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2011年2月18日 (金)

相撲界・分裂す(下)

そして3月13日、旗揚げ戦の日を迎えた。

会場の後楽園ホール、小さい箱だが、全てイス席なので1人客でも前のほうで観戦できるし、南側がひな壇になっており見やすい構造である。
午後5時30分、開場。待ちかねたように多くのファンが会場に入る。NSAサイドが会社登記とか雑務とかで忙殺されまくっていたらしく、ポスターやパンフレット類もない殺風景な会場ロビーとなった。席の配置はプロレス興行のときとほぼ同じだが、中央に置かれているのはリングではなく土俵。地方巡業も考えて、組み立て式の土俵で表面は特殊な材質のプラスチックで土に近い質感を出し、うっすらと砂をひいた。

午後6時30分。
ドンドコドンドコドンドコドンドコ

太鼓の音が鳴り、3人の力士が土俵へ。
「出雲川だ!」

若手のホープで敢闘賞を受賞したこともある幕内力士、出雲川が相撲協会を辞め、NSAに電撃入団した。

着物姿の3人が土俵上に上がり一礼。

「本日は、ニュースモウアソシエーションの旗揚げ戦にお越しいただきましてまことにありがとうございます。この通り、まだ少ない人員ですが、努力と良い相撲を重ねて、大きくなってゆきたいと思いますので、ご声援のほどよろしくお願いいたします」

身延王が決然とした表情であいさつ文を読み上げた。

そのあと土俵アナウンサーが上がり、

「それでは本日の試合を読み上げます。本日は全8試合を予定しております、第1試合、四辻 対 鹿島槍・・・」

前半は無名の力士・・・おそらく相撲協会で芽が出なかった三段目以下の若い衆に声をかけたのだろう・・・・が読み上げられるが、第7試合セミファイナルで一変した

「北三河 対 出雲川」

幕内経験のある2人がセミを務める。
「第8試合、結びの一番は、身延王 対 X」

エックスって誰・・・・・どよめく会場。

そのあと第1試合。試合数が少ないとあっという間に興行が終わってしまうので、苦肉の策としてプロレスのように音楽を流してひとりずつ入場させて場をつなぐ方法が取られた。若い衆同士の対戦だが、仕切りの時間は長く取り場を持たせる。

「ハッキヨイ、ノコッタノコッタ」

行事はアマ相撲で審判経験のあるおじさんを雇って対応したようだ。いちおうそれらしき衣装を着せてはいるがどこか声に深みがない。

第4試合まで粛々と進み、いったん休憩。このあたりまでで一時間弱かかっている。15分ほどの休憩をはさんだあと、後半の4試合にはいる。

セミ前の第6試合には学生相撲上がりと思わる体格の良い、飛竜山というニューフェイスが出てきたので場内はどよめいた。この少ない立ち上げ期間で、新人スカウトも怠らなかったらしい。対戦相手の元序二段、南小谷をもろ手突きで吹き飛ばした。

そして第7試合

・・・10ヶ月ぶりの土俵だ・・・

大関・北三河が土俵に上がった。相撲協会の頃と変わらぬ濃い青の締め込み姿。ブランク中もトレーニングを積んでいたらしく体型はあまり変わっていない。感触を確かめるように仕切りを繰り返し、気合いを高めてゆく。
そして時間いっぱい、会場の雰囲気は盛り上がってきた。

「手を突いてエ」
北三河、思い切り頭から当たった。そのまま突いて土俵際まで出雲川を押し込むが、久々の実戦で相撲カンが鈍っていたのか、土俵際の突き落としに足がついていかず、バッタリと崩れ落ちてしまった。

「出雲川~」
勝ち名乗りを受ける出雲川、NSAでの初戦を飾った。

そしていよいよ結びの一番。演歌の出囃子が流れる中、西側の花道からゆっくりと大関・身延王が歩いて土俵へ。青い締め込みはいままで使っていたボロボロのやつではなく、新団体旗揚げにあたり新調したようだ。

