第73回 1期生・デビュー7周年
8年目5月
かんたんなあらすじ:
横浜戸塚に本拠地自社ビルを構えるまでに成長したお嬢様プロレス団体「SPZ」は8年目5月を迎え、1期生は相前後して「デビュー7周年」を迎えるに至った。金儲け主義者の腹黒い「今野社長」は、人気の高い1期生の7周年の「メモリアルマッチ」を組むことにより集客増を図ろうともくろむのであった。
最終戦は横スペ大会。本拠地に戻ってきた。きょうはタイトル戦も組まれていないカードだが、「旗揚げ7周年記念スペシャルマッチ5試合」を行うので、超満員の観衆で埋まった。
第1試合はスイレン草薙対マイトス香澄。序盤はあどけなさを残す両者の殴り合い。
「これがボクのとっておきだよ!」
マイトスのフロントスープレックス炸裂。しかしカウント2.5で返したスイレン草薙が、
「これで決めます!」
フロントスープレックスのお返し。マイトスは衝撃で目の前が真っ黒になり3カウントを奪われた。
「スイレンさん投げ技は鋭いですね、草薙さんのように強くなるかもしれません」
「・・・あのくらいは当然ですね。草薙流は投げ技の武術ですから、問題は技ではなくて心です。あのコがそれをわかってくれるかどうかなんですが・・・」
控室のモニタを見ながら草薙みことと小川ひかるが話していた。
第2試合は小川ひかる、富沢レイ対ミレーヌ・シウバ、デスピナのタッグマッチ。シウバとデスピナは旗揚げ直後のSPZ、まだ若手だった1期生のカベとして最初に立ちはだかった選手たち。これもひとつのメモリアルマッチといえた。試合は富沢レイがデスピナにストレッチプラム。
「うぐぐぐ・・・」
「アブナイ!」カットに入ろうとするミレーヌ・シウバ。しかし良く見ていた小川が「抱きつき」で阻止。
「ギブアップ・・・」デスピナが降参の言葉を口にした。ながいあいだアイドルレスラー扱いで同期の草薙に実力は遠く及ばない富沢も、そこそこのレスラーとなら充分渡り合える実力をつけてきた。
第3試合は次代を担う若手実力者のタッグマッチ。上原今日子、永沢舞対吉田龍子、ハイブリッド南のタッグ戦。現在進行形のSPZの激しい戦いを4選手が繰り広げる。1期生2期生がトップを離れる日はそう遠くない。そのあとはこの4人がSPZを支えてゆかなければならない。27分の激闘の末、最後は永沢がSPZ王座奪取の勢いそのままに、ハイブリッド南をJOサイクロンで仕留めた。
*********************
その試合が終わると休憩。そのあと場内が暗転。
「保 科 優 希 デ ビ ュ ー 7 周 年 記 念 試 合 」
オーロラビジョンに流れる巨大文字。場内のファンが一斉に手拍子が。そして流れる「ボレロ」。
ほわほわの赤いコートを来た保科優希がども、どもと手を振りながら笑顔で入場。
普段は「6時半の女」として第1試合で盛り上げ役を担う保科だが、きょうは7時40分に登場。保科も1年目の4月、横浜赤レンガ大会のSPZ旗揚げ戦でデビューし、長らくこの団体の前座戦線を支えてきた。永沢も吉田もハイブリッド南も、新人の頃はこの選手にもまれて、素人からいっぱしのレスラーへ変貌を遂げてきた。そして保科も先月デビュー7周年を迎えたが、「7冊目の写真集撮影」のため、メモリアルマッチは5月に延期となっていた。もっとも、対戦相手は今野社長のワンパターンなマッチメイクの影響で過去100回以上シングル対戦した5期生の渡辺智美である。
賞状と金一封の授与セレモニーの後、今野社長のコールを受ける保科。
「赤コーナー、滋賀県大津市出身、保科、ゆうーきー」
エメラルドグリーンとピンクの紙テープが乱れ飛ぶ。万年前座の選手だが、根強い人気を誇る。
―勝つことが、保科さんにできる最高の恩返しだ。
渡辺智美がここ2年で覚えた技を駆使して、一歩一歩保科を追い込んでゆく。保科も懸命にアキレス腱固めで応戦するが、最後は渡辺が走りこんでのヒップアタックで保科からカウント3を奪った。勝負タイム24分36秒の、アイドルレスラー同士とは思えない激戦だった。
かなりの時間をかけて起き上がった両者がリング上でガッチリと握手。白星では飾れなかったが、保科のメモリアルマッチは幕を閉じた。
_____________________
★保科優希デビュー7周年記念試合★
渡辺智美(24分36秒、ヒップアタックからの片エビ固め)保科優希
______________________
続く第5試合、またオーロラビジョンには巨大字幕が。
「南 利 美 デ ビ ュ ー 7 周 年 記 念 試 合」
