旗揚げ45周年を迎える横浜のお嬢様プロレス団体、SPZ
団体エースの白石なぎさ、キックの鬼、近藤真琴、哀愁ファイター:ジャスティスえちご、四色スープレックス:ジャンヌ永原、やられっぷりヒロイン:フローラ小川ら、いまも多くのスター選手を擁している。
そんななか、団体に衝撃が走った。ある日、総務部宛に文書が届いた。
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株式会社スーパースターズ・プロレスリング・ゼット 御中
勧告書
貴社所属のプロレスラー、西 花子(リングネーム・フローラ小川)のメディカルチェックを3月5日に行った結果、頚部及び腰椎への神経損傷が顕著に認められ、これ以上ファイトを続けることは、西 花子の生命にかかわる可能性が高いため、西 花子の所有するプロレスリングライセンスを可及的速やかに返納させることを勧告する。
2054年3月20日 医療法人 アポカリプス病院 医師 欲野 深三
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そのあと数日、会社はすったもんだがあったのだが、けっきょく
フローラ小川27歳が引退を表明。腰と首をやってしまってとうとうドクターストップがかかってしまった。これ以上現役を続けると生命にかかわるのでライセンスを返納すべしという「勧告書」が医者からでてしまった。こうなると団体サイドも何も言えない。
「しっかしまあ12年もよくやった方だよ」
吉田役員も彼女の頑張りには敬服した。
新人テストで杉浦美月を採用。岐阜県出身で柔道経験者と言うことでそこそこ素質もありそうなので採用。
新人スカウトで大谷優香採用。山口県出身でけっこうスポーツ万能タイプなので素質がありそうだと中森社長が判断した。
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46年目4月
2054年4月2日、ベイサイドホテルのバンケットルームで旗揚げ45周年記念パーティーが大々的に行われた。各ブースでは過去の名勝負が流され、テーブルの上には美味珍味が数々並べられた。
「これからも、SPZは本気・まごころ・手作り感を旗印に頑張っていきますので、応援宜しくお願いいたします!」
中森社長が力強く挨拶。
フローラ小川の表情はさっぱりとしていた。あとは最後のファイトを全国のファンにお見せするだけ。
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「フローラ小川引退シリーズ」開幕。
シリーズ初戦仙台大会、新人の優香デビュー戦。対戦相手は12歳年上の最古参選手フローラ小川。
「・・・っ」
リングに上がるのもしんどそうな感じのフローラ小川。しかしコールを受けるやいつものSPZジャンパーを脱ぐ。そしてゴング。まずはクリーンに握手。
優香、緊張の色も見せずランニングタックルを連発。ローリングソバットも見せた。
「こりゃあ、いいのが入ってきたね・・・」観客がざわめく
フローラ小川、動けば動くほど痛みが増す状況下、良くファイトしたのだが、
「うっ」
優香のタイミングよく入ったエルボーに崩れ落ち、そのまま上に乗られてカウント3を喫した。
「やったー!勝ったー!」
デビュー戦で勝利というのはなかなかできることではない。SPZの長い歴史の中でも南利美、草薙みこと、新咲祐希子くらいしかいない。SPZ46期生優香。コレは将来楽しみである。勝負タイム12分2秒。
相手がデビュー戦で白星を献上してしまったフローラ小川、「これが現実ですよ」と自嘲気味にコメント。
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その翌日札幌大会ではSPZ世界タッグ戦。王者フローラ小川、白石なぎさに挑むのは挑戦者近藤真琴、真壁なつき組。
―これが、最後のタッグ選手権・・・
フローラ小川、痛み止めをかなりの量飲んで、札幌のリングに向かった。ファンの中には涙ながらに声援を送る人もいた。
「無理するな、フローラ小川―!」
頑張れと言う人、無理するなと言う人さまざま。先発を買って出たフローラ小川だったが、近藤真琴の荒々しい攻撃にサンドバッグ状態。なんとか体当たり気味のタックルで反撃し、白石にタッチ。すぐさまリング下でうずくまる。セコンドの石川コーチが駆け寄る。
「大丈夫・・・なわけないですよね?」
「うん・・・あとは白石さんに頑張ってもらうしか・・・」
しかし近藤も白石は絶対に越えなければならない壁、シビアな打撃で追い詰めて、真壁も掌底で追い打ち。
―もう、持たない・・・
白石なぎさ、コーナーをチラ見。フローラ小川、覚悟を決めてエプロンに上がってタッチを受けた。リングイン。
相手チームも真壁から近藤にタッチ。これはキメにきたか。
―小川さん、トドメだ!
近藤、蹴りまくったあげく、デスバレーボム。
ワン、トゥ・・・ドドドドド!
フローラ小川、ギリギリ、2.9で返す。
「いやー」「近藤人でなし」「もうやめろー」
いろんな意味でハイテンションマックス。そして近藤、大きく息を吐いて、真壁に白石を場外に引き込むよう指示した後、ふらふらとF小川が立ち上がってくるのを待って、
がすっ!
上段蹴り炸裂。フローラ小川崩れ落ちる。もちろん試合はこれで終わった。
「やった・・・」
場外で白石に抱きつきながら試合終了のゴングを聞いた真壁、SPZタッグベルト初戴冠。勝負タイム23分0秒。しかしフローラ小川への声援がすごい。
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SPZ世界タッグ選手権(60分1本勝負)
近藤真琴○、真壁なつき(23分0秒、上段蹴りからの片エビ固め)白石なぎさ、フローラ小川×
第114代王者が3度目の防衛に失敗。近藤組が115代王者となる。
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「・・・・・・・・・・・・・・・・」
近藤の上段蹴りの衝撃で試合後も起き上がれなかったフローラ小川、本部席に控えていた白衣姿の沢木リングドクターも容態を確認しにリングへ。
「・・・・・うううっ」
フローラ小川、3分ほど横たわっていたが、自らの掌を握ったり開いたりして、ちゃんと神経系が思い通りに動くことを確認して、しんどそうに起き上がって一礼。ものすごい拍手が飛んだ。
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(連載1,000回まで M2)
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