対戦相手Xは誰か、ここで場内が暗転。そして響くマイク。

「おう、オッサン」
「・・・・・お前は!」

「そうだよ、千代駿河だよ。去年の正月、オッサンに送り投げで叩きつけられた屈辱はまだよーく覚えてるぜ、親方業やってるうちに病院に通って、身体はもう治った。引退できないオッサン大関さん、こんどはオレの手で引導を渡してやる!」

等と言って東側の花道から千代駿河が姿を現した。黒い締め込み、そしてなぜか黒いグラサンをかけている。観客をあおりながら土俵に上がる直前にグラサンを外して、1年ぶりに土俵に上がった。

「チヨス--------」

思いも寄らぬサプライズに場内騒然。これまで幕内で50回以上も対戦した両雄がNSAの土俵であいまみえる。

「さすがにマゲは結えてねえけど、気合いなら負けねえよ」

蘇ったオールバック姿の千代駿河。親方業の傍ら少しはトレーニングを積んでいたのだろう。そんなに身体はしぼんでいない。土俵中央で身延王と相対。
仕切りを重ねる両雄。後楽園ホールは爆発した。

「ミノブオー!!」「チヨスルガー!」
もう見られないかと思った名物大関同士の五十何回目かの対決。轟きわたる歓声の中、制限時間いっぱいとなった。

「手を突いてエ」
行司さんがあわせる。両者が呼吸を合わせ、ふつかりあった。

「ハーッキョイ、ノコッタノコッタ」

ペチペチペチペチペチペチペチ
千代駿河の代名詞、速射砲のような突っ張りが身延王にヒットする。
しかし身延王も下からあてがいながら応戦する。

(ヤツの突っ張りにかつての重さはないはず・・・)
引退間際の千代駿河には、もうかつての突っ張りの重さがなく、簡単に防御することができた。

ペチペチペチペチペチ、ペチペチペチペチペチ、ペチペチペチペチ!

なおも突っ張る千代駿河、しかし身延王一歩も引かず、既に動きは見切ったとばかりにツッパリを受けながら前に出始めた。
「くっ・・・・」
ツッパリを放っているのに千代駿河がズルズルと後退している。晩年に良く見られた「ムーンツッパリ」と呼ばれる現象だ。

ジリジリと土俵際に近づいてゆく千代駿河、このまま出されてしまうのか、
「クッ・・・これなら!」

千代駿河、土俵際で思い切り右に飛んでそして身延王の左肩をはたいた。
「うわっ・・・・」

大きく泳いでしまう身延王。そう、千代駿河のもうひとつの奥義、突っ張りが効かなきゃはたけばいいじゃないという秘技、「CSP」である。並みの力士ならこれで土俵に這っているが、さすが身延王は泳ぎながらもバランスを保った。
「ウァーーーーッ」

体勢を崩した身延王に千代駿河は再度突っ張りの嵐。身延王は思うように防御できない。
ペチペチペチペチペチペチペチペチペチ
これで形勢は逆転。あっという間に土俵際に詰まる身延王

―これでとどめだ。
ペチペチペチペチペチペチペチペチ
魂のこもったツッパリを受けてとうとう身延王はこらえきれず土俵を割った。土俵を割って苦しげに天を仰ぐ。

「ただいまの決まり手は、突き出し、突き出しで、千代駿河の勝ち」
「千代駿河―――」

勝ち名乗りを受ける千代駿河。淡々とした表情で一礼し、花道を下がる身延王、後楽園ホールはものすごい拍手に包まれた。

こうして旗揚げ戦の全取組は終わった。観客たちは満足した表情で家路についた。

「ここまでいい相撲見せられちゃあ、八百長かどうかなんてどうでもいいことだよね」
「あの2人にしかできない空間だよ」

試合後、千代駿河は控室で叫んだ

「気持ちいい、チョー気持ちいい。身体中の血がたぎるようだ。オレの攻めをオッサンは真っ向から受けてくれた。まだ俺はやれると今日確信した。オッサンとみっちゃんの3人で、理想の相撲道というものをもう一度探してゆきたい」

敗れた身延王は淡々と

「きょうは千代駿河の執念に負けた。それだけだ。個人としては悔しいが、まあ、しゃあない。NSAの今後を考えんと。とりあえず4月は関東地区で全8戦のシリーズを予定しています。これからも頑張っていきますのでご支援のほどよろしくお願いいたします」

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