「スピード」のテーマ曲がかかると、ものすごい歓声を受けながら南利美がいつも通りクールな表情でリングへ向かう。1年目の5月、旗揚げ第2弾シリーズ初戦の名古屋大会で小川ひかるを破ってデビューを飾った南もデビュー7周年。SPZベルトを2度巻いた、この選手の活躍ぶりはいまさら語る必要もない。最近こそ能力に翳りが見えはじめ、トップ戦線から離れて前半の試合に回ることも多くなったが、姉妹タッグや草薙連合でメインやセミに出るときはきっちり関節地獄で存在感を誇示する。
大歓声が轟き渡る中セレモニー。京スポ新聞若林記者が記念の盾、今野リングアナが金一封を手渡し、そのあと対戦相手の「ちょい悪常連外人」マリア・クロフォードが入場。いくら南の能力が落ちてきてもこのクラスの選手ならファンも安心してみていられる。
「赤コーナー、高知県高知市出身、みなみー、としーみー!」
今野社長のコールを受け、ものすごい量の紫の紙テープがリングに舞う。リングが見えなくなるくらいの量だった。
午後8時15分、ゴング。ミナミ、ミナミの大声援を受けながら、落ち着いた試合運びでマリア・クロフォードを追い込んでゆく南。ときおり脇固めや逆片エビを挟んで体力をじわじわと奪って、最後は裏投げ、延髄斬りをたたきこんで3カウントを奪った。場内ワアアアと大歓声。勝負タイム16分4秒。
_____________________
★南利美デビュー7周年記念試合★
南利美(16分4秒、延髄斬りからの片エビ固め)M・クロフォード
____________________
南利美、リング下で珍しくマイクを持ったと思ったら、
「どうもありがとう」
一言だけ言い残して退場。
その次もメモリアルマッチ。
「秋 山 美 姫 デ ビ ュ ー 7 周 年 記 念 試 合 !!」
「DETECT」に乗って、白いロングガウンを羽織った秋山美姫がリングへ。またまた賞状と記念の特大クリスタルグラス、金一封が贈られた。対戦相手はEWAのドリュー・クライ。現在の力関係から行って秋山にはやや分の悪い相手だ。
「赤コーナー、鳥取県米子市出身―。あきやまー、みーきー」
かなりの量の水色紙テープが舞う。1年目5月の旗揚げ2弾シリーズ初戦・名古屋大会でデビューした少女は、南や伊達、沢崎たちと出世争いを繰り広げ、関節技も飛び技パワー技もなんでもこなせる選手として一目置かれるようになり、AACシングルのベルトも巻き、沢崎とのタッグでもSPZタッグベルトも巻く一流レスラーへ駆け上がった。最近でもタッグではまだまだ通用する力を持っている。
試合はさすがにドリューの打撃技に苦しんだが、試合中盤に起死回生のドラゴンカベルナリア。この技で何人もの選手が泣いた。最後は息切れを起こしたドリューをコブラツイストで絞り上げてギブアップを奪った。相変わらずの技のキレ。場内にアキヤマコールが響き渡る。
_________________
★秋山美姫デビュー7周年記念試合★
秋山美姫(15分くらい、コブラツイスト)ドリュー・クライ
__________________
そして8時55分、セミファイナル。
「★ 沢 崎 光 デ ビ ュ ー 7 周 年 記 念 試 合 ★」
一期生メモリアルマッチ4連発のトリは「エクスプロージョン」がかかる中、「脳天クラッシャー」沢崎光がいつものようにTシャツを羽織ってリングイン。そのあと表彰セレモニー。そしてリングアナのコール。
「赤コーナー、広島県尾道市出身、さわざきー、ひかーるー!」
南、秋山と同じく1年目5月の名古屋大会でデビューした沢崎、団体の成長と歩調をあわせるように力をつけ、タッグ戦線を中心に数々のベルトを巻いた。
対戦相手は新咲祐希子17歳。勢いに勝る新咲が獣のように沢崎に襲い掛かり、沢崎は得意の投げを出せずにズルズルと追い込まれ、最後は新咲のフェイスクラッシャー。これはカウント2.8で返した沢崎だったが、直後の新咲のショルダータックルにはね飛ばされ、続くフォールを返せなかった。
__________________
★沢崎光デビュー7周年記念試合★
新咲祐希子(12分くらい、ショルダータックルからの片エビ固め)沢崎光
_________________
メインイベントは特別試合、草薙みこと・伊達遥の「一夜限りの超ドリームタッグ」がナスターシャ・ハン、チョチョカラスの「最強外人連合」と激突。メモリアルシングルマッチ4連発で、すでに館内の時計はゴング前の時点で21時20分を回り、やや観衆も疲れ気味だったがドリームタッグに沸いた。
試合は伊達が外人組の攻勢の矢面に立ち、持ち前の打たれ強さで付け入る隙を与えず、逆にチョチョカラスを「殺人ヒザ魚雷」で戦闘不能にして、孤立したナスターシャを草薙が落ち着いて「草薙流兜落とし」で仕留めた。19分42秒。決してロングマッチの死闘ではなかったが、館内は豪華タッグに酔いしれた。そしてSPZを支えてきた「2大怪獣」がガッチリと握手。
*******************
最近のコメント