そして、最終戦横スペ大会。大看板が3枚並べられた。
「霧島レイラ 最終試合」
「サキュバス真鍋 最終試合」
「藤原和美 最終試合」
一気に引退試合が3試合行われるとあって、チケットは前売りの段階で完売。会場前では特設テントが3つも張られていつも通りグッズの半額叩き売りセール。物販スタッフを総動員しても人員が足りないのでSPZ会社サイドは大わらわだった。
「やれやれ。この歳になってレジ打ちをやらされるとは思いもよらんかったわ、はい10,000円預/現計っと・・・おつりは6,500円。」
SPZ創業者・今野ファウンダー(71)が藤原和美グッズ売り場特設テントに陣取って軽快にレジを打つ。中森社長も応対に駆り出された。
「3名同時ってのはSPZの歴史の中でも初めてじゃあないですか」
「そうだったかなあ」
各スタッフの奮闘のかいあって、開場前にはほとんどのグッズが完売した。
「ありがとうございました。これで各選手に退職金が出せます」
今野ファウンダー、物販スタッフが一礼。
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午後5時30分、第1試合開始。
休憩前第3試合でサキュバス真鍋最終試合。
「次の試合に登場するサキュバス真鍋選手はこの試合が最後のファイトとなります。ファンの皆様、より一層のご声援をお願いいたします」
さすがにサキュバス真鍋、いつものパフォーマンスは出せずに神妙な表情でリングイン。
対戦相手は31期の藤島瞳。アイドルレスラー同士で前座戦線を沸かせた間柄だ。
「真鍋、限りないパワー、感じてるから、真鍋、Do it together get the flag 見せてくれ」
ネット上の呼びかけに応じて集まった「サキュバス真鍋大応援団」が応援歌を熱唱。もとはとあるプロ野球選手の応援歌の替え歌らしい。
しかし動きの落ちているサキュバス真鍋、どうしても藤島のスピードについていけない。
「へっ!」
それでも藤島のミサイルキックを誤爆させ、スクラップバスターで追い込むなど懸命のファイト、しかし、
ヤーーーーッ」
藤島瞳、アームホイップで頃ばすやすばやくコーナーに登ってシューティンスタープレス!サキュバス真鍋、3カウントを聞いた・・・
「真鍋、限りないパワー、感じてるから、真鍋、Do it together get the flag 見せてくれ」・・・
・・・これで・・終った・・の・・・
勝負タイム15分7秒、サキュバス真鍋の最終戦は幕を閉じた。リング上で一礼して引き揚げるサキュバス真鍋に大声援。大応援団の熱唱は休憩時間にまで及んだ。
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そして休憩明けの第4試合
「次の試合に登場する霧島レイラ選手はこの試合が最後のファイトとなります。ファンの皆様より一層のご声援をお願いいたします」
ドワアアアアア
元SPZ王者、霧島レイラが最後のリングへ向かう。場内に流れる最後の「ゴーストバスターズのテーマ」。
ー長かった・・・・まあ今日はさくっと終わらせて帰るか。
実働10年5ヶ月、身体はボロボロだが、持ち前の馬力にものを言わせた痛快なファイトは見るものの胸を打った。
「おらよっ!」
リングインの際、これも着納めだとばかりに羽織っていた入場用ガウンを客席に投げ入れる。場内どよめき。
カンッ
この日はアイドルレスラー早瀬と対戦、さすがに早瀬のすばしっこさに手間取ったが、悠然とした表情で相手の攻めを受ける。
―なあに、長引けば相手はバテる、あせらずやろう。
で、実際にその通りになり、動きが落ちたところを捕まえてDDTで頭からマットへ。このあたりさすがベテランの読み。アイドルレスラー早瀬葵の練習量が比較的少ないことまで読みきっている、
しかし早瀬も延髄斬りで痛打を与える。
―このおっ!!
ムッとした霧島レイラ、強引に早瀬をなぎ倒すやコーナーに手早く登って、重爆ムーンサルト。
ワン、トゥ・・・ドドドドドドド!!
