第69回 7年目3月 SPZ選手権 伊達遥×吉田龍子
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7年目3月
3月シリーズ「ハイブリッドバトル2016」は東北地方を回る興行。シリーズ前半は東北地方の体育館を回っていくので、看板選手を順繰りにメインやセミのタッグマッチであててゆく。ちなみに7年目3月時点でのSPZ派閥?抗争図は下記の通りである。カッコ内は入門年次である。
SPZ本隊: 伊達遥(1)、沢崎光(1)、秋山美姫(1)保科優希(1)
南・草薙連合軍(ファンの通称くーるびゅーちー連合)
南利美(1)、ハイブリッド南(6)、草薙みこと(2)、小川ひかる(1)
若手連合「新世代軍」:上原今日子(3)、永沢舞(4)、吉田龍子(5)新咲祐希子(6)、富沢レイ(2)、渡辺智美(5)
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秋田大会第3試合は南姉妹対草薙、小川のタッグマッチ。
草薙の投げ技攻勢がいまいち不発で、逆に南利美が関節攻勢で草薙をあと一歩まで追い詰める。残り時間2分で小川が、スタミナ切れを起こして横たわるハイブリッド南にー
「もう逃げられないわよ!」STF発動。場内どっと沸く。
―うわ、痛いっ、でも姉さんと組んで、こんな人に取られるわけには行かない。
南利美がカットに入ったが草薙につかまった。小川の手首がハイブリッドの顔面をえぐる。しかし耐えるハイブリッド
―負けるもんか、あともうちょっと・・・・
ここでゴング、タイムアップ。30分時間切れ引き分け。場内は4選手の頑張りに拍手を送った。
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4戦目仙台大会のメインは、吉田、新咲のSPZタッグ王座に1期生の秋山沢崎が挑むカード。昨年11月のタッグリーグ最終戦でも1勝1敗なので決着戦の意味合いもあった。だがいくら挑戦者組が息のあったところを見せても、吉田の規格外のパワーにはさして通用しない。試合中盤、吉田のスプラッシュマウンテンで沢崎がカウント2.8まで追い込まれる。
「ぐはーーー」
沢崎は秋山にタッチするや場外青コーナー下で倒れこんでしまった。それでも40分過ぎに復活してリングイン。新咲にタイガードライバーを決める。しかし最後は吉田が締める。秋山にも強烈なスプラッシュマウンテンで半失神に追い込み、カウント2.9で辛うじて返したところを強烈なステップキックで意識を断ち切って3カウントを奪った。勝負タイム57分6秒という超絶ロングマッチ。吉田以外の3人は試合終了後しばらく起き上がれなかった。王者組が王座防衛に成功。
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SPZタッグ選手権(60分1本勝負)
○吉田龍子、新咲祐希子(57分6秒、ステップキックからの片エビ固め)秋山美姫×、沢崎光
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第6戦山形大会。メインは地元凱旋の草薙が南姉妹とトリオを組んで、吉田永沢新咲の若手トリオ。しかしこの団体、繰り返して書くが地元興行の場合、対戦相手のほうが「恥かかせてやるべ」ということでハッスルする。地元選手に勝たせるには今野社長が「カード的配慮」するのが手っ取り早いのだが、それをファンに察知されてもいけない・・・難しいところである。
「チャンス到来、まってましたぁー!」
草薙が永沢のJOサイクロンを食らって、カウント2.9で返すも、南にタッチするやダメージが深く、リング下でうずくまってしまう。終盤、ハイブリッド南が奮戦するも吉田のフランケンシュタイナー2連発。そして新咲のフェイスクラッシャーに力尽きた。38分2秒のロングマッチに場内は沸いた。
「これでまた一歩最強に近づけたかな?」
カレー女もとい、新咲が勝ち誇る。最近の南姉妹は姉をかばおうと奮戦するあまり、タッグマッチの「引きどころ」を知らないハイブリッドが相手チームにつかまって負けるケースも出てきた。青コーナー側でガックリと肩を落とす3人。
1階席の奥に怪しげな修行服姿の一団が。
「そろそろ、みことに代わる次の戦士を送り込まねば・・・」
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最終戦さいたまスペシャルホール大会のメインは伊達遥対吉田龍子のSPZ選手権。前月の横浜大会で草薙を破った吉田が挑戦者に名乗りを上げた。「いつまでも先輩方の時代じゃないことを証明する」そういい残してリングへ向かった。
吉田はブレーンバスターやDDTで伊達のバリアを破り、なんと伊達のお株を奪うニーリフト。
「はうっ・・・・・・」
自らの得意技を先に仕掛けられ動揺する伊達。しかし伊達もー
がすっ!
得意のSPZキックを繰り出して形勢逆転を狙う。
吉田がそろそろ勝負に出ないとヤバイと判断しプラズマサンダーボム。カウント2.5で返す伊達。そしてー
がすっ!
