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2007年3月28日 (水)

第70回 8期生デビュー

これまでのあらすじ

横浜のお嬢様プロレス団体「SPZ]は、創立8年目を迎え、団体の草創期を支えた1期生に能力の翳りが見え出したので、積極的な新人獲得を行うに至った。新人スカウトで草薙みことのツテでスイレン草薙を獲得し、さらに新人テストを行う・・・・

「あー、秋山さん?今社長から連絡があって、応募者が予想よりすっごく多いから、明日の新人テスト、1・2期生は全員休み没収で審査員やれって、ふふ、じゃあね」

 その翌々日、SPZは約3年ぶりに新人テストを行った。業界最大手の新日本女子に人気はともかく個々の選手の力量は完全に上を行くといわれているSPZだけあって、秦野市体育館を借り切って行われた新人テストには100人以上の受験希望者が殺到した。これだけの大人数をどうやってふるいにかけようか、今野社長とテスト実施委員の小川ひかる、井上霧子が前日あわてて鳩首協議して決めたテスト内容は下記の通りだった。

「えっとぉ、それではテストを行いますので、バスに乗ってくださいね~」テストの説明はリングドクターの羽山女医が行う。2台の「かなちゃん号」に分乗させられて30分ほど、着いたところは・・・

「はい、ここは丹沢山脈の麓、大倉というところです。ここから丹沢の山のてっぺんまで登って頂きます。頂上には草薙選手がいますので、受験票と引き換えに草薙神社のお札をもらってからここまで戻って来てください~。5番目までに戻ってきた方が夕方の2次審査に進めます~」

15・16の少女たちが一斉に丹沢塔ノ岳に登らされる。表向きは「レスラーに最も必要な持久力を見る」というものであったが、100人をさばく名案が他になかったのが真相である。とはいえ大人でも頂上まで登り3時間、下り2時間を要する1500メートルの山なのでたいへんな試験である。

「あ、途中で気分が悪くなったりリタイヤされる方は何箇所かに営業スタッフがいますので申し出てくださいね~、倒れた方には注射打ってあげますから心配要りませんよ~」

天然マッド女医の言葉にざわつく受験者。

「ボ、ボク、注射はいやだよう・・・」

「では、すたーとぉー」

午前10時、号令とともに100人余の少女たちが一斉にスタート。走り出す者もいた。

「あ、もしもし、いまスタートしました、頂上で御札配るのよろしくお願いします~」

携帯で連絡を入れる。その頃頂上では

「ふぅ、山はいいのう・・・」

頂上で富士山を望みながら阪口レフェリーと草薙みことはお茶をすすっていた。

1時間経過。

「ダメだな、このくらい1時間で登れないようじゃ、一流のアスリートになんてなれっこない」

「ちょっと心配ですね」

レースではもののみごとにウサギとカメ現象が起こっていた。大多数の走り出した受験者が高度1000メートル前後でバテて動きが止まってしまい、逆にゆっくり歩いた受験者がテスト開始から2時間余、ようやく頂上近くに現れた。待ちくたびれた草薙と阪口レフェリーは「週刊ハッスル」を読みながら頂上に着く受験生を待った。

「はい、お疲れ様です。あなたに草薙の加護がありますように」

お札を受け取る受験者は息もたえだえといった様子だった。

「ハァ、疲れたーー!」

9番目に到着した小柄なショートカットの少女が息を弾ませながら草薙からお札を受け取る。

「お疲れ様です。足元に気をつけながら戻りなさい」

お札を渡された少女は目の前のスター選手に

「あっ、草薙さんだー!!」

「まだ勝負は後半、これからですよ、諦めずに頑張りなさい」

「はいっ!」足早に折り返していく少女。

「いまの・・・案外通りよるかもしれん。足が震えとらん」

「・・・そうですね」

お札を受け取る受験者は息もたえだえといった様子だった。目安の2時間半以内に赤いお札を受け取れたのは10人だけであった。あとは通常の白いお札が配られる。

テスト開始から4時間が過ぎようとする頃、なんとか最初の受験者が息を弾ませながら降りてきた。ひとり、ふたり、三人、四人・・・皆がその場に座り込み、動けない状態。五人目に現れたのは小柄な少女だった。下りでも何人か追い抜いたらしい。

