ギムレットホール改造計画(2)
「これが私の理想のプロレス会場です」
2049年2月、プロレスマスコミに公開した、リニューアルされた東京調布のギムレットホール。
こけら落としから12年が経過して、設備系が劣化していたので外壁の塗装や通路、お手洗いといった基本的な部分はもちろんのこと、グッズ売り場にも手を入れてリニューアル。
北側の座席の1列目から5列目は、なんと、座席を全て交換。
「ロイヤルシート」に改装した。
いままでのギムレットホールもイスは映画館タイプのゆったりとしたものを使用していたのだが、新設されたロイヤルシートはさらにシートピッチを大きくして、まるでソファーのようなゆったり感を出した。定員は減ったがその分料金設定を高くする目論見である。
「どうです。シートは革張りですよ」
さらに左右の肘掛には折りたたみ式の小テーブルを用意。
「バッチリです。これで飲食をしながらプロレス観戦ができます」
そして右側のテーブルには、紐で栓抜きをぶら下げた。
「少しでも非日常らしさを味わってもらおうと思いまして」
そしてグッズ売り場の隣には、軽食コーナーを設けた。
「島宮さん、フード部門は宜しくお願いしますね」
作りたての焼き鳥や焼きそば、弁当を売るのはあのライラ神威。先輩のつてを頼りギムレットオフィスに入社。飲食店経営の経験を生かしもうひと働きすることになった。とりあえず興行のある日は軽食コーナーに立って焼き鳥を焼きまくることになった。
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2月下旬、東京エクストリームプロレスの興行がギムレットホールで開催された。
「これは豪華な気分になれる!」
新設なったギムレットホールのロイヤルシートは幸い好評だった。高級感ある革張りのシートにもたれながら、もの食い、酒飲みつつ、ゆったりとプロレス観戦ができる。
「ビンビールの栓をシュポンと栓抜きで抜くのがたまりませんな」
軽食コーナーでは国産、輸入物の瓶ビールを販売。興奮したファンが瓶を投げてしまうトラブルも心配したが、いまのところおとなしいファンが多いのか被害は出ていない。
「うわ、焼き鳥もおいしい。これは贅沢をした!」
喜ぶファン多数。なにしろ居酒屋歴10年余りのライラ神威が焼いているのだから。このロイヤルシートは評判となり、焼き鳥とビール、弁当、お土産つきのセット券(13,000円)を設定したところ、この席から売れ始めるという現象まで起こった。主催する団体側にとっても、客単価が高いので満員にならなくても採算が取れるようになったので概ね好評であった。
「美月さん、商売上手だよ!あー、楽できると思ったのに。」
ぼやきつつ焼き鳥に塩を振るライラ神威。
「まあ、年の功ですから。だてに30年この業界にいませんよ」
ギムレットオフィスの細腕繁盛記はまだまだ続く。
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