第582回 晴れ渡る空に、丘をすべる風
レッスルエンジェルスサバイバー プレイ日記のようなもの
輝くエッセンシャルS
30年目4月
「どうやら、自分はもう闘えないようです・・・」
20期生のイージス中森が引退を表明。去年の秋ごろから考えてはいたのだが、タッグ王座を手放して、ついに決断したらしい。後輩の指導力に定評があったので、そのままコーチとして団体に残ることが決まっている。
SPZは新人スカウトを試みたが、有望な選手が見当たらない。しかたがないので、新人テストを実施。しかしいい人材は早々簡単に見つかるものではない。
「素質はそれなりかと思いますが・・・性格がちょっと・・・」
「でも声の感じは良かったよ、あれで悲鳴とかあげたら人気出るんじゃない、入れちゃおう」
「このスケベおやじ・・・」
真鍋凛奈(福井県出身)入団。イージス中森コーチが付きっ切りで基本動作と受け身を教え込んだ。中森コーチいわく「けっこう手のかかる新人」らしく、引退シリーズに向けて自らの調整どころではなかったらしい。
4月シリーズ「旗揚げ29周年&イージス中森ご声援感謝シリーズ」は仙台市からスタート。
「おおぅ・・・どきどきしてきた・・・」
今シリーズ、ナイトメア神威、八島静香、ハリケーン神田の3人が負傷欠場という惨状なので、シリーズ初戦第1試合でいきなり真鍋のデビュー戦が組まれた。リングネームは今野役員が冗談のつもりで言ったサキュバス真鍋。
「まあ、相手は中森さんだから、きっちりまとめてくれるでしょう」
第1試合、まずサキュバス真鍋15歳が花道をたたたたっと走ってリングイン。新人なのでテーマ曲はまだない。
そしてかかった曲は「you give・・・」
ものすごい声援と手拍子が巻き起こる。熱心なファンはテーマ曲を唱和する。
♪晴れ渡る空に、丘をすべる風ー、
赤コーナー側から最古参選手兼任コーチイージス中森25歳入場!
ワアアアアアア!!
これだけで場内沸く。
―ありがたくて涙が出そうになる。でも、決めたこと。今シリーズでリングから降りる。
イージス中森、階段を上がってロープをくぐり、赤コーナーサイドに立って屈伸運動。そのあとリングアナのコール。
「青コーナー、福井県大野市出身、さきゅばーす、まなべーっ」
阿部幸一リングアナがコール。拍手はまばら。
「赤コーナー、徳島県徳島市出身、いーじす、なかーもりー」
どワアアアアア!
今シリーズ限りでの引退はみんな知っている。第1試合なのに紙テープまで飛んだ。
―これが・・・中森さんの・・・今まで培ってきた・・・
ファイッ!
R北条レフェリーが試合開始を宣した。今野役員がゴングを一打。
いきなり組み付いて、イージス中森するするっとスリーパー。このあたりの流れはうまいとしか言いようがない。
「うっ・・・ぐぐぐ」
苦しがるサキュバス真鍋。自力で外せるわけがない。
「うううっ」
イージス中森、いったんスリーパーを解いて、ダウンしている真鍋の足を取って逆片エビ固めにとらえた。手加減したもののグイグイグイ!
「う・・・ひぎいいいいっ!」
えびぞリ状態。もがき苦しむサキュバス真鍋。早くも半べそをかいていた。
腰に鋭い痛みが走る。だが懸命にこらえてギブアップの言葉はのみ込んだ。
―そろそろ決めなさいよ。
ロイヤル北条レフェリーがイージス中森に視線を送る。
―はいはい。
イージス中森、逆片エビを解いて、ダウンしたまま起き上がってこない真鍋をつかんで引きずり起こしてコブラツイストに捕らえる。
「あ・・・・がっ・・・・!!」
真鍋の上半身が変な方向へ曲がってゆく。あまりの痛みに声も出ない真鍋。
「はいダメ、終わり!」
これ以上は危険と判断したロイヤル北条レフェリーが試合を止めた。
カンカンカンカン・・・
「4分38秒、コブラツイストで、イージス中森の勝ち」
そして再び流れる、「you give・・・」
―10年前は、私もあんな感じだった。頑張ってくれよ・・・
勝ち名乗りを受けたイージス中森、ダウンしたまま動けないサキュバス真鍋を見たあと、リングを後にした。
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「すごく痛かった・・・ぐすっ」
ふらつきながら花道を戻ってきたサキュバス真鍋、半べそをかきながら控室に戻ってきた。
「デビューおめでとう!」
控室で先輩レスラー全員から声をかけられる真鍋。
こうしてSPZにまたひとり新星が登場した。
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