第205回 155cmのチャンピオン
14年目3月
シリーズ開始前のマッチメーク委員会。焦点は先シリーズみごとS相羽を破ってSPZ王者に輝いたボンバー来島の初防衛戦の相手を誰にするかだった。
「来島さんの挑戦者どうする?」
鳩首協議すること30分。
「実力ではスイレン選手でしょう」
「うん、今やったらスイレン選手が99%勝つよ。今野さんどう思う」
「・・・営業的に考えたら、菊池選手が良いと思う」
「しかし菊池は実力的にはSPZの4番手ですよ」
「逆にそれがポイントだと思う、下から市ヶ谷選手や芝田選手がこれから上がってくるから、菊池が4番手の座を維持しているうちしかこのタイトルマッチを組めないと思う。それに来島さんVS菊池のいいキャッチコピーを思いついた」
「えっ?」
「ダンプカー対F1」
「・・・アハハハハハ」
会議室は失笑に包まれた。この一言が決め手となり、最終戦さいたま大会でのダンプカー対F1対決が実現することとなった。
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「菊池ぃ」
「あ、吉田さん」
「いま会議終わったところ。来月最終戦のさいたま、メインであんた、来島さんのベルトに挑戦、決まったから」
「えええっ」
「ま、しっかりな。以前勝った事もあるからどうにもならん相手じゃないだろ」
「は、はわわ・・・」
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そして3月シリーズ「ハイパーバトル2023」がスタート。
第3戦秋田大会メインはビューティ市ヶ谷、ロイヤル北条のあばしりタッグにEWAのウェイン・ミラー、アリス・スミルノフが対戦するカード。しかし市ヶ谷の実力はもうあばしりレベルではない。あっという間にラリアット連発でウェインを追い込んでゆく。後半はロイヤル北条に任せる余裕もあった。
「はっ!」
ロイヤル北条、自慢のロイヤルスパイク2連発でスミルノフを倒した。王者組が4度目の防衛に成功。ここで市ヶ谷がマイク。
「わたくしが欲しいのは来島選手のSPZベルトだけですわ!こんな喫茶店タッグのベルトはお返しいたします!」
トップグループへの殴り込みをかけるため、あばしりタッグタイトル返上を宣言した。
翌日の山形大会、メインで組まれたのは、
スイレン草薙、スターライト相羽、ガイア小早川の「SPZ本隊」対ビューティ市ヶ谷、芝田美紀、ロイヤル北条の「スーパーお嬢様軍」が激突。スイレン草薙の凱旋試合ということもあり盛り上がった。お嬢様軍が懸命に応戦するもスイレンが気持ちよく戦っている。まだ若手ではスイレンの余裕を消すにはいたらないのか・・・・
「私にひざまづきなさい!」
しかし、市ヶ谷のビューティボムが炸裂。これで頭を打ったスイレンはフィニッシュをスターライト相羽に任せた。最後は相羽の猛攻でふらついた芝田をガイア小早川がランニングタックルで倒して3カウント奪取。勝負タイム23分20秒。
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第6戦・福島大会メインはAAC選手権、ビューティ市ヶ谷対ナターシャ・ハン。
ハイサスカラスは本国のスケジュールで来日できないのでナターシャ・ハンが挑戦。しかしビューティ市ヶ谷強い。ビューティボムからのデスバレーボムでカウント2.9まで追い込み、最後は華麗に飛んでのミサイルキック。これでナターシャを退けて防衛に成功した。
第7戦幕張大会、メインはスイレン草薙、ガイア小早川のSPZタッグ王座にナターシャ・ハン、アリス・スミルノフのロシアンコンビが挑戦。しかしスイレンが例によって危なげない試合運びを見せて外人2人を追い込み、最後はガイア小早川を呼び込んでのサンドイッチラリアットでアリスを仕留め、タッグ王座防衛に成功した。勝負タイム21分50秒。
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最終戦さいたまドーム大会。
第1試合はマイトス香澄対フォクシー真帆。デビュー1年になろうとするフォクシー真帆もDDT2連発でマイトスを追い込んだが、最後はスタミナの切れたフォクシーをショルダータックルで倒してカウント3奪取。勝負タイム13分33秒。
第2試合はキューティー金井対ドスカナ・リブレ。ドスカナがあいかわらずのすばやい動きでキューティを翻弄し、最後は10分10秒、ミサイルキックで勝利。
第3試合はアリス・スミルノフ、ウェイン・ミラー対エレン、ヘレンのニールセン一族。EWAでよく組まれているカードなので4人が4人ともいい動きを見せる。最後はアリスが強烈なパイルドライバーでヘレンを仕留めた。18分2秒の好勝負。
休憩明けは6人タッグマッチ。ビーナス麗子、ギムレット美月、ガイア小早川の「本隊中堅どころ3人」と芝田美紀、ロイヤル北条、フレイア鏡の「スーパーお嬢様軍」が激突。
―市ヶ谷さんのように上へ行くんだ!
