第49回 SPZ選手権 伊達遥×永沢舞
6年目2月
「ハイブリッドさん、STFは・・・ここ、手首を頬の部分に当てるのがポイントです。」
小川がハイブリッドにSTFの手ほどきを伝授。南利美は腕関節破壊技が大好きなのでSTFは習得していない。
「小川さん、ありがとうございます。でもどうして、小川さんの・・・必殺技を簡単に教えてくれるのですか、小川さんに使うかもしれないのに」
「あら、私は社長からも実力微妙だって言われてるけど、ハイブリッドさんはこれからリミさんを越えなきゃいけないんだから、これからのSPZのためにも。私の勝ち負けよりも会社の将来よ。でも、私も簡単にはやられないから、次のシリーズでもし当たっても全力でかかってきてね」
「・・・ありがとうございます」
小川さんて、見かけより大人だ。ハイブリッドはそう感じた。
「あ、それと社長からの指示で、技の名前は変えといてだって、私もSTFを必殺技にしてるから、かぶるのはよくないって」
「・・・わかりました、適当に考えときます」
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「SPZウインタースプラッシュ2015」開幕。比較的SPZの営業力が強い東北地方を回って利益を手堅く稼ぐシリーズ。沢崎光は映画出演のため欠場。
「先シリーズはよくもEWAタッグのベルトをうばいとってくれたな、したがって今回はハンとスミルノフのコンビで挑戦させてもらう」EWAのエージェント、クリステン氏が要望する。なんでも「ベルトが自分の団体にないと本国での興行に影響する」らしい。
そして仙台大会でEWAタッグ戦。南姉妹対ナスターシャ・ハン、ユーリ・スミルノフ。ハイブリッドがやはり狙われて、ギリギリのところまで追い込まれたが、ハンのキャプチュードやスミルノフのラリアットなどで生じた危ない場面をことごとく南がカットし、最後は48分23秒の激闘の末にハイブリッドがサソリ固めでスミルノフからギブアップを奪う殊勲。
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そして最終戦は幕張大会。第3試合でハイブリッド南対小川ひかるの好カード。序盤、ハイブリッドのエルボーが南の鼻に入って小川が流血。これが影響したのか小川の動きに精彩がなくなり、ハイブリッド優勢のまま試合が進む。アキレス腱固めやネオ・サザンクロスロックはニアロープだったが、最後は18分16秒、渾身のエルボーで小川を沈めカウント3を奪取した。
小川さんに、勝てた。さあ次はもっと上だ。
今回は3大シングルマッチが呼び物で、セミ前は次期SPZ挑戦権をかけた吉田龍子対草薙みことの一戦。草薙の投げの切れと吉田の力が真っ向からぶつかり合う好勝負。試合中盤、
オリャアアッ!
吉田が草薙を肩の上まで高く担ぎ上げて垂直落下させた。スプラッシュマウンテン炸裂。衝撃に耐えた草薙。しかし次にプラズマサンダーボム。
「ぐうううっ」
吉田さんも最近は試合の作り方を覚えてきたようですね・・・
フラフラと起き上がった草薙。必死にフロントスープレックスなどで反撃するも、最後はローミドルハイのデンジャラスキック連打に沈んだ。
セミはまたも南利美対ナスターシャ・ハンの関節地獄対決。今度は南がジャーマンで先月の雪辱を果たした。
メインは伊達遥対永沢舞のSPZ選手権。上原がダメだったから永沢でも当てようかと考えてぶつけたカード。だが、集まった6000人余のファンは信じられない光景を見た。
ー作戦を考えても相手は伊達さんだから思い通りにはいかない。だから何も考えずに思いついた技で投げるしかない。
永沢舞のフロントスープレックス、ノーザンの猛攻。それにローリングソバットなどの飛び技を織り交ぜてきて伊達はズルズルとダメージを重ねてゆく。いくら伊達でもこの流れはまずいだろうと会場のファンは伊達に声援を送るが悪い流れは止まらない。追い込まれた伊達はSPZキックを繰り出し、永沢を口から流血に追い込んだが、永沢はそれまでにダメージの蓄積がないので決定打にならない。
逆に永沢が最後のラッシュをかけてきてタイガードライバー2連発。これを伊達は返せなかった。場内ウォォォと沸き立つ。勝負タイム27分16秒。
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SPZ世界選手権 60分1本勝負
○永沢舞(27分16秒、タイガードライバーからのエビ固め)伊達遥×
9代目王者が2度目の防衛に失敗、永沢舞が第10代王者となる。
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SPZ王座初挑戦でチャンスをものにした4期生の永沢舞、今野社長からベルトを受け取り、富沢レイが永沢の腰にベルトを巻いた。
あれ、なんでだろう、涙が・・・止まんないや・・
リング上を快活に飛び回る永沢の目から涙が零れ落ちた。4期生で入ってきたときはデビューから21連敗を喫するなど決して順風な若手時代を送ってきたわけではなく、メインへの出世も吉田に先を越され、小川クラスに並びかけたあたりでイギリスに1年間修行に出された。しかし異国の地で投げ技のレスリング才能を花開かせ、凱旋帰国から7ヶ月でSPZのベルトを巻き、団体最強の地位を手にするに至ったのだから・・・
「か、かいせつの小川さん、歴史がまた動きましたね・・・」
「い、いや驚きました。永沢選手にチャンスが回ってきたんですが一発でチャンピオンになってしまいましたね。休まず先手先手と攻めて、伊達さんの膝蹴りを最後まで出させなかったのが大きいと思います。ですけど永沢選手、まだ17歳なんですが、これから皆がベルトを狙ってきますから大変ですよ。でも今日は彼女におめでとう、良くやりましたと言ってあげたいです」
「ありがとうございました。それでは幕張コンベンションホールからお別れいたします。解説は小川ひかる選手、実況は私、森がお送りいたしました」
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