も完全燃焼するわよ」

そしてリーグ戦最終マッチのゴング。

草薙○、小川(14点、草薙流兜落としからの片エビ固め)秋山、沢崎×(10点)

序盤から草薙がタイガースープレックス、タイガードライバーで沢崎を追い込む。中盤、小川が捕まるシーンもあって館内はヒートアップ。

「小川さん、戻ってきてっ」

小川が這いずりながら青コーナーに戻ろうとするが、先回りした秋山が捕まえてDDTで頭からマットへ。

「ヒカル、返してーっ」

興奮するとみことも先輩相手の敬語がなくなる。

カウントフォールを2で返した小川。猛攻をしのいだ小川が草薙にスイッチ。草薙が秋山、ついで沢崎を投げで追い込んで、最後は草薙流兜落としで沢崎を沈めて全勝優勝・2連覇を決めた。勝負タイム30分の熱闘。

リング上で阪口レフェリーに手を上げてもらって、そのあとトロフィーを抱えてお決まりの記念撮影。そのあと表彰式。優勝した草薙みこと(20)、小川ひかる(21)組には賞状と金一封、副賞として「冷凍カニ4匹」が贈られた。準優勝の秋山沢崎にも賞状と「スープカレー詰め合わせ」が贈られた。

今野社長は2年連続で狂喜乱舞。帰ってから戸塚某所の和食料理店「よこ川」で小川、草薙、井上秘書と「大祝勝会」を開いた。

「そうかぁ、みこっちゃん2連覇したのかぁ、すごいよ。よーしこれはおじさんからのサービスだ。幻の銘酒「鳥海」あけちゃうよー」

「よこ川」のマスターはミミ吉原引退後は草薙みことファンに乗り換えたらしい。

「来月の王座決定戦、社長の言うべきセリフじゃないけど、絶対勝ってよ、小川さんのベルト姿見たいんだから」

こうして4人は魚料理を平らげ、草薙は少し飲まされて寮に帰った。

**************************

(筆者よりお詫び)

いつもお越しいただいてありがとうございます。昨日2/26は「業務上の交際」によりそうとう酔っ払ってしまい、更新ができませんでした。お詫び申し上げます。

2007年2月25日 (日)

6年目11月 SPZタッグリーグ戦(前編)

6年目11月。

「うちの団体もタッグベルトを自前で創設することにしました。」

SPZ事務所で行われた記者会見。テーブルの上には銀色に輝くベルトが2本。

「ベルトとトロフィーの制作費、コミッショナーへの認定料などで3億かかりました」

「初代王者はどうやって決めるのですか」

「えーと、11月に8チーム参加のタッグリーグ戦をやります。そのリーグ戦1位のチームと2位のチームで12月に決定戦をやります」

********************

で、タッグリーグ戦のエントリー。社長は気を使って全選手参加の会議で決めた。

「それじゃあ私はいつもどおり小川さんと」

「私でいいんですか、草薙さん」

「私と組んで一番客席が沸くのが、小川さんだと思っています」

「ハイハイ!秋山沢崎エントリー!」

「完全燃焼しますッ!」

「しかたないわね、南姉妹で」

「ハイハイ、レイさんとタッグ組みたいです」

「よし来た舞ちゃん!賞金は山分けよ!」

この4チームは事前に話ができていたのですんなり決まった。

「じゃあ、伊達さんは上原さんと・・・でいい?」

「あ・・・えの・・・上原さん・・」

「今の自分にとって、伊達さんとは組むより戦いたい。その気持ちでいっぱいなのでSPZのベルトを伊達さんと獲りに行こうと思いません、あ、決して伊達さんと組むのがいやになったとかそんなんじゃなくて、なんとしても伊達さんを倒したいって・・・」

「うん・・・上原さんの気持ちは分かった。じゃあ私は、優希さんと出る・・・」

「ええっ?」

今では6時半の女と化した保科が珍しく驚いた声を上げる

「だ、伊達さん、あたし強くはないですよ~」

「それでもいい、同期、だから・・・」

「じゃあ、吉田さんは誰と組みたい?」

「世代の近くて、将来強くなりそうな新咲と組みたい」

「わかった、これで6チーム決定と」

「上原さんは誰と組む?」

もう日本人レスラーは最弱のアイドルレスラー渡辺智美しか残っていない。ストロングスタイルの上原とは同じコーナーに立つなどありえない

「社長に任せます。外国人選手でいいです」

「じゃあパワーバランスを考えてEWAのウィン・ミラーさんと混成タッグで出てね」

「・・・・ほっ」

会議室中が胸をなでおろす。ハンやスミルノフあたりの強い外人と組まれたら一気に本命になってしまう。

「じゃあ最後の1チームは観客動員を考えてAAC推薦のチョチョカラス、ミレーヌ・シウバ組だ」

これでプレスリリース。参加チームを見て「大混戦の予感」と京スポ新聞は報じた。

**********************

初戦幕張大会は前夜祭の顔見せ興行。セミファイナルは秋山沢崎プラス伊達に、吉田・新咲プラス上原の6人タッグ。試合前元パートナーの伊達に上原がマイクで宣戦布告。

「伊達・・・さん。コンビ解消しましょう、私は伊達さんに勝ちたいんだ」

このあとゴング。あっさりと新咲がつかまって一期生連合軍が快勝。

メインは南姉妹プラス小川にチョチョカラス、ミレーヌ・シウバ、ウィン・ミラーの外国人連合。混戦の末、小川がSTFでミラーを仕留めた。

***********************

第2戦は大阪城アリーナ大会。15000名が超満員。

伊達○、保科(2点、アキレス腱固め)吉田、新咲×

弱い方がどちらが先につぶれされるかと言うタッグマッチの面白みが味わえるカード。一期生チームの連携がよく、ダブルラリアットやダブルパイルドライバーで吉田がふらついたところへSPZキックで頭を破壊。苦し紛れにタッチしてでてきた新咲が仕留められるのに大した時間はかからなかった。

永沢 富沢○(2点、延髄斬りから片エビ固め)上原×、ウィンミラー

「優勝?考えてもない。上の人を一人一人倒していくだけ」

上原がこう話して試合に臨んだが試合は盛り上がった。永沢富沢はアニメの電波系テーマソングで入場。上原と永沢が激闘を繰り広げ、ミラーと富沢も必死につなぐ。最後は上原のニールキックが富沢に命中、しかし富沢はカウント2.9でクリア。

「そんなッ」

一瞬の隙を逃さず富沢が飛び上がっての延髄斬り。これで上原は不覚をとった。

草薙○小川(2点 ダイビングボディプレス)チョチョカラス、M・シウバ×

久々来日のチョチョカラス。動きの鋭さは健在。しかし草薙の投げラッシュにつかまり出てきたシウバを草薙が投げまくり最後はボディプレスで圧殺。小川の出した技はチョチョカラスへのフロントスープレックスのみ。

秋山沢崎○(2点 ジャーマン)南、ハイブリッド×

けっきょく「穴のない」沢崎秋山が優勝候補の筆頭。秋山が南と互角以上の戦いをして、ハイブリッドが出てくると沢崎がしっかり始末。

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3戦目は高知大会。

吉田○新咲(2点、ムーンサルトプレス)南、ハイブリッド(0点)

地元で南姉妹のタッグ。しかし吉田がうまく大技を使って姉妹を分断。まずハイブリッドにスプラッシュマウンテン。これで大ダメージを負ったハイブリッドはしばらく場外で戦線離脱。吉田新咲にローンバトル。ほどなく吉田が南にもスプラッシュマウンテン!カウント2.8で返した南はハイブリッドにタッチするしかなかった。あとは吉田がムーンサルトで快勝。新咲はカットに入った南にしがみついて放さない。

上原、ミラー○(2点、脇固め)伊達×、保科(2点)

因縁の戦いは、やはり乱戦となった。中盤までは伊達をつぶしたい上原と返り討ちにしてやりたい伊達のガチンコバトルが展開。伊達の殺人ヒザ魚雷が2発命中。

やはり伊達さんのヒザはものすごく痛い。

―でもまだ戦えるッ。

上原もそのくらいで沈むような鍛え方ではない。ラリアットで反撃してミラーにスイッチ。ここでミラーが金星。パイルドライバーで追い込み、焦った伊達が不用意にラリアットを繰り出してきたところを腕を捕えて脇固め。ミラーはこれを狙っていた。瞬時に関節が決まってしまい伊達はたまらずギブアップ。自らの手で伊達を仕留めたかった上原は浮かない表情で勝ち名乗り。

草薙○小川(4点、フランケンシュタイナー)永沢×富沢(2点)

24分の大熱戦。4人が4人とも持ち味を出す好勝負。最後は草薙が追い込まれながらも永沢をフランケンシュタイナーで振り切った。

秋山○沢崎(4点、パイルドライバーから片エビ固め)チョチョカラス×、M・シウバ(0点)

メインは秋山沢崎が順当に勝利。

*************************

第4戦は宮崎大会。

伊達○、保科(4点、合体パワーボムからのエビ固め)南、ハイブリッド×(0点)

このメンバーでは実力の抜き出ている伊達が優位に展開。だが南姉妹も早いタッチワークで的を絞らせず30分の熱闘。最後はハイブリッドが捕まり、合体パワーボムに敗戦。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」

保科優希が荒い息をはずませながら控室へ。いつもは前座で会場を温める役だが、こんなハードな試合を戦うのは久しぶりだ。

南姉妹は3連敗。

「南さん、ごめんなさい・・・私がふがいないせいで」

「・・・いいのよ」

チョチョカラス○、M・シウバ(2点、ムーンサルトプレスからの体固め)吉田、新咲×(2点)

このカードも新人の新咲が沈む。吉田がチョチョカラスの空中殺法に押され、代わった新咲がムーンサルト一発でフォール負け。久々に強いチョチョカラス。

草薙○、小川(6点、タイガースープレックス)上原、ウィン・ミラー×(2点)

トップ獲りをねらう上原は草薙と好勝負を繰り広げるが、フロントスープレックスを連発で食らい体勢を立て直すためミラーにタッチしたとたん草薙組が勝負に出て、フロントスープレックスで転ばせたところで小川を呼び込み、小川がミラーを肩車、すばやくコーナーに上がった草薙がダイビングラリアットをミラーに叩き込む。ダブルインパクト発動。これは上原がカットしたが、もはやミラーは死に体で、続くタイガースープレックスで草薙組が白星を重ねた。

秋山沢崎○(6点、合体パワーボム殻のエビ固め)永沢富沢×(2点)

永沢が一期生の二人を投げまくるが、タッチを受けた富沢が沢崎のタイガースープレックスをもらって動きが止まり、続く合体パワーボムを返せず終了。

(つづく)

2007年2月24日 (土)

第42回 6年目10月 SPZ選手権 吉田龍子×草薙みこと

6年目 10月

小川に写真集の依頼。特に資金難でもないのでお断りした。草薙みことにも写真集の依頼。SPZ王座に挑戦させたいのでこれも断った。

保科、沢崎がケガで欠場。10月シリーズ「オータムSPZバーニングシリーズ」が開幕。

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開幕戦青森大会、上原対伊達のシングルマッチがセミで組まれた。AACタッグ王座を所持しているの両者だが容赦はしない。上原もカカト落としを繰り出し、伊達のディフェンスを崩そうとするが、ここで伊達が「殺人ヒザ魚雷」乱射。上原をマットに沈めた。

「伊達さんとは、組むより闘いたい・・・」

控室でぽつりと上原が漏らした。

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第3戦秋田で組まれたのは伊達上原対EWAのナスターシャ・ハン、ユーリ・スミルノフが激突するAACタッグ戦。39分31秒の熱戦となったが最後は伊達の殺人ヒザ魚雷がハンを撃沈。

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10月シリーズ最終戦は名古屋レインボープラザ決戦。メインで組まれたのは吉田龍子のSPZ王座に草薙みことが挑むタイトルマッチ。先シリーズは全勝でリーグ戦を制した最強巫女伝説草薙みこと。吉田の王座防衛は厳しいと見られていた。

だがー

草薙がアームホイップやフロンとスープレックスの連打で吉田のペースをかき乱しにかかったが、吉田が形勢逆転を狙ってスプラッシュマウンテンを放つ。これで草薙の動きが鈍ったが、すぐに必殺の草薙流兜落とし。このあと両者の意地がぶつかり合う熱戦。ノーザンライトを食らってカウント2.8まで追い込まれた吉田。

―、くっ、ヒザが笑い出したっ。また草薙さんに負けるのかー

いや、最後まで諦めないっ!

組み付いて力任せのブレーンバスター。

いまだっ。

ダウンした草薙から一番近くのコーナーに駆け上がり、大きくジャンプして背面宙返り、そのまま草薙を圧殺。

「派手だから覚えようと思った」吉田のムーンサルトプレス炸裂。草薙は返す事ができなかった。勝負タイム22分34秒。場内歓声と悲鳴。草薙が後輩に敗れてしまったのは初めて。新しい時代の幕開けか。王者は初防衛に成功。

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SPZ世界選手権

○吉田龍子(22分34秒 ムーンサルトプレス)草薙みこと×

第8代王者が初防衛に成功

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「いやぁ驚きましたね解説の保科さん、吉田選手が勝ってしまいましたよ」

「いや~、チャンピオンとして恥ずかしい試合はできないといった気持ちが吉田選手を奮起させたんだと思います~」

************************

ムーンサルトの衝撃でしばらく起き上がれなかった草薙。転がってリング下へ下り、セコンドの小川に負けた状況を確認すると、客席に一礼して引き上げた。

控室でうなだれる草薙みこと。ショックなのか、シューズの紐を解こうともしない。

「何で・・・負けたんでしょうか」

「油断したとまでは言わないけど、気持ちの差ね」

南利美が控室奥から励ます。

「あなたが16くらいの頃、私に勝とうと向かってきたときはものすごい顔をしていた。今だから言うけど殺す気でかかってきたんじゃないかと思ったくらい。今日の吉田もそんな顔をしていたと思うわ」

そうだ、去年の春新人で入ってきた吉田さんに稽古をつけたのはミミさんや小川さんや私だった。あのころの彼女のイメージは消したつもりだったが、まだどこかに残ってたのだろうか。

「リミさん」

「・・・うん」

「後輩に負けるってのは、悔しいですね」

「ふん、あなたには何回もやられたからね。腕折ってやりたいと今でも思ってるわよ」

暗に、遠慮するな、半殺しにするつもりでやれと言っているのだろう。

2007年2月23日 (金)

第41回 第6回SPZクライマックス 後編

前回のあらすじ

横浜の女子プロレス団体SPZは創立6年目を迎え、恒例のシングル総当りリーグ戦「SPZクライマックス」が開催された。実力派選手が多数出場し、星のつぶしあいを展開する熱き戦いは、序盤2戦を終えた。しかし、SPZ世界王者の南利美選手は屈辱の連敗スタート・・・

そして1日のオフをおいて仙台大会。

吉田○(4点、ムーンサルトプレスから片エビ固め、18.00)沢崎(4点)

吉田が持ち前のパワーで押しまくって有利に進める。沢崎のタイガースープレックスを食らってしまうも、耐え切った吉田が重爆ムーンサルト一閃。沢崎を押しつぶしてカウント3。

南○(2点、飛びつき腕ひしぎ逆十字、25.31)秋山(0点)

南の関節地獄炸裂。似たようなファイトスタイルの秋山相手だと危なげがない。後半の秋山の反撃を受けきって、最後は南が伝家の宝刀飛びつき腕ひしぎでギブアップ勝ちで初白星。

伊達○(6点、ブレーンバスターから片エビ固め、22.24)上原(2点)

タッグパートナー同士の激突。上原の攻撃は伊達の耐久範囲内であった。そして上原は守勢に回るともろい。殺人ヒザ魚雷2連発からブレーンバスターでフォール負け。

草薙○(6点、草薙流兜落としから片エビ固め 13.17)永沢(0点)

仙台大会メインは草薙対永沢。両者の投げ技が真正面からぶつかったが、切れ味手数ともに草薙のほうが一枚上手。フィニッシュは草薙流兜落とし。

翌日は山梨大会。

南○(4点、逆片エビ固め 18.26)沢崎(4点

沢崎がタイガースープレックスなどで追い込むも、最後はリング中央で南の逆片エビが決まってしまいギブアップ負け。

永沢○(2点、キャプチュード 27.08)秋山(0点)

3戦していまだ勝ち星のない両者。永沢が投げまくって優勢に試合を進め、最後はキャプチュードで決めた。

伊達○(8点、ジャーマン 15.48)吉田(4点)

吉田、伊達の牙城を崩せず。殺人ヒザ魚雷からのジャーマンに沈んだ。

草薙○(8点、タイガードライバーからのエビ固め 14.52)上原(2点)

上原、草薙の牙城を崩せず。投げ技絞め技攻勢につかまってしまう。

第6戦は新潟大会。

永沢○(4点、キャプチュード 17.05)南(4点)

南が優勢に試合を進めてゆくが、終盤永沢のJOサイクロン、ネックブリーカーの大技コースで形勢逆転。そのままキャプチュードにつないで南越え達成。破れた南はぼう然として引き上げた。

吉田○(6点、プラズマサンダーボム 22.27)上原(2点)

4月のブトーカンでは上原の勝ち、7月の予選会では吉田の勝ち。こんかいは一進一退の攻防。上原のすばやさに吉田のパワー。しかし終盤、吉田のデンジャラスキック(ローミドルハイ連打)プラズマサンダーボム炸裂で上原を下した。4敗目の上原は予選会落ちが決定。

伊達○(10点、STOからの片エビ固め 22.31)沢崎(4点)

息詰まる熱戦を制したのは伊達。沢崎もミサイルキック連打でカウント2.8まで追い込むも伊達がめったに使わないSTOを繰り出しカウント3.

草薙○(10点、タイガースープレックス 24.49)秋山(0点)

秋山も関節技で突破口を開こうとするが、草薙の牙城は崩せなかった。秋山5連敗、シード権を失い、予選会落ちが決定。

混戦が予想されたリーグ戦だが、両エースの草薙と伊達が連勝街道を突っ走る展開。そして第7戦はさいたまスペシャルホール大会。満員にはならなかったが、それでも団体新記録となる26,278名の大観衆を動員した。

永沢○(6点、ローリングソバットから片エビ固め 29.44)吉田(6点)

次代のエース候補同士の激突。予選会では永沢が勝っているので臆せず投げ技で攻め込んでゆく。手数に勝った永沢が徐々に吉田を追い込んでいって、30分近い激戦の末、最後はスタミナ切れを起こした吉田にローリングソバットを決めてフォールを奪った。

伊達○(12点、殺人ヒザ魚雷からの片エビ固め 17.30)秋山(0点)

伊達が危なげなく闘い、最後は定番のヒザ魚雷で秋山を仕留めた。これで無傷の6連勝。明日の草薙戦に優勝をかける。

上原○(4点、かかと落としからの片エビ固め 15.31)南(4点)

意外にも上原ペースで試合が進む。そのまま落ち着いて南のスタミナを奪い、最後はかかと落としで南の脳天にズバリ。デビュー3年半でついに南越え達成。4敗目を喫した南、屈辱の予選会行き。

草薙○(12点、タイガースープレックス 10.44)沢崎(4点)

リーグ戦も後半になってくると皆ボロボロの状態。草薙が一気に攻めて沢崎を下し、翌日の横浜決戦にコマを進めた。沢崎の予選会落ちも決定。

最終戦は横浜スペシャルホール大会。超満員の熱狂。けっきょくリーグ戦はメインの草薙対伊達で勝った方が優勝という状況。

吉田○(8点、プラズマサンダーボム 15.59)南(4点)

先月の武道館SPZ決戦のメインがここで再現。吉田がパワーで南を圧倒。飛びつき腕ひしぎを力任せに抜けたシーンでは館内が沸いた。プラズマサンダーで有終の美。「永沢さん、伊達さん、草薙さんに負けた試合は本当に悔しい」とコメントを残して会場を後にした。前SPZ王者で関節のヴィーナス・南利美、屈辱の2勝5敗。控室でシューズの紐を解くその手が震えていた。

永沢○(8点、JOサイクロン 13.34)沢崎(4点)

永沢がJOサイクロンで沢崎に勝利。初めて超絶必殺技がフィニッシュムーブとなった。

上原○(6点、フェイスクラッシャーからの片エビ固め、12.47)秋山(0点)

終始良く攻めた上原、秋山をフェイスクラッシャーで仕留めた。1期生の秋山、リーグ戦を屈辱の全敗で終えた。

草薙○(14点、サソリ固め 12.41)伊達

全勝同士の相星決戦に館内沸き立つ。草薙が投げて投げまくれば伊達もエルボーやチョップで反撃。しかし、2強の激突にしては結末はあっけなくついた。痛めつけるつもりでしつこくサソリ固めをかけ続けた草薙。伊達は痛がりだしついにギブアップ。かくして草薙V2達成。

優勝した草薙には賞状と金一封と副賞として「ノートパソコン(彼女にとってはただの箱で終わりそう)」、準優勝の伊達には賞状と横浜中華街お食事券が、3位の永沢には「スポーツドリンク1ケース」が贈られた。4位は吉田。ここまで勝ち越した選手なのでシード権確保。5位上原、6位南、7位沢崎、8位秋山は予選会からのスタートとなった。

2007年2月22日 (木)

第40回 第6回SPZクライマックス 前編

6年目9月

「噂は聞いてたけど本当だったんだね・・・」

吉田龍子ファンクラブが設立。圧倒的なパワーとド派手な大技で相手をねじ伏せるファイトスタイルと、先日SPZベルトまで獲ってしまった勢いで人気もついてきたようだ。

伊達に写真集、吉田に映画出演依頼。リーグ戦なので断った。

さて、第6回「SPZが最も恐ろしい団体であることのゆえん」SPZクライマックスが開幕。今回は力のある選手が8人そろい、優勝の予測も立てづらい混戦が予想された。

出場者は以下の8名。コメントは開幕前に行われた記者会見時のもの。

草薙みこと(19) 前回優勝  4年連続4回目の出場

 「全力で行きます」

南利美(21) 第3回大会優勝 6年連続6回目の出場

 「出るからには全員の腕を折るつもりでやるわ」

沢崎光(21) 第2回大会優勝 6年連続6回目の出場

 「完全燃焼してきますッ!」

秋山美姫(20)第4回大会準優勝 6年連続6回目の出場

「顔ぶれがすごいんですが、賞金目当てに優勝狙います」

以下は予選会勝ち上がり組。

伊達遥(20)第4回大会優勝 2年ぶり5回目の出場

 「あの・・・その・・・がんばります」

吉田龍子(16)初出場、SPZ世界王者

 「全力を出し切る。結果は自ずとついてくる」

永沢舞(17)初出場

 「初めてでよく分かりませんが、まあ頑張ります」

上原今日子(18)2年連続2回目の出場

「後輩が伸びてきていていつの間にか追われる側にいるので、負けないように頑張ります」

「女神たちの潰し合い」「聖なる天使たちの死闘」などむちゃくちゃな言われ方をしているリーグ戦。SPZの機関紙と化している京スポ新聞に至っては、

「草薙みことが2連覇を目指すべく、山形県の奥地、古寺温泉で極秘特訓を行った。最近は上原永沢吉田など後輩の勢いが目立つが、このあたりで最強巫女伝説を実証しておきたいところ。記者は見た。山奥を1日5時間駆け回り、特訓の仕上げは小川ひかるを相手に河原で実戦トレーニング。草薙の最大の武器である投げ技のキレを極限まで研ぎ澄ます。圧巻だったのは最後に放ったノーザン。小川は衝撃のあまりしばらく動くことはできなかった。特訓後、草薙は「全力で行きます」と力強くコメントした。」などと特訓同行ルポが掲載される始末。

専門誌の週刊ハッスルに至っては道場とつげきルポを敢行し、無心でトレーニングに励む上原の写真を撮りまくった。「かかと落としの破壊力を増すためだろうか、上原今日子は黙々とトレーニングマシンで足腰を強化。かなりの重さの負荷をかけたマシンを足の力で持ち上げる。何回か繰り返しているうちに息が上がり、上原の身体から汗が滴り落ちる。上原はマシンの上に横たわったまま息を整えて、ほどなく再びマシンに鬼の表情で挑む。何が彼女をそうさせるのだろうか。この団体にはミミ吉原が残し、南や伊達が受け継いだ「容赦のなさ、妥協のなさ」がある・・・」

SPZクライマックス初戦は神戸で「前夜祭マッチ」。そのあと2日目の福岡九州ボートメッセ大会から死闘が始まる。

〔福岡大会結果〕

沢崎○(2点、タイガースープレックス 20.59)秋山(0点)

リーグ戦最初の試合は1期生タッグパートナー同士の試合。いきなり20分を越えるロングバトル。秋山の絞め技と沢崎のスープレックスが真正面からぶつかり合う。最後は2発目のタイガースープレックスを決めた沢崎が勝利。

上原○(2点、ドラゴンスリーパー 17.16 )永沢(0点)

リング上でパーカーを脱いで、現れた鍛え上げられた上原の身体に場内歓声。上腕が太くなっているのと腹筋が割れている。かなりこのリーグ戦に備えて鍛えてきた模様。そしてなにより研ぎ澄まされた目が刃物のよう。先々月の予選会では永沢が勝っているが、上原が序盤からすばやい動きで猛攻を仕掛けて追い込んでゆく。永沢もJOサイクロンを仕掛けたが及ばず、シャイニングウィザードで弱らせてからドラゴンスリーパー。太い腕で締め上げられた永沢たまらずギブアップ。試合後上原はマイクで「全員つぶして優勝ッ!」と宣言。

伊達○(2点、殺人ヒザ魚雷からの体固め、13.39)南(0点)

このカードがセミで組まれてしまう。南がいつものように関節技ベースで試合を作ってゆくが、伊達の「殺人ヒザ魚雷」(ニーリフトなのだがあまりの恐ろしさなので名前がこう変わった)の乱発で試合の流れを一気に持ってゆく。4回目の殺人ヒザ魚雷で南、動けなくなる。凍りつく場内。そのまま覆いかぶさって3カウント。今シリーズもヒザが猛威をふるうのか。

草薙○(2点、フライングボディプレスから体固め 13.14)吉田(0点)

