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2007年3月13日 (火)

第56回 プロレスの楽しみ方

5月シリーズ最終戦はさいたまスペシャルホール大会。3万人収容の会場は超満員札止め。メインに組まれたカードは草薙対南利美のSPZ選手権。今野社長も南の退勢の兆候をつかんでおり、最後のSPZ王座挑戦のチャンスのつもりで組んだ。

さいたま大会のセミは上原今日子対伊達遥のシングルマッチ。伊達の首を狙う上原、今度こそ勝つと気合いを入れて臨んだ上原だったが、序盤に貰ったエルボーで流血。そして中盤にニールキックで伊達を追い込んだがそこから伊達が猛チャージ。まず殺人ヒザ魚雷で上原の動きを止めて、SPZキック2連発。頭に強い衝撃を受けた上原はフォールを返せなかった。

若手に抱えられて控室に戻った上原。頭がクラクラしたので念のためリングドクターの診察を受けた。SPZと契約したリングドクターは東京のとある大学病院に勤める羽山さんという女医さんである。彼女はかなりのプロレス好きなので、首都圏ビッグマッチのときだけスタンバイする契約を結んだ。

「はい、どうしましたぁ、・・・頭がズキズキする。それは、重い、重―い、脳震盪かもしれませんねぇ、すぐにお手当てしなければ大変です。ではそこに横になってください、ふふ、もっとリラックスして下さい。そう、身体の力を抜いて・・・」

ブスーッ。

「あ・・・・っ」

「はい、痛み止め打っておきましたからきょうは安静にしててくださいね~」

羽山女医の得意技は「注射」である。

さてメイン。

「南さん、頑張って来てよ、応援するから。お客さんに関節のヴィーナス健在ってのを見せつけてよ」

「・・・・ま、相手あっての事だから思い通りには行かないと思うけど頑張るわ」

開場前に南は社長に声をかけられた。

あーもう、社長にまで気遣われてるのね。まあいいわ、一撃にかける。でも手の内は読まれている・・・

数年前は団体のエースで4番バッター的な存在感だったのが、一振りにかける代打の切り札みたいになってしまった南。今日の相手は草薙である。

-勝つとしたら腕折りしかない。

愚直なまでに脇固めで草薙の右腕を攻めにかかるが、早めに繰り出した腕ひしぎはニアロープ。そしていつもの草薙劇場。フロントスープレックス、タイガードライバー、タイガースープレックス2連発。怒涛の投げまくり攻勢。

「南さん、返せー」

ハイブリッドの叫びももはや届かない。南は薄れた意識の中3カウントを聞いた・・・

「24分16秒、タイガースープレックスで草薙みことの勝ち」場内歓声とため息が相半ば。第13代王者が初防衛に成功。

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SPZ世界選手権

○草薙みこと(24分16秒 タイガースープレックスホールド)南利美

第13代王者が初防衛に成功

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その夜、道場近くの日本料理店「よこ川」で南選手の残念会。同席したのは「飲めるメンバー限定」で小川ひかると井上秘書。

「はー、負けたのは悔しいけど内容も納得いかないわ」

「いや、お客さんは、沸いてたと思いますよ」

「いや、思いすぎかもしれないけど、何年か前は驚きとか、賞賛のような拍手だった。そうね、怪獣同士のげきとつみたいな感じがあったんだけど、今回は「南がんばれ、がんばれ」みたいな雰囲気だったわ・・・若手の頃を思い出した」

「でもお客さんが手を叩いてくれることには変わりはないと思いますけど・・・」

「いや、一度トップを取った人間が・・・ああいう応援をされると・・・胸が痛いわ」

よこ川マスター提供の「刺身盛り合わせ」をつまみ、適度にお酒も入ったプロレス談義が続く。

社長も語りだす。

「プロレスの楽しみ方って、2通りあると思います。常識はずれって云うか、規格外の力や技術を持った選手たちが激突して、試合展開どうなるんだろう、結末はどうなるんだろうってお客さんが想像力をふくらませるおもしろさと・・」

「ていうか、プロレスの面白さってそこでしょ。お客さんはそれを見にきていると思うわ」

「いや、もう一つある。一人のレスラーに肩入れして、それに自分の生き方を重ねて見てしまう方ね。弱くても負けても、そのファイトスタイルに胸打たれて、つい応援しちゃう。オレなんかそっちの方だよ」

「それって、判官びいきなんじゃないの」

「いや、うちの団体も小川さんとか保科さんとか渡辺さんとか、実力は、あ、小川さん本人の前で言うのもなんだけど、微妙な選手なのに人気の高い選手がゴロゴロいる。弱いけど戦いぶりを通じて何かを感じ取ってくれるお客さんも多いよ」

南利美はビールを飲んでいる。

「でも社長、南さんはいままでずっとシュートスタイルって言うか、相手からギブアップを取り続けてトップを張ってきた選手。それが正面切って戦って負けたらショックだと思いますよ」

井上秘書が南の気持ちを思いやってフォローする。

「安心して、まだ関節技の切れは落ちてないと思ってるし、草薙さんや伊達さんのような化け物に勝てなくなっただけなんでまだ引退するつもりはないわ。あのコに教えることもまだ多いし」

とはいえこの日、南利美はビール生ジョッキを4杯飲んで、ふらつきながら寮へ戻った。

「化け物」から「一流レスラー」へのランクダウンをはっきり認識して、それを受け入れざるを得ない状況。リミさんには屈辱だったのだろうか。小川はそう感じた。

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