「ハァ、ハァ、ボク頑張ったよぉ~」

「ハーイ、どこもケガしてませんね~、痛いところありませんね~」

「全、全然、平気でっすっ!」

これで2次テスト出場者が決まった。

営業スタッフはリタイアしたり動けなくなった受験生の回収や誘導におおわらわだった。まさか高度1000メートル地点で置き去りにするわけにもいかない。残りの90余名はSPZグッズの詰まった袋を差し上げてお帰りいただく仕儀となった。

2次テストに進んだ5人は体育館に戻り、控室で「焼き肉弁当」の昼食が支給された。だが一人を除いて手をつけようとしない。

「・・・・・・・」

「わー、焼肉だー、うれしいなー」

きれいに平らげたのはショートカットで小柄な少女ひとりであった。

実はこれもテストの一環だったりする。「死闘の後でも食えなくてはレスラーは務まらない」井上秘書の持論。

そのあと疲労回復の意味合いもある筆記試験。中二レベルの常識問題と、「プロレスの基本知識」を問うものであった。そのあと体育館で五時から2次テスト。腕立てや腹筋、スクワットが5分間で何回できるかを課す。ここで2人が脱落。

今野社長のかんたんな面接をはさんで、最終試験はスパーリング、といっても体操用マットの上に選手がひとり座っていて、3分以内にその選手を押し倒して肩を一瞬でもマットにつけたらパスという代物。しかしマットの上に座っていたのは関節のヴィーナスだった。

デロリーン。3名の受験生に緊張が走る。あの南利美が最終試験の審査員なのである。

「レスラーは物怖じしない強さと絶対に諦めないという心が絶対に必要」伊達遥の意見だった。

「安心して、3分間はこちらから攻撃しないわ。その間に私を押さえ込んでみなさい、あ、何してもいいからね」

最初の受験生、番号7番は緊張の色をありありと浮かべながら南に挑んでいったが、どうしても南の防御を崩せず押し倒すことができない。時間だけが過ぎていって3分経過のタイマーが鳴り、南が」

「あなたよくがんばったわ・・・でもこれまでね・・・」

と某選手のまねをしてスリーパーに捕える。7番は3秒でタップ。実はこのスリーパーも試験だったりする。

「あなた、なかなかやるわね、はい次」

2番目の受験番号51番も挑みかかっていったが、動かすこともできない。2分過ぎに通常のレスリングではだめだと判断したのか、グーで殴ろうとしたが百戦錬磨の南はあっさりと見切る。そして、

「もう、逃げられないわよ」

某選手のまねをしてスリーパーに捕える。51番はすぐさまタップ。

「あなた、なかなかやるわね、はい次」

「おねがいしますっ!」

ここまで残った小柄な少女が南にぶつかってゆく、しかし南は動じない。しかしこの少女は彼女なりに作戦を考えていった。何度目かぶつかっていって肩で息をする・

「どうしたの?もう終わり?」

「たーっ」気合いとともに大きく腕を広げて南に向かってゆく。

・・・いい踏み込みね。

ぱんっ!

南にぶつかる手前で広げた手を思い切りパチンと合わせた。いわゆる猫だまし。こんな手にひっかかる南も南だが・・

「へ?」

「今だ!」

全力で南を押し倒す。だが南もとっさの判断で身体をひねって押さえ込まれるのを回避した。

「・・・いい度胸ね・・・」

ここで3分タイマーが鳴った。

「この技に耐えられるかしら?」

南がスリーパー。だが少女は耐えた。耐えて落ちてしまった。

「あら?」

「壊した~、壊した、リミさんが壊した~」

審査員兼雑用係でついてきた秋山美姫がはやしたてる。

小川ひかるがその少女に活を入れる。

「あれ、ボク、どうなって・・・」

「・・・あなた、名前を聞かせてくれるかしら」

「はい、ボク・・・秋山香澄です。」

こうしてテストは終わった。採用の結果は後日連絡しますと社長が話して解散。

テスト終了後、一期生二期生を含めて誰を採用するか会議。もっとも各人の意見は一致していた。

「受験番号88番、秋山香澄。東京都江戸川区出身、身長152cm、スポーツ歴はハンドボール・・・、ちょっと上背はないけど、ガッツありそうだからやれるんじゃないですか」

「ようし、採用しよう」

4月10日、スイレン草薙と秋山香澄の入寮。

「あたしが寮長の吉田だ!がんばれよ!期待してっから」

そして吉田寮長が寮生を紹介する。渡辺智美5期生、ハイブリッド南と新咲祐希子の6期生、そして「寮に居座り続ける」草薙みこと2期生。荷物を置いてすぐ道場で練習。

「明日から4月シリーズで巡業でたぶんデビューだと思うから受け身だけは覚えて」

吉田龍子や永沢舞にかわるがわる投げられるスイレン草薙。

「-まだまだァ!」

バァン!バァン!