パワーでは吉田だが、草薙が技の引き出しの多さで試合を有利に運ぶ。アームホイップ連発でペースを作り、ノーザンでスタミナを刈り取る。終盤はボディプレス2連発。吉田もスプラッシュマウンテン、DDTで反撃するがそれまで。タイガースープレックスで動けなくしておいて最後はフライングボディプレス。持てる技を効果的に使った草薙が白星発進。

翌日は広島若草アリーナ大会。

試合前の控室。

「うっ、くーーーっ」

南がうめき声を上げる。試合用の下着の上からTシャツを羽織ってハイブリッド相手に軽くウォーミングアップを始めたが腹に鋭い痛みが走る。たちまち長いすの上に座り込む。バスの中から浮かない顔をしていた異変を察知した今野社長が駆けつける。

「南さん、大丈夫かー」

「あーもう、伊達さん、アレだから」

「・・・シャツめくるよ、・・・うわひどい。南さんやれる今日?」

よりによって今日の相手は草薙みことだ。

「ふん、このくらいちょうどいいハンデよ」

〔広島大会結果〕

吉田○(2点、ステップキックから片エビ固め26.38)秋山(0点)

力の吉田、技の秋山。吉田がリング上でボディスラム、ラリアットと暴れて優位に立ち。終盤は怒涛のムーンサルト2連発。秋山もドラゴンカベルナリアで反撃するがそれまでで、最後は吉田のステップキックが秋山の顔面を捉え、これでカウント3を奪った。26分の激闘に館内大盛り上がり。

沢崎○(4点、ジャーマン、14.54)上原(2点)

沢崎、地元で難敵と当たる。沢崎が投げれば上原が飛ぶ。互いの得意分野が真っ向からぶつかった一戦。地元の大声援に後押しされた沢崎、タイガースープレックスで追い込む。上原もフランケンシュタイナーを繰り出すなど健闘したが最後はジャーマンの前にカウント3。地元選手の勝利で館内爆発。

伊達○(4点、殺人ヒザ魚雷からの片エビ固め、19.48)永沢(0点)

やや永沢が内容では押していたが、伊達は永沢の攻撃を受けきってしまう。そして頃合いを見て殺人ヒザ魚雷さくれつ。劣勢になった永沢がJOサイクロン、タイガードライバー、ジャンピングニーで反撃。しかし伊達も主砲、SPZキックで伊達の頭を破壊して、棒立ちになったところへ組み付いていってー

悪魔的な威力の殺人ヒザ魚雷炸裂。永沢沈没。

草薙○(4点、タイガードライバーからエビ固め16.34)南(0点)

前日の伊達戦でやられた南の腹部はヒザ魚雷の被弾跡で赤くはれ上がっていた。しかたがないので南は腰にグルグルとテープをサラシのように巻いて、その上からコスチュームを着て、何事もなかったかのように装って試合に臨んだ。ひとしきり基本的な攻防で館内を沸かせたあと、南が本調子でないのを知っていた草薙が兜落とし発動。しかし南、カウント2で返す。直後を狙ってしかけた南の腕ひしぎはあまりにもロープに近い。逆にノーザン、サソリ固めでダメージを与えておいてタイガードライバーで南を沈めた。関節のヴィーナス、屈辱の連敗スタート。

リーグ戦2戦を消化して2連勝は草薙みこと、伊達遥、沢崎光。

(長くなるので続きは後編で)

2007年2月21日 (水)

第39回 6年目8月:時計の針が動くとき

6年目8月

「それで上原さん、この間の話・・・

7月末のある夜、都内にある一流ホテル1階のレストランで極秘の移籍交渉が行われていた。

上原今日子が話しているのは業界最大手、新日本女子プロレスの営業担当専務、田中と女性マネージャーの谷。新日本女子は主力のスター選手が先日引退してしまったため、引き抜きで外部補強を図ろうと画策していた」

高級伊賀牛ステーキのコースを平らげたあと、

「ああ、おいしかった。ごちそうさまです。で、話の件だけど、田中専務さん、やっぱりその・・・お断りします」

「うーん、新日本女子に来れば上原さんはトップを軽く張れる実力があるのにねぇ」

「正直言って、条件は、新日本さんのほうがいいです。でも、私は、伊達さんや草薙さん、南さんをなんとしても越えたいんです」

「・・・・」

「新日本さんに行けばおそらく毎試合メインかセミに出られて、ベルトも巻けて、新しいファンも広がると思います。でもそれではダメなんです」

「どうして・・・」

「うちの団体の人は、みんなすごい人なんです。先月も何回も頭から落とされて意識をなくしたり、腕を折られそうになったり、膝蹴りをもらって動けなくなったりしました。痛いんですけど嬉しいんです。2年くらい前までは、『新人さんいらっしゃーい』で感じで軽くあしらわれていたんですが、先輩たちの目がどんどん本気になっきてるんです。もっと練習して強くなればこの人たちに勝てるかもしれない。今はそのことしか考えられないです」

「上原さんよく考え・・」

「谷さんもういい、わかった。うちの選手に今の話を聞かせてやりたいよ。上原さん、これからの活躍を業界人として期待してるよ」

「はい、頑張ります。今日はありがとうございました」

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8月シリーズは「SPZサマーバーニングシリーズ」。富沢レイが右足負傷で欠場。今シリーズは最終戦で「真夏のブトーカン大会」が行われる。メインは当然SPZ選手権で、王者南利美に挑むのはシングルで南に勝ち続けている吉田龍子が抜擢された。

シリーズ初戦の幕張大会のセミで前哨戦。南姉妹対吉田龍子・永沢舞。南のパートナーが非力なハイブリッドということもあったが、吉田、永沢組が優勢に試合を進め、最後は吉田が「重爆」ムーンサルトで南からフォール勝ち。

「ブトーカン、ベルトはもらった」そうアピールして引き上げる吉田。

暑い8月なのでシリーズ中盤は北海道遠征。釧路大会と札幌大会の間には意図的にオフが1日挟まれ、永沢舞と小川ひかる、今野社長は「旭山動物園」でまったり過ごし、新咲は札幌で「スープカレー」を食べ歩き。草薙みことと秋山沢崎は札幌行きつけの「フルーツパーラー」で北海道パフェなぞを食べる。

その翌日札幌大会。第2試合で小川ひかる対ハイブリッド南の対決。両者とも関節を狙う息詰まる展開となったが、最後は小川がステップキックでハイブリッドを下した。

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そのあとは近畿地方をサーキット。今回からバスがグレードアップし、日本人選手には「サロンバス」が登場した。ゆったりとしたソファーで良く眠れると選手たちからも好評であった。

第7戦大阪大会、メインでナスターシャ・ハン対秋山のEWA選手権。集客のために組んだタイトル戦。ハンが45分の激闘を制してドラゴンスリーパーで秋山を下してタイトル防衛。

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そしていよいよ最終戦、2回目の東京九段下・武闘館大会。

第1試合から館内はヒートアップ。新咲祐希子がハイブリッド南を攻め立て、最後はギロチンドロップでフォール勝ち。

第2試合は保科が渡辺をうまく料理。

第3試合は前回同様小川対ウィン・ミラー。ミラーの掌底で小川は鼻から流血。館内の悲鳴。これで小川の動きが鈍りミラーの脇固めやコブラツイストにされるがまま・・・館内に響き渡る小川の悲鳴、そしてファンの悲鳴。しかし、いつものように一発逆転を小川は狙っていた。15分過ぎにSTFが決まる。いつものように手首の部分で顔面を絞める。たまらずミラーはギブアップ。館内大盛り上がり。ここで休憩。

「勝てました、社長、見てくれましたか?」

「うん、凄かったね、休憩前のメインイベントみたいだった。このカード組んでよかった」

セミファイナルは秋山沢崎対草薙永沢。翌月にSPZクライマックスを控え、4人が4人とも負けられない試合。しかしこのメンツでは頭ひとつ抜け出た草薙が投げ技の猛攻をしかけ、最後もノーザンで沢崎からカウント3奪取。

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「さあ、今日もリングがあたしを待っている!」

Tシャツを羽織って(自分のがまだ出来ていないので、「SPZ BUTOKAN」Tシャツ)吉田龍子が戦いの場へ向かう。いままでこの団体の至宝、SPZシングル王座のベルトは伊達→草薙→南→伊達→草薙→伊達→南 と、1期生・2期生の実力者3人の間で回されてきた。5期生の吉田がチャンスをものにするか、それとも南が意地を見せるか注目が高まった。人気では南のほうが圧倒的に高いので場内は大きなミナミコール。

「まあ、やるしかないわね」

そう控室でつぶやいて、黒いロングガウンを羽織って入場。ハイブリッド南と小川ひかるがセコンドについた。テレビ解説(今月からテレビ関東での放映が始まった)は保科優希、リングアナは今野社長、レフェリーはピンクシューズ阪口。午後8時11分、運命の一戦のゴングが鳴った。

「解説の保科さん、大変な盛り上がりですねぇ」

「そうですね~、南さんはこの団体でも人気と実力の両方持った人ですから~。でも吉田選手も最近実力をつけてきて、地方大会では何回か南さんに勝ったりしてますから~、どちらが勝つか分かりませんね~」

吉田に力技で先手を取られることを警戒し、序盤は南ペースで進む。早めにアキレス腱固めで足を痛めつけようとする。そのあと南の延髄斬り。追い込まれた吉田がスプラッシュマウンテン、プラズマサンダーボム(ふつうのパワーボムなのだが、吉田のはその破壊力ゆえこう呼ばれるに至った)、ステップキックで一気に形勢逆転。南も腕ひしぎで打開しようとするがあまりにもロープに近い。逆に2発めのプラズマサンダーボムを食らってしまう。

館内に悲鳴がとどろくなか、高々と担ぎ上げられて、

ズドン、マットに叩きつけられ、

ワン、トゥ、スリッ。

これで王座移動。勝負タイム20分17秒。

第7代王者が初防衛に失敗し、吉田龍子が16歳の若さで第8代王者となった。館内どよめき。新咲祐希子が吉田の腰にベルトを巻いた。そしてコーナーに駆け上がり左手を突き上げながら勝利をアピールする吉田龍子。デビュー1年4ヶ月での最高峰戴冠に超満員の館内からは拍手とヨシダコールが送られた。

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SPZ世界選手権試合

○吉田龍子(20分17秒、プラズマサンダーボムからのエビ固め)南利美×

第7代王者が初防衛に失敗、吉田龍子が第8代王者となる

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「やられたわ。この借りは来月のSPZクライマックスで返して見せるわ」南が控室で無念のコメント。

2007年2月20日 (火)

第38回 6年目の夏 ハイブリッド南の試練

6年目6月、吉田龍子が右腕を負傷。本人は「こんなのたいしたことないよ」と言っていたが休ませた。

秋山美姫に映画出演依頼。タッグベルト作りたいので快く引き受ける。

上原今日子に写真集の依頼。ほどなくファースト写真集「NAHA」が発売された。けっこう売れたらしい。

6月は恒例のSPZクライマックス予選会だが、今月は吉田龍子も上原今日子もいないので、今野社長は予選会を7月にずらし、通常戦を行うことにした。

ハイブリッド南の受難が続く。同期の新咲は第1試合で保科優希からプロレスのイロハを教わっているが、ハイブリッドは南利美と姉妹タッグを組んで「促成栽培」の日々。こういう時は南利美がハッスルする。山形大会ではマリア・クロフォード、ウィンミラー組と対戦したがひとりで相手2人をやっつけてしまい最後は飛びつき腕ひしぎでギブアップ勝ち。ハイブリッドのしたことは最後のカット妨害くらいという日もあった。

「ハイブリッド!」

福島大会のセミは、南姉妹対草薙、小川のタッグマッチ。南姉妹が初連係のダブルドロップキックを草薙に見舞う。草薙は南利美にはガンガン投げるがハイブリッドには「まだ私の相手じゃない」とばかりにそっけなく対応し、最後は小川がステップキックでハイブリッドからカウント3を奪った。

6月シリーズ、最終戦は埼玉市ヶ谷ホール大会。メインのカードが弱かったがいちおう満員になった。

第1試合は新咲祐希子対渡辺智美。前座戦線を盛り上げている両者の対戦で、直近の成績も勝ったり負けたりといった状況。最後は新咲が強烈なドロップキックで勝利。

セミファイナルは伊達遥、富沢レイ対草薙みこと、小川ひかる組。伊達のSPZキックが猛威を振るい、草薙と小川の脳天を揺らす。だが小川もSTFで反撃し草薙にタッチ。しかし草薙が意地を見せ、小川を呼び込んで伊達にダブルインパクト。頭から落ちた伊達はたまらず富沢にタッチ。富沢が草薙小川の猛攻を必死に耐え続けてから再び伊達にタッチ。しかし伊達はダブルインパクトのダメージから立ち直っておらず、簡単に小川に倒されて、なんとSTFにギブアップ負け。30分0秒の熱闘に会場は沸いた。

メインは冗談のようなタイトル戦、デビュー3ヶ月のハイブリッド南が南利美と組んでユーリ・スミルノフ、ドリュークライの持つEWAタッグベルトに挑戦。メインイベントとして、タイトルマッチとして成立するのか不安なところもあったが、集客と未来のSPZを背負って立つハイブリッドへの期待を込めて今野社長はこのカードを組んだ。

私が攻め込んでくしかないわね。

そう考えてふだんはジワジワと攻める南がガンガン外人組を投げて殴って切り込んでいく。1対2の状況だが意に介さず攻めてゆく。しかし15分過ぎにつかまりバックドロップ、パイルドライバーを浴び、やむなく態勢を立て直すためハイブリッドにタッチ。そしてハイブリッドも奮闘するが、場外DDTで動けなくなって、最後はクライのハイキックでフォール負け。南利美はスミルノフに阻まれカットできなかった。王者組が防衛に成功。それでも36分42秒の激戦。

セコンドの新咲に抱えられて戻ったハイブリッド南は控室で大の字。南利美はその隣でしんどそうにシューズの紐を解く。

「まあ、いい試合だったわ。負けたけどメインの責任は果たせたかな。おそらく社長も勝てると思ってカード組んでなかったし。もっと体力をつけなさい」

アドバイスする南利美。

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6年目7月。SPZクライマックス予選会。

出場選手は次の通り

(前回本大会5位以下)上原今日子、ドリュー・クライ、小川ひかる

(前回本大会負傷欠場)伊達遥

(凱旋帰国)永沢舞

(予選会初エントリー)吉田龍子、ジョーカーウーマン、ウィン・ミラー

リーグ戦上位4名が本戦出場権を得る。そこそこ力のある選手がひしめいているので激戦が予想された。

「帰ってきましたーー!!」

7月シリーズ「サマースターナイツシリーズ」開幕。永沢舞がイギリスから約1年ぶりに凱旋帰国。初戦の相手は3強の一角、草薙みこととのシングルマッチ。さすがに草薙の壁は厚くノーザンライトでフォール負け。

2日目福井大会から予選会スタート。マスコミ各社の予想では伊達、吉田、永沢、上原が通過濃厚であるといった予想であった。

福井大会の第5試合、吉田龍子対永沢舞はいきなり壮絶な闘いとなった。吉田がスプラッシュマウンテンを繰り出せば永沢はJOサイクロン、最後は永沢が2発目のスプラッシュマウンテンを受けきった上で、吉田のムーンサルト自爆のスキをついてジャンピングニーを決め3カウント奪取し、永沢が先輩の意地を見せた。19分52秒の勝負タイムの割にド派手な大技がバシバシ出る展開にファンは酔いしれた。

翌日の金沢大会では吉田龍子と上原今日子が激突。吉田がパワーボムで上原を下し、ブトーカン大会の雪辱を果たした。

次の日の富山大会でも星のつぶしあい。第5試合では永沢舞が上原今日子を激闘の末、JOサイクロンで仕留めた。メインの吉田龍子対伊達遥はそれを上回る死闘。伊達がキックで吉田を追い込むが、吉田もスプラッシュマウンテンから反撃に転じ、なんとムーンサルトを3連発。172cm、あのガタイが宙返りして落ちてくるのだからたまらない。カウント2.9で返す伊達。しかし最後は吉田のコンビネーションキックが伊達の意識を断ち切ってカウント3。前SPZ王者、伊達がシングルでフォール負けを喫するのは珍しい。

その翌日は長野大会。小川ひかるの地元凱旋だったが、組まれたのは吉田龍子との予選会リーグ戦。現在の力の差は歴然としており、吉田がパワーボム。これで決定的ダメージを負った小川は次のボディスラムからのフォールを返せなかった。

長野大会メインは、永沢舞対伊達遥の予選会リーグ戦。イギリス武者修行帰りの永沢がJOサイクロンで伊達を切り崩し、ノーザンライトの乱発で伊達を追い込めば、伊達も後輩相手の連敗はしたくないと考え、奮起してSPZキック3連発。3発目、館内に鈍い音が響いたが、カウント2.9で永沢返す。場内大盛り上がり。そのあと永沢、キャプチュードで反撃し、カウント2.8、続くジャンピングニーも2.9。しかしここで伊達が底力を出し、4発目のSPZキック。頭を射抜かれ崩れ落ちる永沢。さすがにこれは返せなかった。25分34秒の死闘。

最終戦は名古屋大会。タイトル戦が組まれていないにもかかわらず12000人収容の会場が超満員札止め。セミファイナルで永沢がしつこく脇固めをかけ続け、小川ひかるからギブアップ勝ちを収め小川越え達成。そしてメイン。普段はタッグを組んでいる伊達遥対上原今日子の一戦。

あー、こんな苦しい思いするんだったら去年の本戦、怪我してても出てたほうが良かったかも知れない・・・・。永沢にあと一歩まで追い込まれ、吉田には不覚をとり、若手格下相手とはいえない厳しいシングルマッチが続いた。試合は伊達が一方的に攻め、最後は殺人ニーリフト3連発で上原を叩きのめして終了。

結果リーグ戦の勝敗は下記の通り。(同得点の場合は直接対決の勝者が上位)

1位通過:吉田龍子、伊達遥、永沢舞 12点

4位通過:上原今日子 8点

5位:ジョーカーウーマン4点、6位:小川ひかる4点、

7位;ウィンミラー2点、8位:ドリュークライ2点。

この結果、SPZクライマックスの出場者8人が決まった。しかし、8月になってAACからタッグ王者の伊達・上原に防衛戦要請の呼び出し。やむを得ずSPZクライマックスは1ヶ月先延ばしとなった。

2007年2月19日 (月)

6年目5月 南利美・大逆転の王座奪還

6年目5月。

SPZ初の武闘館興行の成功が「週刊ハッスル」に大きく取り上げられた。メインの試合は「不死鳥対最強巫女の死闘」としてカラー4ページで報じられ、その他の試合も大きく扱われた。「小川対ミラー戦にSPZのクオリティを見た」という記事もあった。笑いが止まらない社長。

草薙みことに映画出演依頼。引き受ける。

小川ひかる、保科優希が負傷欠場。

二期生のふたり、富沢レイと草薙みことが入門4年を経過したので晴れて退寮できることになった。富沢は「やたー、これで気兼ねなく深夜アニメが見られる~」と喜んで道場近くのアパートに引越し。が、草薙みことは

「あの、社長、私まだ・・寮にいさせて頂きたいのですが」

要するに電化製品の扱いが苦手でDVDでの試合チェックやパソコンでネットを見たりと言ったことができなくなるので、草薙は特例で、現役の間は「永久寮生活」の特典?を得ることになった。寮長は引き続き3期生の上原今日子が務める。

「山口県にスポーツ万能の有望な新人がいます」

井上秘書のリサーチにより、社長と井上秘書は山口県下関市へ向かった。少女の名は新咲祐希子。

「どもー、明るく楽しくがモットーのプロレス団体、SPZです。いちおう全国サーキットしてますから、日本各地のおいしいものが食べられますよ」

彼女はスポーツ万能であるとともに、地元ケーブルテレビの大食い番組に出たほどである。これで新咲の入団が決定。

******************

5月シリーズ「SPZバトルカデンツァ」は1万規模の大会場を4箇所も回る。SPZにとってはさらなる飛躍となるシリーズ。第1戦高知大会の試合前。

「えっ、もうデビュー戦ですかっ?」

「そうです。このシリーズはけが人続出でカード組むのに苦労してます。お察しください」

「でも、あたしまだ何も・・・」

「とりあえず第1試合で渡辺さんと殴り合ってください。よろしくお願いします。」

巡業前にリングコスチュームとシューズを渡されていたのでひょっとしたら、と思っていたが、まさか初戦とは思わなかった。先輩方に聞いてみると「とりあえずデビューさせてリングに上がった方が得るものが大きい」のでこの会社は入門即デビューと言うことを当たり前のように行っている。

「青コーナー、山口県下関市出身―、しんざきーゆきーこぉー」

ほどなくゴング、うわ始まっちゃった。しかたがないので道場で富沢レイに教わったドロップキックやアームホイップを出してみる。案外いける。実は相手のアイドルレスラー候補渡辺の実力がデビュー1年近いわりに微妙だというのもある。意外にも最初に息切れしたのは渡辺の方。チョップで倒して、アームホイップで転がしてからフォールしてみるとカウント3。

「勝っちゃった・・・エッヘヘッ!やったー!」

デビュー戦でプロ初白星と言う離れ業をやったのはSPZ始まって以来、南利美と草薙みことだけである。

「おめでとう!よく勝った!」控室で先輩レスラーから祝福される。

高知大会のメインは伊達沢崎秋山対、南姉妹プラス吉田というファンサービス度満点なカード。試合中盤、ハイブリッド南と伊達遥の顔合わせが実現してしまい、ハイブリッドがたちまち追い込まれ、伊達がある程度手加減はしたがニーリフトをハイブリッドの腹に叩き込む。

まだ腹筋がついていない素人同然なのに!

マット上をのた打ち回るハイブリッド。南利美の顔色が変わる。ようやくタッチを受けた南は伊達に気迫のこもった攻め。しかし伊達も南の攻撃を受け切ってから側頭部にSPZキック。やむを得ずハイブリッドにタッチ。今度は伊達もフィッシャーマンバスターでとどめを刺しに来た。これは吉田のカットに救われたがブレーンバスターを食らってフォール負け。それでも21分の好勝負。

叩きのめされたハイブリッド、翌々日の宮崎大会では第1試合で新咲祐希子に敗れてしまった。そして第3試合、南利美がまたも吉田龍子のパワーボムに敗れる。

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第3戦福岡大会、1万人規模の大会場での興行、メインは伊達、沢崎対ハン、ドリュー・クライ組のAACタッグ選手権。序盤、ハンのSTFやアキレス腱固めが火を噴いたが、タッグマッチなので落ち着いてカットし大ダメージを回避。最後は分断してクライを伊達のフィッシャーマンバスターでしとめた。

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第4戦広島若草アリーナ大会。1万人の会場でメインにSPZタイトル戦を組んだが満員が精一杯であった。やはり西日本での認知度は新日本女子さんに及ばない・・・。歯噛みしながら社長は客入りをチェックした。

で、メインは集客のためだけに組んだ伊達遥対南利美のSPZタイトル戦。最近は吉田にも敗れるなどいいところのない南。もう2年ほど前のような「草薙、南、伊達で3強」の時代は終わってしまったのだろうと多くのSPZファンは思っていた。

今回も伊達の蹴りに試合早々流血させられてしまう。南は得意の腕ひしぎや脇固めを繰り出すが、伊達も慣れているのでうまくポイントをずらして抜けてしまう。そして殺人ニーリフト炸裂。マット上に這いつくばる南。会場の誰もがもうダメかと思ったが、マットに横たわる南が見たものは泣きそうな表情で姉の勝利をリング下で願う妹の姿であった。

あー、もう。もうひとふんばりするしかないじゃないの。

起き上がった南を狙って伊達が組み付いてくる。おそらくニーリフトを狙ってくる。そう読んだ南はうまく体勢を入れ替え、飛びつき腕ひしぎ。伊達は必死に外そうとするが、南も懸命に腕関節を持っていこうとする。ほどなくー

「うぁあああああ!」

伊達の悲鳴が館内に響く。これは危ない。

「伊達、マイッタしろ、折れちまうぞ」阪口レフェリーが耳元で囁く。

「ギブアップ・・・」

「30分17秒、飛びつき腕ひしぎ逆十字で、南利美の勝ち」

館内ええええ!の声。ついで思いもよらない大逆転に大歓声。南利美には旗揚げ直後からの固定ファンが多い。

伊達は右腕を押さえながら呆然とした表情で引き上げた。まだ腕以外にさほどのダメージは受けていない。むしろ勝者の方がしばらく起き上がれない状態であった。でも負けてしまい、ベルトを持ってかれた。

ようやく起き上がった南利美、鼻からの出血をハンドタオルで押さえる。

ハイブリッドが泣きながら南の腰にベルトを巻く。

「もう・・・馬鹿・・・」

南利美、2年ぶりにSPZ王座(第7代)に返り咲き。

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SPZ世界選手権試合

○南利美(30分17秒、飛びつき腕ひしぎ逆十字)伊達遥×

第6代王者が3度目の防衛に失敗、南利美が第7代王者となる

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翌日の京スポ新聞には一面トップで「関節のヴィーナス、再臨」と大見出し。

第6戦は大阪大会。ナスターシャ・ハンのAAC王座に最近実力急上昇中の吉田龍子が挑む。序盤にスプラッシュマウンテンを決めて大ダメージを与えて、そのあと押していこうと考えた吉田だったが、ハンは冷静に体勢を立て直し、アキレス腱固めで吉田からギブアップを奪った。

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最終戦は横浜スペシャルホール(通称:横スペ)大会。新横浜駅から歩いて5分のところにある15000人の大会場で初進出だが、なにぶん神奈川はSPZの本拠地なので、うまく超満員札止めとなった。セミファイナルは南利美対吉田龍子のノンタイトル戦。最近南は吉田に3連敗中だが、今回はベルトを奪還した後なので負けられない。気合いの入った攻防となった。吉田がニーリフトで南を追い込めば、南は腕ひしぎや逆片エビで吉田の関節を壊しにかかる息詰まる熱戦は30分ドローとなった。

横浜大会のメインはナスターシャ・ハン対上原今日子のEWA選手権、ハンの関節地獄をかいくぐり、かかと落としでカウント2.8まで追い込んだ上原だったが、そのあとハンがSTF。抜けられず上原はギブアップするしかなかった。

2007年2月18日 (日)

6年目 4・21 はじめてのくだんした

そしてシリーズは進み、ついに4月21日。今野社長と小川ひかる、保科優希の3人はわざわざ戸塚から湘南新宿ラインで新宿へ向かい、地下鉄に乗り継いで九段下へ向かった。九段下の4番出口から皇居のお濠端を歩いて田安門をくぐり、現れたのは日本武闘館。