伊達、再びSPZキック。側頭部に鋭い蹴りが入った。
・・ってーな、この・・・
吉田もムキになってロー、ミドル、ハイの「デンジャラスキック」乱打。これで伊達の動きが止まった。
「行くぞっ!フィニッシュはこれだっ!」
伊達の腰に手を回して高々と担ぎ上げ、そのまま垂直に落とす。位置エネルギープラス吉田の全パワーの衝撃が、伊達の意識を根こそぎ持っていった。
ワン、トゥ、スリッ。
勝負タイム36分13秒の死闘に終止符を打ったのはスプラッシュマウンテンだった。
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SPZ世界選手権(60分1本勝負)
吉田龍子(36分13秒、スプラッシュマウンテンからのエビ固め)伊達遥
第16代王者が初防衛に失敗、吉田が第17代王者となる。
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「・・・・負けた・・・」
伊達遥、6度目の王座転落。吉田龍子が第17代王者に輝く。今野社長は天下の移ろいやすさに苦笑するしかなかった。
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8年目4月。
伊達遥に映画出演依頼。上原今日子に写真集のオファー。激闘続きで気分転換させたかったので承諾。かくて上原今日子セカンド写真集「KINSEI」が発売された。強さと美しさを兼ね備えた上原の写真集、ものすごい売れ行きだったらしい。
保科優希にも写真集オファー。断る理由もないので7th写真集「KIRAMEKI」が世に出ることになった。これで写真集発売冊数記録をさらに更新して「7冊」となった。これ以降彼女はファンの間で「6時半・7冊の女」と呼ばれるようになった。もう23歳になる保科選手だが、独特の雰囲気で根強い人気があるようだ。
悪いこと?に富沢レイにも写真集オファー。呆れたが社長は受けた。セカンド写真集「WAKASHIO」が発売。ハードなレスリングが売りのSPZが3人も写真集を同時発売するとはあの団体はおかしくなってしまったのかと巷で噂された。
SPZプロレスの決算日は3月31日である。通常も「ギリギリの人数で運営する」SPZはこの時期社長以下営業・経理スタッフは「修羅場」と化す。とくに最近は団体の売上規模が大きくなってきたので損益計算書を作るのも大変であった。観客動員数は伸びているが、あんまり利益をためこまず利益は選手やファンに還元する方針の今野社長。7年目も少しばかりの黒字で決算確定した。
4月上旬のある日、今野社長と草薙みこと、井上秘書の3人は山形新幹線「つばさ」に乗っていた。
「草薙さん、その紹介してくれる人って、どんな人なの」
「草薙の里では、年に一回、武芸を競う集まりがあります。近在の信徒の中で武術をたしなむものが一同に会し、実戦での組み手を行います。私も14の頃と15の頃と2回出ましたが・・・あまりいい結果ではありませんでした」
「そうなの」
「で、今年も3月に集まりがあったのですが、そのコはまだ15歳なんですけど、初出場で、15人の対戦相手をことごとく撃破したそうです。全勝での優勝者が出るのは近年では例のないことです」
「ほう・・・」
「本来なら優勝者は師範として、草薙神社に務めなければならないのですが、そのコは在家の信徒の方で、「山奥の寺にいるより草薙みことがのさばっているプロレスとかいう世界で修行した方が強くなれる」と言い、私に口利きを申し出てきたのです。」
なにしろここ数年、草薙みことのSPZでの活躍はめざましいものがあり、草薙信徒の間でも「有名」になってしまっている上、みことがファイトマネーのほとんどを神社に送金しているせいで草薙神社の境内設備が整えられ、信徒数も増えてきており、最近は中学高校の運動部の強化合宿に神社の武道場を貸して境内に宿泊させる「サイドビジネス」も好調らしい。
山形からローカル線で一時間、そのあとタクシーで1時間余。ここから3時間の山道歩き。
「オレもう42さいなのにこんな運動をさせられるとは・・・」
息を弾ませつつ歩く今野社長。運動不足気味の上、決算のバタバタでここ数日疲労が蓄積している・・・しかし元レスラーの井上霧子と草薙みことは苦もなく歩いている。
その晩は6年前と同じように草薙神社の「宿堂」で宿泊。とはいえ夕食は精進料理。般若湯が少しだけ出た。そのあと夕方のお勤め。6年前より宗教儀式はグレードアップしていた。
翌日、その少女と入団交渉。
「えっと、草薙流武術は日本でも有数の古武術です。実戦能力においては敵はいないと私は思っています。私はその頂点に立つつもりでやっています。ですが、そのためにはみことさんを越えないといけないと思いました」
ハイブリッド南もそうだったが、誰かの影響を受けて入門を志す人は勝ち気な性格だ。
「そのためにはSPZプロレスの場で草薙さんを倒して、なおかつ頂点にい続けることが必要だと思いました。社長さん、ぜひ入門させてくださいっ。」
「でも、えーと、本堂さん、SPZプロレスはとってもハードですよ、へたしたら死ぬかも知れない、草薙選手もひどいめにあってるから」
「・・・やる気があれば、来てください」
「大丈夫です。プロレスでの闘い方を覚えたら必ずみことさんに勝ちます。みことさんを倒したあの膝蹴りの人にも勝ちます」
「・・・ま、まあ、志が高いのはいい事だと思います。頑張って修行してください」
どうもこの少女は信仰心よりも武術を極めようとする心の方が強いようである。
あとは社長が細かい条件面を説明して入団交渉の打ち合わせは終わった。4月10日入寮、リングネームは「スイレン草薙」とすることで話がまとまった。
山形からの帰りの新幹線の中、井上秘書がぼそりと一言。
「将来のことを考えますと、もう一人とっておきたいですね」
今野社長もそう思っていたらしく、
「久々に新人テストでもやりますか」と返事した。
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