第221回 15年目12月 夢のマスターズ戦(上)
レッスルエンジェルスサバイバー
プレイ日誌のようなもの
輝くエッセンシャル
「15年目12月 夢のマスターズ戦」
(この回と次回は完全妄想作話ですの。)
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始まりはSPZフロント陣、元選手の雑談だった。
「年末というのにうちらはボーナスないんですね」(吉田龍子)
「・・・まあ、うちは興行会社だから、単月で儲けなけりゃだめなんですよ。」(今野役員)
「しかしまあ年末年始は何かとお金が出て行くんですよ、ちょっとでも出ないっすかね」
現役をやめたとたん収入が激減した吉田龍子が要望。
「ふふふふふ、いい手を考え付いたわ・・・私も酒代に困っていたところなのよ。ひさびさに青春の血がたぎってきたわ。あたしたちは現役を退いたとはいえレスラー、身体を張って稼げばいいのよ」
井上霧子社長代行の目がキラーンと光った。
「・・・そうか、その手があったか!」
「あの、私はただの人なんですけど」
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2023年12月22日、後楽園プラザ。いつものSPZのリングが中央に置かれていた。
カン、カン、カン、カン、カン・・
「メリー・クリスマス」
リング上で井上霧子が挨拶。
「本日は、年末のお忙しい中、SPZマスターズ自主興行、ストリートファイト2023にお越しいただきましてありがとうございます」
(チケットは破格の2,000えん)
「なお、本日出場する選手は、いずれも元プロレスラーであり、現役を離れてから数年を経過しておりますので、技のかけ方は忘却しておりますし、私ども実行委員会と致しましても怪我でもされたらうまくありませんので、頭から投げ落とす攻撃は禁止と致しました。」
(場内笑い)
「なお、本日の興行は株式会社スーパースターズプロレスリングゼットは無関係であります。このイベントの権限と責任のすべてはわたくし井上霧子個人にあります。この興行の収益は50%は福祉施設に寄付致します。残りの50%は井上の飲み代とさせて頂きます」
(場内失笑)
それではさっそく第1試合を始めたいと思います。
この日はカード、そして誰が出るかは事前発表されておらず「全5試合」と記されているだけだった。
「永沢舞(SPZ4期)VS、新咲祐希子(SPZ6期)」
ウオオオオオオ!
オープニングマッチからSPZ元王者同士のシングルマッチが組まれる。両者のテーマ曲がかかるに至って場内ウォォォの声。
リングアナウンサーは久々にマイクを持った今野役員。
「ただいまより、シングルマッチ15分1本勝負を行います。青コーナー、SPZ6期。しんざきー、ゆきこぉー」
いまや大食いタレントとして有名となった新咲が右手を挙げる。さすがに「もうアスリートの身体じゃありません」ということでジーンズにカットソー姿。それがかえって新鮮。
「赤コーナー、SPZ4期、ながさわー、まーいー」
今はペットショップの店員が板についた永沢舞が一礼。永沢はジャージ姿だが頭にはトレードマークのネコミミ。
「レフェリー、ギムレット美月、なおこの試合の勝者には横浜中華街のお食事券1万円分が贈られます。」
「・・・・じゅるり」新咲の目が一瞬輝いた。
カンッ。
午後6時45分、運命?のゴング。
まず両者構えたまま、しばらくにらみ合い。これだけで沸く。そのあとがっちりと組み合う。さすがに現役を退いているので、基本的な攻防しか出来ない。押し込んだり、バックをとりあったりする地味な攻防が続く。
しかし5分過ぎ、永沢の息が上がった。新咲のほうがお食事券への執念か、気合が入っていた。
永沢舞、新咲の首投げの受け身を取り損ねてしまった。
「あっ・・・」
「えーいっ!」
新咲、ここをチャンスと見てスクールボーイで丸め込んだ。現役時代ならそんなチンケな技はやすやすと返したはずなのだが、永沢、あっさり3カウントを聞いた。勝負タイム5分22秒。
「ハァハァ・・・大食いクイーンは、ダテじゃないのよ」
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「第2試合、シングルマッチ、上原今日子VS沢崎光!」
ドオオオオオオ。これもSPZクライマックスで激闘を繰り広げたカードである。
SPZ一期生、沢崎光(8年目11月引退、現グッズショップ広島店店長)がイモっぽいジャージ姿でリングイン。そして、
「disintegration」がかかり、パンツスーツ姿のSPZ3期生、上原今日子がリングイン。現在は若手選手のコーチ役兼SPZの何でもやる課・課長。
カンッ。
試合のほうはごくまじめにバックの取り合いから始まった。
そのあと上原今日子がスリーパーで締め上げる。現役時代と変わらぬ真面目な攻防をやってのける2人に場内拍手。
そのまましばらくスリーパーを耐えた沢崎だったが、現役を離れて6年になるせいもあり、急にぐったりしてしまった。ざわつく館内。
「かわいそうだけど、これで終わりッ!」
上原今日子がコーナー最上段に登り、ダイビングプレスを狙う。しかしー。
沢崎転がってかわす。マットに激突する上原。のた打ち回る。沢崎、すかさず上に乗って押さえ込む。あっけなくカウント3。勝負タイム4分56秒。
その試合が終わると休憩。
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休憩明けの試合にはSPZのもと女帝、吉田龍子(5期生、13年目3月引退)が登場。
「ったく、何で私がこんなことを。もうファイトをお客さんに見せられるものはないっちゅうのに」
対戦相手は同期で因縁のライバル?渡辺智美。
「ウェーハハハハハ、吉田龍子。リングに一夜復帰したのが運のつきだ。お前をこれから病院送りにして、積年の恨みを晴らしてやるゥゥ!」
芸能界入りしてそこそこ活躍している渡辺智美がディスコスーツにグラサン姿で挑発。
一方の吉田龍子は赤コーナー側であきれた表情。ジーンズにジャケットのラフな服装である。
「おまえのようなアイドル崩れは1分で殴り倒してやる」
「さて、それはどうかな~」
ひゅんっ!