「はー、おっきいですね~」

「うわー」

3人とも目の前の巨大な建物に絶句。5年前は1000人規模の会場が精一杯だったことを考えると夢のようである。社長の目から涙が落ちてきた。

「や、やだ・・・社長・・・私まで・・・うっ・・く」

いつものように13時に集合して全員でリング設営。きょうは花道やオーロラビジョンの設営、照明関係も大掛かりなので協力イベント会社さんも大勢のスタッフが。そのあといつもと同じように練習。草薙みことが武道館のアリーナをタッタッタと走る。

「さすがに・・・長いですね・・・」

「ハイブリッド、調子はどう」

入門間もない長期ロードの体調を気遣う。

「大丈夫です、ねえ・・・いや南さん」

このシリーズ、いくら南利美とのタッグとはいえシングルではまず勝てない格上相手にぶつけられ続けるというハードなカード編成。裏で社長に「新人であんなカード編成ありですか?」と抗議したのだが、社長は「これも試練だ、まげて承知してくれ」と謝られた。

17時半開場。選手が控室に戻る。そして見たものはー

超満員札止め15742名の大観衆。今野社長は昨日の時点で前売り券完売の連絡を受けていたが、当日券もはけてしまったようだ。やはりメインにいまのSPZで考えられる最高のカード、伊達対草薙をぶつけた効果があった。

18時半、試合開始。きょうは全7試合の豪華版。

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第1試合はミシェール滝引退試合。

武闘館のリングに最初に足を踏み入れたのは保科優希。彼女も旗揚げメンバー。1期生がしのぎを削る中、前座要員兼アイドルレスラーとして団体を今日の繁栄に導いた。いつものようにTシャツをはおってにこやかに手を振りながら入場。

ミシェール滝のド派手なテーマ曲が流れ、金色のロングガウンをまとった滝がレーザー光線をバックにド派手な入場で最後のリングへ向かう。

試合はチョップの応酬から頃合いを見て保科がアキレス腱固めなどを仕掛けてくる。武道館のオープニングを任された緊張感と、長い間前座戦線で苦楽をともにした滝さんが引退・・・とあって、懸命に動き、自分のプロレスを貫いた。最後はショルダータックルで倒してカウント3を奪った。勝負タイム20分27秒。リング上で握手をしてから退場。ここでサプライズ。

スーツ姿のミミ吉原さん登場。現役最後の試合を終えたばかりの滝に花束を渡す。

「あ、ありがとうございました」

SPZの草創期を支えた二人で手上げ。

井上レフェリーとミミさんでMC。

「きょうは、ようこそ、SPZの武闘館大会へ!これから始まるのは戦いのワンダーランド、きょうは楽しんでいってください!」と挨拶。

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第2試合、渡辺智美が走って入場。反対側コーナーからは富沢レイが深夜アニメのコスプレで入場。試合の方は富沢が渡辺を軽く一蹴。フィニッシュは延髄斬り。10分33秒。

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第3試合は小川ひかる対ウィン・ミラー。唯一の日本人VS外人のカード。オガワコールの大声援の中、小川は社長にもらった銀色と青のガウンで入場。人気抜群実力微妙の選手の入場に、場内の声援が盛り上がる。青い紙テープが乱舞。試合はEWAのベテラン選手、ミラーの老かいな攻めに苦しむ。小川もSTF、ローリングソバット、バックドロップと持てる技を出し尽くすが決まらない。逆にウィン・ミラーのフェイスクラッシャーを浴びて3カウント。それでも30分の熱戦に会場は大いに盛り上がった。ここで前半戦終了、15分の休憩。

小川ひかるがセコンドの保科に肩を抱えられながら「元チーム関節地獄」控室に戻る。

「ハァ、ハァ、武闘館で・・・勝てなかったっ」

「お疲れ様、いい試合だったわ」

南利美が小川にタオルを差し出す。

「休憩前の試合でガチで30分やってしまう、初めて来た人には驚いたと思うわ。社長もそのへんわかっててカード組んだと思うけど」

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休憩明けの第4試合は外国人選手同士の激戦。マリア・クロフォード、デスピナ組にスミルノフ、ドリュークライの一戦。

デスピナも旗揚げ時からの常連外人、旗揚げ戦メインでミミ吉原と闘ってから5年後、まさかこんな大きい会場でやれるなんてと思いながらファイトして、最後はクロフォードを呼び込んで合体パワーボム。22分7秒の激闘であった。

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セミ前は南姉妹コンビ対秋山沢崎の1期生コンビ。姉の目から見てハイブリッドの技術はまだまだ未熟。ここは私が前面に立って踏ん張らないと・・・そう考えて奮闘するが、流れを作って変わったとたん一期生コンビに標的にされて、パイルドライバーであわや3カウントまで追い込まれる。

沢崎はあえてハイブリッドを解放し、「出て来い、関節バカ」と挑発して南利美を呼び込む。沢崎としばらくハイレベルな攻防を繰り広げ、やや疲れたところで秋山が出てきた。

「1対2ね・・・やってくれるわね・・・」

形勢不利になってたまらずハイブリッドにタッチした。今度は待ってましたとばかりに秋山が猛攻を仕掛けネックブリーカーでカウント3。勝負タイム17分45秒。

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セミファイナルはSPZの次代を担う選手の一騎打ち。上原今日子対吉田龍子のシングルマッチ。パワーでは完全に上を行く吉田がラリアットを連発して追い込むが、上原もキャプチュード3連発の容赦ない攻め。吉田龍子の意識を断ち切ってフォール勝ち。勝負タイム15分48秒。

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そしていよいよメインイベント。

青コーナー側から挑戦者草薙みこと入場。

よく分からない和風のテーマに乗って、白衣を着て錫杖を持った草薙みことが入場。場内息をのむ。

赤コーナー側花道から王者、伊達遥が入場。

「ファンクラブから寄贈された」鳳凰があしらわれたロングガウンをはおって伊達入場。腰にはSPZベルトが巻かれている。

今野社長が両方の名前をコール。草薙の時は白い紙テープ。伊達のときは紫の紙テープがリングに降り注ぐ。セコンド連中が片付けるまで少しの時間がかかった。

「先々月、伊達のニーリフトにやられた草薙が復讐を果たすのか、それとも伊達が返り討ちにするのか、解説は小川ひかるさん、ゲストはミミ吉原さんです」

結局のところ伊達さんには投げて投げて投げるしかやりようがない。

草薙は作戦にもならない出たとこ勝負で伊達に挑んだ。中盤スクラップバスター、DDTで伊達のディフェンスを崩しにかかるもここで伊達がニーリフト、STOの猛攻、草薙もサソリ固め、ノーザンを繰り出すも伊達がニーリフトで逆襲。2ヶ月前と同じように衝撃で草薙の身体が浮く。

しかし、もがき苦しみながらもどうにか立ち上がる。

同じ技で負けられない。震える足を引きずりながら組み付いていってノーザンライト、返されて立て続けにドラゴンスリーパー、しかしあまりにもロープに近い。

いつの間にか間合いを取られている、でも、組み付いて投げるしかないんだ。そうしないとこの人には勝てない。

と思っていたら伊達が鋭く踏み込んで、草薙の頭にSPZキック一撃。前のめりに倒れる草薙。もう意識はない。ひっくり返して片エビでカバー。

「ワン、トゥ、スリッ」

阪口レフェリーの手がマットを3つ叩く。伊達遥が45分3秒の激闘を制した。王者は2度目の防衛に成功。小川と南利美に抱えられて退場する草薙。リング上で一礼して引き上げる伊達、場内からは惜しみない「SPZ」コールが押し寄せた。

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SPZ世界選手権試合

○伊達遥(45分3秒、SPZキックからの片エビ固め)草薙みこと×

第6代王者が2回目の防衛に成功

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最後に、ミシェール滝選手の引退式。

「今までありがとう!不死鳥も翼を休める時がきたようだ」

最後までかっこよく挨拶して引退式を終えたミシェール滝。

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ミシェール滝 6年目4月 引退

 タイトル歴なし 写真集なし

(しかし、1年目の7月からフリー採用して、SPZを前座要員として盛り上げ、若手選手の最初の壁として立ちふさがったことは素晴らしい功績だったと思います

2007年2月17日 (土)

6年目4月 ハイブリッド南の「復しゅう」計画

6年目

「・・・瑠美、あなた、本気なの?」

南利美のアパート、彼女は珍しく高知の実家と長電話。

「死ぬほどハードよ、へたすりゃホントに死ぬかも知れない所なのよ。このあいだもビデオ見たでしょ、草薙さんが膝蹴りもらっちゃった所」

「何ですって、ダメなら新人テスト受けに行く?あー分かったわよ、本当にどうなっても知らないからねッ!社長に口利いとくけど、本当に知らないからねっ!バイバイッ!」

ああもうどううやって説明しようかしら。

半分怒りながら南利美は朝昼兼用のパンをくわえた。

「社長いる?」

ジャージ姿で事務所へ乗り込む。井上秘書が伝票整理をしていた。

「あ、リミちゃん、いま社長滝さんと話しているから」

「滝さんと?」

先シリーズの飲み会でミシェール滝は引退をぽつりと口にしていたのでああ、その話だなと感じた。

「長い間お世話になりました。これからは舞台女優に専念しようと思います。私のことは伝説として語り継がれるでしょう。」

最後までミシェール節に圧倒されながらも社長は了承した。

そのあと社長室で。

「ああ南さん、はい、何の用?このあとイベント会社さんと打ち合わせがあるから短めでお願い」

「実は、私の妹がSPZに入りたいって」

「えうおえ、南さん妹いたの?」

「ええ、6つ下の」

「運動神経とかスポーツ経験は?」

「姉の目からで何だけど・・・私と同じくらい、いや私以上かも・・・アマレスと陸上をやっているわ」

「よしゃ、獲得だッ!井上さん飛行機押さえて、いまから高知行くから」

「しゃ、社長、ユリシーズエンターテインメントさんとの打ち合わせは」

「適当に話聞いといて、南さん、高知行くぞーー」

「えええ、私も?」

翌朝高知で入団交渉。

「南瑠美です、よろしくおねがいしますっ」

「に、似てますねぇ~」

まだ少女のあどけなさが残るもののうりふたつである。

「で、南瑠美さん」

「は、はいっ」

「ど、どうしてプロレスを志願したのでしょうか」

「姉から聞きまして、試合しながら日本全国を回れるってことと、頑張れば海外いけるかもしれないって事と、あと写真集や映画とかにも出られるって・・」

「で、でも瑠美さん、プロレスの実態、こうだよ。」

「あ、あたしの映像っ?」

「その通り。」

今野社長はパソコンを立ち上げて「南さんフォルダ」の画面を開いた。

「あ、悪のみこみこ、草薙みことだっ!」

映像は南が草薙に投げられまくってフォール負けする試合のもので、最後の一撃は頭から落とされて南が半失神に追い込まれてセコンドの肩につかまりながら退場するといったハードなものだった。

「こんな目にあうかもしれないけど、それでもやっていけますか?」

「と、当然ですっ。私は姉さんの出ている週刊ハッスルと京スポ新聞は必ず目を通してます」

「京スポは読んじゃダメだって!」

姉の叫びはスルーしてスクラップブックを取り出した。そこには「関節のヴィーナス、撃沈!」「南、またナスターシャに失神処刑」といった見出しが。ああ、南さん最近はいい思いしてないからなあとふと思い出したが、南瑠美はひとこと。

「あたし、姉さんの仇を討ちたいんです!」

「へ?」「ぶっ」机に突っ伏す南利美。

「最近の姉さん、草薙みことや伊達遥、最近では吉田龍子にまでやられてるのよ、悔しくて悔しくて。あたしが復しゅうしてやるんだからっ」

「・・・・」

「1年であのヒザゲリ魔王の腕をへし折ってやるっ」

姉とは対照的なテンションの高さに呆れて社長は契約条件を切り出すどころではなかった。

「あ、いちおうリミさんとのタッグで売り出す予定だから。プロレスで兄弟タッグはファンクやマレンコとか有名だけど姉妹ってのはなかなかいないから。そのためにも練習、ハードだけどついてこれる?」

「はいっ!死ぬ気でやりますっ!」

こうして南瑠美―まぎらわしいので「ハイブリッド南」とリングネームをつけさせたーはSPZに入門した。

「あ、瑠美、これだけは言っとくけど」

「これからは姉さんじゃなく、南さんと呼びなさい」

「・・・どっかで聞いたような話だけど、わかったわ」

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その翌々日。社長から全選手に重大発表。

「皆さん、今月はいろいろあってゴメン。滝さん引退やらハイブリッド南入門とかであれなんだけど、うちの会社、ブトーカンやります!」

一期生絶叫。「えーーーーーーーっ!?」

「4月21日、旗揚げ5周年記念興行。メインは伊達さん対草薙さんのSPZ選手権。ついでにといっちゃなんだけど滝さんの引退セレモニーもやります。お客さん入んなかったら会社つぶれるから、みんなの力を貸してくださいっ!」

「つ、ついにブトーカンですかあ、社長やりますねぇ」

沢崎にほめられてウァハハハハと笑う社長。

そうして4月シリーズ「旗揚げ5周年記念シリーズ」が始まった。

初戦は北海道、釧路大会。

「ハイブリッド南さん、きょうデビュー戦、頑張って」

社長からリングコスチュームとシューズを手渡された。色違いだが姉とお揃いのコスチュームだ。

「あしたからは当分リミさんとのタッグだけど、きょうはデビュー戦だからシングルで滝さんとやって」

「わかりました」

釧路大会の第1試合、「ミシェール滝引退カウントダウン8」と銘打たれた試合で、ハイブリッド南がデビュー戦。

リングに上がって、輝く照明を浴びてリングアナにコールされる。

これが・・・姉さんの戦っている世界。

姉譲りのスリーパーや脇固めで良く抵抗したが、最後はスタミナ切れを起こしたところをミシェール滝のタックルに力尽きてフォール負け。勝負タイム12分41秒。

第2戦札幌大会、ついに姉妹タッグが始動。セミ前の試合でウィン・ミラー、クロフォード組と対戦。中盤、ハイブリッドがつかまるシーンもあったが、最後はタッチを受けた南利美が大車輪の活躍。最後は合体パワーボムでミラーを沈めた。

札幌大会のメインは伊達、上原のAACタッグ王座に秋山、沢崎が挑むタイトルマッチ。36分の激戦の末、最後は伊達がSTOで秋山からカウント3を奪い初防衛に成功。

そしてシリーズは進み、ついに4月21日。SPZ初ブトーカン決戦の日がやってきた。

2007年2月16日 (金)

第35回 5年目3月 盛岡大会

5年目3月

3月シリーズ「バトルアトランティス2014」は東北地方を巡業する。

巡業する選手たちの一日の流れは下記の通りである。

「おはよーございまふ」朝10時青森市のビジネスホテル前に集合。

「小川さん、全員いる?」

「はい、大丈夫です」

この団体はストイックな選手が多いので、朝の集まりはいい。逆に社長や営業スタッフの方が業務上の交際や細かい雑務に追われて井上秘書に携帯を鳴らされて起こされるパターンが多い。

「じゃあ、出発だ」

路線バスを改造した移動車両に乗り、すぐに外国人用の宿舎に立ち寄りEWAの外国人選手やデスピナといった招待選手を乗せる。バスは東北自動車道をひた走り、きょうの興行開催地盛岡へ向かう。移動バスの中では若手選手はたいてい眠っている。小川ひかるは「個人情報保護士認定試験」といった本を読んだりしている。南利美はポータブルDVDで試合チェックに余念がない。沢崎秋山は眠ったまま過ごし、伊達遥は携帯サイトを見て時間をつぶしている。井上霧子秘書はお菓子を食べ漁り、今野社長は新聞や雑誌のチェックをしたあとはノートパソコンを開いてメールを打っている。最近は移動の際にも高速道路が使えるほど団体の懐具合もましになってきた。

午後1時ごろ盛岡市街に入った。昼食は各自で盛岡市内で軽くすませ、そのあと2時過ぎに会場「友愛ドーム」入り。まず全員でリング設営。今野社長も「メタボリックシンドローム」防止のため鉄骨を運ぶ。土台の鉄骨を組んで、板を敷いてマットを敷く。キャンバスを敷き詰め、エプロンを張りロープを張って完成。20人がかりなので設営は比較的速いほうだ。時間が押しているときは外国人選手も手伝ってくれる。

このころ会場設営スタッフが来て、音響関係や照明関係のセッティング。大型ビジョンも設置。今野社長は進行具合を確認しながらロープの張り具合をキュッキュッと調整。そのあと自分で受け身なども軽く試して、リングの音の鳴り具合を確認してみる。このへんで16時ごろ、選手がわらわらと練習。会場の外周を草薙みことと富沢レイ、伊達遥の3人が軽快にランニング。リング上では沢崎と秋山が受け身の練習。その隣で南と小川が関節技のスパーリング。リング下では保科、渡辺、ミシェール滝の3人がまったりとストレッチで身体をほぐす。会場の隅で吉田龍子と上原今日子が黙々とバーベルを上げている。

会場隅のテントでは今野社長と井上秘書が長机にグッズを並べていた。販売商品はTシャツ(伊達、沢崎、秋山、上原、草薙、保科、小川、富沢の8種類、各2500円)と販売された写真集、SPZの激闘を収録したDVD(3000円)である。

17時半、「開場しまーす」と井上秘書が発し、選手はいったん控室へ。日本人選手は青コーナー側と赤コーナー側、外国人選手は外国人選手控室に陣取り準備する。ほどなく観客が入ってくる。今野社長と井上秘書は営業スタッフとともに売店で「増収」に励んだ。

レイちゃんTシャツが売れてきたな・・・

そう思いながら今野社長が販売に没頭していると「お!社長!」「あ!霧子さーん」と常連ファンから声がかかる。弱小団体から始まったので、いい意味での手作り感の残っている団体とファンの間では評判で、社長がグッズ販売の先頭に立っているのは周知の事実である。

そして試合開始の18時半が近づき、社長は売店を離れてスタッフの控室へ向かい、「イタリー製高級スーツ」に着替えて、木槌とゴング、選手たちのテーマ曲の入ったノートパソコンを携えてリングサイド本部席へ向かう。本部席に座るのは社長と京スポ新聞、週刊ハッスル、週刊リングの記者。社長が本部席に陣取ったところで場内暗転。館内がワアア・・・と歓声。

木槌でゴングを5回叩き、社長が挨拶のあとカードを読み上げる。第3試合のほかは顔見せ的なカードを並べたので反応は今ひとつであった。

第1試合は「6時半の女」ミシェール滝対「シングル戦でいまだ勝ち星のない」渡辺智美。永沢舞の連敗記録をとうに更新している。ミシェール滝の格好つけたファイトに館内笑いが起こる。最後は客席にアピールしまくってからミサイルキックで滝が快勝。続く第2試合は「箱入り娘。写真集5冊」保科優希対「常連外人」デスピナ・リブレ。保科もアキレス腱固めや逆片エビなどで良く攻めたが、最後はデスピナが鋭いローリングソバットを決めて3カウント。ここで休憩。

休憩後の試合は南利美対上原今日子。関節のヴィーナスの登場に場内は沸き立つが、試合が始まったら独特のレスリングに館内は静まり返る。だが上原もグラウンドでの攻防には少し付き合っただけで、ドロップキックやローリングソバットでダメージを与えてゆく。しかし中盤、逆片エビ固め、腕ひしぎと南が関節地獄で上原の動きを止める。裏投げはカウント2.9で返した上原だったが続くフランケンシュタイナーを返せず3カウントを聞いた。24分31秒の真剣勝負に場内拍手。

セミは草薙、小川のAACタッグ王者チームに最近急速に力をつけてきた吉田龍子、富沢レイの異色タッグという組み合わせ。4人のコール時には大量の紙テープが舞う。草薙組の先発は小川。吉田のラリアットを脇固めで切り返して沸かせる。小川のうまさは相手を深追いせず、すぐ草薙にタッチするところ。さすがに吉田と草薙では吉田の分が悪くなるが、吉田が早めのスプラッシュマウンテンで草薙に大ダメージを与える。これで小川がダメージ回復のために捕まってしまう。どうにかしのいで草薙にスイッチ。頃合いを見て草薙が兜落とし発動。豪快な投げ技に館内沸く。小川は富沢の前に立ちふさがる。これで吉田はカウント3を奪われた。タッグ王者が連係の良さを見せて快勝。頭を押さえて悔しそうに引き上げる吉田。人気チームの勝利に館内沸く。

そしてメイン。地方大会ではメインは6人タッグが組まれることが多い。沢崎秋山伊達の一期生トリオに、ナスターシャ・ハン、ロレン・ニールセン、ユーリ・スミルノフのEWAトリオ。単純明快な日本人対外国人のカード。セミまでの激闘ですっかりファンも出来上がっているので館内は大盛り上がり。試合は伊達の蹴り、沢崎の投げが良く決まり、秋山も良くつないで外国人チームを追い詰めて行って、最後はなんと秋山がナスターシャ・ハンを肩車で担いで、コーナー最上段から沢崎がダイビングラリアット!ダブルインパクト炸裂。滅多に見られない超絶連係に盛岡のファンは大声援。EWAのトップ、ナスターシャもこれは返せず3カウントを聞いた。17分13秒と、勝負タイムはSPZにしては短かったが、豪快な結末にファンは沸いた。

メインが終わったのが20時半、日本人選手総出でリング撤収。21時半には全員が会場を後にしてバスに乗り込んだ。盛岡市内の宿舎に荷物を置いて、各自連れ立って食事へ。伊達秋山沢崎は焼肉店で肉類を補給し、少しビールを飲んだ。草薙富沢上原は和食ファミレスチェーンで向かい、南と滝は吉田を連れて盛岡での行きつけの洋食店へ。今野社長と秘書井上は小川ひかる、渡辺智美と寿司屋へ。負け続けの選手へ高級食事で懐柔するのは旗揚げ以来の手法である。23時過ぎには各自宿舎へ戻り、翌日も秋田で興行があるので早めに寝る。

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こうして東北巡業も進んでゆく。第3戦の秋田大会、南がまたも吉田に敗れるハプニング。スプラッシュマウンテンを返す事ができなかった。勢いに乗る吉田は翌日の仙台大会でも秋山相手に優位に試合を進め、26分の激闘の末ドロップキックで秋山から3カウント。

仙台大会のメインは沢崎対ナスターシャ・ハンのEWA選手権。EWAのエージェント、クリステン氏が「EWAベルトはうちの宝ダ!ナントシテモ取り返してコイ!」と厳命し、「奮起した」ナスターシャが連続挑戦。こんどはハンの執念が勝り、試合終盤STFとドラゴンスリーパーが決まって沢崎からギブアップ勝ち。ベルトがEWAに戻った。

第7戦宇都宮大会のメインは、草薙、小川のAACタッグ王座に伊達、上原の「南国ストロングス」が挑む。

―まずまっさきに小川さんをつぶして草薙さんを孤立させる。いくら草薙さんでも1対2では隙ができるー

そう作戦を立てて王者組に挑んだ伊達組。序盤、伊達が小川に打撃で猛攻を仕掛けて、エルボーでいきなり小川を鼻から流血に追い込む。やっと反撃したあと草薙にスイッチしたが、上原と伊達にかわるがわる攻められては草薙にもスキが出始め、そこを狙った伊達、殺人ニーリフト2連発。1ヶ月前のSPZタイトル戦の惨劇が蘇る。ここは小川のカットに救われた草薙、だが、カットに入った小川を二人がかりで殴って場外に落として、孤立した草薙に合体パワーボム。さすがの草薙みこともこれは返せなかった。王座移動。

最終戦は埼玉・市ヶ谷記念ホール大会。第3試合で富沢レイが23分の激闘の末、小川ひかるをローリングソバットで前月に引き続き下す。セミ前は南対ナスターシャ・ハンの「関節技世界一決定戦」。ハンがドラゴンスリーパーで南からギブアップを奪った。セミは草薙、吉田のタッグがニールセン、スミルノフのEWA軍と激突し、草薙がニールセンをフォール。そしてメインのSPZ選手権は、伊達遥対沢崎光のSPZ選手権。

沢崎は直近2回のSPZ選手権では勝てないまでも2回連続で60分フルタイムドローを演じているのでなんとかするかと思われたが、今回は伊達が終始ペースを握り、沢崎のタイガースープレックスを受け切って、そのあと殺人ニーリフト2連発。沢崎悶絶。フォールを返せず。伊達が初防衛に成功。

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SPZ世界選手権試合

○伊達遥(20分くらい、ニーリフトからの片エビ固め)沢崎光×

第6代王者が初防衛に成功。

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2007年2月15日 (木)

5年目12月~2月 吉田龍子、南越え・・・

5年目12月。

富沢レイに写真集依頼。アイドルレスラーと言う位置づけなので受ける。こうして富沢レイファースト写真集「SAZANAMI」が発売された。草薙みことに写真集依頼、さすがにこれは断った。

新日本女子からEXタッグリーグ戦の出場依頼。業界最大手への敬意を表してと、新規ファン強奪を目的にして、現時点での最強選手2人、草薙みことと伊達遥を送り込むことにした。

残った選手で「2013SPZスノーエンジェルシリーズ」を開催。

第1戦札幌大会のメインは、AACタッグ選手権。王者のハン、スミルノフのロシアンタッグに南、吉田の急造コンビが挑む。ベルトを獲れるとは思っていないが、吉田に経験をつませるためにこのカードを組んだ。といっても南は意図は分かっていたが関節を取って勝つ気でいた。

ハンの恐ろしさは警戒していたが、スミルノフのパワーファイトもけっこう痛い。南のダメージは蓄積して行った。吉田も少ない技のレパートリーを懸命に繰り出して南にスイッチ。しかし最後はスミルノフがバックドロップを連発して南を戦闘不能にし、孤立した吉田にダブルパワーボム、ダブルパイルドライバーで公開処刑。王者組が勝利した。

試合後の控室。吉田は頭を押さえて大の字。

「ごめんなさい、南さん」

「いいのよ、先につかまったのは私だから」

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その翌々日、吉田龍子が日本人6強の一角を崩してしまう。上原今日子のフェイスクラッシャー、シャイニングウィザードを受けきったうえでパワーボム炸裂。

これで棒立ちになった上原に、組み付いてニーリフト。伊達のような鋭さはないが、重さがある。悶絶する上原に覆いかぶさってカウント3。

「上原さんに、勝った・・・」

信じられない表情でリングを後にする上原。

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第6戦仙台大会、集客のために組んだタイトル戦はナスターシャ・ハン対沢崎のEWA選手権。沢崎が投げ技攻勢で優位に試合を進め、最後はロープに振られたところを背面トペで切り返してそのまま押しつぶしてカウント3。沢崎がEWAのベルトを巻いた。

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年内最終戦は埼玉、市ヶ谷記念ホール大会。メインは南対ナスターシャ・ハンの関節技世界一決定戦。今回はハンが積極的に攻めて、ドラゴンスリーパーで南を半失神に追い込んだあとにパイルドライバーを決めて3カウント奪取。この両者の抗争は来年も続きそうだと社長は感じた。

EXリーグに参加した伊達、草薙組は全勝で優勝賞金を手に入れた。

そして年末恒例のプロレス大賞。最優秀選手には2年続けて草薙みこと。年間通じたタイトル戦線での活躍が評価された。最優秀新人は吉田龍子。めざましい成長ぶりでタッグベルト挑戦や上原越えといった活躍が評価された。また、シングルのベストバウトを伊達対草薙のSPZタイトル戦が受賞。タッグのベストバウトでは、どこかの地方会場でたまたま組んだ南、草薙組対伊達、秋山組が受賞となった。

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5年目1月

年が明けて2014年、伊達遥が負傷。タッグリーグ戦で右肩を痛めた。沢崎光も前シリーズで右足を負傷したので両者とも欠場。保科優希に映画出演依頼。アイドルレスラーなので引き受ける。

1月シリーズ「2014新春ダイヤモンドバトル」が始まった。初戦の新潟大会、おとそ気分を吹き飛ばすような大事件が。

セミファイナルで組まれた南利美対吉田龍子。実力はまだまだ南の方が上と見られていたが、吉田が勝ってしまった。南の脇固め攻勢をしのぎきった吉田がDDTを乱発。4回も脳天をマットに打ちつけられてフラフラになった南、さいごはブレーンバスターに行こうとしたところを逆に投げ返されてそのままカウント3を喫した。

「そ、そんな・・・」

南利美のここまで動揺した表情も珍しい。SPZ旗揚げ以来トップグループで戦ってきた彼女がここでデビュー1年立ってない新人に敗れるとは・・・呆然としながら引き上げた。

ざわついた雰囲気のまま始まったメインイベント。草薙みこと対ナスターシャ・ハンのノンタイトル戦。両者の持っているベルトをかけてしまうと、どちらのベルトが格上かという厄介な問題になってしまうのでノンタイトルで組んだ。草薙が優勢に試合を進め、最後はタイガースープレックスでカウント3。

波乱は翌日も続く。富山大会のセミファイナルは吉田龍子対秋山美姫。秋山が持ち前の総合力で吉田に付け入る隙を与えないまま追い込んでいったが、最後に大逆転。

吉田が秋山をパワーボムの体勢に捕え、肩の上まで高々と担ぎ上げてから、そのあと垂直に落とすスプラッシュマウンテンを初公開。夜の道場で小川相手に男子団体のDVDを見ながら何回も失敗したあげくようやくマスターした代物で、完成したときは小川が気絶してしまったほどの威力のある技である。

カウント2で返す秋山、頭を押さえているところへもう一度

スプラッシュマウンテン!