早瀬2.8で返す。こうなったらあの技しかない。
「これで最後だーーーーーー」
霧島レイラ、必殺ムーブのスプラッシュマウンテン炸裂、早瀬は頭からマット。
・・・これで終わった・・・・
ワン、トゥ・・・・ドドドドドドド
・・・えっ・・・・・・・・・・・・・
しかし早瀬も2.9で返した。なんという粘り!
「へへっ、しぶてえやつだ、涙が出るよッ」
霧島レイラ、とどめの裏投げ。もちろん試合はこれで終わった。
勝負タイム28分23秒。
―勝った・・・・手間かけさせやがって・・・
霧島(8点、裏投げからの片エビ固め 28.23)早瀬(2点)
さくっと終らせて帰るはずだったが、早瀬の健闘が光った試合だった。霧島レイラ、リストバンドを客席に投げ入れてから、リング上で一礼して、引き揚げた。最後のSPZクライマックスでも堂々の8点、シード権を保ったままの引退に成功(これもなかなかできることではない)
控室入口で霧島レイラ、次の試合に出る藤原和美とハイタッチ。
「へへ、お先に失礼!!藤原!勝ち逃げしろよ!!」
続くセミ前第5試合、引退試合3連発の最後、
「次の試合に登場する藤原和美選手はこの試合が最後のファイトとなります。ファンの皆様より一層のご声援をお願いいたします」
どわあああああああああ!!
SPZ28期生、革命軍の旗手、藤原和美もこの日で最後、フローラ小川(34期)と最後の試合に臨む。一時は次期エース候補ともいわれたが、壁にぶつかってしまいトップグループには入れずじまいで終わった・・・
「はあうっ!」
ひとしきりやりあったがフィニッシュは突然に。バックの取り合いからさっとドラゴンスリーパーに組みとめたフローラ小川、そのまま絞めあげてギブアップを奪った。
F小川(8点、ドラゴンスリーパー 9.16)藤原(2点)
唐突な結末にファンはざわめき。そのあと大歓声に包まれた。
―終っちゃった・・・
藤原和美、ゆっくり起き上がり、四方に礼をしてから引き揚げた。
フローラ小川、2度目の出場で母親(小川ひかる)もなしえなかったSクラのシード権獲得。G山本佐久間葛城には敗れたがそれ以外の選手からはきっちり勝ちをもぎ取ったあたり、長足の進歩が見て取れる。
「良くやってる。あれでもう少し、昔の南さんみたいな凄みが出たらトップグループも夢じゃないと思うけど・・・」
今野ファウンダーも娘の成長にご満悦。
葛城(8点、ブレーンバスターからの片エビ固め 10.45)M石川(2点)
優勝候補の一角として名を連ねていた葛城早苗だったが、佐久間、山本、そして引退前の霧島にも破れて8点という成績。この日もM石川に粘られて、ジェットスマッシュを2回も返されてパワーボムで逆襲されるなどいまいち。なんとかブレンバスターで勝つには勝ったが、これではトップ取りは厳しいといわざるを得ない。
この結果3位は葛城早苗、フローラ小川、霧島レイラの3人が8点で並び、直接対決の結果も3すくみなので、3位の賞品の「スポーツドリンク」は8缶ずつ3人に分配された。
霧島レイラ、8年連続で3位以内入賞というのは偉業だ。控室でマネージャーさんからスポーツドリンクの入った袋を笑顔で受け取り、ノドが渇いていたのか、ひとつを手早く開けた。
パカッ
「なんてせこい会社だ。3位祝いがスポーツドリンクだってよ。」
いちはやくジャージに着替えた霧島レイラ、イスに腰掛け、スポーツドリンクを飲みながらモニターに映るメインを高みの見物。
(続きます)
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筆者より、いつも当サイトにお越しいただきありがとうございます。この連載も「777回」という節目に到達いたしました。いつまで続くのか筆者にも分かりませんが、まあ気張らず適当にやってゆきたいと思いますので、ご声援のほど宜しくお願いいたします。
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