第575回(外伝SS)カレンダーガール
本日は2008年最後の連載ということで本編ではなく、さらさらっと書いたSSを晒します。
************************
29年目12月シリーズ 外伝
「いらっしゃいませ、こんにちわーーー」
「どうぞごゆっくりご覧くださいーーー」
SPZの12月シリーズの物販は真剣そのものである。なぜならば、Tシャツやマグカップ、タオルなどの通常グッズのほかに「カレンダー」が販売されるのである。年内に売れないとえらいことになるのでスタッフも真剣そのもの。全国48箇所にあるグッズショップ「SPZフィーバー」も在庫を極力絞込み、なるべく会場売りでの完売を目指す。
今年売り出されるのは5種類。
「SPZカレンダー2038 ファイティングガールズ」
「SPZカジュアルカレンダー 2038」
この二つは所属選手が総出演するカレンダーで、SPZカレンダーの方は主に試合前のショット、試合中のショット、試合後のショットで構成される。4月はベルト姿でにっこり笑うマイティ祐希子。
カジュアルカレンダーは旗揚げ以来の伝統で、所属選手がそこそこいいファッションに身を包んで・・・というシロモノ。1月はレザーコート姿のハリケーン神田。ちなみにお値段は2100円。
そして残る3つが個人カレンダー。売れ残るのが怖いので、個人カレンダーの発売はスター選手だけに許された特権だ。売上の10%は選手に入る。
「マイティ祐希子カレンダー」
「コンバット斉藤カレンダー」
「イージス中森カレンダー」
SPZで個人カレンダーを作るかどうかの内規は「シングルベルトの戴冠歴があるかどうか」であるが、悪役のナイトメア神威や全国的人気のいまいちなカミスワさんはカレンダー作成が見送られた。
ちなみにお値段はやはり2100円。
「いいか、カレンダーはシリーズ終了までに売りさばけ!一部たりとも売り残してはならんぞ」
今野役員63歳がハッパをかける。マイティ祐希子は現エースだから多分だいじょうぶ。
コンバット斉藤も元エースとはいえ根強い人気があるし、売れ行きが伸び悩んだらグッズ売り場横で瓦割りかバット折りのパフォーマンスでもやらせればよい。問題なのは最古参のイージス中森選手会長だ。ファイトスタイルも地味でルックスもそれほどでもないので女性の固定ファンしかいない。男性のミーハーなファンがいない状況なのだ。なにしろ私生活では彼氏がいることは公知の事実。
ちなみにタイトルは「仕事師」で、内容は下記のとおりである。
1月 新春、サングラスをかけて土手をジャージ姿でランニングするイージス中森
2月 厳冬 和風旅館でどてらを着てくつろいでいるイージス中森。外は雪。
3月 陽春 会場外の空き地でジャージ姿でストレッチをしているイージス中森
4月 桜花 移動中なのか、フェリーの船上で海を見つめるイージス中森
5月 初夏 移動バスから試合道具の入ったボストンを抱えて降りてきたイージス中森。
6月 梅雨 控室、出番を待つ前、リングシューズの紐を締めるイージス中森
7月 盛夏 SPZ道場で汗だくになってエアロバイクをこぐイージス中森。MP3の音楽を耳に当てて聴いている。
8月 晩夏 海岸でビキニ姿、若手選手に混じってビーチバレーに興じるイージス中森。まあこれはサービスショット。
9月 初秋 移動中新幹線の車内、読書に興じるイージス中森。読んでいるのは難しそうな経済本。
10月 秋爽 興行を終えてホッと一息なのか、夜の屋台でラーメンをすするイージス中森。
11月 晩秋 オフの日なのか、私服で愛車のハンドルを握るイージス中森。なにげに高そうな黒い外車。
12月 冬至 花道奥で出番前、前座の若手選手の試合をチェックするイージス中森。
*****************************
「イージス中森カレンダー2038、発売中です。お買い上げの方には特典と致しましてイージス中森サイン色紙をプレゼント致します」
物販の手伝いをする今野役員、だがさっぱり動かない
「・・・売れませんね。これが現実ですよ」
売店奥のイスに腰を下ろしたイージス中森。目の前でマイティ祐希子グッズやカレンダーがはけてゆくのを見て苦笑。
このシリーズ、イージス中森は腰を負傷しており、福岡大会のタッグ選手権のみの参戦だが、巡業には帯同している。デビューしてもう10年、それなりに活躍してSPZを支えてきた自負はあるが、いまのSPZはマイティ祐希子に人気が集中している傾向がある。
順調にはけてゆくマイティ祐希子カレンダー。自らのカレンダーはあまり動かない。たまらずイージス中森カウンターへ出て、セールストーク。
「カレンダー買ってください、お願いします。この売り上げで正月はハワイ行くんで・・・ぜひお願いします」
売り上げの10%が入るので真剣そのもの。
「多分来年はないと思うんで、これが最後のカレンダーだと思いますのでぜひ買ってください」
「な、中森さん!」
思わず今野役員が振り返る。来年は引退するぞと言っているに等しい。
最前線でのお声かけの効果あって、イージス中森のカレンダーもボツボツ売れ出した。そのまま第1試合開始時間までイージス中森は売店に立ち続けた。
―もう、そろそろ、潮時ですかね・・・
イージス中森25歳、力の衰えを感じ引退を真剣に考える時期だが、まだSPZタッグベルトを巻いているので、パートナーのM祐希子のことを考えるとなかなかいい出せない状況が続いている・・・
「阿部さん、後何本残ってますかね」
物販の手伝いを終えたイージス中森、控室に戻りながら阿部リングアナに問う。
「920本くらいっすかね。フィーバーの在庫あわせて」
「・・・そうですか・・・」
******************************
筆者より、今年1年当サイトへのご訪問ありがとうございました。2009年も気力の続く限り頑張りますので、応援宜しくお願いいたします。K.Konno
最近のコメント