カウント2.5で返す秋山、もう一度近づいていってー

パワーボム炸裂。辛うじて2.8で返した秋山だったが、起き上がったときは足元がふらついていた。

ーやばい、やられる。

組み付かれてニーリフト。重いヒザが秋山にドバドバと命中。

すかさず吉田がフォール。秋山は返せなかった。控室モニターで見ていた選手たちはあ然。

「昨日リミさんに勝ったのはまぐれじゃないみたいですね・・・」

「す、スプラッシュマウンテンなんて、あんな技受けきれるかしら」

南と草薙が驚異の新人の出現に頭を抱える。

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第4戦の高岡大会、富沢レイが小川ひかるに初めて勝った。ローリングソバットや延髄斬りで優勢に試合を進め、小川が逆転を狙って仕掛けたSTF,ストレッチプラムをしのぎきって、逆にストレッチプラムで大ダメージを与え、そのあとアームホイップで投げつけてカウント3。

「勝ったーッ!初めて小川さんに勝ちましたー!」

29分41秒の激闘を制した富沢が喜びを爆発させる。同期の草薙は団体トップのSPZ王者になったが、富沢も長い下積みに耐えて、ようやくここまで成長した。

小川が重い足取りで控室へ。

「あー、ミミさんの気持ちが分かってきた」

後輩に追い抜かれるのにも慣れてきたが、富沢さんのように会社が「アイドル系」として売り出してる人にまで負けるとは、ああ・・・情けないなと思いながらシューズの紐を解いた。

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7戦目の名古屋大会。AACタッグタイトル戦はハン、スミルノフのロシアンコンビに草薙、小川の前王者が挑むカード。

「小川さん」試合前の控室。

「あ、社長、何ですか?」

「こ、これ・・・着てって」

手渡されたのはガウンだった。銀と青を基調としたデザインのキラキラと光る素材で作られたガウンで、背中には「OGAWA」の文字が。

「あ、ありがとうございます」

この団体は入場時のコスチュームに無頓着な団体(富沢レイを除く)なので、小川ひかるの入場ガウンは目立った。

一方外人側控室では、

「クサナギにダメージを与えてツブセ、そうしたらオガワがデテクル。オガワはヨワイからコリツさせればカンタンに倒せる」

「オウ」

こういう作戦を練っていた。さてゴングが鳴り、作戦通りにロシアンタッグは挑戦者組を切り崩しにかかり、ハンの関節地獄、スミルノフのバックドロップで草薙に大ダメージを与えたが、小川も良く粘って草薙にタッチ。ここで草薙が、ミミ吉原直伝のドラゴンスリーパーをスミルノフに決める。小川はハンを逆カット。スミルノフはあっけなくギブアップ。こうして草薙、小川組(チーム名:ザイテングラート)にベルトが戻ってきた。

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翌日、最終戦は代々木大会。SPZ王者となった草薙が挑戦者に指名したのは、南利美。前回王者になったときに初防衛戦で腕ひしぎでギブアップに追い込まれたことを覚えていたのだった。

「ふふ、あの子も根に持つタイプなのね」

南利美が落ち着いてウォーミングアップ。最も直近のシングル戦では勝てていないので、今回は草薙有利と見られていた。ポスターは例によって「草薙の投げ技か?南の関節地獄か?1.20代々木決戦。」というあおり文。

午後8時20分、メインイベントのゴングが鳴った。序盤は互角の展開。南はしつこく脇固めで草薙の腕を攻める。中盤草薙の投げ技が決まりだし、フライングボディプレスで追い込んだところで南が飛びつき腕ひしぎを出してきた、。いままでしつこく脇固めを出してきたのはこれでギブアップを奪うためだった。

草薙の腕に痛みが走るが、何回も受け続けた技なので、落ち着いてポイントをずらして、体勢を入れ替えて脱出。そのあと草薙がラッシュをかけ、ノーザンライト→タイガースープレックスとつないでカウント3奪取。42分22秒の激闘を制した。

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SPZ世界選手権

○草薙みこと(42分22秒、タイガースープレックスホールド)南利美×

第5代王者が初防衛に成功

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5年目2月

小川ひかるに映画出演要請。大会場興行資金をためたいのでOKを出した。

2月シリーズ「UZUMAKIバトル2014」が開幕。この団体の恐ろしいポリシーのひとつに「カードの出し惜しみをしない」と言うものがあり、先シリーズ南、秋山をシングルで撃破し大ブレイクした吉田龍子に更なる試練が与えられた。いきなり初戦の神戸大会、セミで前SPZ王者、伊達遥と激突。

だがやはり、伊達は吉田の攻撃をものともしない。終盤、吉田がスプラッシュマウンテンを繰り出したが、これは伊達が余裕があって吉田にも見せ場を作ってあげたようであった。最後は殺人ニーリフトで吉田にフォール勝ち。

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翌日の神戸大会、メインはナスターシャ・ハン対吉田のAACタイトル戦。意外と好試合になり、吉田もそれなりにハンを追い込んだのだが、終盤にアキレス腱固めが決まる。

「ぐわぁぁっ!」

吉田の痛がり方は尋常ではない。

たまに草薙さんや富沢さんに極められるのとはものがちがう。これがアキレス腱固めの怖さなのか。

吉田は結局ギブアップするほかなかった。

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第4戦京都大会では沢崎対ナスターシャ・ハンのEWA選手権。ハンが王座奪還に向けて積極的に攻めたが、沢崎が投げ技を的確に極め、最後はネックブリーカーからフォール勝ち。

第6戦、群馬大会のメインは沢崎対吉田のシングルマッチ。吉田も良く沢崎を追いこんだが、タイガースープレックスで形勢逆転。これでダメージを負った吉田。たてつづけにジャーマン、再度のタイガースープレックスを食らってフォール負け。悔しがりながら引き上げる吉田。

第7戦、幕張大会のメインは草薙対吉田のシングルマッチ。だが草薙もSPZ王者、危なげなく吉田をポンポンと投げ、最後はタイガースープレックスで3カウント。

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最終戦、横浜体育館のメインは草薙みこと対伊達遥のSPZ選手権。第5代王者の草薙が前王者、伊達の挑戦を受けるカードだが、今回は伊達の打撃が冴え渡り、殺人ニーリフト2連発。これで草薙は動けなくなった。立ち上がったところをコーナーから伊達がミサイルキックで飛んできた。その後のフォールをカウント2.9で草薙、ギリギリで返す。

長い時間をかけて草薙が起き上がるのを待っていたように伊達が組み付く。3度目のニーリフト乱射。衝撃で草薙の身体が浮き上がってしまう。ピクリとも動かない草薙の上に覆いかぶさってフォール勝ち。伊達遥、4ヶ月ぶりにベルト奪還。

セコンドの南、富沢の肩を借りて引き上げた草薙。床の上に倒れこんだ。試合後のコメントは出せる状態ではなかった。富沢が草薙のシューズの紐を解き、毛布をかける。

「うー、」草薙みことが眉をしかめる。

「ああ、悔しい、・・・来ると分かっていても・・・あのヒザは防げない・・・」

「・・・また、次があるわ」

南が声をかける。

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SPZ世界選手権試合60分1本勝負

○伊達遥(30分くらい、ニーリフトからの片エビ固め)草薙みこと×

第5代王者は2度目の防衛に失敗、伊達が6代王者となる。

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2007年2月14日 (水)

第33回 絶対王者伊達敗れる・小川ひかる20歳バースデー

沢崎光に映画出演依頼。資金をためたいので引き受けた。

小川ひかるに写真集の依頼、AACタッグの防衛戦をやりたいので断った。

そして10月シリーズ「バトルオータムシリーズ」開幕。

3戦目の京都大会、またも上原がナスターシャ・ハンのAAC王座に挑んだが、あえなく敗退。そして第4戦大阪大会―

第3試合で小川ひかる対吉田龍子のシングルマッチ。吉田が持ち前のパワーで終始圧倒し、最後はDDTからのドロップキックで3カウント。デビュー半年で小川越えを達成。とんでもない新人だと満場のファンは歓声。

大阪大会のメインはハン対秋山のEWA選手権。結果は先々月と同じ。秋山はドラゴンスリーパーの前にギブアップ負け。

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翌日の第5戦神戸大会、メインはAACタッグ選手権。挑戦者はロシア人の強力コンビ。ナスターシャ・ハンとユーリ・スミノルノフ。果たして草薙小川はベルトを守れるのか、ファンは不安に駆られながら声援を送った。

試合はナスターシャの技術がギラリと光った。草薙の投げ技を2つほど受けてから、ドラゴンスリーパーで弱らせておいてのアキレス腱固め。草薙はロープに逃げられずギブアップするしかなかった。勝負タイム20分5秒、あっさり王座移動。

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最終戦は代々木体育館決戦。第3試合で吉田が再度、小川ひかるをDDTで破り驚異の新人ぶりを見せる。メインはSPZ絶対王者の伊達遥にSPZクライマックス優勝者の草薙が挑む。

―伊達さんのディフェンスを上回る勢いで投げないと。

フロントスープレックス、ノーザンを乱発して伊達の勢いをなくして、タイガースープレックス、これはカウント2.5で返される、が、草薙は最後の一手を考えていた。

―この技で勝つ。

草薙流兜落とし炸裂。伊達の長身が頭からマットに沈んだ。館内に響き渡る歓声と悲鳴。伊達これは返せず、カウント3を聞いた。

勝負タイム29分42秒、絶対王者、伊達はついに敗れて11回目の防衛に失敗。草薙が5代目のチャンピオンに返り咲いた。

「や、やった・・・」

小川ひかるが草薙の腰にベルトを巻いた。肩を落として引き上げる伊達。

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SPZ世界選手権試合

○草薙みこと(29分42秒、草薙流兜落としからの片エビ固め)伊達遥×

第4代王者が11回目の防衛に失敗。草薙みことが第5代王者となる

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5年目11月

11月はタッグリーグ戦の季節。今年は以下の8チームがエントリー。

草薙みこと、小川ひかる

 (前AACタッグ王者、チーム名「ザイテングラート」)

伊達遥、上原今日子

 (元AACタッグ王者、チーム名「南国ストロングス」)

沢崎光、秋山美姫

 (1期生同期入門ペア)

南利美、吉田龍子

 社長が「南さん、パートナーどうする?」と聞いたところ、南は「今年は社長に任せる」と返答したので、驚異の新人、吉田龍子とタッグを組ませることにした。

ユーリ・スミルノフ、ドリュー・クライ(EWA代表その1)

ロレン・ニールセン、ウィン・ミラー(EWA代表その2)

デスピナ・リブレ、富沢レイ

(余ったもの同士・・・ではなく、人気の高い選手同士の「ドリームタッグ」)

保科優希、ミシェール滝(SPZ古参バトラーズ、白星配給係?)

前夜祭の幕張大会のあと、第2戦は高知大会。

デスピナ組○(2点)-×滝組(0点)

草薙組○(2点)-南組(0点)合体パワーボムで南撃沈。

沢崎秋山○(2点)-スミルノフ組(0点)

伊達組○(2点)-ニールセン組(0点)

1日のオフをおいて、第3戦は宮崎大会。

ニールセン組○(2点)-滝組(0点)

草薙組○(4点)-デスピナ組(2点)

やられ役小川の出番ほとんどなし。草薙がほとんど一人でやっつけた。

沢崎秋山△(3点)時間切れ引き分け:△南組(1点)

吉田が沢崎秋山の攻めに沈まなかった。南もうまくフォローし本命相手にドロー。

伊達組○(4点)―スミルノフ組(0点)

第4戦は福岡大会。超満員札止めの盛況。

ニールセン組○(4点)-デスピナ組(2点)

スミルノフ組○(2点)-滝組(0点)

草薙組○(6点)―沢崎秋山(3点)

最強巫女伝説、草薙強い。沢崎秋山をバタバタと投げ倒し、最後は兜落とし、タイガードライバーとつないで沢崎を沈めた。

伊達組○(6点)-南組(1点)

第5戦は広島大会。

スミルノフ組○(4点)-デスピナ組(2点)

南組○(3点)-滝組(0点)

沢崎秋山○(5点)-ニールセン組(4点)

草薙組○(8点)-伊達組(6点)

全勝同士の対決は草薙組に軍配。草薙がタイガースープレックス連発で上原をしとめた。

第6戦は滋賀大会。

スミルノフ組○(6点)―南組(3点)

草薙組○(10点)―ニールセン組(4点)草薙組破竹の5連勝。

秋山沢崎○(7点)-デスピナ組(2点)

伊達組○(8点)-滝組(0点)

第7戦は茨城鹿島大会。

南組○(5点)-ニールセン組(4点)

秋山沢崎○(9点)-滝組(0点)

草薙組○(12点)―スミルノフ組(6点)

草薙がクライに手こずったが、代わった小川がクライに脇固め。これが一瞬で極まってしまいクライがギブアップ。場内大歓声。

伊達組○(10点)-デスピナ組(2点)

最終戦は神奈川・川崎大会。

ニールセン組○(6点)-スミルノフ組(6点)

南組○(7点)―デスピナ組(2点)

草薙組○(14点)-滝組(0点)

全勝の草薙組、最終戦は「安パイ」カード。草薙がドラゴンスリーパーで滝からギブアップ勝ち。

沢崎秋山○(11点)-伊達組(10点)

メインでは秋山が上原をドラゴンカベルナリアで下し先輩の意地を見せた。

「優勝・・・日ごろの修練の賜物でしょうか・・」

「練習の成果を発揮できたみたいです」

草薙みこと・小川ひかるが優勝。今野社長は狂喜乱舞。ともあれ二人に賞状と金一封、副賞の「かに缶詰めあわせ」が贈られた。準優勝の沢崎・秋山にも賞状と「ももかん詰め合わせ」が贈られた。どうやら缶詰メーカーがスポンサーについていたらしい。

翌日、今野社長は井上秘書、小川、南、草薙を誘って行きつけの和食料理店「よこ川」で祝勝会を開いた。

「小川さん、20歳の誕生日おめでとう!」

「あ、ありがとうございます」

「いやー、一期生の頃は勝てない新人だったヒカルちゃんがタッグリーグ優勝するところまで来て・・・」

井上秘書は早くも白ワインをいいピッチで飲んでいる。

「ふふ、社長、小川さんと草薙さんを組ませたのはアンドレ、グレイ組にならったのかしら?」

南がビールをすすりつつ意地悪いつっこみ。

「いや、みこっちゃんの方から小川さんと組みたいって言ってきたんだけど、こっちの狙いはそんなところもあった」

「アンドレって、草薙さんが・・・?」

「ある意味、投げ技が出だしたら手のつけられない選手だから」

「アンドレ?グレイ?誰のことなのでしょうか?」

どうやら草薙は古いプロレスネタにはついていけないようだ。

「さあ飲もう、食べよう、今日は社長のおごりだ!」

こうして小川ひかるの20歳の誕生日が過ぎた。けっきょく彼女は少し飲まされてしまった。

帰り道、

「社長」頬を少し赤らめた小川が囁く。

「本当にありがとう、いままで頑張ってこれたのは、社長がいたからだと・・思います」

「・・・・・小川さん、来年はブトーカンやるよ。小川さんにはみんなをまとめていってもらわないと」

「・・・はい。」

2007年2月13日 (火)

第32回 5年目9月 第5回SPZクライマックス

さてシリーズ2戦目の秋田大会から地獄のリーグ戦がスタート。

○小川ひかる(2点、16分59秒・STF)デスピナ

リーグ戦最初の試合は小川対デスピナ。5年間にわたって何回も対戦しているのでお互い手の内は分かっている。デスピナの飛び技に苦しんだものの最後はリング中央でSTFが決まり、たまらずデスピナはギブアップ。この快挙に社長は「やったーッ」と叫んでリング上に駆け上がり小川の手を挙げる。

○秋山(2点、18分53秒・ネックブリーカーからの片エビ固め)沢崎

1期生テスト同時入門同士の対戦。互角の戦いを制したのは秋山のネックブリーカー。

○南(2点、20分43秒、前方回転エビ固め)上原

上原が南を攻め続け、あわや南越えかというところまで攻め続けるも、逆片エビで形勢逆転、最後はジャーマンを狙った上原を前方回転エビ固めに切り返す。

「あ、危なかったわ・・」試合後の南のコメント。

○D・クライ(2点、14分46秒、ハイキックから片エビ固め)草薙

メインで大番狂わせ。伏兵、クライに危なげなく試合を進めていたと思ったらハイキックが草薙を直撃。これで動きが鈍くなった草薙、立て続けにハイキックを2発食らって撃沈。

第3戦岩手大会。

○D・クライ(4点、13分9秒裏拳からの片エビ固め)デスピナ(0点)

飛び技使いは打撃主体に相性が悪いのか、いいところなくクライに敗退。

○沢崎(2点、11分44秒ジャーマン)小川(2点)

シングルでは両者の力の差がある。沢崎がスープレックス攻勢で危なげなく勝利。

○南(4点、11分55秒・延髄斬りから片エビ固め)秋山(2点)

秋山、南の関節地獄にはまってしまい痛い敗北。

○草薙(2点、9分19秒サソリ固め)上原(0点)

メインは草薙が順当に勝利で初日を出す。

第4戦、仙台大会

○D・クライ(6点、10分1秒脇固め)小川(2点)

クライ選手3連勝。ダークホースか。

○上原(2点、10分7秒シャイニングウィザードから片エビ固め)デスピナ(0点)

○沢崎(4点、14分30秒ネックブリーカーから片エビ固め)南(4点)

沢崎がうまく投げ技で南にダメージを与えていって最後はネックブリーカーでフォール勝ち。

○草薙(4点、12分28秒タイガーSH)秋山(2点)

草薙が得意の投げ技を乱打して、最後はタイガースープレックスで勝利。

第5戦山形大会

○小川(4点、12分52秒STF)上原(2点)

小川2勝目、実力では追い越された上原に苦戦を強いられるが「もう逃げられないわよ」STFで形勢逆転、ストレッチプラムで上原の体力を奪い、最後は2回目のSTFでギブアップ勝ち。この快挙に社長は泣いて喜んだ。

○秋山(4点、12分56秒スクラップバスターから片エビ固め)デスピナ(0点)

○南(6点、10分2秒アキレス腱固め)クライ(6点)

クライの快進撃がここで止まる。南がアキレス腱固めでクライからギブアップ勝ち。

○草薙(6点、16分0秒草薙流兜落としから片エビ固め)沢崎(4点)

投げ技強者同士の対戦、地元なのでハッスルした草薙、ドラゴンスリーパーで弱らせてからの兜落としで勝利。

第6戦は福島大会。

○秋山(6点、12分9秒コブラツイスト)上原(2点)

上原は極め技に弱いのか、ガッチリと決まったコブラツイストを外せずギブアップ負け。

○沢崎(6点、10分59秒ネックブリーカーから片エビ固め)D・クライ(6点)

沢崎が危なげなくクライに勝利。

○南(8点、8分47秒ギロチンドロップから片エビ固め)小川(4点)

元チーム関節地獄の同門対決。南が完勝。

○草薙(8点、9分14秒ドラゴンスリーパー)デスピナ

メインは順当どおり。2戦を残して8点の南と草薙がトップ。

第7戦名古屋大会。

○秋山(8点、15分31秒脇固め)D・クライ(6点)

クライ失速。3連勝のあと3連敗。きょうは秋山の一瞬の脇固めに無念のギブアップ。

○南(10点、10分37秒飛びつき腕ひしぎ逆十字)デスピナ(0点)

○沢崎(8点、12分44秒ネックブリーカーからの片エビ固め)上原(2点)

上原は先輩から1勝も上げられず。決定打不足の課題を露呈した。

○草薙(10点、7分9秒、草薙流兜落としからの片エビ固め)小川(4点)

メインはタッグパートナー同士の対戦。草薙の完勝。最終戦前で南と草薙が10点で並ぶ。勝った方が優勝。

最終戦、埼玉・市ヶ谷記念ホール大会

○上原(4点、13分36秒シャイニングウィザードから片エビ固め)D・クライ(6点)

○秋山(10点、14分13秒DDTから片エビ固め)小川(4点)

○沢崎(10点、7分44秒コブラツイスト)デスピナ(0点)

○草薙(12点、13分27秒ボディプレス)南(10点)

メインは勝ったほうが優勝。中盤から押し始めた草薙、サソリ固めをしつこくかけ続けて南の動きを止めて、最後はボディプレスで南を圧殺。SPZクライマックス初優勝を飾った。

「優勝・・・日ごろの修練のたまものでしょうか・・・」

この結果、優勝した草薙みことには例によって賞状と金一封と携帯型ゲーム機、準優勝は10点で3人が並び直接対決でも3すくみなので、南、秋山、沢崎の3人に横浜中華街のお食事券が分配された。ここまでがシード権を確保し、クライ、小川、上原、デスピナは来年は予選会からの出場となった。

2007年2月12日 (月)

第31回 5年目8月 吉田龍子試練の七番勝負

5年目8月、

AACから草薙、小川の両選手にAACタッグ防衛戦召集がかかりメキシコ短期遠征。南利美は増収のため4th写真集「SHIOKAZE」の撮影。沢崎は先シリーズ強行出場でケガが治っていないので休ませた。この惨状ではSPZクライマックスを1ヶ月延期せざるを得なかった。

で、急きょ決まった8月シリーズ「サマースターナイツシリーズ」の企画は、

「吉田龍子 試練の7番勝負」であった。

デビュー5ヶ月目の新人を、EWAの外人選手、SPZのトップどころと7連続シングル。彼女が1勝でも挙げる可能性は低いと見られていたが、

1戦目釧路大会、EWAの中堅選手、ウィン・ミラーにDDT2発でフォール勝ち。館内どよめき。これでEWAサイドも油断ならないと思ったか、2戦目の札幌大会ではドリュー・クライが一方的に攻めてハイキックで沈めた。

札幌大会のメインは「集客のために」ナスターシャ・ハン対上原今日子のAAC選手権。上原は手も足も出ず、最後はキャプチュードに敗退。

2日の移動日を置いて第3戦は浜松大会。(メンツが弱いせいもあって満員にならなかった)七番勝負3戦目、吉田はニールセンに呆気なく敗退。翌日の石川大会ではEWAの女帝、ナスターシャ・ハンにいいようにやられて、8分そこそこでキャプチュードに敗北。その次の富山大会、デスピナをそこそこ手こずらせたが最後はミサイルキックで敗北。

七番勝負第6戦の新潟大会、秋山美姫に一方的に攻められギロチンドロップで敗北。翌日の川崎大会でも上原のドラゴンスリーパーにギブアップ負け、けっきょく1勝6敗で幕を閉じた。

川崎大会のメインはナスターシャ・ハン対秋山のAAC戦。やはり一方的に試合を進めたハン、最後はドラゴンスリーパーで秋山を失神に追い込んで防衛成功。

「うう・・・」上原と吉田の肩を借りて控室へ戻ってきた秋山。24時間後には幕張で伊達の持つSPZヘビーのベルトへ挑戦と言う強行日程。

幕張大会メインのSPZ選手権、やはり秋山の攻撃を平気な顔で受け流してしまう伊達。秋山もドラゴンカベルナリア、コブラツイストで勝負をかけるが、これを受けきった伊達がニーリフト→秋山ダウン→起き上がってきたところを組み付いてまたニーリフト この繰り返しに場内の空気は凍りついた。

