本日はクリスマスイブ。
イブは原稿をひねり出すより酒でも飲んだほうが楽しいので
リメイク?でお茶を濁すことにします。
SPZが8年目、12月24日に行われた選手会興行のメインイベント、
ある意味吉田龍子のベストバウト。
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2016年、12月24日横浜体育館で年末恒例の選手会主催興行が行われる。さすがに3回目なので小川選手会長はネタ出しに悩んだ。
「困りました・・・なにか選手会興行のネタはないでしょうか、明るく楽しいプロレス・・・うーん」
小川ひかるは過去数年分の週刊ハッスルのバックナンバー。パラパラとめくってみたがいい事例がない。
「あった・・・これ面白そう」
12月中旬、開場前の本部席で選手会興行のブックを読んだ社長が爆笑。
「ワハハハハハハ・・・ってこれ、オレもリングに上がって闘うの?」
「はい、そうなります」
「痛いのやだ」
「いや、そこは吉田さんにも言って聞かせますのでソフトにやります、社長はチョップ一発で倒されて踏みつけフォールされるだけでいいですから」
「・・・・・・」
「6人目と7人目に素人を出すのがポイントですから。そして8人目に秋山さんを出すのがポイントですから」
「・・・・了解したよ。小川さんの頼みは断れん。で、俺らのギャラは出るんだよね。選手会の興行だから」
「1万円で」
「・・・・ふっ、移動中のバスで読む本代にはなるか」
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そして本番、クリスマスイブの選手会主催興行。ロビーにはクリスマスツリーが飾られ、めでたさいっぱいのなかでの選手会興行となった。そのメインイベントで行われたのが・・・
メインイベント SPZ王者吉田龍子10人がかり
本部席で京スポ新聞、若林記者がナレーション。
「数々の強豪選手を撃破し、SPZ世界王者に輝いた吉田龍子、今夜また伝説に挑む。空手や柔道で10人組み手というのがあるが、プロレスでいっぺんに10連勝はできるのか、あまりにも無謀ともいえたが本人は「ほっといてくれ、自分をもっと高めたいんだ」などといっております。さてこの世紀の、いや世紀末の一戦、どうなるんでしょうか」
「赤い破片」が響いて、コスチューム姿の吉田龍子が入場。そして反対側コーナーからサングラスをかけた渡辺智美が入場。そしてマイク。
「アーハハハハハハ。吉田龍子。同期のお前がチャンピオンになって、悔しいからお前を再起不能にしてやる。生きて年を越せると思うなよ、ウェーッハハハァ」
渡辺の棒読み口調のセリフに館内ドン引き。そのあとスタッフがリング上に担架を運んできた。
「見ろ、これは担架だ、おまえをここに沈めてやる、ウァハハハハ」
吉田は無言。
「いまからあたしが買収した9人の刺客とたたかってもらうわ。何人倒せるかしら、ウァーッハハハハ」
いくらお強い吉田龍子といっても9人の刺客プラス渡辺を含めた10人を倒すのは厳しいだろう、だが吉田龍子ならひょっとしたらやるかもしれない。なにしろ永沢草薙伊達を連破した8月の戦いは記憶に新しい。館内はざわついた。
そして場内に響く「恋はピンポン」、トップバッターのマイトス香澄入場。
「行け、マイトス!先輩命令よ。あの小生意気なチャンピオンをギッタンギッタンにしてやりなさい」
「ひ、ひええ・・・」
そしてゴング、ある意味SPZ選手権より過酷な戦いが幕を開けた。
「とりゃー!」
マイトスは果敢にチョップを打っていくが、吉田はウンともスンとも言わない。
「悪いけど、後がつかえてるんで」
吉田龍子ラリアット。これでマイトスは吹っ飛んだ。すかさずフォール。阪口レフェリーがマットを3つ叩いた。
1:吉田(2分20秒、ラリアットからの体固め)M香澄
「なかなかやるわね。じゃ2人目、いっくよー」
場内に響き渡る「オリエンタルクラッシュ」吉田の顔が一瞬凍りつく。まさか草薙みことかと思わせたが出てきたのは新人のスイレン草薙だった。
「行け!シュイレン、先輩命令よ、あの思い上がり者を草薙流奥義で殺害してやるのだあ」
「全力で行きます」
普段の興行ではまずシングル対戦であたることのないスイレンが5分ほどアームホイップやフロントスープレックスで奮闘したが、それまでで、最後は吉田のパイルドライバーにカウント3を喫した。
