53年目2月
シリーズ初戦、メインイベントで行われた優香VSサンダー龍子戦の試合後に杉浦美月が鉄パイプでサンダー龍子を殴打し、病院送りにしてしまった。「神戸大会テロ事件」として後々まで語り継がれることになった。
サンダー龍子のカムバックを事前に会社側が当時残った2人に説明せず、コンセンサスをとらずにリングに上げてしまったことで、大量離脱で会社を懸命に支えてきた杉浦と優香は激怒した。そして2月シリーズの初戦で温厚な杉浦美月がキレてテロ行為に走ってしまった・・・・
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あってはならないテロリスト劇、SPZは杉浦美月に即刻帰京を命じた上、「制裁金100万円と2ヶ月出場停止」の処分が科された。
「あのなあ杉浦さん。申し訳ない言い方だけど、過去のいきさつとか出戻りとかそんなのは関係ないんだ。選手がいま時点でどれだけ会社の利益に貢献してくれるかどうかが重要なんだよ。サンダー龍子を参戦させることで儲かる。会社はそう判断した。それだけだ。」
総務部長が説諭する。
「・・・・100万円くらい払いますよ。あれだけは絶対に許さない」
翌日、SPZ総務部で処分をいいわたされた杉浦美月、すぐさま近くの「ブルーライト銀行」と「しぐま銀行」のATM2軒で100万円を引き出すや、1万円札の束をSPZ経理部社員にたたきつけた。
「・・・・・・・」
取材した記者陣が近寄れないほどの緊迫した雰囲気。
サンダー龍子は頭部挫傷で2週間の安静を医師から言い渡され、そのまま帰京し、アポカリプス病院に入院する破目になった。残りのシリーズは全戦欠場が発表された。最終戦では美冬とのSPZ戦が組まれていたが、扱いは保留となった。
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サンダー龍子に敗れた優香も心理的ショックが深く、シリーズ第3戦でエアリアル菊澤、第4戦で小嶋聡美に連敗を喫した。
「杉浦さんの気持ちは私も痛いほど分かります。やったことは決して許されることではありませんが」
不穏な空気を抱えたままシリーズは続く、エースのジーニアス武藤は連勝を続ける。SPZ王者の美冬も負けじと白星を重ねる。しかし第5戦の福井大会でエアリアル菊澤にまさかの敗北、シャイニングウィザードでくらっと来たところにDDTで頭をやられてまさかのフォール負け。福井市総合文化体育館が爆発した。勝負タイム28分20秒。
「イタタタ、・・・でもチャンピオンに勝てて嬉しいです」
エアリアル菊澤もついにトップグループに割って入ってきた。
美冬はこの一戦で消耗したのか、翌日は格下のロシア人レスラー、セリョトカにまさかの敗北。
第7戦高岡大会ではメインが美冬VSジーニアス武藤のエース対決。一進一退の攻防が続いたが、美冬の裏投げ、膝蹴りをしのぎきったG武藤がノーザンライトスープレックスで美冬を倒した。勝負タイム44分33秒の激戦を制したのはジーニアス武藤。高岡のプロレスファンはハイレベルな攻防に酔いしれた。
「勝てなかった・・・」
美冬3連敗。タイトル戦に向けて暗雲が。
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そして最終戦は横スペ大会。
「本日のカードを申し上げます」
奥森リングアナが第1試合前、カードの読み上げ。
「メインイベント、SPZ世界選手権、60分1本勝負、チャレンジャー、サンダー龍子対チャンピオン、美冬」
ドワアアアアアアア
負傷でアポカリプス病院に入院していたはずのサンダー龍子が強行参戦。ここでオーロラビジョンにサンダー龍子の映像が
「怪我は治った。SPZベルトをいただく。ところであのアホは隔離してあるんだろうな」
杉浦美冬は再度のテロを恐れたSPZスタッフの手により、「上諏訪温泉・ニュー川端屋」の一室に軟禁されるに至った。
「・・・・・・っ」
温泉旅館に隔離されたどてら姿の杉浦に場内爆笑。
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セミ前からの3試合。
まずセミ前はエアリアル菊澤VS小嶋聡美。今シリーズは優香、美冬に勝つなど好調なエアリアル菊澤だが、馬力にものを言わせるタイプの小嶋は苦手としている。
―とにかくつかまらないように
アウトレインジ戦法でドロップキックを連打する菊澤。
「おりゃああ」
捕まえてしまえばこっちのものと、パイルドライバーを連発する小嶋、これで頭を打った菊澤、これまでならそのままズルズル行ってしまうところだが、
「あたしが、勝つんだから!」
シャイニングウィザード、延髄斬りで小嶋にも勝利。23分20秒の熱戦を制した。これで今シリーズはG武藤とセリョトカに負けただけの6勝2敗で終えた。いっぽうの小嶋聡美は4勝4敗。
セミはジーニアス武藤VS優香。ムーンサルトを連発したG武藤が優香を振り切り3カウントを奪取。これで先月に続き8戦全勝でシリーズを終えた。勝負タイム18分35秒。
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そしてメインイベント。「Too Many Broken Hearts」がかかり、サンダー龍子が久々にタイトル戦のリングへ。そのあと美冬がリングへ、腰には団体の至宝SPZ世界王者のベルトが巻かれている。
サンダー龍子の額と右肩にはテーピングが巻かれていた。今朝までアポカリプス病院にいたが、医師の制止を振り切って強行参戦。
「美冬?知らない名前だなあ」
午後8時22分、運命のゴング。
「はっ」
初手はサンダー龍子がエルボー、怯んだところをボディスラム、そして重爆ドロップキック。
―なんという重さだ・・・・
美冬の表情が曇る。単純なドロップキックでも威力が違う。
「おらあああああ」
サンダー龍子、DDT、バックドロップの猛攻。負傷しているので早い仕掛けか。
「つぶれろ」
2発目のバックドロップが美冬の頭をマットに突き刺す。
ワン、トゥ、スリー
12分16秒、美冬がさして存在感を残せぬまま完敗を喫した・・・・
やはり修羅場をかいくぐってきた経験の差が出たようだ。
ベルト移動。サンダー龍子が5年ぶりにSPZベルトを巻いてしまった。
「ええおい!帰ってきたぞ!SPZ!」
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