「あ、ぐうぅっ・・・

ヒザ攻撃を腹部に幾度も受けて、ボロボロの状態で秋山が起き上がる。すぐに伊達が組み付いて、ヒザ、ヒザ、ヒザ。

「がはっ」

衝撃で秋山の体が浮き上がってしまう。腹筋を鍛えていなければ内臓破裂ものの危険な技である。ぐったりとした秋山の上に覆いかぶさる伊達。カウント3が入る。勝負タイム27分10秒。

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SPZ世界選手権試合

伊達遥(27分10秒、ニーリフトからの片エビ固め)秋山美姫

※第4代王者が10度目の防衛に成功

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「絶対王者、伊達遥、強いッ!最後は非情なヒザ魚雷の連続攻撃、技の戦艦、秋山沈没ッ!伊達10度目の防衛に成功!この王者を止める選手はいるのか!」

「解説の保科さん、一言お願いします」

「そうですね~。伊達選手も今日で10回の防衛ということで気合いが入っていたのと、もうニーリフトに絶対の自信を持ってますね~。」

「ありがとうございます、それでは幕張コンベンションホールからお送りいたしました。解説は保科優希選手、実況は私、沖野がお送りいたしました」

5年目9月

「今ちゃん、SPZ儲かってるねえ、オレ実は今度アパレルショップの株を持って、オリジナルの服を売りたいんだ。8千万ほど投資してくんない、悪いね」

(本当は空き巣イベントが起こったのですが、こうでも脳内変換しないとやってられません)

こうして手塚オーナーに8000万円を拠出した今野社長、穴埋めと言ってはなんだが、保科優希が5th写真集、「HARUKA」発売で団体に1000万円の現金収入。ミミ吉原の持つ写真集発売回数記録に並んだ。

伊達、上原に映画出演の依頼。SPZクライマックス実施時期なので断った。またここで伊達遥が首を負傷。SPZクライマックスは過酷なリーグ戦なので伊達の出場は社長が止めた。

またこのシリーズから大型バスが導入された。路線バスを改造した代物で、前部は日本人選手、後部は外国人選手スペース、真ん中は荷物置き場となった。座席数は25席まで減らし、その分ゆったりとした配列。

さて、SPZで最も過酷なリーグ戦、第5回SPZクライマックスの出場者は以下の8名。

秋山美姫(19) 前回準優勝 5年連続5回目の出場

南利美(20) 第3回大会優勝 5年連続5回目の出場

沢崎光(20) 第2回大会優勝 5年連続5回目の出場

草薙みこと(18) 前回3位  3年連続3回目の出場

以下は予選会勝ち上がり組。

上原今日子(17)(初出場、予選会1位通過)

ドリュー・クライ(初出場、予選会2位通過)

デスピナ・リブレ(3年連続3回目の出場、予選会3位通過)

小川ひかる(19)(伊達負傷により予選会4位の小川に出場権が転がり込む。4年ぶり2回目の出場)

本命不在なので大混戦が予想された。優勝者は翌月、伊達のベルトに挑戦が濃厚なのでどの選手も目の色を変えて優勝を狙ってくる。京スポ新聞の予想では本命草薙、対抗南、大穴秋山と評されていた。

話は少し戻って、前シリーズの移動中、吉田龍子が新必殺技を体得していた。

「吉田さんは力があるから、パワーボムとかの力技をものにすれば上の人を越えやすいと思いますよ」

小川ひかるにアドバイスされた。しかしこの団体は関節技使いだらけなのでそんな技の使い手はいない。困った吉田と小川は週刊ハッスルの記者におねがいして、男子団体のDVDを借りて、深夜、宿舎のホテル、小川の部屋でDVDを小川のパソコンで見た。

「足腰の力で一気に担ぎ上げてから落とすっぽい・・」

「いや、叩きつけるときも全身の力を使ってバーンってやってる・・・」

DVDをパワーボムのシーンだけ繰り返し見て

「吉田さん、いまちょっと練習で軽くやってみる?」

ベッドの上、かがんだ小川の腰に腕を回してクラッチして

「ふんっ!」

担ぎ上げて

「タァッ!」

ベッドの上に叩き落す。スプリングでバウンド。

「う、けっこう衝撃がある。リングの上だったら私もとられていたかもしれない、来月あたりためしてみなよ」

と言うことで初戦の青森大会でひそかに吉田が特訓していたパワーボムを初公開。対戦相手のミシェール滝はとてつもない衝撃に悶絶。カウント3を喫した。

「これは・・・いける・・・」

数年後、何人もの選手を恐怖のどん底に陥れる吉田のパワー殺法の第一歩であった。青森大会のメインはSPZクライマックス出場6選手による6人タッグマッチ。秋山、沢崎、上原のトリオに南、草薙、小川の「チーム関節地獄を(ミミ吉原引退により)発展的解消した3人組」が激突。試合のほうは6人が入り乱れる激闘。6人が6人とも個性を持っているので試合は長引いた。終盤は小川と南が体力ギリギリまで使ってしまったため草薙が孤軍奮闘。しかし沢崎と秋山の前に大ダメージを負い、最後は沢崎がネックブリーカーで南をしとめた。58分57秒の大激闘にファンはスタンディングオベーションで応えた。後のこの試合は「伝説の6人タッグマッチ」と呼ばれることになる。

2007年2月11日 (日)

第30回 ミミ吉原引退(後編)

そしていよいよ最終戦代々木大会。

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「ミ ミ 吉 原 引 退 試 合」

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の大看板。場内にはファン手製の「ありがとうミミ吉原」「私たちはミミさんを忘れない」「お疲れ様!ミミさん」といった横断幕がずらりと並んだ。引退試合の相手はミミ吉原が長年タッグを組んできた南利美。はっきりいって結果は見えていたが、昨日の小川戦のようないい試合をして去るよりかは潰されたほうが未練がなくなると彼女なりに考え、社長に申し入れた。

午後3時、ミミ吉原が会場入り。いつもは首都圏興行のときは愛車のヴィッツを運転して会場入りするのだが、きょうは「リミちゃんに潰されると思う」から、横浜の自宅から電車とタクシーで会場入り。いつものようにチーム関節地獄の控室に入る。

「おはようございます」小川ひかるがにこやかに挨拶。

「うん、おはよう」

ジャージに着替えて黙々と会場隅でストレッチ、そのあと体育館をランニング。そのあとリングに上がって、軽くロープワークと受け身で調整。

そのあと社長に呼ばれる。

「あー、ミミさん、悪いけどマスコミ各社が押し寄せてるから記者会見やって」

急きょ会場隅に長机を設置しての記者会見。スポーツ紙やプロレス雑誌の記者連中の質問に丁寧に答える。

「引退を決意したのはいつごろからですか」

「昨年の5月ごろから考えてました」

「引退後の予定は」

 「まだ何も考えていません。しばらくはゆっくり休みたいと思います」

「思い出の試合は」

「んー、そですね、ワールド女子の頃はデビュー戦、こっちに来てからは、リミちゃんとタッグベルトを最初にとった時です」

記者の質問にひとつひとつにこやかに答えるミミ吉原。

18時半、開演のゴング。会場は超満員札止め。第1試合で吉田龍子が初の富沢レイ越え。2発目のDDTで先輩からの初勝利を挙げた。第2試合は保科が滝を下し、第3試合は小川がニーリフトでデスピナを破った。ここで休憩。ミミ吉原も控室奥でリングコスチュームに着替える。

「それじゃ、ミミさん、最後、よろしくお願いします」

「わかったわ、普段どおりのリミちゃんでかかってきて」

そういって南利美は荷物を持って本隊の控室へ移動。

休憩時間中、ついにミミさんグッズのTシャツとチーム関節地獄パーカーが完売。

休憩明けの試合は草薙みことがドリュー・クライに完勝。

ミミ吉原はリングシューズの紐を結び終えた。手首にいつものようにテーピングをして戦闘準備完了。

次のセミ前は秋山、上原がハン、ニールセン組と激突。上原がハンのSTFにギブアップ。

そして、次のセミファイナルがミミ吉原の引退試合。

ミミ吉原対南利美。

次の試合に登場いたしますミミ吉原選手は本日が最後の試合となります。ファンの皆様、いっそうのご声援をお願いいたします」

穏やかなミミ吉原のテーマ曲が流れ出すが、観客の声援と悲鳴とどよめきでかき消された。ミミ吉原はペットボトルの水を一口飲んでから、

「それじゃあ行きますか!」小川ひかるの先導でミミ吉原が花道を最後のリングへ向かった。

「本日のセミファイナル、シングルマッチ30分1本勝負を行います。青コーナー、神奈川県横浜市出身、ミミー、ヨシハラーッ!」

今野社長兼リングアナが叫ぶように甲高い声でコール。ものすごい量の黄緑色の紙テープが舞い乱れ飛ぶ、リングは黄緑色の丘と化した。セコンド総出で片付けた。この時点で泣いているファンも多かった。

ミミ吉原最後の試合は一方的な内容に終わった。南のえぐい逆片エビでミミ吉原の動きが止まる。ミミ吉原が最後に繰り出した技はドロップキックだった。そのあと南利美がジャーマンを狙うがミミ吉原これはうまく切り返す。しかしそのあとタックルで倒され再度の逆片エビ固めに捕えられる。

「ウァオオオー!」

普段はクールな南が涙をこらえながら物凄い形相で気合いを発しながら吉原を絞り上げる。

完全に入ってしまい、ミミ吉原はレスラー人生の終焉を意味する言葉を自ら吐いた。

「ギブ、アップ・・・」

「11分17秒、逆片エビ固めで南利美の勝ち。」

場内にとどろく悲鳴ともどよめきともつかぬ声。

「おわった・・・」

倒れこんだまま体育館の天井を眺める吉原。涙はなかった。

メインは2ヶ月前ドローに終わった試合の決着戦、伊達対沢崎のSPZ戦。実は沢崎は右ひじに軽傷を負っていたが、「ミミさんの引退シリーズなので」強行出場し、右ひじをテーピングで巻いて、その上からサポーターをしてタイトル戦に臨んだ。試合は例によって相手の出方をうかがう静かな立ち上がり。小技の応酬を経て徐々に大技が出てくる展開。沢崎もタイガースープレックス、バックドロップを繰り出すなど奮闘したが、伊達もSPZキック、ミサイルキックとたたみかけて沢崎を追い込む。ここでまたも60分タイムアップドロー。しばらく両雄大の字、そのあと握手をして退場。王者伊達遥は9度目の防衛に成功。

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SPZ世界選手権試合(60分1本勝負)

△伊達遥(時間切れ引き分け)沢崎光

第4代王者が9回目の防衛に成功。

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全試合終了後にミミ吉原の引退式。ピアノアレンジされたミミ吉原のテーマ曲でジャージ姿の吉原がリング上に立つ。引退セレモニーは簡素で、選手会長の小川ひかるからの花束贈呈のあと本人からの挨拶。

「みなさん、本当にありがとうございました!」

目に涙を浮かべて、ミミ吉原が挨拶。

「これからも、団体の応援よろしくお願いします!」

ミミ吉原 5年目7月 引退

タイトル歴:AACタッグ王座 2回 (パートナーは南利美)

第1回SPZクライマックス優勝

写真集 5冊

2007年2月10日 (土)

第29回 ミミ吉原引退試合(前編)

5年目7月、SPZに激震が走った。

ミミ吉原引退。

7月上旬のある日、夜遅く、事務所で取引先にメールを打っていた今野社長のもとへミミ吉原が現れた。

「社長さん、ちょっと、大事な話が」

「・・・何でしょうか」

「・・・もう潮時かなって思って・・・」

30分後、戸塚某所の日本料理店、「よこ川」で・・

「吉原さん、もう少しだけ頑張っていただけませんか、あと1年もあればうちの会社はブドーカンで興行できるところまで行きます。それまでは頑張ってもらえませんか」

今野社長は泣きそうな顔をしていた。酔うと話がややこしくなるので2人ともウーロン茶をすすり、シーザーサラダをつまみながらの話し合い。

「あたしが、この団体に入って、4年ちょっと過ごしたけど、もうこの団体にはあたしより強くて、新女のトップどころにも負けないレスラーが6人も育った。そういう意味ではあたしの役割は・・・」

「いつから・・・考えてたの」

「だいぶ前から、今日子ちゃんに負けて、先月はとうとうヒカルちゃんにも負けて、もう潮時かなってふと思った。」

「うーん・・・・」

1時間ほど慰留したが、吉原はけっきょく翻意しなかった。

「分かり・・・ました。営業的にはきついけどその分はみんなに頑張ってもらうしかない」

そのあと飲みに入る。

重苦しい話し合いの内容を察したミミさんファンのマスターが涙を浮かべながらビールと頼んでもいないのに刺身盛り合わせを運んできた。

「ミミさん、最後の試合は見に行くよぅ」

そのあとは引退を前提とした今後SPZをどうするかという話し合い。最大の問題は1期生の精神的支柱がいなくなってしまうことだということで一致したが、彼女たちももう5年目だからうまくやるだろうと吉原は話した。次の問題は観客動員への影響だが昔に比べたらゼイタクな悩みで、実力と人気を兼ね備えたスター選手が6人もいるし、小川や保科などの個性派もいるし、永沢や吉田といった次代のスターも育ってきている、一人抜けたぐらいでぐらつく陣容でないという話になった。あとは南利美のタッグパートナーをどうするか、ああいうスタイルなので誰とタッグを組ませるか微妙。これは結論が出なかった。このあたりで両者酔いが回ってしまい、

「社長さん、いつかはヒカルちゃんに思いをちゃんと伝えなさいよ」

なぜかそういう話になった。

「何を言うんですか、それ以前にぼくは社長だー。商品に手を出したらこの団体おかしくなるー」

「そんなの、うまくやりなさいよ~」

「いや、ぼくは不器用な人間だから」

「ふふっ」

    ******************

夜2時を回ったところでお開き。酔いが回った社長は事務所でダンボールにくるまって眠り、酔いが回った吉原は車を運転して帰るわけにもいかないので、道場近くの小川ひかるのアパートに転がり込んで一夜を明かした。

「夜中に転がり込んじゃってごめんね~」

「ミ、ミミさん、うわ、酔ってますね」

「うん、ちょっと社長とこみいった話を」

酔った勢いで横になりながら小川に話しかける。

「ヒカル、あたし引退する。選手は育っているから大丈夫だと思うけど、霧子さんや社長は相談相手がいなくなるのでそっちが心配と言えば心配。ヒカル、社長を、助けて・・・あげて」

「えっ!ちょっと、ミミさん」

そう言うなり吉原は床に突っ伏して眠りだした。

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翌日、選手全員を集めてミミ吉原の引退が発表された。

一期生全員、沈黙。あたりを重苦しい空気が包んだ。

「ミミさん、もうちょっと頑張って一緒にブドーカンを満員にしましょうよ!」

小川ひかるが悲痛に叫ぶが、ミミ吉原は笑顔で、頭で思うような動きができなくなってきた。死ぬ気で戦えばまだそこそこのレスラーには勝てるかもしれないが、もう自分のスタイルのプロレスじゃない。そう考えたから身を引く。これからはみんながSPZを守っていって欲しい、と彼女たちに諭した。実力面では一期生のほうがとっくに上を行っているが、まだ彼女たちのまとめ役と言うか、精神的支柱だっただけに動揺が走った。

「いずれ、あなたたちにも、こういう日が・・・来るわ」

7月シリーズ、サーキット前に久々の新人テストを実施し、渡辺智美を採用。素質はなさそうだが前座要員のアイドルレスラーとして売り出そうと今野社長は考えた。

7月シリーズ「ミミ吉原引退シリーズ」が始まった。ポスターは試合直後のミミ吉原の控室でのショットを使い、「ミミ吉原引退試合」とインパクトのある書体で告知。初戦の高知大会。京スポの若林太郎記者が練習中のミミ吉原に取材。

「ミミさん、引退ですか!」

「・・・はい、今シリーズ限りで引退します」

「・・・そう・・・ですか・・・長い間お疲れ様でした」

第2試合、ミミ吉原対富沢レイ戦。富沢も最後のミミさん相手のシングルマッチなので目に涙をためながら殴りかかってきた。その気迫に押されたのか、ストレッチプラムでギブアップ負け。最後のシリーズで富沢は吉原越えを果たした。

第2戦北九州大会。ワールド女子時代からの後輩、ミシェール滝とのシングル戦。最近はもっぱら前座要員の滝も万感の思いを込めて吉原にぶつかってきた。最後はラリアットからムーンサルトとつないで滝が初めて吉原からカウント3。会場のファンはある意味残酷な結末に呆然とした。

第3戦広島大会、チーム関節地獄の3人がメインで揃い踏みし、伊達、沢崎、上原のチームと激突した。しかし吉原の出番は顔見せ程度で、最後は伊達のSTOに南が沈んだ。

第4戦神戸大会。最初で最後のシングルマッチ、吉田龍子対ミミ吉原。吉田はミミ吉原からあまり指導は受けていなかったが、先輩方全員がリスペクトしているミミ吉原というレスラーに全力でぶつかっていった。しかし現時点では力の差は大きく、ミミ吉原がストレッチプラムで勝利。

神戸大会のメインは草薙、小川対秋山、沢崎のAACタッグ戦。例によって小川がうまくやられながら立ち回って草薙にタッチ。草薙も秋山、沢崎の猛攻を真っ向から受け止めたあと草薙流兜落としで沢崎を沈めてカウント3、30分15秒の激戦を制した。

第5戦滋賀大会、チーム関節地獄の3人が最後の揃い踏み、ミミ吉原が上原からドラゴンスリーパーでギブアップを奪い、小川、南と手上げをして有終の美。

第6戦岐阜大会。渡辺智美のデビュー戦は引退カウントダウン3のミミ吉原。ふだんなら絶対組まれないマッチメークだが、今後の渡辺選手のために無理やり組んだ。渡辺もデビュー戦にしては物怖じせず積極的に攻めたのだが、最後は掌底に沈んだ。

第7戦福井大会。引退カウントダウン2、小川ひかるとのシングルマッチ。小川の動きは硬かった。あまり素質のよくなかった自分をジュニアやタッグのベルトを巻くところまで育ててくれたミミさんが引退する・・・一方のミミ吉原は吹っ切れていた。きょうはヒカルちゃんとレスリングを精一杯楽しもう。単調な腕の取り合い、アームホイップやドロップキックの応酬。決して派手さのない両者の攻防。やがて息が切れてきた吉原に小川がネックブリーカーを連発して追い込む。3回目のネックブリーカーをカウント2で返す。それでもなお、ミミ吉原は脇固めで小川の腕を決めにかかるがここまでだった。リング中央で小川のSTFが決まる。1回目はどうにか死力をつくして振りほどいた吉原だったが、もう一度STFをかけられ、ついに小川相手に初めてギブアップの言葉を吐いた。引退直前でも27分20秒の激闘。小川と吉原は抱き合って健闘を讃えあった。

「ありがとう、ヒカルちゃん・・・」

「ミミさん・・」

そしていよいよ最終戦代々木大会を迎える。

2007年2月 9日 (金)

第28回 5年目5月SPZ選手権 伊達遥×草薙みこと

5年目5月

「あー、うちも弱小団体ではなくなってきましたので、選手会を設立します。選手会長は小川ひかるさんで」

と言うことで遠征前に選手だけでの集まり、選手会が開かれた。大半は雑談と言うかバカ話で終わったが、最後に辛うじて会社への要望事項が上がった。

1.何かあったときのためにリングドクターの常駐、せめて大会場だけでも

2.移動車両の改善、旗揚げ時から使い続けているマイクロバスは長時間移動の際に疲れる。

上記2点が決議された。小川ひかるがさっそくこの2点をエクセル文書にして社長に要望事項として上げた。

「痛いところを突かれた・・・貧乏団体なのに、まあ医者は探すから待って欲しい。バスは早急に手配する」

吉田龍子がジムで落ち込んでいた。

「トップに立つつもりで私はこの団体に入った。しかし、やってみたら勝てない。富沢さんにも負け続けて・・・」

「小川さん、選手会長として助けてあげて、ぼく素人なので適切なアドバイスできない」

そこで道場の会議室で社長、小川ひかる、吉田龍子の面談。といっても試合時のビデオをチェックするだけ。

「デビュー最初の月でこれだけできれば上出来だと思います。DDTとかの技も流れの中で出せてますし、あとはスタミナじゃないですか。まだ肩に力が入ってると思います。落ち着いて目の前の相手に集中すればそのうち勝てるようになると思いますよ

「ありがとうございます、前向きに考えてみます」

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5月シリーズ「バトルカデンツァ2013」が始まった。伊達遥が先日の激闘で右足首を負傷したので欠場。なお、小川ひかるがAACジュニアの年齢規定に達したためタイトルを返上した。

5月シリーズ2戦目名古屋大会のメインはAACタッグ戦。王者の草薙、小川組に挑むのは南利美、ミミ吉原組。なにげにチーム関節地獄の同門対決が実現。

「リミちゃん」試合前の控室。

「年齢的にも、ベルトに挑むのはきょうが最後だと思う」

ミミ吉原は24歳。そろそろ衰えが出る時期だ。

「でもやるからには負けられない。リミちゃんはみこっちゃんの相手をお願い。あたしがヒカルちゃんを何とかするから」

だが、いざやってみると作戦も何もあったものではなく、小川がやられ役を演じ続けたため、南が小川を痛めつける展開で、35分過ぎに小川がようやく草薙にタッチ。草薙が南と激闘を展開し、ノーザン、サソリ固めで追い込み、南はたまらず吉原にタッチ。

草薙はコーナーを見やる。小川ひかるはまだ赤コーナーでうずくまっている。

―私が決めないと。

ミミ吉原にも容赦のないラッシュをしかけ、ノーザンライトで大ダメージを与え、最後はDDTで頭をマットに激突させた。ミミ吉原、これは返せなかった。60分0秒、王者組が初防衛に成功。

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新人の吉田龍子、大事に育てたいと社長が判断したのか、タッグマッチで力のある選手と組ませ、プロレスの動きを覚えながら勝たせてゆく方法が取られた。長野大会のセミで草薙みことと組んでデスピナ、ジョーカーウーマン組と対戦。しかし、デスピナが腰を痛めたのか、開始5分で草薙のサソリ固め前にギブアップ。吉田の出番はほとんどなかった。

長野大会、メインは秋山、上原、永沢対南、吉原、小川のチーム関節地獄。6人が入り乱れての激闘となったが、最後は地元凱旋で張り切った小川がリング中央で上原にSTFを決め、ギブアップを奪った。

翌日は新潟大会。第3試合で小川ひかる対永沢舞のシングルマッチ。永沢がキャプチュードを連発して小川を追い込んだが、小川も終盤盛り返し、逆片エビ固め、ストレッチプラムとつないでギブアップを奪った。

7戦目の幕張大会、メインには草薙みこと対沢崎光のシングルマッチ。次期SPZ挑戦権のかかった一番は20分を越す熱戦となったが、最後は草薙流兜落としが久々に爆発し、草薙の勝利となった。

最終戦の川崎大会。メインはチョチョカラスに秋山が挑むAAC戦。24分の激闘の末、秋山がチョチョカラスに勝利しAACベルトを奪取。

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6月シリーズ「2013SPZエクスプロージョン」が開催。このシリーズ前、イギリスのプロレス団体「EWA」と業務提携契約を結んだ。AACとの契約が満了し、選手の意見を聞いたところ「飛び技が多いAACより、打撃や関節を使う実力者の多い団体と提携して欲しい」との要望が多かったため、今野社長が井上秘書を通じて交渉して参戦内諾を取り付けた。見返りとして永沢舞をイギリスに武者修行がてら長期遠征させることにした。また、AACとの契約が切れるが、旗揚げ以来参戦していてファンの人気も高いデスピナ・リブレは個人単位で継続参戦となった。

6月シリーズの目玉は中堅選手によるリーグ戦「SPZクライマックス予選会」である。今回の出場者はミミ吉原、デスピナ、小川ひかる、上原今日子、富沢レイ、ミシェール滝、そしてEWA推薦のドリュー・クライの8名で争われ、上位3選手にSPZクライマックス出場権が与えられる。

今シリーズは東北遠征をやった後宮崎、埼玉で興行を行う日程。初日の青森大会前日。今野社長と秘書井上はEWA選手、スタッフと打ち合わせを兼ねた歓迎会を青森市内の郷土料理店で開いた。

「モズクス、ウマイ」

EWAのエージェント、トム・クリステン氏がつぶやく。

「明日からの興行、よろしくお願いいたしますね。日本のファンもハン選手の楽しみにしております」

EWAチャンピオンはロシアのコマンドサンボの使い手、南利美以上の関節技のスペシャリスト、ナスターシャ・ハンである。

「ミナミトシミ」日本酒をちびりと飲んだ目つきの鋭い選手が口を開く。

「EWAでもミナミの名前は聞こえている。何でも「関節のヴィーナス」などと呼ばれているそうじゃないか。言っておくが関節技は世界で一番だと言う自負がある。ぜひ戦いたい。ミナミとシングル対決させろ」

「そうおっしゃるだろうと思いまして、今シリーズは仙台と最終戦の埼玉で一騎打ちを組んであります」

「フフフフ、連勝してミナミの口からギブアップと言わせてやる」

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初戦青森大会、第2試合のリーグ戦はミミ吉原対小川ひかるのシングル戦。序盤から脇固めの応酬。吉原が中盤は掌底の連打で優位に立ったものの、小川のニーリフトで動きが止まり、ローリングソバットを連発されてカウント3を奪われた。30分0秒の激闘。