ロイヤル北条が9-10期生の攻撃をものともせず、最後はビーナス麗子を必殺ロイヤルスパイクで撃破した。勝負タイム11分23秒
ここから3大シングルマッチ。
セミ前はスイレン草薙対ナターシャ・ハン。先月の横スペのセミ前と同じマッチメイク。これはスイレン、危なげなくナターシャをバックドロップで撃破。勝負タイム15分57秒。
セミファイナルはスターライト相羽対ビューティ市ヶ谷。前王者の相羽は最近急速に伸びてきた市ヶ谷を叩き潰してスターライト相羽ここにありを見せておきたいところ。
「ハッ!」
終盤、ど迫力の裏拳による殴り合いをやってのけた。先にふらついて片膝をついたたのは市ヶ谷。そこをねらって、キャプチュード、そしてパイルドライバー。相羽が何とか市ヶ谷を振り切ってカウント3奪取。勝負タイム16分1秒。
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そしてメイン。SPZ選手権はダンプカー対F1(チャンピオン・ボンバー来島対挑戦者菊池理宇)の決戦。普段はタッグを組んでいる両者だが、きょうはSPZ王座、団体最強の称号をかけてぶつかり合う。
「まさか菊池とSPZベルトを賭けて闘うことになるとはな・・・」
ボンバー来島、青コーナーに立つ菊池を複雑な表情で見据える。
いっぽうの菊池もボンバー来島をにらみつけた。
ー来島さんはものすごく強い。でもあたしは何とかしてこのチャンスをものにしたい。
カンッ。
21時0分、11期生同士の一戦、ゴングが鳴った。
―つかまったら厳しい。とにかく動き回るしかない。
ボンバー来島の怖さはタッグを組んでいるからよく分かっている。菊池はそう考えて正面から組み合うことはあまりしないで、間合いを取ってからドロップキックを連発して攻めてゆく。そして早めの仕掛け。
―ガンガン攻めてく、返されるのを恐れずに!
「アーーーーッ!」
菊池、ボンバー来島のガタイをブレーンバスターで投げてからのシャイニングウィザード!そしてスクラップバスター。流れるような攻めを見せた。
ここで焦ったのかボンバー来島が反撃。
「・・・菊池ー。気持ちよく眠らせてやるぜー!」
ナパームラリアット炸裂。しかし菊池何事もなかったかのようにスッと起き上がってボンバーに組み付いて、逆さ押さえ込み。いまのSPZでこんな技を使う選手は菊池くらい。体格やパワーに劣る菊池が懸命に特訓した成果のうちのひとつをここで出してきた。
「・・・しまっ・・・」
ワン、トゥ・・・
なんとか来島カウント2で返す。
「・・・ハァ、ハァ、あぶねえあぶねえ・・・」
「はああーーーっ!」
がすっ!
なおも菊池ハイキック、崩れ落ちるボンバー来島の巨体。すかさずフォール。
ワン、トゥ・・・ドドドドドド!
ボンバーカウント2.5で返す。しかし菊池、迷わずコーナー最上段へ駆け上がり来島が起き上がるのを待って、
「せえっ!」
菊池ミサイルキック。ボンバー来島ぐらつく。そこを突いて菊池、再度の逆さ押さえ込み。手を変え品を変え、硬軟取り混ぜた攻勢で来島を追い込んでゆく。
まさかこれで決まるのか、館内ざわつく。
ワン、トゥ・・・ドドドドドドド!
しかしボンバー来島カウント2.8でふりほどく!
おもわぬ展開、菊池ペースにさいたまドームは沸いた。
「ウワーーーーッ!」
菊池、渾身のエルボー、崩れ落ちるボンバー来島。
ワン、トゥ・・・ドドドドドド!
ボンバー来島これもカウント2.5で返す。
菊池が一歩一歩、着実に持てる技を積み重ねてボンバー来島、SPZ王者という大きな山を登りきろうとしている。
菊池もう一度エルボー。しかしこれはロープに近かった。
「ウオーッ!」
追い詰められたボンバー来島、起き上がって菊池を力任せにロープに振る。ラリアットか何かを狙っているのか。
―返せる。
菊池理宇、うまくロープに足を乗せて、そのまま背面トペで飛んで、そのままボンバー来島を押しつぶした。さすがの身のこなし。
―うわ、ヤベ、あいつにはこれがあった・・・
ワン、トゥ、スリー。
ボンバー来島、返し技で反応が遅れたのか、そのまま3カウントを聞いた。
「27分10秒、背面トペからの体固めで、菊地理宇の勝ち」
F1がダンプカーに勝った!その瞬間、さいたまドームが爆発した。
ドオオオオオオオオオ!
「あたし、勝ったんですよ、ね・・・」
「ああ、おまえが取ったんだ、よくやったよ!」
吉田コーチが菊池の細い腰にベルトを巻く。菊池の頬に熱い粒がいく筋も零れ落ちた。仙台から出てきて4年、まさか、まさか小柄な自分がSPZ最強女王の座、SPZ選手権のベルトを巻けるとは思ってもいなかった。
「泣くな、菊池、胸・・・張れ!」
吉田コーチもちょっと涙ぐんでいた。井上霧子からこのコの面倒を見てやってくれと言われ担当コーチとなった。この子は体格はともかくセンスや性格は良いと感じ、ハードな特訓を課して菊池は懸命についていった。そしてついにSPZ最強の座に輝いた・・・
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SPZ世界選手権試合(60分1本勝負)
菊池理宇(27分10秒、背面トペからの体固め)ボンバー来島
39代王者が初防衛に失敗、菊池が40代王者となる。
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きくち!きくち!きくち!きくち!
場内ものすごいキクチコール。身長155cmの世界王者がSPZに誕生した。
本部席の実況、解説者も絶句。
「いやいやいや、驚きましたねえ上原さん」
「・・・・・・・・・・・・・努力が実を結びましたね。暇さえあれば黙々と練習していましたから。しかし体格やパワーのハンデを乗り越えるとは凄いですよ」
「菊池選手がまさかのSPZ王座奪取、これでこのリングはこれからますます混沌と、そして熱く激しい戦いが繰り広げられそうです」
「そうですね、今日の試合は若手選手のいい手本となったと思いますよ、努力し続ければいつかはきっといいことがあるということですね」
「それではこの辺でさいたまドームからお別れいたします、実況はわたくし森和紀、かいせつは上原今日子さんでした」
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