第599回 最後の1試合
30年目10月
そして最終戦、東京・水道橋の新日本ドーム大会
コンバット斉藤最終試合
の大看板が。
毎回集客に苦労する新日本ドーム興行だが通常のSPZ人気に加えあのコンバット斉藤の引退試合ということで超満員札止め、当日券も即はけた。
過去の実績(SPZでの暴れっぷり・・・)からいって、吉田龍子、ビューティ市ヶ谷、武藤めぐみクラスの「大横綱級絶対王者」が引退するとあって、盛り上がりはすごいものがあった。
「コンバット斉藤Tシャツが半額です!1000円~」
会場前は特設テントでグッズ販売の追い込み。全47都道府県にあるグッズショップからコンバット斉藤グッズが集められ、半額プライスで「投げ売り」される。明日からはタダの人なので、レスラーのうちに売りさばくのがSPZなりの配慮。今野役員をはじめ裏方スタッフは大わらわ。
Tシャツやマグカップ、タオルといった定番グッズのほかに、あの売れまくった水着写真集「JET SMASH」も再版され、特設テントで販売された。この写真集がきっかけで人気面も大ブレイクしたのである。
前夜を三重の実家に泊まったコンバット斉藤は、名古屋から午前中の新幹線で新横浜に出て、昼過ぎから戸塚のSPZ道場でラッキー内田コーチを相手に軽く調整。
―長いようで短かったかな・・・・
ラッキー内田が構えるミット相手にいつもの通り蹴りを打ち込む。
「初めて当たったとき、えらい子が入ってきたって思いましたよ」
ラッキー内田が昔を思い出してつぶやく。
打撃の破壊力はあの伊達遥を上回る。全盛期の武藤めぐみを失神KOに追いやったのはファンの間で語り草になっている。
「さ、ラスト、どかんと来い!」
「はい。」
ばしぃっ!
調整でもけっこうな威力の蹴り。「ジェットスマッシュ」という呼び名はあまりの威力がSPZフロントに広まり、「すごい名前つけようぜ」などと吉田龍子社長が言い出し、戸惑う本人をよそに今野役員が「ズバッと決まるからジェットスマッシュってのはどうかな」と言い出し、それに決まってしまったという逸話がある。
午後5時、
売れまくったグッズ、乱れ飛ぶ千円札と一万円札。ようやく全グッズが完売となった。
「ありがとうございました。これで斉藤さんに退職金が出せます」
今野役員がテント前で一礼。紙袋を手にしたファンはどっと沸いた。
コンバット斉藤、きょうの対戦相手も油断ならないのでまだ道場で受け身の確認をしていた。頭から落とされることの多いSPZマット。コンバット斉藤は人一倍の努力を重ねて(特訓の量は小川ひかるや菊池理宇並みだった)プロレスの受け身を覚え、絶対王者の下地を作ったのである。
「そろそろ、行きましょうか」
内田コーチが声をかける。
「はい」
コンバット斉藤、トレーニングウェアのまま道場を出て、迎えの車に乗る。
「おう」
白いワンボックスから出迎えたのはなんとライラ神威(現・居酒屋トムラウシ店主)。私服姿だし覆面も被っていないが雰囲気はあまり変わっていない。
「島宮さん・・・」
「ふっふっふっ、お店を松本に任せて、来てやったぞ。負けザマ見届けてやるぜ」
「・・・・・まあ、なんとかしますよ」
コンバット斉藤のSPZでの師匠格は悪の軍団DarkFraction総帥ライラ神威。あの武藤めぐみが引退するまではヒールサイドにいたのである。
「それじゃあ、行きましょうか」
3人でワンボックスに乗り込み、試合会場の新日本ドームを目指す。ハンドルを握るのはライラ神威。
午後5時10分、開場。わらわらと新日本ドームが埋まってゆく。
「いやほんと、ジェットスマッシュであの武藤めぐみが失神した試合、あれ名古屋で見たけど、凍りついたから」
「DarkFraction時代も凄かったよ。あの統制の取れてないようで取れてるの。斉藤さんがぶん殴ってREKIが決めるパターンがすごいね」
ファンが思い思いにそれぞれの思い出話。伝説を作った選手の引退試合はいつもこうだ。
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そして興行開始時刻6時30分。いつもは淡々と始まるSPZドーム興行だが、今回は大物選手の最終試合とあって、第1試合開始前に「おもしろビデオ」がオーロラビジョンで上映された。
「コンバット斉藤・最強伝説」
タイトルのあと、残虐ビデオの上映。ジェットスマッシュや飛燕脚を食らって吹っ飛ぶ選手が次々と。場内はどよめき。
「DANGER」
当たり所が悪ければ、一発で眠らせるのが打撃使いの恐ろしいところ。眠ってしまった武藤めぐみやノエル白石、イージス中森の衝撃映像集。ざわめく場内。
「PROFESSIONAL」
打って変わって特訓を繰り広げるコンバット斉藤の映像。空手の素養がありながらプロレス技の研究・習得にも余念がなく、パワーボムやデスバレー、裏投げといったそこそこの大技も使いこなすまでになった。
「蹴りをもらった後のデスバレーはやばい(ラッキー内田)」
被害者談に場内どっと沸く。大物ぶりを強調するためか、今回のビデオにはナレーションは無く、テロップと衝撃映像が大部分でおもしろビデオが作られた。元々は引退試合で会場がしめっぽい空気になってしまうのを防ぐための計らい。
そして、
カン、カン、カン、カン、カン・・・・
ゴングが5回鳴った後、
「本日はお忙しい中、スーパースターズプロレスリングゼットの東京大会にご来場いただきまして、まことにありがとうございます。本日のカードを発表いたします」
村越リングアナがいつもの名調子。
「第1試合、シングルマッチ30分1本勝負、サキュバス真鍋対ミスティアマスク、第2試合シングルマッチ30分1本勝負、マリシア・ルイス対ノティアリチャーズ。第3試合タッグマッチ30分1本勝負、霧島レイラ、スカーレット小縞組対 ケンドーカミスワ、RIKKA組。第3試合終了後15分間の休憩を頂きます。第4試合、タッグマッチ30分1本勝負、斉藤彰子、中江里奈組対 ナイトメア神威、マーメイド千秋組。第5試合、八島静香、ハリケーン神田組対 キャシーウォン、ブルックウォン組」
ここまで一気に読み上げてから一呼吸置いて、
「第6試合セミファイナル、コンバット斉藤対藤原和美」
ドワアアアアアア!!
プログラムにも対戦相手はXとしか書かれていなかったので沸いた。
「藤原かよ!」「意外だ!」「やっぱり」
「第7試合メインイベント、SPZ世界選手権試合、チャレンジャー、ジェーンメガライト対チャンピオン、マイティ祐希子」
メインのカードでも場内沸く。いまのSPZでは最高のカード。
6時過ぎに会場入りしたコンバット斉藤。今日の出番はだいぶ先なので、控室で若手選手と談笑。とりとめのない話をして出番を待つ。
(続きます)
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