2011年8月下旬
チャリティー興行第0試合、6人タッグマッチ20分1本勝負
秋山美姫、伊達遥、草薙みことVS南利美、ミミ吉原、小川ひかる。
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―10分経過、10分経過
ここで本部席の社長が10分経過のアナウンス。ここで動き出す手はずになっている。
「このっ」
すばやく起き上がった秋山がミミ吉原に組み付く。その流れで南利美と伊達もリングインし、それぞれ殴る蹴るベースの乱闘をおっぱじめ、そのままそれぞれもんどりうって場外に転落してしまう。
いかにもタッグマッチ終盤でありがちな展開。目の肥えたプロレスファンはこの先の流れが読めてしまった。
リング上には草薙みことと小川ひかるしか残っていない。小川ひかるはダメージが深いが、草薙はほとんどダメージを受けていない。
組み付いた草薙が巻き投げて小川を転ばせてから、
「勝たせていただきます」
小川を捕らえて、変形の裏投げで小川を後頭部からマットに落とした。
バァンッ
ええええ!!
「あ、危ない」
目の肥えたプロレスファンは驚愕。のちに「草薙流兜落とし」としてSPZマットを震撼させる技。まだスパーリングで何回か試しただけだったのをここで持ってきた。
すかさず片エビ固めで押さえ込む草薙、
「小川さん!!」
あわてて南がリングに戻ろうとするが、伊達にしっかりと後ろから抱きつかれリングに戻れない。ミミ吉原に至っては秋山に場外でコブラツイストに捉えられている。
ワン、トゥ、スリー。
小川ひかるはフォールを返せなかった。
「10分40秒、変形裏投げからの片エビ固めで、秋山美姫伊達遥草薙みこと組の勝ち」
試合結果をアナウンスして、秋山のテーマ曲を起動してから社長もリングへ。
敗北した小川ひかるが倒れたまま起き上がれない。わざとやっているのか、本当にやばい状況なのか、確認のために。
倒れている小川ひかるに視線を合わせる。
―受けたのか?
―受けました。心配要りませんよ。
井上レフェリーと秋山伊達草薙の3人が赤コーナー側で勝ち名乗り。そのあと3人はリング上で一礼し、花道を悠然と引き揚げた。ゲートでもう一度、3人揃ってお辞儀。
「うう・・・・」
まだ起き上がれない小川ひかる。南利美とミミ吉原がお辞儀し、リング下へ降り、そのまま小川を転がして丁寧にリング下に下ろし、セコンドの保科優希に指示。
「はい、運びます。」
保科優希がダメージの深い小川をおんぶして、西側通路から引き揚げた。後を歩くミミ吉原と南。
社長は本部席にとって返して、ノートパソコンとゴング、木槌をジュラルミンケースに仕舞い、
―近い将来、こんどは自社でここに来よう。
そう思ってリングサイドを後にした。もう第1試合の10人タッグマッチの入場が始まっている。
「本日はどうもありがとうございました」
主催者サイドへのあいさつを済ませ、社長は武闘館を出て駐車場ヘ向かった。
座席に沈んだまま荒い息をつく小川ひかる。あとの5人は着替えを済ませていた。
「お、小川さん、大丈夫かー」
「・・・・大丈夫です。少し横になれば感覚が戻ります」
「・・・済みません」
草薙みことが小川に謝っている。やはりまだ兜落としの威力を完全にはコントロールできていないようだ。
「まあ予定通りだったな。」
「技ほとんど出さなかったけど、あれでよかったのかしら」
「いや、あれで多くのお客さんに知ってもらえたからそれでいいと思うわ。普段のリミちゃんがどんなファイトするんだろうって思って次はうちのチケット買ってくれるかもしれない」
ようやく小川ひかるの息も落ち着いてきたので、
「じゃあ戸塚へ帰りますか」
小川ひかるの着替えを待ってから、ワンボックスカー2台に分乗したSPZ一行。
「小川さん、ありがとう。やられ役押し付けて悪かった。」
「いえ、そんな・・・」
地方興行ではよくある終わり方だったが、1万6千人の前で派手にやられるのは初めて。
「次は自前でここでやりたいね。」
「はい」
ワンボックスカーは夕闇の中を横浜へ向かった。
SPZが武闘館に初進出するのはそれから3年後のことである。
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