「勝てました。社長、見てくれましたか?」

デビューしてから4年余り。ようやく師であるミミ吉原越えを果たした。

ミミ吉原は思い足取りで控室へ。頭からタオルを被る。

ヒカルちゃんにも・・・負けたか・・・

奥でメインの出番を待っている南利美に一言。

「限界・・かなぁ」と呟く。

「内容は・・・・良かったと思います。」

「いや、向こうの技は全部知ってたし思ったとおりの動きだったわ。でも結果は取られてしまった・・」

青森大会のメインは南利美とナスターシャ・ハンがドリームタッグを組み、秋山、沢崎組と対戦。南は後日対戦するハンに手の内を見せたくないと考えたか、関節技をあまり出さずに戦った。ハンのほうはドラゴンスリーパーやSTFを南に見せ付けるように繰り出した。連係で勝る秋山、沢崎が南を追い込んだこともあって、勝負タイムは54分0秒と、地方大会では珍しいロングマッチになった。最後は秋山と南がブレーンバスターの掛け合いとなり、力比べを制した南がブレーンバスターを決めてフォール勝ち。南とハンはにらみ合ってから控室に各々戻った。

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2戦目の秋田大会。リーグ戦、小川はデスピナに破れ、ミミ吉原も上原のキャプチュードを返せず2連敗。メインは何と伊達遥、吉田龍子対南利美、草薙みこと組。中盤、吉田が捕まりなんとかエルボーで反撃して伊達にスイッチ。ここから伊達がSPZタイトル戦の時と変わらない絶対王者ぶりを見せて草薙、南を追い込んだが、さすがにこの2人にかわるがわる攻められては苦しくなり、兜落としを食らったところで吉田にタッチせざるを得なくなった。タッチしてでてきたところに草薙のノーザン、これはカウント2で返す。そのあとフランケンシュタイナー。頭からマットに落ちた吉田。ふらつきながらも全身をバタつかせてフォールを2.9で返す。このあと草薙がとどめのノーザン。これもカウント2.9で返す。そして吉田がDDTで反撃。場内は新人のメインでの奮闘に大声援。しかし踏ん張りはここまでであった。つづく2度目のフランケンシュタイナーを返す事ができなかった。勝負タイムはなんと42分22秒。

このコ・・・将来強くなる。

草薙みことはそう感じながら勝ち名乗りを受けた。

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4戦目、仙台大会のメインは南対ナスターシャ・ハンの初対決。両者とも弱らせてから関節技を出そうと考えたか、打撃技投げ技の応酬が光った。最後はフランケンシュタイナーで南がかろうじて勝利を収めた。

「久しぶりに、殺気を感じたわ」

控室で息を弾ませながら南はシューズの紐を解いた。

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第6戦福島大会のメインは、秋山対ハンのAACヘビー級選手権。ハンが押し気味に試合を進める。秋山もドラゴンカベルナリアで反撃したものの、最後はハンのジャーマンに沈んだ。これで秋山はAACのベルトを失った。

7戦目の宮崎大会でリーグ戦が終了。7戦全勝の上原、6勝1敗のドリュー・クライ、5勝2敗のデスピナがSPZクライマックス本大会出場権を獲得。以下は4勝3敗の小川ひかる、3勝4敗のミミ吉原、2勝5敗のミシェール滝、1勝6敗の保科優希、全敗の富沢レイと続いた。ミミ吉原は5年連続の本大会出場はならず予選会で姿を消した。

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最終戦は埼玉・市ヶ谷記念ホールでの興行。1万人強の観衆で超満員の盛況となった。第1試合、吉田龍子がタッグ戦の経験を生かして富沢レイに挑んだが、うまくあしらわれてストレッチプラムにギブアップ負け。デビュー3ヶ月。まだ吉田の先輩越えは遠い。第3試合は首都圏会場休憩前の恒例となったミミ吉原対小川ひかるの対決。息詰まる関節技の攻防となったが、最後は吉原がリング中央でドラゴンスリーパーを決め、小川からギブアップを奪った。

息を弾ませながらミミ吉原が控室に戻って一言。

「本気で落とすつもりでやらないと、ヒカルちゃん相手にも勝てないようになったね・・・」

休憩明けの試合は、南利美対ナスターシャ・ハンの関節女王対決。10分経過のあたりで南に異変。左足をひねって、そこを狙ってハンの逆片エビ固め。たまらず南はギブアップ。場内にえええの驚きの声と悲鳴が。

メインは伊達遥対草薙みことのSPZ選手権。

―伊達さんにもう一度勝ちたい。

しかし、草薙がアームホイップやフロントスープレックスでなげても伊達は効いたそぶりがない。逆にラリアット、ニーリフトで確実にダメージを受けてしまう。追い詰められた草薙が兜落とし、DDT,ノーザンの波状攻撃に出るが、伊達は落ち着いてカウント2で返し、草薙の顔面にSPZキック一撃。

鼻から血を滴らせながら草薙はマットに崩れ落ちる。すかさず伊達がカバー。草薙は闇の中で3カウントを聞いた。勝負タイム39分8秒。いい試合はさせてもらえるが誰も絶対王者・伊達を沈められない。

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SPZ世界選手権試合

○伊達遥(39分8秒、SPZキックからの片エビ固め)草薙みこと×

第4代王者が8回目の防衛に成功

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2007年2月 8日 (木)

第27回 5年目春・吉田龍子デビュー

レッスルエンジェルスサバイバー プレイ日誌のようなもの

「輝くエッセンシャル」

(かなり脳内妄想はいってます)

5年目 春 

SPZ団体経営も5年目に入り、そこそこ人気も出てきたので今野社長は5億円で寮の改築、移転を断行した。事務所から歩いて5分のところに手ごろな物件があったので、1階が道場、2階3階が選手寮という「まつかぜ寮」が完成したので、18歳以下の選手・・・草薙みこと、富沢レイ、上原今日子、永沢舞の4名はそちらへ移り住んだ。一期生の小川ひかる、沢崎光、伊達遥、秋山美姫は退寮となり、道場近くのアパートへ引っ越した。3代目の寮長には上原今日子が任命された。何しろ2期生は電気製品にうとい人と、深夜アニメを見まくる人なので。

4月上旬のある日、今野社長と井上秘書は、熊本へ新人スカウトに出かけた。熊本にスポーツ万能で長身の有望な少女がいるという情報が入ったのでスカウトに出向いた。熊本県はSPZが興行を常時打っている地域ではないのでその少女―吉田龍子は社長の誘いに怪訝な顔をした。

「プロレス・・・あれは見世物ではないのですか?」

「そういわれる方が多くいらっしゃいますので、まあこれを見てください。」

そういって社長はノートパソコンを取り出し、電源を入れて映像ファイルを再生。

「はい、イヤホンどうぞ」

喫茶店の中でレスラーの悲鳴を聞かせるわけにはいかない。

映像は少し前の小川ひかる対上原今日子の試合を録画したものであった。上原が小川を一方的に攻め、容赦のない蹴りを見舞う。イヤホン越しに吉田は小川のうめき声を聞いた。

「これ・・本気で・・・やってますね」

それ以上に吉田の心を震わせたのは、場内の悲鳴とオガワコールであった。

「あ、やられてるほうが小川選手、うちの一番人気の選手。」

「けっこう・・・すごいですね」

そして試合は上原が投げ技を繰り出し、場内は悲鳴の嵐に包まれるが、最後は一瞬の隙を突いて小川のSTFが決まり上原がギブアップして試合が終わった。イヤホン越しに聞こえる耳をつんざく歓声。

「どうです、見た感想は」

「両方とも・・本気で戦っていることが分かりました。最後のお客さんの声援は・・・凄かったです」

「吉田さん、SPZであなたの力、試してみない?私がスカウトした選手は大抵いい線いってるから、活躍できると思うよ、あなたの力なら、いずれ1万人の会場のファンを沸かせられる」

井上霧子が押す。

「少し、考えさせてください。あ、社長、さっきの映像、メールで頂けますか」

3日後、吉田から入団の了承する旨のメールが届いた。

「あー、こんど入団することになった、吉田龍子さんです。皆さん色々と教えてあげてください」

「・・・吉田です、よろしくお願いします」

1週間後、吉田が上京しさっそく練習。

「うわ、吉田さんタッパもあるし、いい身体してる、井上さん凄いの取ってきたねー」

道場奥でミミ吉原が感嘆する。

練習初日、ランニング、ストレッチのあと各々がスパーリング。

吉田の前にはミミ吉原と小川ひかるがついた。

「えーっと、吉田さん、明日から北海道巡業なので、ひょっとしたらデビュー戦組まれるかも知れないから、受け身だけ覚えといてね」

ボディスラムでかわるがわる投げられた。しかし吉田龍子の受け身はうまくはないのだが持ち前の体力で起き上がってくる。

「ハァ、ハァ・・・これで終わりですかっ」

ミミ吉原と小川ひかるがひそひそ話。

「うあー、草薙さんや上原さんのときはこのへんで動けなくなったのに、まだ立ってる、凄いね」

「じゃ、じゃあ、受け身はこのくらいにして、エルボーを教えてあげますね、小川さん見本やって」

「はい、吉田さん、痛かったらごめんなさい。・・・せいっ!」

ビシッ!

吉田の首筋にエルボーが決まる。

「小川さん、いつから癖がついちゃったの、エルボーはこうやって打つって教えたはずよ」

ビシッ!

「うっ・・・」

「えー、最近はいつもこうやって打ってますよ。」

ビシッ!

「く・・・っ」

これはたぶんテストだ。どこまで粘れるかなという。

そう感づいた吉田は意地でも立っていようと決めて、ただじっと耐え続けた。

10発以上のエルボーを受け、顔や胸もと、首筋が真っ赤に腫れたが、吉田はダウンせず受け続けた。気がつけば他の一期生メンバーもリング下から見つめていた。

練習終了後、吉田がリング下で息を整えてると社長が現れ、「よーし、吉田さん、良く頑張ったよ、明日からのシリーズでデビューさせるから、ハイこれ」と紙袋を手渡した。

袋の中にはリングコスチュームとシューズが入っていた

練習終了後、通いの選手が帰宅し、寮には2期生以下の5人が残り夕食。きょうの食事当番は富沢レイ。ごはんとキムチ、味噌汁のほかに大量の冷凍春巻きが出た。

「よ、吉田さん」富沢が声をかける。

「あさって、札幌で・・・デビュー戦で、相手は私だから」

「えっ」

目の前には印刷された4月シリーズの対戦カード。

第1試合には「富沢レイ VS 吉田龍子」の文字が。

「思い切ってぶつかって来てね。」

***********************

4月シリーズ「2013ファイヤーソウルシリーズ」が始まった。小川ひかるがサード写真集「ALPS」写真集撮影で不在、保科優希4th写真集「THUNDER-BIRD」写真集撮影で不在。

飛行機で千歳へ向かい、その夜は札幌で泊まって、翌日キターアリーナでみんなでリング設営。けっこう重労働なのだが、選手総出プラス社長、井上秘書まで繰り出して設営するので早い。

「社長まで、こんな力仕事するんですか」

「ま、メタボリックシンドローム予防のため・・さ。僕もう40になっちゃうから」

「メタボ・・・って何ですか」

「40くらいのおじさんがかかりやすい病気。防ぐには運動するしかないのよ」

リング設営のあとみんなで練習。吉田は富沢レイに関節技の逃げ方を一通り教わった。この間、会場スタッフが音響や花道、照明といった設備をバシバシ組み立てて行く。

「吉田さん、きょうデビュー戦、頑張ってね」

なぜか社長がロープを使って屈伸運動をしている。

そして5時半、

「開場しまーす」井上秘書の一声で選手はゾロゾロと控室へ。きょうは会場が大きいので日本人控室はチーム関節地獄と本隊に分かれて陣取る。吉田は前者の控室に入り、リングコスチュームに着替えた。

「おー、似合ってる。とてもデビュー戦とは思えないよ」

ミミ吉原が声をかける。控室に備え付けられたモニタからは超満員の会場が。

「何人ぐらい、入ってるんですか」

「うーん、きょうは今日子ちゃんのタイトル戦があるから前売りがはけたって社長が言ってたから・・・9000人ぐらいかな」

「きゅ、9千人」

「緊張してきた?」

「・・・べ、別に」

「・・・ならよかった。龍子ちゃん、デビュー戦は最初の試合だから、一生の思い出になると思う。たぶん勝てないと思うけど、気にせず今の自分の力をそのままぶつけてきなさい」

「はい、ありがとうございます」

ほどなく18時30分の開演。

「ホラ行って来い!リングまで走っていくのよ」

「はい、行ってきますっ」

吉田龍子はリングまで全力疾走し、リングへの階段を上がった。デビュー戦なのでテーマ曲はまだない。

ほどなく深夜放送されていたマイナーアニメソングが流れ、反対側から富沢レイが入場。

そのあと今野社長兼リングアナのコール。

「赤コーナー、千葉県出身、富沢―、レイー」

ワーッという歓声そして拍手。

「青コーナー、熊本県出身、よしーだー、りゅーこー。

なお吉田選手は本日がデビュー戦となります」

井上レフェリーが今野社長が本部席に戻って木槌を手に取ったのを確認すると、ファイッ!と試合開始を宣した。同時にゴング。

富沢が組み付いて背後に回りしつこくスリーパーをかけ続けてスタミナを奪う。そのあとアキレス腱固め。懸命に吉田はロープに逃れる。そのあと吉田がドロップキック、ボディスラムで反撃に出る。しかし富沢がここでストレッチプラム。1回目は耐えて腰投げで振りほどいた吉田だったが、2度目は富沢もえぐく締めたため外せずギブアップ。

「11分7秒、ストレッチプラムで富沢レイの勝ち」

憮然とした表情で吉田が退場。控室ではミミ吉原と南が笑顔で出迎えた」

「おめでとう」

「龍子ちゃんデビューおめでと!これでレスラーの仲間入りだよ!」

「すみません、負けてしまいました」

「いや、リミちゃんと一緒に見てたけど、デビュー戦にしては凄くいい試合よ、10分持ったし、最初のストレッチプラムでもうダメかなって思ったけど1回はほどいた。あの根性は凄いと思う、だから次も頑張ってね」

「・・・ありがとうございます」

札幌大会メインはチョチョカラス対上原のAAC戦。やはりまだチョチョカラスの壁は厚く。フランケンシュタイナーでフォール負け。

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シリーズは進み、最終戦の代々木大会を迎えた。けっきょく吉田龍子は富沢レイやミシェール滝といった前座要員相手に7連敗を喫した。代々木大会、後半の3試合は「3大シングルマッチ」と銘打たれて、上原対秋山、南対草薙、伊達対沢崎のシングル戦が組まれた。上原対秋山、好勝負の末、上原のローリングソバットが入ってしまったようでカウント3。上原が秋山越え達成。セミの南対草薙。次期SPZ挑戦権の事を考えると両者とも負けられない。スープレックスの乱発で押した草薙、最後はDDTで南から3カウントを奪った。

メインイベントは伊達対沢崎のSPZタイトル戦。息詰まる攻防が続いた。伊達の最大の強みは蹴り技ではなくそのスタミナと耐久力。そこそこの技ならほとんど吸収してしまうので、小技で崩して体力の落ちたところを大技で倒す手が使いづらい。とはいえ負けないためには攻め続けるしかない。そう考えて沢崎は伊達に挑んだ。ドロップキック、脇固め、派手さはないが両者のつばぜり合いに観衆は息をのんだ。両者とも突破口を見出せぬまま時間が過ぎていって、最後は沢崎に疲れの色が出始めたところをギロチンドロップなどでようやく伊達がラッシュをかけようとしたところで、この団体始まって以来の60分時間切れ引き分け。

伊達はしばらく横になって息を整える。沢崎もしばらくダウンしていた。やがて両者とも起き上がり握手。場内感動の拍手。伊達遥、勝てなかったが7度目の防衛成功。

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SPZ世界選手権試合

△伊達遥(60分 時間切れ引き分け)沢崎光△

第4代王者が7度目の防衛に成功

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控室に着くなり沢崎はぶっ倒れた。秋山が介抱する。

「伊達ちゃん強すぎ、勝てない」

「光、負けなかっただけすごいよ」

「いや、お互い大技が出せなかった。お客さんも正直言って後半は疲れちゃったと思う・・・」

正直言って攻め手が見つからない・・・

沢崎は頭を抱えた。

2007年2月 7日 (水)

第26回 伊達遥最強伝説・SPZ防衛ロード

4年目1月、草薙みことと富沢レイが負傷。保科優希が映画撮影で離脱、沢崎光がAACで防衛戦のためメキシコ遠征という相変わらず苦しいスケジュール。

第1戦鹿島大会。セミ前のシングル戦で小川ひかる対デスピナ・リブレのシングル戦。デスピナはAAC系レスラーのナンバー2だが、関節技の攻防にはあまり強くないので、試合中盤から小川のSTF、ストレッチプラムの攻めが決まりだした。ねちっこく攻め続けてデスピナが疲れたところへバックドロップ一閃。これはカウント2.5で返したデスピナだったが、小川はすばやく組み付いて。

―伊達さんほどじゃないけど。

鋭いニーリフトの連打。タッグ戦で伊達に散々やられたのでいつか自分のものにしようと研究し習得したらしい。

腹を押さえてもがくデスピナ。そのままフォールしてカウント3。人気選手の勝利に場内大歓声。

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第6戦神戸大会、南利美、ミミ吉原組対伊達遥、上原今日子組のAACタッグ戦。一進一退の好勝負となったが、最後はミミ吉原が捕まってしまい、伊達のニーリフトに3カウントを喫した。これで王座移動。

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第7戦山梨大会。メインでは永沢舞が小川ひかるのAACジュニア王座に連続挑戦。前回の反省を踏まえて、永沢は積極的に攻めた。

―技をガンガン出す。

小川の関節攻撃に苦しんだ永沢だったが、キャプチュードで形勢逆転。焦った小川がSTFで反撃するが、ロープ際まで逃げてブレイク。しかし、2発めのキャプチュードを狙ったところで、小川がうまくキックで切り返し、そのまま押さえ込んで小川が勝利。

「はあ、何とか勝てました・・・」

小川ひかるが3回目の防衛に成功。

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次の日は最終戦、代々木大会。第3試合は小川ひかる対ミミ吉原のシングルマッチ。人気のベビーフェース同士の対戦でファイトスタイルも似通っている。同門対決だが通好みのカードといえた。

試合終盤、小川が逆さ押さえ込みを3連発して勝ちに行く。SPZマットではあまり見られないシーンに会場も沸く。だが百戦錬磨のミミ吉原はきちんと返していって、

「甘いよー」と言ってボディスラム。小川、これはカウント2.8で返したが、もう一発ボディスラム。すかさず片エビ固めでフォール。これで小川はカウント3を喫した。ほとんど大技のない攻防だったが、23分7秒の試合となった。両者はリング上で握手してから別れた。リング下で吉原のマイク。

「フゥ、フゥ。なんとかチーム関節地獄ナンバー2の座を守りました。(場内笑い)このシリーズ、私もリミちゃんもベルトを失ってしまいましたが、次のシリーズ取り返すために精一杯やりますので、応援よろしくお願いいたします、本日は多くのご来場どうもありがとうございましたぁー!」

そのあと休憩。しばらくの間熱戦の余韻で席を立つ人も少なかった。「いやあミミさん元気だねえ」まだ後半3試合を残しているが会場のファンはすっかり出来上がっていた。

休憩後の試合は上原対デスピナのシングル。前の試合とは対照的に両者めまぐるしく動くハイテンポの試合となったが、最後は上原がキャプチュード、フライングニールキックとたたみかけてデスピナを撃破。セミファイナルは永沢が南と組んで、チョチョカラス、カーチスと対戦。南がカーチスを捕まえ、分断に成功。最後はジャーマンでカウント3。

そしてメイン。伊達遥対秋山美姫のSPZ選手権。過去の対戦では秋山は勝てないまでもそこそこ苦しめているので、運がよければ勝機も・・・と思われていたが、

いざゴングが鳴ると、伊達が猛然と攻撃。秋山も単発で反撃するものの、伊達の耐久範囲を超えるものはなかった。後半、伊達のミサイルキックで口の中を切った秋山の動きが落ち。そこを狙って伊達の大外刈り、STOが決まった。これで決定的ダメージを負った秋山。フィニッシュはニーリフトだった。

会場のファンは伊達の強さに一瞬あっけに取られたが、大きな拍手で応えた。

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SPZ世界選手権試合

○伊達遥(20分くらい、ニーリフトからの片エビ固め)秋山美姫×

第4代王者が、5回目の防衛に成功

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2月シリーズ「グレイトサバイバーシリーズ」、今度は伊達と南が負傷欠場。しかたがないのでメインでは秋山、沢崎の1期生コンビにチョチョカラス、デスピナを当てるカードを中心に組んだ。第7戦川崎大会では、沢崎対チョチョカラスのAAC戦。激闘の末、沢崎がタイガースープレックスでベルト防衛に成功。

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3月シリーズ「スプリングバトル2013」開幕。AACがベルトを自団体に持ち帰ろうと、6戦目の仙台大会でチョチョカラスが2ヶ月続けて沢崎のAACベルトを狙ってきた。今回はチョチョカラスも死に物狂いで沢崎を倒しにかかり、裏拳で3カウントを奪った。

第7戦山形大会、草薙の地元で組まれたカードは、伊達遥、上原今日子に草薙みこと、小川ひかるが挑むAACタッグ戦。

「・・・パートナー、私でいいの?、草薙さん」

「小川さんには新人の頃いろいろ教えてもらいました。だから小川さんと組みたいです。」

こうして人気の二人がタッグを組んで王座に挑んだ。試合は小川が伊達の攻撃を受けて、かなり追い込まれたがどうにか反撃して草薙にタッチ。草薙が攻め疲れの見えた伊達を投げまくって、形勢不利と見た伊達が上原にスイッチ。しかし草薙の投げは冴え渡る。

―小川さんのためにも、勝つ。

シングルマッチのときよりも無心のフロントスープレックス、ノーザンライト、タイガースープレックスが立て続けに決まる。

―きょうの草薙さん、気合の入り方がいつも以上だ・・・。

上原はやや狼狽した。草薙は落ち着いて仕留めにかかった。

「小川さん!」リング内に引き入れて草薙が上原を抱え上げて合体パワーボム炸裂。小川はサッと伊達を牽制。カウント3が入ってしまった。王座移動。

「45分59秒、ダブルパワーボムからのエビ固めで、草薙みこと、小川ひかる組の勝ち」

小川ひかるはこれでAACタッグベルト、ジュニアベルトの2冠。

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最終戦は埼玉・市ヶ谷記念ホールでの興行。メインでは伊達遥対草薙みことのSPZ戦。28分12秒の激戦だったが、危なげなく伊達が草薙を仕留めた。蹴りやニーリフトで徐々に体力を奪っていって、棒立ちになったところをラリアット。これを草薙は返せなかった。これで6度目の防衛。翌日の京スポ新聞には「伊達強い!」の見出しが。いよいよSPZも5年目、伊達の長期政権が見えてきた。

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SPZ世界選手権試合

○伊達遥(29分12秒、ラリアットからの片エビ固め)草薙みこと×

第4代王者が6回目の防衛に成功

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2007年2月 6日 (火)

第25回 「逆さ押さえ込み」出たー!