2:吉田(7分57秒、パイルドライバーからの片エビ固め)S草薙
「まだまだ、これはほんの小手調べよ、いでよ!秘密兵器その1!」
吉田の顔が険しいものに変わる。
メキシコ音楽が流れだす。まさか、AACの選手はとっくに帰国したはずだ。
「エル・オガワ・メンドーサ!」
銀色の覆面を被ったレスラーが花道に姿を現した。やたら露出の多いコスチュームと線の細さで正体はバレバレである。
「お、小川さん・・・」
「行け!メンドーサ!あの生意気女を再起不能にしてやるのだ」
小川ひかる、いやエル・オガワ・メンドーサが普段は見せないナックルパートで吉田を殴りつけていく。吉田もチョップで応戦してこれに付き合う。
5分ほどそんな攻防をやった後、メンドーサがバックドロップで勝負をかけるが、カウント2で返して、
パッシーン。
ラリアットで反撃。
―大先輩だし、まだ派手な技は使えないよね。
ここで、意表をつくスモールパッケージホールド。虚を突かれたメンドーサはあっさりと3カウントを聞いた。
3:吉田(13分7秒、首固め)E・O・メンドーサ
「な、なんてことなの、め、メンドーサがやられるなんて。まあいいわ。4番バッターはすごいのいくわよ」
館内に一時大ブレイクしたアニメのテーマ曲が流れ、全身タイツに特殊メイクを施した怪人が現れた。こんなコスプレができるのは富沢レイしかいない。館内は沸いた。
「第13使途、カムエクエル!」
「フシュルルルル、ウガァー」
カムエクエルは物凄いハンマーブローで吉田を追い込む。そして掌底、調子に乗って噛み付き攻撃を狙ったところで吉田が切れた。
組み付いてプラズマサンダーボム一撃。使徒は完全に沈黙した。
4:吉田(17分2秒、プラズマサンダーボム)カムエクエル
「ハァハァ、はい、次は誰?」
「こ、このくらい想定の範囲内よ。5人目はすごいんだから、元KJW王者、井上霧子!」
場内ええええ!の声。
井上霧子がいつものようにスーツ姿でリングイン。
「い、井上さん・・・どうして」
「悪く思わないでね。きょうはファン感謝デーみたいなんで何やってもいいみたいだから」
ハンデのつもりなのか、なんと井上秘書の右拳にはメリケンサックが装着されている。あんなので殴られたら吉田といえどもただではすまない。
井上のパンチをうまくかわす吉田。
「ふっ!」
井上の右フックを身をかがめてかわし、そのまま組み付いてサイドスープレックスで投げる。
バァンッ!
「やってくれるわね・・青春の血がたぎってきたわ」
井上がスリーパーで吉田を攻める。懸命にロープに逃げる吉田。
そして立ち上がった吉田にー
「ヤクザキック!」
叫んで井上が往年の必殺技、ヤクザキックを撃ち込んだ。現役時代を知るファンは狂喜。そのままフォール。
ワン、トゥ・・・ドドドドドド。
カウント2.5で返した吉田、今度は組み付いてブレーンバスター。すかさずフォール。久々の実戦でカンの鈍っている井上はフォールを返せなかった。
5:吉田(23分11秒、ブレーンバスターからの体固め)井上霧子
「ど、どうやら私も悪魔の力を借りるときがきたようね、いでよ、秘密兵器、SPZの社長!」
「デンジャーゾーン」がかかり、花道から黒スーツ、黒サングラス姿の今野社長が現れていた。右手には日本刀が握られている。
―まじかよ。
「これも渡世の義理、死んでもらいやす、おりゃぁぁぁ」
社長が日本刀をぶんぶん振り回す。かわした吉田がスライディングキック一閃。これで転倒した社長に逆片エビ固め。
「うぎゃああああああ」
たちまち社長はギブアップ。場内、素人の登場に呆れて声も出ず。
6:吉田(25分2秒、逆片エビ固め)今野社長
「あと4人!」
「くっ!なんてことなの!だがまだまだこちらにはサプライズがあるんだから!いでよ!秘密兵器。」
リングサイド本部席からいきなり京スポ新聞の若林記者が背広姿のままリングインし、吉田に不意打ちのスライディングキック。転倒した吉田に新聞紙をかぶせてその上からストンピング攻撃。渡辺の人脈恐るべし。マスコミ記者さんまで味方に引き入れ吉田抹殺の一味に引き入れる。
どうにか起き上がった吉田の背後に組み付いて、なんとバックドロップ。この記者、プロレス記者歴15年なのであらゆるプロレス技を一応知っている。
ダウンする吉田。さすがに体固めのフォールはやりかねたのか、若林記者、踏みつけフォール。しかしカウント2で返した吉田。
―遊びじゃないんだよ、若林さん!
