第219回 ギムレット美月・大逆転
15年目12月「スノーエンジェルシリーズ」開幕。年末恒例、ドーム級の会場をまわって利益がっぽりというシリーズである。
第2戦のどさんこドーム大会。メインに組まれたのはSPZタッグ戦。負傷のいえたボンバー来島、菊池理宇に挑むのは先月のタッグリーグで優勝したビューティ市ヶ谷、ロイヤル北条のお嬢様コンビ。
「覚悟なさいっ!」
市ヶ谷のラリアットが菊池の首に直撃。
「いったー」
菊池がこれで熱くなってしまったのか、ビューティ市ヶ谷とシングルマッチのような熱いファイトを展開。結果的にこれが功を奏したのだからわからないものである。いくら市ヶ谷のパワーが凄いとはいえ、菊池もかなりの実力者。ムーンサルトまで繰り出してきて市ヶ谷を追い込む。
「ううう・・・」
「くっ、よくも・・・」
双方大ダメージを負ってボンバー来島対ロイヤル北条の局面となった。場内に悲鳴が。いくら新進気鋭のロイヤル北条でもダンプカー相手では荷が重すぎる。
「ニヤリ」
来島さんのナパームラリアット炸裂。しかしロイヤル北条、カウント2.8で返す。
ドドドドドド!
しかしロイヤル北条、この一撃はかなり効いていたらしく首が据わっていない。スッと菊池が入ってきて北条を肩車。来島はコーナー最上段に登って
ダブルインパクト!
これでロイヤル北条の意識は闇に落ちて、3カウントを奪われた。勝負タイム28分59秒。
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SPZ世界タッグ選手権(60分1本勝負)
菊池理宇、○ボンバー来島(28分59秒、ダブルインパクトからの片エビ固め)ビューティ市ヶ谷、ロイヤル北条×
王者組が防衛に成功
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第4戦、大阪なにわパワフルドーム大会のメインはEWA世界選手権。王者ナターシャ・ハンに挑むのはビーナス麗子。
それなりに強いけど、ナターシャ・ハンがまず負けない相手を出してきて欲しいというEWAサイドからの無理難題・・・、ということで10期生のビーナス麗子が挑戦することになった。
「せぇぇい!」
ビーナス麗子も動き回って、ジャンピングニーを繰り出すなど健闘したが、最後はナターシャのドラゴンスリーパーにつかまってしまう。
「ウフフフ、これで終わり・・・」
ビーナス麗子も懸命にこらえる。なにわパワフルドームに悲鳴がとどろきわたる!
「ぐうううう!」
ビーナス麗子の身体から力が抜けてゆく。だんだん目の前が白くなっていって、思考できる領域が狭くなってきた。
―やば、落ちるー
くたり。
ここで井上レフェリーが試合を止めた。
「29分56秒、ドラゴンスリーパーで、ナターシャ・ハンの勝ち」
「ウワアアアアア!!!」
場内悲鳴。ナターシャ・ハンがアイドルレスラー(の仮面をかぶったシューター)を公開処刑。
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EWA世界選手権(60分1本勝負)
ナターシャ・ハン(29分56秒、ドラゴンスリーパー)ビーナス麗子
王者が防衛に成功
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その翌日、広島若草アリーナ大会。
メインではニールセン一族が返上したあばしりタッグの王座決定戦。
ロイヤル北条、フレイア鏡対アリス・スミルノフ、デイジー・クライの一戦。
「ウラァァァァァ」
しかしデイジー・クライのキックがさえる!フレイア鏡がのされてしまって試合終了。あばしりタッグが再び流出・・・・
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あばしりタッグ王座決定戦(60分1本勝負)
○デイジー・クライ、アリス・スミルノフ(20分くらい、ハイキックからの片エビ固め)ロイヤル北条、フレイア鏡×
デイジー組が第10代王者となる
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第6戦九州ドーム大会。メインはハイサスカラス対ギムレット美月のAAC選手権。日本での防衛実績を作りたいAACと、巨大会場を海外の由緒ある団体のタイトルマッチの威を借りて埋めたいSPZの思惑が一致した。
「美月ちゃん、きょう頑張ってね~」
井上社長代行がギムレット美月ににこやかに声をかける。
ーふん、白々しいですね。分かっていますよ。私はこの会場を埋めるための負け役。AACのタイトルマッチでハイサスカラスにハデに斬られるブックということ・・・
「青コーナー、岐阜県垂井町出身、ぎむれっとー、みつーきー」
ギムレット美月、一礼したあとメガネを外す。
「会長がんばれー!」「美月さーん!」
九州ドームのメインに立ったギムレット美月選手会長に熱い声援が飛ぶ。
ーちょっと狙い・・ましょうか。
カンッ。
午後9時1分、ゴングが鳴った。
やはりハイサスカラスの動きにギムレットがついていけない。ハイサスカラス、得意の空中殺法でギムレット美月ただやられるだけ。
「フッ、タアイモナイ。スコシハハゴタエガアルカト思っタガ・・」
ー油断してる、今なら・・・
しかし最後の最後で大どんでん返し。ギムレット美月の必殺ドラゴンカベルナリア!狙っていたか・・・悲鳴を上げるハイサスカラス。
「うあ、ウアアアアオオオー」
ーこの手は絶対に離さない。
もがくが、もがくがドラゴンカベルナリアから抜けられないハイサスカラス。3分ほど耐えたがついにギブアップ。
ええええええええええええええええええええええええええええ!
勝負タイム22分35秒。ギムレット美月がギブアップ勝ち。わざと締まらないファイトをしておいて油断させておいて、必殺技をズバリ。プロレスの試合運びでよく使われる古典的な手なのだが、今回はうまく相手を引っ掛けることができた。
―シングルのベルトは、取れないって思ってた・・・
10期生のギムレット美月(20)ついにAAC最強のハイサスカラスを倒しAACのベルトを奪取。クールな選手会長の目から涙がこぼれた。
会長!会長!会長!会長!
九州ドームはものすごい「会長」コールに包まれた。同期のビーナス麗子がリングに上がりギムレットの手を挙げる。
「おめでとう、美月ちゃん!」
「ありがとう・・プロレスやってて・・良かった・・・」
ギムレット美月の細い腰に伝統あるAACベルトが巻かれる。放送席ではアナウンサー森と解説吉田さんがぼう然。なにしろ中堅どころ、SPZクライマックスに出るのがやっとの選手がAACのチャンピオンになってしまった。
「いや驚きましたね吉田さん、ギムレット美月選手が勝ってしまいましたよ」
「・・・やはりプロレスの神様ってのはいるんでしょうね。頑張ればいつかはいいことがあるんでしょうね」
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「SPZを日本一のプロレス団体にするため、力を貸してください」
「私には、自信が・・・身体も小さいし、力もありません・・」
今野社長(当時)の勧誘に対し、美月はSPZ入りを渋ったが、小川ひかるが後押し。
「八重樫さん、チャンスだと思って、やってみませんか?私もはっきり言って力もありませんし上背もないです。それでもけっこうこの9年、いい思いをさせてもらいました、正直言って身体はボロボロですけど、やってよかったと思いますよ」
あれから5年半、岐阜から出てきた少女は、ついに栄光をつかんだ。
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AAC世界選手権試合(60分1本勝負)
ギムレット美月(22分35秒、ドラゴンカベルナリア)ハイサスカラス
ハイサスカラスが防衛に失敗、ギムレット美月が新王者となる
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