さて4年目11月シリーズ、タッグリーグ戦の時期だが、小川ひかるはAACのジュニア王座防衛戦のためメキシコへ短期遠征、伊達遥が先日の南との戦いで右腕を負傷して欠場。秋山美姫は映画出演で欠場。ミシェール滝も負傷欠場となった。しかたがないので前年から規模を縮小して、4チームでのタッグリーグ開催となった。

「えええっ、わ、私が草薙さんのパートナー?」

「そう決まりました。小川さんは海外行ってますし、滝さんも負傷欠場では他に適任の選手がいませんので草薙さんと組んでリーグ戦に出てください。大きな経験になると思います」

「は、はや~、どうしよー」

さて、11月シリーズ「第4回SPZ最強タッグリーグ戦」も前半の5大会は通常戦。人気選手を多数欠いての興行なのでカードの出し惜しみができず、初戦の幕張大会は南利美対草薙みことの「関節キラー対投げ技の女王」の激突がメインで組まれた。事実上のナンバー2決定戦である。試合は終始押し気味に投げを乱発した草薙。南も腕ひしぎを繰り出すがロープ際なのですぐ逃げられ、最後はタイガースープレックスで草薙が南からフォール勝ち。

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「えって、きょうあたし、メインなんですかぁ」

「人がいないので南さんと組んで上原さん、沢崎さんとのタッグ戦です。頑張ってください」

第3戦の群馬大会、新人の永沢舞が初メイン登場。南利美が指示を出し精一杯動いたが、最後は沢崎のジャーマンに沈んだ。

「南さん、ごめんなさい・・・」

「いいのよ、メインで20分、良くやったほうだと思うわ」

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第5戦札幌大会のメインは南利美対沢崎光の一騎打ち。伊達、草薙に負け団体エースから転落し、もうこれ以上負けられない南とトップグループに食い込みたい沢崎。白熱した勝負になり、最後は34分31秒、スタミナが尽きた沢崎にリング中央で逆片エビ固めが決まり、南のギブアップ勝ち。

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6戦目の名古屋大会からようやくリーグ戦が開始。出場チームは以下の4組。

「チーム関節地獄・AACタッグ王者」:南利美・ミミ吉原

「熱血若手コンビ:沢崎光・上原今日子」

「投げ技チーム:草薙みこと・永沢舞組」

「元AACタッグ王者、デスピナ、ジョーカー組」

名古屋大会のセミで草薙、永沢対南、ミミ吉原が激突。試合は永沢の頑張りと草薙の投げ技連発で長期化し、最後はミミ吉原が草薙に捕まってしまい、タイガースープレックスに3カウント。南がカットに入ろうとしたが永沢がしがみついて離れない。

チャンピオンチームがいきなり敗戦、しかも相手は草薙プラス新人のインスタントチームである。もしこの一戦にベルトがかかっていたら王座移動になっていたところだ。

「勝った・・・の?」

「うん、永沢、良く頑張った・・・」

メインは沢崎、上原対デスピナ、ジョーカーの対戦。激戦の末沢崎がデスピナをミサイルキックで仕留めた。

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7戦目大阪大会。セミで南、吉原のチャンピオンチームがデスピナ、ジョーカーを撃破。最後は南の裏投げ2連発。メインでは草薙、永沢組対 沢崎、上原組。永沢が相手の攻撃をよくしのいで草薙にスイッチ。草薙がちぎっては投げの凶暴ぶり?を見せて、最後は上原にダブルパワーボムを決めてカウント3。即席タッグ、まさかの2連勝。

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最終戦は川崎大会。セミが草薙、永沢対デスピナ、ジョーカー。悪のAACチームの連携も草薙の前には無力で、草薙がほとんど一人でやっつけた。最後はデスピナのローリングソバット連発にてこずった草薙だったが、サソリ固めをリング中央で決めてデスピナからギブアップ勝ち。この瞬間、即席チームの優勝決定。けっきょくメインは消化試合。4選手入り乱れる激闘が展開されたが、最後は沢崎がタイガースープレックスを南に決めカウント3を奪った。

4年目12月、南利美に写真集のオファー。

「すいません南さん、タッグベルト作りたいのと合宿所を拡張したいので何とぞ・・・」

「・・・分かった。気分転換してくるわ」

こうして南利美のサード写真集「ASHIZURI」が発売された。同時期に伊達にも写真集のオファーがあったが、チャンピオンを2ヶ月も試合に出さないわけには行かないので断った。

「社長、新日本女子さんからEXタッグリーグの参戦要請が」

「くっ、痛いがしゃーない。派遣したれ、新規ファンを新女さんから強奪してこよう」

こうして草薙みことと沢崎光が新日本女子へ殴りこみ。残ったメンバーで興行を回していかないといけない。とはいえ12月シリーズ「スノーエンジェルシリーズ」はテレビ放映でファン層が多い東北地方を回るので観客動員はさして苦戦しなかった。

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第7戦の長野大会、メインはAACジュニア戦。

小川ひかる(チャンピオン)対 永沢舞(挑戦者)。

いつもどおりスリーパーなどの締め技でペースを作ってゆく小川。永沢もバックドロップなどの投げ技で応戦。キャプチュードまで決めて小川を追い込む。追い込まれた小川がSTF、ストレッチプラムを繰り出すがロープに近く逃げられてしまう。ここで永沢が力まかせのスクラップバスター。カウント2.8で返す小川。うわ小川勝てるのかという雰囲気。

しかし、小川がここで奥の手。すばやく組み付くや両腕をからめて背中に乗せて「逆さ押さえ込み」で丸め込む。所属選手でこんな渋い技を使うのは小川くらいだ。

「ワン、トゥ、スリッ」

虚を突かれた永沢は3カウントを聞いた。SPZは主力選手がみんな投げたり極めたり蹴ったりで相手をたたきのめすスタイルの団体なので、このような結末は珍しい。会場がどよめく。

「25分43秒、逆さ押さえ込みで小川ひかるの勝ち」

控室に戻ってウーロン茶で乾杯。

「ああ、舞ちゃんけっこう強かった。最後はここ使って勝てたようなものですね」と言って頭を指差す小川。

「お疲れ様」ミミ吉原がねぎらう。

「はー、また舞ちゃんにも抜かれちゃうのかしら、次は今回使った手にはひっかからないと思いますし。」

「頑張ってよ、ヒカルちゃん、人気あるんだから」

「・・・はい」

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最終戦は埼玉にある市ヶ谷記念ホール。1万人規模の大会場だったが、メインに伊達遥対チョチョカラスのSPZタイトル戦を組んだこともあって超満員札止めとなった。いままでは自団体の選手だけでベルト防衛戦を行っていたが、外国人選手相手に初の防衛戦となった。

第4試合で小川ひかる対ミミ吉原のチーム関節地獄同士の対決。地味な絞め技極め技の応酬が続き館内息をのむ展開。しかし要所要所で掌底で殴りつけダメージを与える戦法が功を奏し、小川の集中力が切れたところをショルダータックルで倒してカウント3.実力は近づいているはずなのだがどうしても小川は吉原に勝てない。

メインのSPZタイトル戦、ベルト云々よりももうSPZとAACの団体エース同士の威信をかけた戦いとなった。チョチョカラスがリングを縦横無尽に飛び回れば伊達は蹴りで応戦する好勝負となったが、試合後半に放った必殺のSPZキックがチョチョカラスの頭を捕え、これで大ダメージを負ったチョチョカラスは続くブレーンバスターを返せなかった。王者が4度目の防衛に成功。いよいよ長期政権の予感。

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SPZ世界選手権試合 4年目12月 埼玉市ヶ谷記念ホール

○伊達遥(20分くらい、ブレーンバスターからの片エビ固め)チョチョカラス×

※第4代王者が4回目の防衛に成功

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一方、新女のEXリーグに出場した草薙、沢崎組は沢崎の足のケガもあり、2位に終わった。さて年末のプロレス大賞。ことしは最優秀選手に草薙みことが選ばれた。一時はSPZ、AACの2冠に輝いた活躍が評価された。永沢舞も新人賞に選ばれた。そしてベストバウトは12月の伊達対チョチョカラスの一戦が選ばれた。タッグのベストバウトには今年6月に行ったドリームカード、南、チョチョカラス組対沢崎、伊達組の一戦が選ばれ、SPZが創立4年目にしてプロレス大賞「独占」を成し遂げるに至った。

2007年2月 5日 (月)

4年目10月 代々木怪獣決戦 伊達遥×南利美

4年目10月、小川ひかるに写真集の依頼があった。SPZは「重度の資金難」なので受けた。こうして小川ひかるのセカンド写真集「SHINANO」が発売された。

沢崎光に映画出演の依頼。資金繰りが苦しいので、これも受けた。

「みんな、聞いてください」

合同練習終了後、社長が全選手を集めてミーティング。

「えーと、さっきね、「ボッケリーニプロモーション」っていうイベント会社さんと契約して、大会場の演出とか会場運営とかをお願いしたから。けーやく金に5億つっこんだから」

「それで、どうなるんですか?」

「まあこれで、うちの団体も1万人規模ぐらいの会場で試合できるようになったから。ほら、自社で1万人のお客さんをいれたり出したりするの難しいから、イベント会社さんの力を全面的に借りてやるから、まあこれで準備していざ興行して客席埋まんなかったら会社赤字だから、選手の皆さん、今まで以上に頑張ってください」

「い、1万人~?」

旗揚げの頃、手作りでやっていた時代を知る一期生は目を白黒させていた。

「あ、あと、大きい会場にはオーロラビジョン入れるから、そのつもりで、南さんに関節決められてうあーってなるシーンが大写しになるから」

「・・・・社長」

「そっか・・・1万人かぁ、がんばらないとねぇ」

「燃えてきましたっ!」

こうして10月シリーズ「スーパーハイブリッドバトル2012」が始まった。初戦の高知大会、セミファイナルで上原今日子対ミミ吉原のシングルマッチが組まれた。

「せいっ!」

気合とともに上原のこの日2発目のバックドロップ。

カウント2.8で返す吉原。さらにフェイスクラッシャー。

これもカウント2.9で返す吉原。

「あたし・・・負けないわ・・・」

フラフラと立ち上がる吉原。

これがこの団体で旗揚げからエースでやってきた人の凄みなのか。

上原は思わずロープ際まで後ずさった。この間小川さんにやられたときのように一発逆転をこの人は狙っている。

「アーッ!」

ダメージを負いながらも掌底で反撃する吉原。それを落ち着いて受けて、吉原の顔面をつかんで走って飛んでのフェイスクラッシャー。

これで勝てる。

しかしカウント2.9でまたも返す吉原。

「なっ・・・」

カバーを返した吉原がユラーリと起き上がる。しかし良く見ると吉原の足はもう小刻みに震えていて、立っているのがやっとの状態。

「ミミさん、これで終わりっ!」

上原は組み付いて吉原の足を持って思い切り後方にブン投げた。キャプチュード炸裂。これで吉原の意識は途切れて、そのままカウント3が入った。

試合後珍しいマイク。といっても今野社長の仕組んだストーリーである。マットに横たわるミミ吉原を踏みつけながら、

「南・・・・さん。チーム関節地獄も大したことない。次はあんたを沈めて病院送りにして、チーム関節を叩き潰してやるッ」

通路奥で見ていた南利美は何もいわずにリングに上がり、上原を両手で突き飛ばし、ミミ吉原をすばやく救出してリング下に下がり。

「腕一本、覚悟しといて」

それだけ言って、ミミ吉原に肩を貸して引き上げた。

「・・・あんなんで良かったのかしら」

「うん、上原さんをヘビー級戦線に絡ませるから、チーム関節地獄との抗争?みたいな」

「ふふ、社長もいろいろ考えて大変ね」

********************

で、3戦目の福岡大会、上原対南のシングルマッチ。一方的に南が攻め、裏投げで頭を打った上原は思わず後ずさった。

リング中央、この場所で決める。

そのまま南は上原に飛びついて腕ひしぎ逆十字。完全に入った。場内に上原の悲鳴が響く。こうなっては上原はギブアップするしかなかった。

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4戦目広島若草アリーナ大会。ここが1万人規模の大会場初進出。メインにタイトルマッチを組んだが、地元の沢崎が映画出演で欠場ということもあって、1万人の会場を埋めることはできなかった。

「まあ最初はこんなもんかな」社長は8割がたの客席の入りをみてつぶやいた。

メインは集客のために組んだカード。チョチョカラス、デスピナのAACタッグ王座に南利美、ミミ吉原が挑む。大方の予想は実力に陰りが見え始めたミミさんが捕まって終わりだろうというものであったが、大番狂わせ。

南利美が関節地獄に引きずりこんでデスピナを戦闘不能に追い込む。しかしデスピナは最後の力を振り絞って反撃し、チョチョカラスにタッチ。このあとチョチョカラスと南の一騎打ち状態となったが、チョチョカラスのフランケンシュタイナーが決まりカウント2.8まで追い込まれる南。

「ミミさん、しばらくお願い!」

ミミ吉原にタッチ。チョチョカラスの強力な飛び技のスピードに吉原はついていけない。会場の空気も、ああこれでミミさんが捕まって終わりかと思っていた。南利美はコーナーで頭を押さえて座り込んでいる。しかしー

リング中央で組み付いてきたチョチョカラスをふりほどき、そのままドラゴンスリーパーに固めた。

「これでお終いですっ!」力の入る吉原。しかしそこそこのレスラーならこれで決まるが、何しろ相手はAACトップのチョチョカラス。何とか脱出するだろうと会場のファンは見ていたが、

「うっ、ぐうぁぁぁぁ・・・・」

完全に入ってしまったらしく、チョチョカラスの苦しみ具合が半端ではない。えって気づいたデスピナがフラフラとカットに入ろうとしたときにはチョチョカラスはギブアップしていた。

会場ええええ!の声。そのあと満場の吉原コール。

「フゥ・・・なかなかやりますね」

「30分20秒、ドラゴンスリーパーで、南利美、ミミ吉原組の勝ち」今野社長がアナウンスするやリング上に駆け上がる。

「ミミさん、おめでとうございます」

草薙みことが2人の腰にベルトを巻く。

試合後の控室。

「いや、何年もやってるけどプロレスってわかりませんね。特にタッグマッチは、・・・ありがと、リミちゃん」

普段はクールな南利美も師匠ともう一度ベルトを巻けて嬉しそうな表情。

「社長さん、勝てると思ってた?」いたずらっぽく吉原が問う。

「いや・・・正直言って・・・勝てるとしたら南さんの関節かなと思ってた」

「ふふっ、前の団体でね、若い頃よく先輩に言われたわ。強い相手でもラッキーな勝利の望みはあるからやる前からあきらめるなって、ま、乾杯しましょう、ビール用意してあるよね~」

「ミミさん、そのくらいは用意してますよ」

社長がクーラーボックスからビールを一缶開け、紙コップに注ぐ。といってもビールはは20歳以上の吉原と滝、保科だけであり、残りの選手は「スポーツドリンク」での乾杯となる。

「リミちゃん、20歳になる3月までベルト守って、いっしょにビールで乾杯できるよう頑張るから」

「じゃ、写真撮りまーす。」京スポ新聞のカメラマンがカメラを構え、ベルトを巻いた南と吉原を中心に全選手が乾杯に加わる。井上霧子に言わせるとベルトを獲ったり、防衛したときの「定番儀式」とのことである。

「かんぱーい」社長の音頭で乾杯。ミミ吉原は感慨深げにビールを飲み干した。

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第7戦の浜松大会。会場は埋まらなかったが熱戦が展開。セミはミミ吉原、南利美のタッグ新王者対伊達遥、秋山美姫の1期生チーム。翌日に伊達対南のSPZ選手権が控えていることもあり、秋山と伊達が南を集中攻撃し、ミミ吉原の出番がほとんどないまま最後は合体パワーボムで南から3カウント。そしてメインは草薙対チョチョカラスの一騎打ち。チョチョカラスのスピードに苦戦したが、どうにか最後は草薙流兜落とし→ノーザンライト→タイガースープレックス の波状攻撃が決まり、チョチョカラスから白星を挙げた。

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そして最終戦、初進出の代々木体育館大会。

「うあ、でっかいハコ、こんなところでやるのかぁ・・・」

ミミ吉原が慨嘆する。旗揚げ時代からは信じられない規模。

で、17時半の開場。今野社長は前売り券の売れ具合から満員にはできそうだという自信があったが、「関節のヴィーナス対静かなる不死鳥!最後に立っているのはどっちだ!」と煽ったこともあり超満員札止めの盛況。

「ウァハハハハ、代々木埋まったぞ、やはりメインのカードが効いたな」

試合前のチーム関節地獄控室で高笑いする今野社長。

「ふふ、このポスター、怪獣同士の決戦みたい、リミちゃん、いい試合してね」

「ふっ、怪獣ね」

そうかもしれない。私が伊達さんの腕を壊しにかかり、伊達さんは蹴りで私を失神に追い込もうとするだろう。そしてどちらかがそういう状態になってしまう。でも、やるしかない。私自身のために、SPZをここまで大きくした皆や社長、ミミさんのためにも。

「じゃあちょっとグッズ売り場手伝ってくる」

今野社長はグッズ売り場へ向かい、協力会社スタッフと一緒に「増収」に励んだ。18時半試合開始。

ターニャ・カルロスのスクラップバスター2連発に永沢舞の動きが止まりかける。

「ぐっ・・・」

「舞!しっかり!そんなのにやられちゃダメ!」

セコンドの秋山に檄を飛ばされ、気合を入れなおした永沢舞、キャプチュードでカルロスを仕留めた。第2試合では保科がドラゴンスリーパーでサンチェスを倒し、第3試合ではミシェール滝がボディプレスで富沢レイを下した。セミ前の試合、ミミ吉原、草薙みことの善玉コンビがクロフォード、ジョーカーの悪の外人コンビと激突。盛り上がる組み合わせである。このメンツではひとり実力が抜きん出た草薙が外人組を蹴散らし、最後はタイガースープレックスでジョーカーを下した。セミファイナルは秋山、上原組にチョチョカラス、デスピナの対決。終始押し気味に進めた外人チーム。最後はチョチョカラスが裏拳で秋山を仕留めた。

そしてメイン。大観衆の歓声に後押しされながら、チーム関節地獄のパーカーを着た南利美が入場。そのあとSPZベルトを巻いた王者、伊達遥が入場。3月の王者決定戦以降、シングルマッチでは伊達の3連勝中なので、どちらかといえば伊達有利と思われたが、南は一発で持っていく関節技があるし、ファンの声援はどちらかといえば南のほうが大きいので予断を許さないカードである。午後8時22分、運命のゴング。

「伊達さんにシングルで4連敗したら完全に力関係がお客さんも分かってしまう。今回は何としても勝ちたい・・・

そう思いながら南はリングに立った。しかし試合は一方的な伊達ペース。序盤はエルボーの乱打でペースを握り、ヘッドバットなどで着実にダメージを与えて行き、逆転を狙った南の飛びつき腕ひしぎは落ち着いてロープに逃れ、終盤にはミサイルキック、ニーリフトで南の動きを止め、フィッシャーマンバスターでとどめを刺してフォール勝ち。勝負タイムは29分46秒。王者が3回目の防衛に成功。これで団体エースは完全に伊達遥になった。

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SPZ世界選手権試合

○伊達遥(29分46秒、フィッシャーマンバスター)南利美×

第4代王者が3回目の防衛に成功

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2007年2月 4日 (日)

第23回 関節の悲鳴を聞きなさい!(4年目9月)

4年目9月。

ミミ吉原に映画出演の依頼。資金難なので受ける。

さらにミミさんに写真集の依頼。今野社長と井上秘書とミミ吉原はもう笑い転げるしかなかった。女子レスラーが5冊もの写真集を出すなど、新日本女子のトップレスラーでもありえない。

「ま、まあ・・・人気が長い間あるってこと・・・なのよねぇ」

こうしてミミ吉原の5th写真集「MIZUHO」が発売された。

保科優希にも写真集の依頼。アイドルレスラーなので受ける。サード写真集「TWILIGHT」が発売された。

9月シリーズ「バトルオータム2012」が開幕。今回はSPZの主力活動エリアの東北地方を回る。

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第2戦岩手大会、第3試合。

小川ひかる、永沢舞対ジュリア・カーチス、アリッサ・サンチェス組のタッグマッチ。永沢舞がある程度先発で戦ったあと、いつものように小川ひかるが捕まって外国人チームの技をある程度受ける。デビュー戦ではされるがままだったカーチスにも、いまは力関係が逆転しており、落ち着いて攻めを受け、攻め疲れの見えてきたところへ強烈なステップキックを見舞い、そのあとSTFで締め上げる。

「舞、逆カット!」

小川の指示で永沢が飛び出し、カーチスの救出に飛び出したサンチェスにしがみつく。その間にもSTFで締め続け、カーチスからギブアップを奪った。手を挙げてファンの声援にこたえる二人。

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第3戦秋田大会のメインは沢崎対デスピナのAAC選手権、今シリーズはチョチョカラスが来日できないのでデスピナが代理で挑戦者を務めた。先月のリーグ戦でも勝っているので落ち着いて戦い、最後は必殺のタイガースープレックスで初防衛に成功。

第5戦山形大会、メインは故郷凱旋の草薙みことが小川ひかると組んでジョーカー、クロフォードの悪役外国人コンビを迎え撃つ一戦。こういう場合の小川は草薙のフォローに徹し、草薙が攻め疲れたときはタッチして適度に捕まったあと、再度草薙にスイッチするという脇役ぶり。最後は草薙のタイガードライバーがジョーカーに炸裂しカウント3。30分5秒の激闘を制した。

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第7戦カイメッセ山梨大会では、3大シングルマッチと称して秋山対草薙、沢崎対伊達、上原対小川のAACジュニア戦の3戦が組まれた。まず草薙対秋山戦。

伊達さんに勝ってベルトを取り戻すためにはまず秋山さんに勝たなくちゃいけない。そう考えてタイトル戦並みの気合で草薙は秋山に挑みかかった。最後は草薙流兜落としが炸裂。しかし秋山は場外へ逃げてカバーを許さない。場外で体勢を立て直した秋山がリング内に戻り、草薙に組み付いてロープに振った。しかし、そこをうまく背面トペで切り返し、そのまま押しつぶして秋山越えを果たした。

-これで先輩たちから全員に勝つことができた。次は伊達さんのベルトを獲る。

セミは伊達対沢崎の再戦。先月のリーグ戦では30分時間切れに終わっているので決着戦が組まれた。SPZ王者とAAC王者の激闘は29分の激闘の末、最後は伊達がニーリフトで沢崎を仕留めた。

メインのAACジュニア戦。両者の力関係が逆転した今、社長も小川が勝てると思ってカードを組んでおらず、大方の予想も上原が押し切って終わりだろうというものだった。さて試合が始まってみても上原の投げ、ソバットがいいタイミングで決まっていき、小川の息はだんだん乱れていった。しかし小川は作戦を持っていた。

相手と比べて唯一勝っているものー一瞬の関節技でギブアップを奪う。そう考えてリング中央でアームホイップで転ばせると、

「関節の悲鳴を聞きなさい!」と手早くアピールしてSTF。足をフックして、両手で上原の顔面をロックして思い切り絞り上げる。小川の右手首が上原の鼻を潰すように絞る。いくら上原が練習熱心でも顔は鍛えようがない。ものすごい痛みが上原の顔面を襲う。痛みに耐えかね上原はギブアップするしかなかった。館内エエーッ!の大歓声。

「じゅ、12分0秒、STFで、小川ひかるの勝ち」

自分は全然疲れてない、まだやれるのに私は負けたのか。足取り重く上原は控室に引き上げた。

劇的な幕切れに観衆は惜しみないオガワコール(ヒカルコールでは沢崎と区別がつかなくなるのでオガワコールとなる)でこたえた。

「やるじゃない」南利美が小川の腰にベルトを巻く。今野社長がリングに駆け上がり小川の手を上げた。

「しゃ、社長・・・」

「・・・よく勝った、感動したよ。さすが入門第1号」

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その翌日、最終戦の川口大会は超満員札止めの盛況。セミ前、草薙みこと、小川ひかるの人気コンビがクロフォード、ジョーカーと激突。小川がクロフォードの裏拳で鼻から流血、草薙みことがジョーカーのミサイルキックで口の中を切る流血戦となり、ファンの悲鳴が交錯したが最後は草薙がジョーカーを返し技のリバーススープレックスでフォールした。勝負タイム27分2秒。セミファイナルは南利美対沢崎光。28分10秒の激闘の末ジャンピングニーで南が沢崎をフォール。

そしてメインは伊達対秋山のSPZ選手権。先月のリーグ戦で伊達に次ぐ準優勝、しかも伊達とは引き分けた実績が評価された。

序盤こそ互角の攻防を見せた秋山だったが、中盤から伊達のエルボーやチョップ、キックといった打撃技が決まりだした。やがて長い試合に疲れだした頃に伊達のジャーマン、ブレーンバスターを浴び足が止まったところを組み付かれ、

膝蹴りの乱射が秋山の腹に命中。

「あれは防げないし本当に痛くて動けなくなる」

何人ものレスラーを恐怖のどん底に追い込んだニーリフトをもらいフォールされる。

負けたくないっ。

秋山はカウント2.8で返す。

また組み付かれ膝蹴りの連打浴びる。もう痛いなんてもんじゃない。

またフォールされる。

負けたく・・・ない。

カウント3ギリギリで秋山の右肩が上がる。場内大盛り上がり。

かなりの時間をかけてフラフラと起き上がった秋山に待っていたのは、伊達が走りこんでのラリアット。これで頭から倒れて、秋山の意識はなくなった。カウント3を奪われフォール負け。

「57分32秒、ラリアットからの片エビ固めで、伊達遥の勝ち」

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SPZ世界選手権試合

○伊達遥(57分32秒、片エビ固め)秋山美姫×

※ラリアット、第4代王者伊達が2回目の防衛に成功。

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57分を超える激闘に場内のファンは総立ちで拍手。秋山は起き上がれず、沢崎と上原に抱えられながら退場。

「試合・・・どうなった・・・」

控室で横たわったままぼそりと沢崎に尋ねる。

「57分32秒、ラリアットで美姫さんの負け」

「そっか・・・強いな、遥さん・・・」

2007年2月 3日 (土)

4年目8月 灼熱の死闘 第4回SPZクライマックス

4年目8月

ことしもSPZで最もクレイジーなシリーズと呼ばれている「SPZクライマックス」が開幕した。出場選手は下記の8名となった。(カッコ内は出場回数)

前回優勝者:南利美(3)

シード権:草薙みこと(1)(第3回大会準優勝)

     ジョーカー・レディ(1)

     沢崎光(3)(第2回大会優勝)

     伊達遥(3)

予選会勝ち上がり組

    秋山美姫(3)

ミミ吉原(3)(第1回大会優勝)、

デスピナ・リブレ (2)

第1戦の鹿島大会は「前夜祭」と称するリーグ戦のない通常試合の興行、メインはチーム関節地獄の3人対デスピナ、ジョーカー、クロフォードの悪の外人トリオ。チーム関節地獄の役割分担は小川がやられ役で、相手の攻撃を受けてどうにかつなぐ役で、ミミ吉原が戦いを上手く盛り上げたり自軍ペースに持ちこむ司令塔というか、まとめ役で、南は相手にダメージを与え、最後は決めるポイントゲッター。この役割分担?がはまり、最後も南と吉原の合体パイルドライバーがクロフォードに決まりカウント3を奪い24分20秒の激戦に終止符をうった。南利美はシングルだと怖いくらい強いが、タッグだとミミ吉原が指示を飛ばし、それに従って動くので面白いと言うのが常連ファンの評判であった。

そして、2戦目の千葉幕張大会から地獄のリーグ戦。

○ジョーカー(2点、スクラップバスターから片エビ固め)吉原

ジョーカーレディは怪奇派、悪役のように見えて実はレスリング巧者で頭もいい。人気の高い吉原相手では場の雰囲気を読んで悪役と化しレフェリーの隙を突いて凶器攻撃を敢行。場内に響き渡る男性ファンの悲鳴。これで大ダメージを負った吉原。脇固めやドラゴンスリーパーで反撃するも及ばず、最後はスクラップバスターにフォール負け。

○草薙(2点、フライングボディプレスからの体固め)沢崎

次期SPZベルト挑戦権の事を考えるとお互い負けられない一戦。試合は投げ技の応酬で館内も盛り上がる。終盤、兜落とし、ノーザンと大技をたたみかけてペースを握った草薙がDDT、フライングボディプレス2連発とつないで白星発進。

△伊達(1点 時間切れ引き分け)秋山(1点)△

この団体始まって以来の30分タイムアップドロー。多彩な技を持つ秋山をなかなか崩せない。終盤ニーリフト2連発で秋山の動きを止めるも、秋山も最後まであきらめず反撃し、チャンピオン相手にドローに持ち込む。

○南(2点、延髄斬りから片エビ固め)デスピナ

メインは順当どおり南の勝利。セミがロングマッチだったので11分ほどでデスピナを仕留めた。

翌日は第3戦、新潟大会。

デスピナ(2点、ヘッドバットからの片エビ固め)吉原(0点)

草薙(4点、DDTからの片エビ固め)ジョーカー(2点)

△伊達(2点、時間切れ引き分け)沢崎(1点)△

前日に引き続き伊達30分時間切れドロー。多彩な技で応戦する沢崎をいまひとつ攻めきれず、ニーリフトで追い込むのが遅すぎた。

○南(4点、飛びつき腕ひしぎ逆十字)秋山(1点)

24分の熱戦、最後はリング中央で関節の決めあい。一日の長のある南がうまく制して腕ひしぎ逆十字でタップ。

第4戦は長野大会。

○ジョーカー(4点、ノーザンライトSH)デスピナ(2点)

○秋山(3点、ドラゴンカベルナリア)吉原(0点)

秋山が吉原を着実に追い込み、最後はドラゴンカベルナリアでギブアップ勝ち。ミミさん3連敗。

○伊達(4点、ヘッドバットから片エビ固め)草薙(4点)

