第795回 SPZ選手権 佐久間理沙子VSフローラ小川
38年目6月
6月シリーズ、第7戦の長野・信州マウンテンウェーブ大会。
「本日のメインイベント~ SPZ選手権試合!」
阿部リングアナが高らかに叫ぶ。
そして場内に流れる弦楽合奏。フローラ小川の入場テーマ曲、「ディヴェルティメントK138」。場内大歓声。あまりレスラーの入場曲っぽくないのだが、父親である今野役員が「この曲を使うがよい、私の一番愛している音楽だ」などといって決まってしまった。
フローラ小川、いつも通り青い「SPZジャンパー」を羽織って入場。後援者から寄贈されたマイガウンも持っているのだが、気恥ずかしいらしく汎用グッズを着ている。
セカンドロープとトップロープの間をくぐって、リングイン。
ー負けて元々。自分のレスリングをするだけ。
そのあと場内に流れる「Energy」
♪夢じゃないこの世界 輝く力あふれて 飛んでゆく君のもとへ・・・・
佐久間理沙子、黒いロングガウンを羽織って、客席に手を振りながら入場。腰には輝くSPZベルト。階段を上がってリングイン。
「この試合は、株式会社スーパースターズ・プロレスリング・ゼットが認定するシングル世界選手権試合であることを認定する。2046年6月吉日、株式会社スーパースターズプロレスリング・ゼット 中森登志子、代読、SPZファウンダー今野和弘」
なんとフローラ小川の父親、SPZ創業者の今野ファウンダーが認定証の読み上げ。そのあとチャンピオンベルトの返還、そしてリングアナのコール。
「青コーナー、神奈川県川崎市出身、ふろーらー、おがーわー」
「赤コーナー、SPZ世界選手権者、東京都日野市出身、さくまー、りさーこー」
紙テープが舞う。
「レヘリー、ハリケーン神田」
長野大会メインはSPZ戦、王者佐久間理沙子に対するは挑戦者フローラ小川。WWCA王者を奪取し、シングルプレーヤーでもSPZの上位選手となってきた。今日の長野でSPZ戦、明日のさいたまでWWCA戦と、F小川対佐久間の2連戦が組まれたのである。
カンッ
「さて、タイトル戦のゴングが打ち鳴らされました。実況は私、大日本テレビ伊藤啓、かいせつはSPZの鬼解説者吉田龍子さん、そしてスペシャルゲストにSPZ1期生、今野ひかるさんにお越しいただきました。ひかるさん、この試合はどういった展開になりそうでしょうか」
「えっと・・・・佐久間選手、組み付いてから投げ技に移行するまでの間が短いので、佐久間選手の技が連続で決まる感じがします。・・・・フローラ小川選手は・・・厳しいかもしれませんね」
母親のひかる、マイナス思考の入った解説。
「んー、でも寝かせてしまえばフローラ小川も自力ありますから、チャンスが出てきますよ」
吉田取締役がフォロー。
父親の今野ファウンダー、いつものように本部席でまったり観戦・・・のつもりだったが、指が震えて缶コーヒーのプルトップが開けられない。
序盤は両者、じっくりとしたレスリング的攻防を展開。1期上の佐久間、フローラ小川とは道場でのスパーリングも良くやっていたのであるから慣れたもの。
佐久間理沙子、なんとかなる相手だという読みがあった。現にフローラ小川には過去一度も負けていない。何しろ相手は軽いから投げやすいのだ。
―相手は投げやすいところがある。普通にやれば勝てる。
でも用心深い佐久間フローラ小川の関節技を警戒してロープ際で戦う。ボディスラムやノーザンがうまく決まって、10分過ぎまでは佐久間がやや優勢に試合を進めた。
ー動きについていって、ワンチャンスに、賭ける・・・
15分頃、ロープを背にして闘っていた佐久間の警戒が緩み、リング中央での攻防となる。
ーい、今だ・・・
フローラ小川、首投げで佐久間を転がすと、ひっくり返して上に乗って、得意のSTFに捕らえた。
「うううっ!」
ドワアアアアア!!!
轟く歓声。運の悪いことにリング中央で決まってしまった。フローラ小川、定石どおりリストバンドの部分で佐久間の鼻をつぶすように締め上げる。足のフックも万全。
「ううううっ!」
佐久間理沙子を襲う激しい痛み。並みのレスラーならこの痛みに根負けして降参しているところだが、そこはSPZ王者の意地で懸命にこらえる。
「ギブアップか!?ギブアップが!?」
神田レフェリーが佐久間に問いかける。
「ぐううっ・・・」
長い時間、STFをこらえた佐久間、かろうじてロープに逃れたものの動きがおかしい。倒れたまま起き上がれない・・・・場内大興奮。
解説席で見ていたひかる、まさかの展開に戸惑いながらも
「休んじゃダメ、一気にー」と口に出す。フローラ小川もそのへんはよく分かっていて、
「これ、なら!!」
フローラ小川、コーナーにすばやく駆け上がってムーンサルトプレス!SPZでもまれて4年、難度の高い飛び技も自分のものにした。佐久間の上に宙返りで落下。
ワン、トゥ・・・・ドドドドド
カウント2.8で返す佐久間。
「くっく・・・この・・・・」
佐久間、起き上がって急場しのぎに延髄斬りを放つがいつもの切れがなく、続くフォールも2で返される。そのまま両者ダウン。場内ドワアアアアア
先に起き上がったフローラ小川、コーナーに登って、
「これ、でっ!」
この日2度目のムーンサルトプレス!キレイなフォームで佐久間の上に舞い降りた。ハリケーン神田レフェリーがマットを叩く。
ワン、トゥ、スリーーー!
ええええええええええええええええええええええ!!
フローラ小川、今まで勝ったことのない佐久間を破って、まさかのSPZ王座奪取!!!!本部席の吉田龍子役員とひかるは思わず顔を見合わせた。
「24分4秒、ムーンサルトプレスでフローラ小川の勝ち」
阿部リングアナが試合結果を伝える。ここでも紙テープが舞った。
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SPZ世界選手権試合(60分1本勝負)
フローラ小川(24分4秒、ムーンサルトプレスからの体固め)佐久間理沙子
第105代王者、佐久間が4度目の防衛に失敗。フローラ小川が106代王者となる
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場内に流れる「ディヴェルティメントK138」そのあとチャンピオンベルトの授与。
フローラ小川の細い腰にSPZベルトが巻かれる。まさかまさかの戴冠劇。
「勝てました・・・母さん、見てくれました・・か・・・」
今野ひかる、解説席で涙ぐんだ。自分がどうしても届かなかった、挑戦する事すら叶わなかった、雲の上の存在だったSPZシングルベルトを、愛娘が奪取した・・・・
「うっ、・・・ううううっ・・・・」
今野ファウンダーも感無量。
「凄いね・・・・」
敗れた佐久間は、「向こうの勝ちパターンにはまってしまいました。まだまだ私も修行が足りませんね。明日は2連敗はできないのでとにかく結果を出しに行きます」とコメントした。
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「カンパーイ」
試合後、SPZ・WWCAのシングル2冠王(!)フローラ小川を囲んでウーロン茶で本隊選手、裏方さん関係者を交えて乾杯。タイトルマッチあとの恒例儀式だ。
「何か・・・しっくり来ないんですけど・・・・勝っちゃったンですよね・・・・」
24時間後、決戦第2弾。
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