488回 還暦記念興行3 よこ川 VS あばしり
26年目7月 完全妄想作話
SPZ創業者・今野役員還暦記念興行(主催SPZ選手会)その3
第3試合が終わるや北側客席があわただしくなった。黒い幕が取り払われなにやらいろんなセットが運び込まれる。リング上はいったんロープが取り外され、机とイスが並べられた。いったい何が始まるのか・・・
セミ前 料理対決60分1本勝負
鈴波かすり(喫茶あばしり) VS 横川紀行(よこ川)
セミ前で組まれたのはなんと料理対決。北側客席に料理ショー風のキッチンセットが設営されるという大掛かりなもの。ルールは簡単で、「今野役員の還暦を祝うのにふさわしいごちそう」を作って、審査員の多数決で勝敗を決める。ただ普通にやったのでは日本料理よこ川の優位は動かないので、「概ね3000円以内で出せる料理」という制約が設けられた。
ご丁寧に入場シーンまで。
♪今日は君に話したい 色あせずに育つ夢もあるんだと・・・
「Leaf Ticket」がかかり、喫茶あばしり店長・鈴波かすりがども、どもと手を振りながら入場。
「―まあ、いつも通りケーキやきますよ~」
鈴波かすり、一期生と同じくらいの齢で、SPZとの付き合いは旗揚げ6年目の自社ビル建設時にさかのぼる。修行に出ていたパティシェの鈴波さんが出店物件を探していたときにSPZ自社ビル2階に出店しないかという縁があった。いらい「喫茶あばしり」はSPZ選手の社交場、SPZクライマックスの記者会見場として内輪同然の扱いであった。魅惑のスイーツと軽食が好評で、特に未成年の若手選手の評判がいい。SPZタッグベルトの2本目は「あばしりタッグ」と名づけられている。
♪踊ろうよ 摩天楼・・・
そのあと矢沢永吉の「ラスト・シーン」が流れ、横浜戸塚SPZ道場近くの日本料理店「よこ川」マスター、横川紀行さん(今明かされるフルネーム)が入場。
「フフフフ・・・料理対決とはウン十年ぶりだ。新人職人コンクール以来かなあ、まあテキトウに造るよ」
横浜戸塚に店を構える「よこ川」、基本的には日本料理の店なのだが、マスター「いい加減な性格」なので、美味けりゃいいやという考えで、何でも作りなんでもメニューに入れるので一番人気がシーザーサラダ。SPZとの付き合いは深く、旗揚げ以降多くのレスラーの底なしの胃袋を満たしてきた。お酒の種類も多いので吉田社長や井上霧子や今野役員といったフロント組は断然こちらを使うことも多く、旗揚げ以来経費で落とした回数も計り知れない。
SPZにとってゆかりの深いその2店舗がついに今宵直接対決。
「それでは審査員の紹介です」
森和紀(大日本テレビ・アナウンサー)、新咲祐希子(SPZ6期生・現グルメリポーター)
羽山海(SPZリングドクター)、大友勝彦(俳優・ラジオDJ)、南利美(SPZ1期生・現さすらいの旅人)、日野さん(35歳男性・観客代表・ライラ神威FC会員47番)、豊田さん(40歳男性・観客代表・ノエル白石FC会員7番)
この世紀の一戦を裁くのは上記7名の審査員。意見が分かれた場合は多数決で決められる。
カーン
試合開始のゴングが鳴った。司会のインタビュアーはビーナス麗子。
「あばしりの鈴波さん、今日は何で行きますか?」
「・・・ケーキ定食、行きます」
どええええええ!
恐るべし喫茶あばしり、この祝いの席に「裏メニュー」をぶつけてきた。1200円で食べれる、ごはんと味噌汁とケーキのバリューセット。
「だあってー、ケーキはウチの売りだし、誕生日祝いならまあケーキでしょ・・・」
そう言いながら鈴波店長、お米を研いで水加減を調整。
「まずごはんを炊きます~、北海道産きらら397.お米と水を炊飯ジャーに入れてスイッチ押すだけ~」
そのあと鈴波さんはケーキ作りにとりかかった。
「定番でー、いちごショートいってみようかなあ、」
制限時間があるので生地作りは事前に済ませておいた。冷蔵庫からあらかじめ作って冷やしておいたスポンジケーキを取り出しデコレーションを行う。
「生クリーム生クリーム生クリーム生クリーム~」
ボウルで生クリームを泡立てる。牛乳は北海道北見牧場産を使っている。ふだんは電動ハンミキサーを使うのだが今回は人前での料理勝負とあって手動。たちまちのうちにクリームを作り、デコレーションしていく。鈴波店長はこの生クリーム作りが修行時代に長くやらされたこともあって得意らしい。1ホールのいちごショートが出来上がるのにさして時間はかからなかった。
「あと、お味噌汁ね~」
さばの削り節できっちりだしを取ってから、
「んー、具はジャガイモとネギで行って見ようかな~」
北海道清里町産ジャガイモを取り出し、皮をむいて適当に切ってだし汁に放り込む。このあたりのおおらかさはさすが喫茶店だ。味噌は信州赤味噌。最後にネギを細切りにして放り込む。
「はい味噌汁出来上がり~」
鈴波店長、しばらく思案していたが、
「んー、これじゃあよこ川さんに負けちゃうかもしれないから、もう一品つけようかしら、カルボナーラつくろうっと」
フンフンと鼻歌など歌いながらスパゲッティをゆでて、カルボナーラソースを作って、スパゲッティと絡める。
「できたーーー」