勝てる試合を2つドローで取りこぼし星勘定の苦しい伊達が積極的に攻め、最後はニーリフトで足が止まった草薙をヘッドバットで仕留めた。王者相手の2ヶ月連続の敗戦に肩を落として引き上げる草薙。

○南(6点、アキレス腱固め)沢崎(1点)

10分経過後、何気なく出したかに見えたアキレス腱固めがキマってしまう南マジック。沢崎は突然苦しみだしタップ。館内どよめく。南が唯一の勝ちっ放し。

第5戦、愛知豊田市大会。

○秋山(5点、ドラゴンカベルナリア)ジョーカー(4点)

○沢崎(3点、タイガードライバー)吉原(0点)

強敵相手のシングルマッチ連戦ではもうミミさんは本領発揮できないのか。10分でタイガードライバー3発の前に敗退。昨年同様の全敗の可能性も出てきた。

○伊達(6点、ニーリフトから片エビ固め)デスピナ(2点)

○草薙(6点、ドラゴンスリーパー)南(6点)

5月の幕張決戦と同一カード。愛知のファンは沸く。中盤までは草薙が投げ技極め技を軸に良く攻めるが後半南も盛り返し24分の激戦。最後は両者フラフラの状態でリング中央で組み合い、草薙がドラゴンスリーパーを決めて、南からギブアップを奪い初勝利。

南さんに勝ちたい。その思いがギリギリのところで勝ったのか、投げ技に行くと見せかけて意表をついたドラゴンスリーパー。ミミさんから教わったので意外と深く入り抜けられない。

南の視界がゆがみ、意識が遠のいてゆく。まさかここで絞め技が来るとは・・・このままでは締められる圧力で落ちてしまう。普段は相手に吐かせている屈辱の言葉を自ら発さざるを得なかった。

ギブアップ。場内ええええの大歓声。あの関節のヴィーナス、南利美のギブアップ負けは京スポ新聞の若林氏も「記憶がない」とのことである。意識が朦朧としてリングに倒れる南。小川と吉原の肩を借りて控室へ引き上げた。

―あの南さんにやっと勝てた。

デビューしてから2年4ヶ月。ようやく団体トップの南さんに勝つところまで来た。草薙はリング上で涙を落とした。

第6戦大阪大会。第1試合で永沢舞がノーザンで2年先輩の富沢レイに初勝利。

○秋山(7点、前方回転エビ固め)沢崎(3点)

30分の激闘。最後はタイガースープレックス狙いをうまく切り返して丸め込んだ。

○草薙(8点、タイガードライバー)デスピナ(2点)

○伊達(8点、ヘッドバットから片エビ固め)ジョーカー(4点)

○南(8点、延髄斬りからの片エビ固め)吉原(0点)

前日のショックが残る南だったがきょうの相手は全敗で、タッグパートナーで手の内が分かっている相手。手堅く勝利。

第7戦は兵庫県尼崎大会。

○沢崎(5点、ジャーマン)デスピナ(2点)

○伊達(10点、ミサイルキックからの片エビ固め)吉原

先輩でも師匠でもリングに上がれば関係ない。伊達が一方的に攻めてカウント3を奪った。

○秋山(9点、スクラップバスターから体固め)草薙(8点)

秋山に勝てば一期生全員からの勝利を得ることになる草薙。南戦同様の集中力で臨み、ちぎっては投げてのフロントスープレックス乱発。終盤も兜落としからタイガースープレックスと放つが、秋山驚異のクリア。最後は秋山が冷静に見て、草薙のボディプレス自爆を誘い、すかさずスクラップバスターを決めてカウント3奪取。草薙みこと、痛すぎる敗戦。

○南(10点、ジャーマンSH)ジョーカー(4点)

最終戦は本拠地横浜に戻って来ての興行。

○秋山(11点、ドラゴンカベルナリア)デスピナ(2点)

秋山はデスピナを下し、優勝戦進出にわずかの望みをつないだ。

○沢崎(7点、タイガーSH)ジョーカー(4点)

○草薙(10点、草薙流兜落としから片エビ固め)吉原(0点)

けっきょくミミさんは2年連続の全敗となった・・・

○伊達(12点、フィッシャーマンバスター)南(10点)

勝った方が優勝の試合。序盤は一進一退の攻防。しかし中盤から伊達の蹴り技がうまく決まりだし南が防戦一方。最後は粘る南を初公開の頭から落とすフィッシャーマンバスター。これで南の意識を断ち切りカウント3。

結果は伊達遥が12点で初優勝。SPZ王者の意地を見せ、負けなしでの制覇となった。例年通り賞状と金一封、副賞としてブランドアクセサリーが贈られた。

「あ・・・あの・・・えっと・・・優勝できました」

準優勝は11点の秋山。賞状と副賞の横浜中華街お食事券が贈られた。3位は10点で直接対決に勝っている草薙みこと。賞状と副賞のスポーツドリンク1ケース。4位は南利美、5位は7点の沢崎。ここまでシード権を得、6位ジョーカー、7位デスピナ、最下位のミミ吉原の3人は来年は予選会からのスタートとなった。

2007年2月 2日 (金)

第22回、4年目7月 永沢舞の連敗記録

4年目5月、苦闘の末南利美がようやく団体最強の称号、SPZ世界王者に輝いた。だが王者に休息はない。6月シリーズ「エンジェルストライクシリーズ」で防衛戦、相手は3月の初代王座決定戦で、膝蹴りで串刺しにされてラリアットでフォール負けという屈辱を味わわされた伊達遥に決まった。

あと6月シリーズは恒例の「SPZクライマックス予選会」がリーグ戦形式で行われ、今年の出場者は昨年の本大会に出場したが負け越した秋山美姫、ミミ吉原、デスピナのほかに小川、滝、保科、富沢、クロフォードの全8選手がエントリーし、上位3名にSPZクライマックスへの出場権が与えられるリーグ戦。上原今日子は首の負傷で欠場となった。

で、予選会リーグ戦は熱い戦いが繰り広げられた。頭ひとつ抜け出ているのがAACチャンプの秋山で、それを吉原、デスピナ、クロフォードが追う展開。3日目の岩手大会でミミ吉原対クロフォードの対決。追い込まれたがドラゴンスリーパーで逆転。半失神に追い込んでからドロップキックで勝つというらしいパターン。これで勢いに乗ったミミ吉原は翌日のデスピナ戦も同じようにストレッチプラムで痛めつけておいてからのフロントスープレックスでフォール勝ち。予選会通過が見えてきた。

第6戦福島大会、第1試合で永沢舞がAACのターニャ・カルロスに敗れシングル15連敗。小川ひかるのワースト記録に並んだ。明るい永沢は表では悩んだそぶりは見せなかったが、見えないところで少し落ち込んだようだ。第5試合、リーグ戦で小川ひかる対ミミ吉原。ミミさんは秋山に敗れただけの1敗でここまできて、きょう勝てば予選会突破が決まる。

「ま、ひかるちゃんの技は全部知ってるから」

じっくりとした攻防から打撃技をはさんで徐々にダメージを与えていって、ストレッチプラム、ドラゴンスリーパーと絞め技をつないで小川からギブアップを奪い予選通過を決めた。両者の実力差は縮まっているのだが、ファイトスタイルが似通っているのでどうしても小川はミミ吉原の壁を越えられない。

第7戦、予選会リーグ戦が終わり、対戦成績は下記のようになった。

1位通過 秋山美姫 7勝0敗 14点

2位通過 ミミ吉原 6勝1敗 12点

3位通過 デスピナ 5勝2敗 10点

4位クロフォード4勝3敗、8点 5位小川ひかる3勝4敗、6点。ミシェール滝、保科優希、富沢レイの3人が1勝6敗で同率最下位となった。

そして最終戦川口大会。同じ会場でメインは3ヶ月前と同じ南対伊達のAACタイトル戦。第1試合で永沢舞は富沢レイのドラゴンスリーパーに破れ17連敗。大器晩成なのか、なかなか白星に恵まれない。セミファイナルは草薙、吉原、小川の人気トリオがAACのチョチョカラス、デスピナ、ターニャ組を破った。いよいよメインイベントのSPZ選手権。3ヶ月前屈辱の敗戦を喫した相手に南利美は立ち向かった。

だがー

今回も伊達が南を下した。南が最も得意とする関節地獄に持ち込ませないよう、遠距離からのソバットなどの飛び技を主体に闘う作戦に出た。南は関節技絞め技が出せないと苦しい。最後は徹底してのアウトレインジ戦法で、コーナー最上段からのミサイルキックを3連発し、最後の一打が顔面を的確に捉え、動けなくなった南はまたも3カウントを聞いた。39分39秒の息詰まる戦いを制して、ベルトが第4代王者となった伊達の腰に戻ってきた。

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SPZ世界選手権試合

○伊達遥(39分39秒、ミサイルキックからの片エビ固め)南利美×

第3代王者が初防衛に失敗、伊達遥が4代目王者となる

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「SPZ日本人選手は3すくみになってきました。伊達対南は伊達の勝ち、草薙対伊達は草薙の勝ち、南対草薙は南の勝ち。まだこのベルトを防衛したチャンピオンはいません、それではこの辺で川口特設大会から、解説は井上霧子さん、実況は私、沖野がお送りいたしました」

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4年目7月。

AACジュニア王者の上原今日子にファンクラブが結成された。

「社長さん、えっと、あたし、3ヶ月で1回も勝ってないし、その、才能がないんでしょうか・・・」

連敗続きの新人、永沢舞に声をかけたが、返ってきた言葉はさすがに弱気が入っていた。

「永沢さん、ちょっとビデオ見ようか」

社長は小川ひかるを呼んで、永沢と一緒に応接室に入り、ノートパソコンのスイッチを入れた。再生されたのは永沢自身の先日の試合映像だった。そこそこ投げ技で永沢は攻めるのだが、対戦相手の保科は受けきった後、攻め疲れが見えてきた永沢を攻めて、非力になったところでアキレス腱固めでギブアップを奪った。

「小川さん、ぼく素人なのでよくわかんない。アドバイスでも」

小川ひかるは何を今さらと苦笑しながらアドバイスする。

「よく投げ技も出していて、声も出てますし、内容はぜんぜん悪くないですよ。お客さんの反応も「おおっ」とかあって、いいですし。あとは10分、15分動けるスタミナだけだと思います。舞ちゃん投げ技がうまいから草薙さんのように強くなりますよ。」

「そうかなぁー」

「じゃあいいものを見せるよ。」

そういって社長はノートパソコン内の別フォルダを開き、別の映像ファイルを再生した。

「あっ、こんなの・・・持ってたんですか、いやっ、社長ッ、恥ずかしい」

珍しく小川ひかるがあわてる。

小川ひかるのデビュー直後の映像。地方の小さい会場で小川がAACの外人選手と戦っているが、一方的にやられるだけの内容。うめき声、悲鳴を上げながらただ殴られ蹴られるだけ。何とか起き上がって反撃しようとしても足がついてゆかず、最後は動けなくなったところを蹴られてカウント3を奪われ、セコンドに担がれて退場するところで画像は終わった。

「これデビュー3ヶ月ぐらいのときの小川さん。これに比べれば全然いい内容だと思うけど」

こんなのを見せられたのでは永沢は弱音をこれ以上口にする気にはなれなかった。

「舞ちゃん」小川がやさしく諭す。

「まあ、プロレスは、結果よりも、内容だから。舞ちゃんの戦いを見て、お客さんが次も来よう、誰かを誘って来ようって思ってもらうのが本当の勝ちだから、だから勝ち負けはあまり気にしないで頑張ってみたら」

「・・・はい、頑張ります!」

数分後、永沢が道場に戻った後、パソコンを片付けていた社長に

「社長、恥ずかしいから昔のビデオは消去してくださいって・・・」

「いやほら、旗揚げ直後の苦労は忘れちゃいけないと思って、パソコンの奥にしまっておいたんだけど」

「・・・もう」

7月シリーズ「サマースターナイツシリーズ」開幕前に小川ひかるが練習中に右足首を負傷したので欠場。

「えっへへっ!勝ちましたー!」

2戦目の函館大会。移動中の「クマ牧場観光」でリフレッシュできたのか、永沢舞がアリッサ・サンチェスをノーザンライトスープレックス→フロントスープレックスのコンボで下し、デビュー以来のシングル戦連敗を18で止めた。

第7戦岐阜大会のメインはAACヘビー級タイトル戦。チョチョカラスに挑戦させるつもりだったが、本国でのスケジュール調整がつかなくて来日不可、ということで同期でタッグパートナーの沢崎にチャンスが回ってきた。手の内を知り尽くした同士、投げ技で積極的に攻めた沢崎がそのまま押し切ってジャーマン2連発でカウント3.またも王座移動。

最終戦八王子大会、メインは3ヶ月前と同一カード、伊達遥対草薙みことのSPZ世界タイトルマッチ。伊達の打撃技が勝つか、草薙の投げ技が勝つか。試合は草薙の投げ技と伊達の蹴り技が正面からぶつかり合う好勝負となったが、終盤に決まったニーリフト。これで草薙の動きが止まった。すかさず2発目のニーリフト。腹に幾本ものヒザが突き立てられる。

「う、ぐっ・・・」

これで動けなくなった草薙。フラフラと立ち上がるところへ、コーナー最上段から伊達のミサイルキックが降って来た。顔面に命中。フォールをカウント2.9ギリギリで返す草薙。局面を打開するため最後の力で草薙流兜落としを放ち、伊達を頭から落とした。両者大の字。かなりの間をおいて、ふらふらとリング中央で組みあい、伊達がアームホイップで転がしたあと、意外にもアキレス腱固めで絞ってきた。踏ん張ってこらえようにもこらえる力がもはや残っておらず、草薙の足に鋭い痛みが走る。もはやギブアップするほかなかった・・・30分26秒の熱闘を制した伊達がSPZ王座の初防衛に成功。

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SPZ世界選手権試合

○伊達遥(30分26秒、アキレス腱固め)草薙みこと×

第4代王者が初防衛に成功

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2007年2月 1日 (木)

第21回 SPZ選手権 草薙みこと×南利美

「あの、私、もうレスラーやっていけない?・・・」

初代王者になって初防衛戦で後輩に敗北し、ベルトを失ってしまった伊達遥は社長に泣き言をこぼした。

「伊達さん、僕は受け身を取ったことのない人間だけど、負けたらまた取り返せばいいよ、元気出してください。チョチョカラスを最初に倒したうちの選手は伊達さんなんだから。あの蹴りをどんどん叩き込めれば無敵なんだから」

5月シリーズ「バトル・カデンツァ2012」もタイトル戦が各1回ずつ組まれる豪華版。今シリーズから2期生の草薙みことは沢崎光とのタッグを解消して、チーム関節地獄の準構成員に回るよう社長から指示された。

「6人タッグで南さんと組むのがミミさん、小川さんだと他とのパワーバランス的に弱いから、草薙さんがそっち入ってくれると助かる」

「・・・わかりました」

今シリーズ2期生の富沢レイが足の負傷で欠場。初戦の高知大会、セミで草薙みこと、小川ひかる組のタッグが始動。沢崎、秋山組と対戦し小川ひかるが沢崎のジャーマン2連発に敗れたものの、人気抜群の2人のタッグに会場は沸いた。

で、高知大会のメインは南利美、ミミ吉原対伊達遥、上原今日子組の南利美凱旋試合。しかしこの団体の選手は相手が地元だろうが容赦はしない、逆に恥をかかせてやると思いながら猛然と攻めてくる。南も地元で負ける訳には行かないので関節技を惜しげもなく公開。最後はパートナーのミミ吉原が捕まり、合体パイルドライバーに沈んだ。勝負タイム44分41秒。4人とも最後はしばらく大の字。場内総立ちで拍手。

移動日をはさんで翌々日、2戦目の宮崎大会は伊達の地元。セミで伊達、秋山のタッグ王者チームが23分の激闘の末、南、吉原のチーム関節地獄を破り大喝采。そしてメインはこのクラスの人材が払底しているのか、はたまた社長の好みか、5ヶ月連続で上原今日子対小川ひかるのAACジュニア戦。対戦成績は上原が2連敗の後2連勝。「きょうが完全決着戦か」と京スポ新聞は書きたてた。だが、結末は両者の力関係の逆転を完全に表していた。小川も逆エビ固め、ストレッチプラム、STFを繰り出すがそれをすべて受けきった上原がフライングニールキックで小川を倒した。王者は2度目の防衛に成功。

第3戦福岡大会のメインは伊達、秋山対チョチョカラス、デスピナのAACタッグ戦。今度ばかりはAACタッグベルト奪還に燃えるメキシコ勢の執念がすさまじく、チョチョカラスが前面に立って奮闘し、チョチョカラスの裏拳でダウンした秋山に一気にムーンサルトを決めてベルト奪還に成功。

第4戦福山大会のメインは日本人選手同士の豪華な6人タッグマッチ。沢崎、伊達、秋山の一期生トリオ対南、草薙、小川の「チーム関節地獄+草薙」というカード。6人の持ち味が交錯する好試合となり、またひとり格落ちの小川もどうにかやられル前につないで、最後32分の熱闘の末、南が延髄斬りで秋山を仕留めた。

第5戦、静岡浜松大会。メインに組まれたのは草薙みこと対秋山美姫のAAC選手権。まだ草薙はシングルで秋山に勝っていない。総合力のある秋山には相性が悪いのである。今回も秋山優勢で中盤まで進んだ。しかし草薙が兜落としで形勢を逆転させ、ノーザンライトの連発で勝負に出る。3発目のノーザンが決まりフォールされる。しかしロープに近い。まだ意識の残っていた秋山はロープに右足をかけた。これでブレイク。引きずり起こした草薙はまたノーザン。これもロープに近くブレイク。秋山の粘り。いやな予感を振り払うように草薙は5度目のノーザン。が、叩きつけられた一瞬の隙を突いて秋山はフォールを振りほどき場外にエスケープ。秋山が場外で伸びたまま体力の回復を図る。草薙がリングしたへ追撃に出てドラゴンスリーパーで絞め続けてからリング内へ秋山を戻す。ここまで痛めつけられても秋山の目は死んでいなかった。

間合いを取って、助走をつけて大きくジャンプしてネックぶりーカー炸裂。

「しまった・・・」

最後の力を振り絞って決めたネックブリーカー。その後のフォールを草薙は返せなかった。王座移動。29分40秒の激闘。

「秋山選手、最後まで勝負を捨てませんでしたね」

「いや私も驚きました、草薙選手のノーザンライトを5回も食らって立ってられるというのは凄いです。」

解説のミミ吉原も驚嘆するばかりであった。

第7戦長野大会、メインイベントはチーム関節地獄の南、吉原、小川の3人が悪の外人チーム、デスピナ、ジョーカー、クロフォードを迎え撃つカード。試合は白熱し、このメンツだと南が矢面に立たねばならず苦戦したが、最後は逆片エビ固めがクロフォードに決まり、チーム関節地獄の逆カットも上手く決まったのでギブアップを奪った。

そして最終戦千葉大会。草薙みこと対南利美のSPZタイトルマッチ。「草薙の投げか?南の関節か?最後に立っているのはどちらか?SPZ史上最も壮絶な戦いの予感!」とのキャッチコピーがつけられた。当然6000人の会場は超満員札止め。南はチョチョカラスに負け続け、SPZ初代王者決戦では伊達に敗れるなど団体内最強の呼び声はあるが、ヘビー級シングルのベルト戴冠は伊達、草薙、秋山に先を越されてしまった。それだけに南の胸中にも期するものがあった。

一方の草薙も一期生相手に白星を上げていないのは秋山と南だけ、秋山さんには勝てなかったけど南さんからは絶対に獲る。そう心に決めて決戦の地、幕張へ向かった。

開場から30分ほど、早くも会場はぎっしり埋まった。

「すごいわね、これ」

チーム関節地獄控室まえから客席の様子を覗いたミミ吉原が感嘆する。

旗揚げ直後は1000名動員がやっとだったのに。これもあの子たちの成長かな。リミちゃんとみこっちゃんの激突、でこれだけ呼べるようになるのね。

関節地獄控室奥では南利美が小川ひかる相手にウォーミングアップがてら、投げ技の防ぎ方をチェックしている。

一方の赤コーナー側控室。草薙みことは正座しながら精神統一をしていた。

迷わない。いつも通りに闘えば結果はたぶんついてくる。

いつものように淡々と6時30分試合開始。先シリーズデビューの永沢舞が勝てない。第1試合でシングルマッチが続くが、先輩や外国人選手に連敗街道驀進中。投げ技に頼るファイトスタイルがワンパターンで試合運びの技術はないに等しい。そこを突かれて今日もカーチスに追い込まれヘッドバットの前に敗北。これでシングル12連敗。小川ひかるの持つワースト記録15連敗まであと3。

第2試合は保科優希対ミシェール滝。前座での定番カード。終始攻めた滝、最後はショルダータックルで勝利。第3試合は伊達遥対上原今日子。前SPZ王者がカード編成の都合とはいえ前半での試合。しかし上原も小川、吉原を破り地位を上げてきているので油断ならない。しかしまだ両者の間に実力差があり、最後はジャーマンで伊達が上原を下した。ここで15分の休憩。

休憩明けはミミさん、小川ひかるの人気コンビ登場。対戦相手はジョーカー、クロフォードの悪の外国人コンビなので典型的なベビーフェース対ヒールの図式。だが人気は凄いが個々の実力は微妙の両者。徐々に外国人タッグの悪の連係に押されだし、苦戦が続いたが、終盤、吉原の「悪く思わないでね」ドラゴンスリーパーから流れが変わり、絶妙のタッチワークで外人組の攻勢をしのいで、最後はクロフォードに的を絞り、ダブルパイルドライバー、ダブルパワーボムと連係技攻勢をかけて小川がクロフォードにフォール勝ち。24分58秒の激闘。人気チームの勝利に館内は沸き立った。

このあたりで草薙みことがコスチュームに着替えアップを始めた。控室で黙々と体を動かす。チーム関節地獄控室では吉原と小川がフラフラになって戻ってきて床の上にへたり込む。南はそれを見ながらストレッチを始めた。

セミファイナルは秋山、沢崎組対チョチョカラス、デスピナのタッグマッチ。AACタッグを奪取し勢いに乗るチョチョカラスが序盤から猛攻。最後もチョチョカラスが秋山を攻め立てムーンサルトプレスで3カウント。

セミが終わるや館内は猛烈な歓声に包まれる。青コーナー側から「チーム関節地獄」パーカーを羽織った南利美入場。そのあと赤コーナー側からベルトを巻いた草薙みことが入場。

館内ハイテンションMAX。今野社長兼リングアナのコールも大歓声にかき消され気味。ものすごい量の白と紫の紙テープが飛ぶ。

テレビ解説は井上霧子。「きょうは二人とも物凄い気合の入り方ですよ、草薙選手も容赦なく頭から落としてくるでしょうし、南選手は壊すつもりで関節を極めてくるでしょうね」

午後8時30分、運命のゴング。南が序盤から積極的に仕掛け、スリーパー、フロントスープレックス、逆片エビで優位に立つ。草薙は10分過ぎ、形勢打開のため早くも草薙流兜落とし発動。しかし南はダメージを隠しながら逆片エビ固めで痛め続けたあと、裏投げで叩きつける。カウント2.9で返す草薙。なおも飛びつき腕ひしぎで腕を壊しに行く南。が、ロープに近くエスケープされる。

南ペースを崩そうと草薙2発目の兜落とし、カウント2.5で返す南。その後草薙がコーナー最上段からボディプレスを仕掛けたがこれが自爆。もがき苦しむ草薙、そこへ満を持して南利美の飛びつき腕ひしぎ。

「ウアアア・・・ッ」

普段はやられても声を出さない草薙だが、痛みに耐えかね悲鳴をあげてしまう。場内歓声と悲鳴が相半ば。

1分ほど耐えた草薙だったが、腕が徐々に危険な方向へ曲がる。ロープははるかかなたである。

「ギブアップしろ草薙!」

阪口レフェリーが耳元で囁く。

右ひじの関節がグキッという音。

ダメだこれ以上我慢したら、折れる。そしてきょうの南さんは参ったしなければ折る気だ。

神社のみんな、ごめんなさい。

「ギブアップ・・・」

これで試合は終わった。阪口レフェリーが南に試合終了を告げ腕ひしぎを解かせる。今野社長がゴングを叩く。リング下からセコンド陣が駆け上がり、倒れた2人に駆け寄る。

「27分11秒、飛びつき腕ひしぎ逆十字固めで南利美の勝ち」

2人ともダメージが深く、しばらく起き上がれなかった。ミミ吉原が南の腰にベルトを巻いた。そのあと両者は握手して健闘を讃え合った。こうして南利美が3代目王者に輝いた。

「いやー井上さん、凄い試合になりましたね、前評判どおりの」

「・・・最後は紙一重だったと思います。しいて言えば1年の経験の差が出たと思います」

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SPZ世界選手権試合

○南利美(27分11秒 飛びつき腕ひしぎ逆十字固め)草薙みこと

第2代王者が初防衛に失敗、南利美が第3代王者となる

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2冠王になれたのもつかの間、1ヶ月で丸腰に戻ってしまった草薙は控室で痛めた右ひじを氷で冷やしながら落ち込んだ。

その夜、今野社長は井上秘書から草薙みことのフォローを頼みますといわれたので、戸塚の日本料理店「よこ川」に小川ひかると3人で出かけた。

「私の技は・・・通用しなかったんでしょうか」

ぼそりと草薙が漏らす。兜落とし2回を繰り出して沈められなかったのは初めてのことである。

「効いてたけど、あれで決まらなかったのは、出し方が悪かったと・・・思います。得意技は相手が弱ってチャンスのときに出しなさいってミミさんがよく言ってた・・・」

小川ひかるがフォローする。

「うん・・・」

「元気出してください、草薙さん。今日の歓声は今までで一番凄かったと思います。投げ技の草薙さん、極め技の南さん、どちらに転んでどんな展開になるかというファンの想像力を最も刺激できたカードを組めたと思います。次のチャンスはあるから頑張ってよ、草薙さん」

「・・・はい、頑張ります」

この試合の模様は翌週水曜発売の「週刊ハッスル」のカラーで3ページにわたって紹介され、「女神たちの潰し合い!」という見出しがつけられた。翌々週、りんごテレビで放映され、「凄い試合」「感動した」というお褒めのお手紙が団体に多く寄せられた。

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