第207回 15期生 成瀬唯デビュー
菊池理宇 SPZの新時代を拓くー
そこにいるのは、どこにでもいそうな小柄でキュートな女の子だった。
SPZは前社長の今野氏がルックス重視を公言していることもあり、スポ根系、体育会系のレスラーよりも、小川ひかるや保科優希のようないかにも普通の女の子と言ったタイプをそのままプロレスラーにしてしまうことが多い。しかしそうやって入門したレスラーが団体最強の座、SPZチャンピオンにまでなってしまうのは前代未聞のことである。
「強そうに見えないんだけど、ウチの選手はみんなリングに上がったら性格変わるからね」
菊池を育てた吉田龍子コーチが言う。トップどころの選手の攻めに耐えられるようにするため、若手の頃はウルトラハードな特訓を菊池に課したのは有名な話だ。
「いつもどおりのレスリングができたのがチャンピオンになれた理由だと思います。あと、吉田さんからは体格やパワーがない分、対抗する引き出しをいくつか持っておけって言われてます。」
チャンピオンになっても変わらない、屈託のない笑顔で話す菊池理宇。SPZに11期生で入門し、同期のボンバー来島が桁外れのパワーを武器に続々先輩越えを果たすなかで、「あたしには努力しかない」と毎月道場で特訓を続け、生命線である飛び技の精度を上げ、世界の一流選手と五分に渡り合えるようになった。
「予感はあったよ。だってあたしの引退試合で勝っちゃったんだから。このコは運がよければSPZベルト取れるなって思ったよ。」
師である吉田龍子を引退試合で下し、そのあとはボンバー来島のパートナーとしてSPZタッグ王者となった。そして絶対王者だったスイレン草薙がベルトを手放し、SPZマットが戦国時代になるやボンバー来島が奪ったベルトに挑戦し、来島の対応のまずさはあったものの見事勝利しSPZの頂点に駆け上がった。
「防衛戦・・・ですか。誰とやっても、厳しい戦いになると思います。スイレンさん、相羽さん、来島さん・・・みんな強いので。だから当たって砕けるだけです。」
体格面のハンデをものともせずSPZ王者になった菊池。しかし前王者のボンバー来島、元王者のスイレン草薙スターライト相羽もこうなった以上菊池をつぶしにかかってくるだろう、今後のSPZマットから目が離せない。(若林太郎)
(2023年4月2日、京スポ新聞プロレス面より)
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15年目4月
SPZは新人テストを実施した。例によって丹沢登山競争と体力テストを課し、最後まで残ったのが成瀬唯という大阪から来た15歳の少女だった。
「使える思たらここで使ってほしいねんけど」
「よし、採用ッ!」
「よーし、まあ期待しとって!」
「こ、今野さん、いいんですか・・・」
テスト終了後、井上社長代行が問いかける。
「くくくく、関西弁の女の子、これは営業的に考えて大きいでっせ~」
今野役員が口走る。どうもSPZの採用基準はよくわからないものがある。
引退が近い選手がいないので、来年のことも考えて今年は新人採用は1名のみとした。
「ああ、またEWAを新女に持ってかれた・・・」
落ち込む井上霧子。まだ女子プロレス界の興行戦争は熾烈だ。
そして旗揚げ14周年記念エッセンシャルシリーズ開幕。ドーム級の会場を回るシリーズである。
第1戦釧路アリーナ大会、成瀬唯のデビュー戦。
「はうー、ドキドキしてきたぁー。」
「おら行ってこい!」
吉田コーチが成瀬を花道に送り出す。
「青コーナー、大阪府豊中市出身、なるせー、ゆーいー。」
ーおお、呼ばれてもうた。これからドつきあいするねんな・・・
「赤コーナー、岩手県田野畑村出身、ふぉくしー、まーほー」
相手は一期先輩のフォクシー真帆である。
「レフェリー、上原今日子。なお成瀬唯選手は本日がデビュー戦であります」
このアナウンスで客席から拍手が。
カンッ!
ゴングと同時にフォクシー真帆が襲い掛かってくる。
ーあーもう、なるようにしかならんわ。
この瞬間、成瀬唯のレスラー生活が幕を開けた。
試合のほうは1年のキャリアを持つフォクシー真帆がタックル、ヘッドバットでいきなり攻め込んできた。
ー痛いねんな、仕返ししたるっ。
成瀬もチョップ、ドロップキックで反撃するもそこまでであった。
「シャーッ」
フォクシー真帆の頭突き一撃。これでダウンした成瀬、あっけなく3カウントが入った。
「6分22秒、ヘッドバットからの片エビ固めでフォクシー真帆の勝ち」
―ああ、痛い。うち、何もできへんかった・・・
やられた頭を押さえながらフラフラと控室に戻る。
「おめでとう!唯ちゃん!これでレスラーの仲間入りだ!」
控室では先輩選手全員が拍手してくれた。
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翌日の札幌どさんこドーム大会でも第1試合で同じカードが組まれ、成瀬、やはり4分16秒、ヘッドバットに散った。
札幌大会メインは現在のSPZ4強がスペシャルタッグマッチで激突。
ボンバー来島、菊池理宇対スイレン草薙、スターライト相羽。
4人の持ち味がぶつかりあう好勝負となったが、スイレンの投げまくり攻勢で菊池来島がふらふらになり、最後はスターライト相羽がタイガースープレックスで菊池を仕留めた。
「ドーム大会、ベルトはボクが獲ります!」
試合後、S相羽がマイクをとって、SPZベルト奪取をアピールした。
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3戦目仙台大会、メインはあばしりタッグ新王者決定戦。お嬢様軍団の ロイヤル北条、フレイア鏡 対 エレン、ヘレンのニールセン一族。
「あのフレイアがデビュー1年ちょいのヤングガールだから攻めるならそこよ」
ニールセン一族がフレイア鏡に的を絞っての猛攻。最後はキャプチュードだった。これであばしりタッグ王座は海外流出となった。
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4戦目大阪大会、メインはビューティ市ヶ谷対ハイサスカラスのAAC選手権。
「なんとしてもAACベルトを取り返して来い!」
AACエージェント・ハヤトール氏の悲痛な叫び。しかし市ヶ谷はハイサスカラス相手には自信を持っているのか、終始押し気味に攻めて最後はフィッシャーマンバスターでトドメ。勝負タイム16分12秒。これで4度目の防衛に成功。」
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第5戦福岡・九州ドーム大会。メインはボンバー来島対スターライト相羽。SPZ前王者と元王者の戦いは、地元の大声援を受けた来島が熱戦の末、ダイビングボディプレスで相羽を仕留めた。
「相場さんも強いけど、九州で負けるわけにはいかねえぜ!」
その翌日第6戦、広島・若鯉球場大会。メインはスターライト相羽がハイサスカラスをタイガースープレックスで仕留めた。
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第7戦名古屋しゃちほこドーム大会。メインはスイレン草薙、ガイア小早川のSPZタッグ王座に前王者のスターライト相羽、ビーナス麗子が挑むタイトルマッチ。しかしスイレン草薙強い。スターライト相羽、ビーナス麗子が入れ替わり立ち代り相手をしてもびくともしない。最後は疲れの見えたビーナス麗子をスイレンがバックドロップ2連発をみまって終了。8期生で団体最古参となったスイレン草薙だがまだまだ実力は健在。王者組が防衛に成功した。
最終戦は新日本ドーム大会。メインはSPZ選手権、新王者菊池理宇、最初の防衛戦の相手は元王者、スターライト相羽である・・・
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