第46回 ハイブリッド南×小川ひかる
「ハイブリッド」南利美が告げる。
「あなた、私とのタッグではどこか依存している所があるから、シングルマッチを何試合かやってみなさい」
ということで山梨大会の第3試合で組まれた小川ひかる対ハイブリッド南。小川はやられながら試合を作るタイプで、しかも昨日54分もメインで戦った疲れが残っているのでハイブリッドもそこそこ攻めて、ねちっこい技の攻防が続く好勝負となった。20分過ぎにそろそろかなと小川がリング中央で「もう逃げられないわよ」と決め台詞の後、STF。
痛い、けど絶対ギブアップするかっ・・・
花道奥から今日はメインに草薙と組んで出る予定の南利美が、気になるのか妹の戦いぶりを見ている。
小川がハイブリッドの頬骨にこめた力をさらに強くする。
「アアアアアアー!」
しかし悲鳴を上げながらもハイブリッドはギブアップしない。
長時間締め続けて疲れてきたので小川はいったんSTFを解いて、距離をとった。ふらふらと起き上がってきたところをネックブリーカー。誰もがこれで終わった、でもハイブリッド南はよくやったと思った・・・が、ハイブリッドはカウント2.9でクリア。
―小川さんを越えられないようじゃ、上の人には絶対勝てない。こんなところで負けるもんかー
立ち上がってアキレス腱固めで反撃、しかしロープに近い。いつのまにか場内ミナミコール。小川が悪者になってしまう試合も珍しい。そのあと小川がうまく組み付いてバックに回って、鋭いバックドロップ。今度こそもうだめだろうと誰もが思ったがハイブリッドはこれもカウント2.9でクリア。館内は大盛り上がりで重低音ストンピング(フォールを返した際に観客が足を踏み鳴らす音)まで出た。
「負ける・・・もん・・・か・・・」
花道奥から南利美がリング下までやってきた。
あやまる。ハイブリッドさん。あなたを勝てる相手と見ていたことを・・
小川は気合いを込めて、起き上がってきたハイブリッドをタックルで倒しそのまま上に乗ってSTFで再度締め上げた。今度は小川の右手首はハイブリッドの鼻をつぶす感じで締めていた。
あまりの痛みに悲鳴すら上げられないハイブリッド。井上レフェリーが意思確認。
「参ったしなさい!鼻折れるわよ」南利美がリング下から叫ぶ。手には白いタオルが握られている。
ハイブリッドが砕けそうな意識の中、井上レフェリーの手を叩いて意思表示をするのと南がエプロンに上がったのが同時だった。
「26分59秒、STFで小川ひかるの勝ち」しばし両者大の字。そのあとふらつきながら立ち上がった両者、小川がハイブリッドの手を上げて健闘を讃えた。
「肩貸そうか?」
「いえ、歩けます・・・」
引き上げるハイブリッドに大きな拍手が送られた。
小川も控室で荒い息をはずませていた。
「最後危なかった・・・あれでデビュー8ヶ月、さすがリミさんの妹、次やったらわかんないな・・」
そこへハイブリッドが南利美に付き添われて戻ってきた。
「小川さん、今日はありがとうございました」
「ナイスファイトでした。あとはリミさんの腕ひしぎのような自信のある技が一つあれば、私に勝てると思います。」
「ごめんね小川さん、出来の悪い妹で」
「いえ、すごい新人だと思いますよ」
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第7戦福岡ボートメッセ大会、メインはナスターシャ・ハン対上原のEWA選手権。トップに立つためには伊達さんや草薙さんに勝つほかにも外人トップのハンさんにも勝つという結果が必要だ、と感じた上原は積極的に攻めたが、試合開始5分、不用意に組み付いた上原へ瞬時に体を入れ替えてドラゴンスリーパー。
「う・・ぐふっ」
特殊部隊の暗殺術?にも採用されているロシアの格闘術コマンドサンボの流れをくんだ絞め技で、入り具合が正確だったか、上原の鍛え上げられた肉体から瞬時に力が抜け落ち、あっさり落ちてしまったので阪口レフェリーが試合を止めた。5分6秒の短期決着に場内唖然。
「あら、ごめんなさいね、壊れちゃったかしら?」
失神したままリング上に横たわる上原。男性ファン女性ファン(上原には性別を問わず熱狂的なファンが多い)の悲鳴が。異常事態に小川、草薙、南といったセコンド陣や井上秘書までリングに上がり、阪口レフェリーが上原に活を入れた。
「あ・・・あれ・・・私・・・試合は・・・」
まだ上原は何が起こったのかを認識できていないようだ。
「担架だ担架!」南、草薙、小川に運ぶ担架に乗せられて退場する上原。レスラーは鍛えられているので担架で運ばれるほどのダメージを負うのはよほどの事態である。そのまま控室の畳の上に寝かされる。小川がシューズの紐を解く。
ドラゴンスリーパーは自分や草薙さんも使うが、あんな切れ味ははじめて見た・・・あれがコマンドサンボの秘術か・・・どれよりも5分でやられてメインの役割を果たせなかったことが悔しい・・・
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シリーズ最終戦は広島大会。
第2試合でハイブリッド南が2期生の富沢レイに初めてアキレス腱固めで勝利。
「・・・・まだまだ。こんな試合じゃ喜んでいられないわ」
セミファイナル、昨日失神した上原が沢崎と組んで出場。
「あのくらいでビビってたらレスラーやってられませんよ」
対戦相手のチョチョカラス、ウィン・ミラーを蹴散らし、最後はシャイニングウィザードでミラーから3カウント。
広島大会メインは王者:吉田龍子(17)対伊達遥(21)のSPZ世界選手権。今年最後のSPZ選手権、「ベルトを持って年を越すのはどっちだ!吉田の規格外のパワーか、それとも伊達の殺人ヒザ魚雷か!メガトン級大一番!!」
「解説の小川さん、この試合どちらが有利でしょうか」
「わからないですね、直近の対戦成績はSPZクライマックス予選会で吉田選手、リーグ戦では伊達さんが勝ってますから、ただ、安定感と言う点を考えると伊達さんが少し有利だと思います。ニーリフトの威力は誰もが認めてますから」
SPZプロレス中継の解説者は保科優希か小川ひかるが務めている。人気選手で人当たりが良く。まったりとした解説の保科と、理路整然とした分かりやすい解説の小川。
試合は序盤からエルボーの連打で伊達が有利な流れ、しかし吉田もすぐに早めのスプラッシュマウンテンでペースを手繰り寄せ、ラリアットやDDTで伊達を追い詰め、プラズマサンダーボムを繰り出すが返された。
―けっきょく蹴り倒すしかない。
吉田の側頭部にSPZキック一撃。
「伊達さんの蹴りは団体を背負って立つ技だからSPZキックと呼ぼう」と社長が言ったのが命名の由来。吉田も必死に立ち上がりパイルドライバーなどで手数を返すが、このあと伊達が2発目のSPZキック。これが吉田の意識を断ち切り、マットに前のめりに崩れ落ちた。そのまま上からフォールしてカウント3。勝負タイム24分42秒とそこそこの長さだったが、見ごたえのある攻防だった。
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SPZ世界選手権試合
伊達遥○(24分42秒、SPZキックからの片エビ固め)吉田龍子×
第8代王者が2度目の防衛に失敗、伊達遥が第9代王者となる
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伊達遥が9代目王者に返り咲き。7ヶ月ぶりにベルトが伊達の腰に巻かれた。敗れた吉田はダメージが深くノーコメント。
2014年の激闘が終わった。
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