DDT一閃。そのあと踏みつけフォール。悶絶した若林記者はカウント3を聞いた。この攻防は当事者同士で昨日話し合って決めたらしい。
7:吉田(29分0秒、DDTからの体固め)若林記者
「あと3人!」吼える吉田龍子。
そしてかかったテーマ曲は秋山のテーマ「DETECT」吉田の表情が険しいものに変わる。
「ウワハハハハ、素人2人を相手にして油断しているところへ強力レスラーをぶつける、これは対応できないだろう、さあこんどこそ貴様の最期だ」
「ごめんねー、吉田さん。面白そうだから、智美ちゃんの誘いに乗っちゃった」
ここからは普通のシングルマッチが展開。秋山もコブラツイストなどで攻めるが、吉田もラリアット、DDTで反撃して、最後は必殺スプラッシュマウンテン、秋山をも退けた。
8:吉田(42分2秒、スプラッシュマウンテンからの体固め)秋山
「ゼェ、ゼェ、ゼェ」
さすがに8人、そのなかには小川富沢秋山といったそこそこの相手も混ざっているので吉田の息は上がっていた。
「ふふふふ、ボロボロね吉田さん。9人目の相手はあたしよ。覚悟してね」
それまでリングサイドで悪役を演じていた渡辺がグラサンを外してリングイン。
「なめるな!」
吉田が懸命に殴りかかる。渡辺もアキレス腱固めで応戦。その後、渡辺が上から組み付いてパワーボムを狙う。
「バカにするなぁ!」
いくらなんでもパワーの差がありすぎる。リバースで返してそのまま上から押さえ込む。渡辺は返そうとせず、あっさり3カウントを聞いた。
9.吉田(47分3秒、リバーススープレックスからの体固め)渡辺智美
敗れた渡辺だが、吉田にしがみついたまま離さない。
「な、何だよ、離せよ」
「せ、先生―、先生、お願いします」
リング下に潜んでいた白衣を着た羽山リングドクターがすばやくリングイン。ポケットから怪しいハンカチを取り出して吉田の口元にあてた。
「は、はうううん・・・」
気が遠くなった吉田。羽山リングドクター、すかさず内ポケットから注射器を取り出して
ブスーッ。
これで吉田の意識は闇に落ちた。
「巨象をも眠らせる麻酔よ、正月まで眠っていなさい!」勝ち誇る渡辺。
羽山リングドクターが吉田の上に覆いかぶさってフォール。吉田は無反応のままカウント3を奪われた。
10:羽山海(47分33秒、注射からの体固め)吉田龍子
館内むちゃくちゃな結末に唖然。
「ウハハハ、ついに吉田龍子を仕留めたぞ、みんな上がって来~い!」
吉田にやられた8人―秋山美姫若林記者今野社長井上霧子カムエクエル、E・O・メンドーサ、スイレン草薙マイトス香澄―がリングに上がる。
「えい、えい、おー!!」
そして羽山リングドクターと渡辺智美を加えた悪の10人組で手上げ。場内呆れて声も出ず。
保科、上原の運ぶ担架に乗せられて運ばれる吉田龍子。けっきょく吉田龍子の無謀な10人抜き挑戦はあと一歩で達成できなかった。締めのナレーションは沢崎光。
「10人抜きという日本プロレス史に残る伝説を打ちたてようとした吉田龍子だったが、最後に力尽きてしまった。だが、彼女の無謀とも思える挑戦は、我々の心に深い感動を与えた。頑張れ吉田龍子、われらがSPZチャンピオン」
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試合後の控室
吉田龍子は注射の効果により、コスチューム姿のまま気絶していた。どうやらあと数時間は目を覚ましそうにない。
「ブックでは・・・・チョップで倒されて踏みつけフォールって話じゃなかったっけ」
吉田龍子に逆片エビで悶絶させられた社長が小川選手会長に抗議。
「いや・・・その・・・あれは吉田さんのアドリブで・・・・」
「・・・・・・・もう選手会興行のリングには上がらんぞ。本部席で見物している方が楽しい」
「はい。以後気をつけます。では社長のギャラ、危険手当込みで・・・」
封筒の中には1万5千円が入っていた。
「こういうところまで真似しなくていいのに・・・・」
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こうしてクリスマス選手会興行は終わった。
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