第1,048回 決戦の前
12月31日、SPZ御用納めの日、役員会議室での交渉は長引いていた。
SPZは3ヶ月ごとに、選手のリング状での活躍度合いで勤務評定され、その評価を元に次の3ヶ月のワンマッチあたりの出場給が給与辞令で渡される。
「ベルト取ったのに・・・・ワンマッチ15万ですか」
提示された給与辞令を見てサンダー龍子は慄然とした。所属選手の人件費をあまりかけない形で発展してきた会社だということは知っていたが、トップの座を勝ち取っても、さほど評価は変わらなかった。ワンマッチ15万となると、年間96試合フル出場しても基本給の120万とあわせて年収1600万足らずである。
「あのね、浅野さん。SPZは興行会社だから、ベルトを取ったとしても、かけられる人件費には予算ってものがあるのよ」
「だって興行売上100億はあるでしょう。いまのSPZの顔は私ですよ!」
「だから、会場押さえたりとか、裏方さんの人件費とか、外人選手の招聘にかかる費用とか、いろいろあるわけよ」
「株主さんが利益持っていくからダメってことですか」
「・・・・・・・・・・!!」
中森社長と人事担当役員が顔を見合わせる。支援者から知恵をつけてもらったのか・・・・
役員会議室での交渉は長時間に及び、1月シリーズ欠場もちらつかせたサンダー龍子だったが「もうポスターも刷り上っているし前売りチケットもほとんど完売している。」と諭され、けっきょく出場給は変わらないけど、グッズ売上の選手の取り分を特別にサンダー龍子だけ37%に上げることで決着した。
「・・・たく、あのゼニゲバ会社は」
憮然とした表情で本社ビルの廊下を歩くサンダー龍子。サンダー龍子は人気面では白石や近藤の後塵を拝しているので、グッズ売上のフィーを入れても年収2000万に届くかどうかといったところ。
要するにエスピーソリューションから発行済み株式の過半数を引き継いだ、外資系ファンドのラグナインベストメントが利益をごそっと持って行くため、選手の人件費が上がらないのだ。
そのとき、サンダー龍子の携帯が鳴った。
「あ、もしもし、・・・ああ、鈴木さん。いま本社出るところです。わかりました、じゃあ7時に」
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その夜、横浜の「ベイサイドホテル」内にあるダイニングバー「白馬」で・・・
「いやー、お疲れさん、ええ。」
愛人関係にある支援者、鈴木氏(株式会社デンドログラム専務執行役員)と二人で忘年会をしていた。
「いやー小売業もタイヘンだよ。ええ。不況だから、削れるコストを削らないと。ええ。SPZさんは利益出しまくってるからいいねえ。ええ。」
「そのぶん人件費を抑えてるんですよ」
「しかしその株持ってるファンドはけしからんねぇ、ええ。ラグナはがめついことで有名だからねえ、ええ。」
「そうなんですか」
「ええ、僕はデンドロの財務見てるけど、ファンドに出資してもらうのには気を使ってるよ。ええ。会社経営は生き物なのに、利益は常時出せって言ってくるからファンドは、ええ。ところで・・・勝子ちゃんはお正月どうするの、熊本帰るの?」
「いえ・・・4日に試合あるんで・・・横浜にいます」
「今夜泊まっていきなよ、ええ。あしたおせち食おう。ベイサイドのおせちはなかなか食べられないからね、ええ。」
「・・・ん・・・はい、分かりました」
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大晦日の深夜、ベイサイドホテルの893号室。
「ああ、はあ、乱暴なのはっ・・・」
前回の感触が忘れられなかったのか、乱雑な手つきで鈴木氏はサンダー龍子の服を脱がして、押し倒した。肌と肌を密着させながら、サンダー龍子の裸身の感触を楽しむ。
「一度知ったら・・・・忘れられなくなる身体だ・・・ええ。」
ベッドに横たわっているのは19歳の世界王者。鍛え上げられている身体てあって、なお美しい。鈴木氏は熱に浮かされたような感じで荒々しくサンダー龍子の扇情的な乳房をわしづかみにして、彼女の性感が高まる頃合いを待った。
「あああ、はぁああ・・・っ」
「じゃあ、いくぞ・・・・ええ。」
鈴木氏は、サンダー龍子の身体に溺れた。サンダー龍子は幾度も押し寄せる大きな波に抗しきれず、普段の彼女では考えられぬ甘い声を上げ、ついには深い落下感に身を委ねるに至った。
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