渡辺智美が内ポケットから取り出した怪しいボールを投げつけ、吉田龍子の顔面にぶつける。
ばしゃっ!
ボールが砕け散り、中に入っていた怪しい液体が吉田の顔面に飛び散る。
「な、何をしやがった・・・」
「ふふふ、教えてあげるわ、いまあなたが吸ったのはオプタテシケ酸という遅効性の劇薬、神経から徐々に毒が全身に回り始め、巨象をも5分後には全身麻痺で死亡するというものだ、ヒャーハハハハ」
場内爆笑。
「助かる方法はただひとつよ。5分以内にあたしを倒し、本部席の救急ボックスの鍵を手に入れて解毒剤を飲むことよ。」
渡辺がそれらしき鍵を内ポケットにしまう。
「あんたがチャンピオンで栄華を誇った間、同期のあたしは連日、第1試合で耐えていた。きょうこそその恨みを晴らしてくれるわ、ウェーハハハァ!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
場内ドン引き状態。だが、
「言いたいことは、それ、だけ、かー!!!」
パシーン!
吉田龍子いきなりラリアット。ハデに吹っ飛ばされる渡辺智美。
カーン!そのまま試合開始のゴング。
渡辺智美、すばやく起き上がるやリング下にエスケープ。場内に設置したスクリーンには、
「5:00’00」
カウントダウンタイマーが大写し。場内ウォォォの声。
「だ、誰があんたなんか化け物と真正面から戦うもんですか、5分間逃げ切って見せるわ。せ、せいぜい死の恐怖に怯えながら闘うがいいわ、ウァハハハハハ」
「あ、待てこのヤロ」
後楽園プラザ客席になだれ込んでの追っかけっこが展開された。北側客席、南側客席までなだれこんでのリアル鬼ごっこ。そうこうしている間にカウントダウンが進んでゆく。ものすごい歓声がとどろく中。3分が経過。ようやくリングに戻った両者、
「ゼェ、ゼェ、ゼェ・・」
「バカね。毒が回ったのに全力疾走なんて。もう立っているのがやっとじゃない。絶対王者さん」
「・・・外道が」
「トドメはひとおもいにこのナックルダスターで昇天させてあげるわ」
ぢゃら。どよめく館内。
「ど、どうやら、アンタの根性はゴミよりも腐っているようだな・・・」
渡辺智美、右拳に凶器を装着しそれで殴ろうとする。
「氏ねーーーーー」
がす。
顔面にナックルダスターのパンチが入ったが、吉田龍子受けきった。滴り落ちる鮮血。ファン感謝デーでここまでやってしまうのだから凄まじい。
「・・・・っ」
ばちーーーーーーーーーん!
吉田龍子、ものすごいはり手のお返し。崩れ落ちる渡辺智美。
「・・・うう、痛い・・・」
「お前の曲がった根性を叩きなおしてやる」
がすっ!どがっ!ばきっ!ごすっ!
吉田龍子、総合格闘家も真っ青のマウントパンチ。渡辺智美がいいようにぶん殴られてゆく。
そしてカウントダウンタイマーが残り30秒を切ったとき
「分かった、吉田さん・・・私が悪かったわ・・・あなたを陥れようと、羽山さんに頼んで劇薬を貰った・・・ついカッとなってやった・・・今は反省してる・・・これが・・・本部席の救急ボックスの鍵・・・あげるわ。ぐふっ!」
そのまま渡辺は気絶。
すかさず吉田龍子は鍵を手にしてリング下本部席の救急ボックスへ。鍵を開けた。
ぼん。
しかしこれもブービートラップ。救急ボックスが爆発。吹っ飛ぶ吉田龍子。
「ふっ、馬鹿め・・・素直に解毒剤を渡すと思ったかぁ、へへへへ」
渡辺、気絶はフリをしていただけだった。
0:00’00
「渡辺、てめぇぇぇ!・・ぐ、がふあっ!」
プーーーーーーーー
カウントダウンタイマーが0になった。苦しみだす吉田龍子。
「・・・・・はああっ、ぐふーっ」
吉田龍子、(当然演技だが)大げさに苦しみだし、そのまま場外で悶絶。そのままリングアウト負けとなり、担架で運ばれた。
カンカンカン・・・
「やたー!吉田龍子に勝ったーッ」
狂喜する渡辺智美、場内ドン引き。
(作者より:セミとメインは次回へ続きます、初音ミクを買ってしまったのでこの連載に時間が割けるか微妙です・・・)
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