「・・・ハァ、ハァ・・・・」

しかしスイレン草薙は起き上がってくる。リング下では香澄はとっくに伸びてしまっているのに。

―また凄いのが入ってきたよ。

1期生の間にも緊張が走る。

そして4月シリーズ「旗揚げ7周年記念シリーズ SPZバトルカデンツァ」がスタート。開幕戦は選手の「栄養補給」をかねたのか、札幌キターアリーナ大会。

第1試合は渡辺智美対スイレン草薙。

「青コーナー、山形県朝日町出身―、すいれんー、くさなぎー」

コスチュームは草薙みことの色違い。

「なおスイレン草薙選手はこの試合がデビュー戦となります」

ファイッ!

ゴングが鳴った。

「・・・・みんなが、私を、見ている・・・」

輝くライトを浴びて、9000人の大観衆が一斉にリング上を注視している。渡辺がサッと組み付いてスリーパー。

「ぬぐうっ・・・・」

しつこいくらいスリーパーをかけ続けられて、スイレンの動きが鈍ったところを足を抱えられて逆片エビ固め。

ぐいぐいと絞り上げられるスイレン、腰に鋭い痛みが。

「ギブアップ・・・」

スイレン草薙は言うまいと誓っていた言葉を言ってしまった。

「6分31秒、逆片エビ固めで渡辺智美の勝ち」

そんな・・・なにもやれなかった・・・

呆然とした表情で、礼をするのも忘れて引き揚げるスイレン。

第2試合は南利美対マイトス香澄。本名の秋山香澄では秋山美姫とまぎらわしいのでリングネームをつけさせた。一時代を築いた南がついに新人のデビュー戦の相手を務めるポジションにまで下がった・・・場内はため息。

しかし南利美は意に介さず、マイトスをスリーパーで軽く締めたあと、いきなり逆片エビで仕留めにかかった。

「ぐ、あ、うーっつ」

絞り上げられながらも痛みに耐える香澄。

さんざん絞ったあと、一息入れてまた逆片エビで絞り上げる。

「う、ぐ、ああー」

場内からはブーイングも。しかしマイトス、うめき声を上げて涙を浮かべても、ギブアップの言葉をなかなか口にしない。

南利美はやれやれと思い、これ以上本気を出して絞ったらケガをさせてしまうと判断し、自ら逆片エビを解いて、フラフラと起き上がったマイトスに組み付いて。

「動かないで。」

若干手加減したものの裏投げ一閃。マイトス香澄は頭からマットへ。フォールを返せるはずがない。カウント3。勝負タイム7分18秒。香澄は意識を失ったままカウント3を聞いた。南利美はゴングを聞くやサッと退場。

井上レフェリーがマイトス香澄を介抱する。

「香澄ちゃん、立てる?」

「・・・はい」

「お辞儀だけしたら、リング降りて、渡辺さんの肩につかまって戻りなさい、良く頑張った。」

「・・・はい」

マイトス香澄に暖かい拍手が送られた。デビュー戦で南利美に裏投げまで出させたのだから。

控室ではみんながデビューした二人に祝福の言葉をかけた。

「おめでとう!」「今日からあたしたちとおなじレスラーの仲間入りだ!」

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コメント

 しまったこの回読み忘れてましたよ。
ここまで入団テスト&デビューを細かく・・・
 凄いです。
 うちは入場にしても、入団テストにしても内容には踏み込んでませんから。
 

Nさまこんばんわ、
レスラーの自伝を読むと、必ずデビュー戦のことが詳しく書いてあります。やはりデビュー戦と引退試合と格上の選手を食ってしまった試合はきちんと書きたいと考えています。新人テストの完全妄想・・・は、書いた時にたぶん時間があったのでしょう。珍しく脱線しました。いま12年目開始。小川さん上原さん引退でプレイする気力が・・・・・

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