鈴波パティシェ、実に手際よくスペシャルケーキ定食(ごはん、味噌汁、カルボナーラ、いちごショート)を作ってしまった。
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一方の青コーナー側は本格派。
「私は板前歴40年、喫茶店に負けたら天国にいる師匠に嘲笑されてしまう・・・だから全力をつくす・・・」
しかしこんかいの材料費には制約がある。よこ川マスター、普段は最高級の材料を惜しみなく使うタイプなのだが、今回は知恵を絞らないといけない。
よこ川マスター、冷蔵庫からスルメイカを取り出した。
「この包丁『港北』は師匠から譲り受けたもの・・・負けるわけにはいかん。まずはお造り・・・この時期、旬は青森県産スルメイカ・・・ホワアアアアッ」
抜群の包丁さばき。スルメイカをさばいて刺身にしていく。包丁さばきにかけては何枚も上だ。あっという間にスルメイカのお造りが出来上がった。
「うーむ。この熱気・・・・そうだ、これだ」
「この豆腐はうちが懇意にしている京都の豆腐屋さんから特別に仕入れた限定品だ。日本料理は結局のところ素材のよしあしが味を分ける。」
適当に豆腐を切って、氷水に浮かべた。実に涼しげな一品。
「続いて、吸い物・・・店の風格は吸い物で分かるからな、出さないわけにはいかん・・・」
よこ川マスター、鉋のような鰹節削り器を取り出した。
がっしゅがっしゅがっしゅ。鰹節削り器できっちり削ってから出汁をとる。具はあえていい食材を用いず、三つ葉だけ。薄口醤油で味を整えて完成。吸い物本来の香りを味わってもらおうという趣向。
「あとは、メインの一品だが・・・これは事前に考えていたでな」
よこ川マスター、冷蔵庫から鯛を取り出した。うろこを取って軽快にさばいていく。そのあと金網の上で焼きにかかった。
「今回は材料の制約があって、残念ながら愛媛県産の養殖ものだが、焼き物でなら使える・・・」
そのあとよこ川マスター、先ほどのだし汁の残りと鯛の残りでスープを作り始めた。
「まあ、こんな物だろう・・・」
そのあと、素麺(奈良県三輪産)を取り出して湯がく。そうめんを盛りつけ、先ほど作ったスープをかけてその上に鯛の焼き物を載せた。
「はい、鯛麺、完成。還暦祝いのご馳走ということで、縁起のいい鯛に細長いそうめんの組み合わせ。西日本では結婚式の〆の料理で出てくるという・・・本来ならば鯛の姿煮を使うのだが、私は焼き物が得意なので・・・」
よこ川マスター、材料費の制約があってもお造り、豆腐、吸い物、鯛麺と料理を並べるところはさすが。
「おっと忘れてた・・・いちおう料理屋なので生ビールもつけとこうか、この暑さだし」
わざわざ持ってきた生ビールサーバーから人数分の生ビールを手際よく注ぐよこ川マスター。これでよこ川も完成。
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「いざ勝負!!」
7人の審査員が試食。まずあばしりのケーキ定食から。
「カルボナーラが美味い!」
審査員が驚きの声。場末の喫茶店のレベルを超えている。ふふんと小鼻を膨らませる鈴波店長。
「いま1号店の店長をしてる旦那に、若い頃教わったのよ」
ごはんと味噌汁はそれなりの味だったが、いちごショート、あばしりの看板メニューであり、SPZのレスラー陣を虜にしてきただけあって賛辞の声が、
「おい、しいーーー」
続いて和食よこ川。
スルメイカの刺身「旬の味ね、まあまあの味だわ」
久しぶりに公の場に顔を出した南利美がコメント。
豆腐「スーパーのやつより確かに美味しいわ。ただ塩で食べるのが微妙ね」
吸い物「鰹だしの味はきいているわ、だがそれだけね、よこ川さんにしては工夫がないわね」
そして鯛麺。「これは・・・いけるわ」
鯛の焼き物の味が半端ではない。皮ぎしのうまみが十二分に出ている。
「先に出した三品をあえて物足りない味にしておいて、味覚を油断させたところを全力で作った料理をぶつけるとお客さんはより美味いと感じる。料理人のテクニックだ・・・」
さすがよこ川マスター、老獪だ。二流の材料でもきっちりお客を満足させるところが只者ではない。
「ぷはーっ」
そのあと全員がビールをごきゅごきゅと飲み干した
そして判定、
意外にも大差がついた、7対0で「よこ川」が勝利。
「お互い完璧。料理の質に差はなかった、ただ最後にビール出されたのがね・・・・」
「この暑さだから・・・ビールが一番旨かった」
よこ川が出した生ビールが勝敗の決め手になったらしい・・・
戦い終えて両雄ががっちり握手。
「また今度、やりましょうか!面白かったし」
鈴波店長が笑顔で。ケーキ定食を出せて嬉しかったのか。
「危なかった・・・やはりただの喫茶店ではなかったな・・・わしもまだまだ修行せねばな、まあでも昔の血を思い出したわ」
よこ川マスター、戦い終えてほっと一息。
これでセミ前、料理対決は幕を閉じた。キッチンセットが撤収され、いよいよセミファイナル、今野役員還暦記念試合8人タッグマッチ。(続きます)
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