最終戦はさいたまドーム大会。
「杉浦美月最終試合」
の看板が掲げられた。
会場入り口前では例によって引退選手恒例のグッズ半額叩き売りセール。団体に選手がいなかったころに多くのグッズが作られたので、固定ファンも多い。営業社員はレジ打ちに追われた。
「杉浦さん、人気はあったんだね」
「あの時、残ったからね。」
「対カオスとか、外人戦は見ててひどかったけど」
「あとはあの時のテロ事件。杉浦さんの気持ちは痛いほどわかる」
ファンが思い出話に花を咲かせる。
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午後6時30分、いつも通り淡々と試合が始まった。
第1試合は村上千秋VSガイア尾白川。きっぷのいいファイトを貫いた村上、そのまま押し切りフロントスープレックスで3カウント。勝負タイム6分34秒。
第2試合はジュリア渡辺が三下外人をサソリ固めできってとって勝利。
外人同士のシングル戦をはさんで第4試合は、中堅同士の対決、今治みさえ対hibari。技術なら今治、馬力ならhibariの対決、こんかいも今治がドラゴンスリーパーでhibariを退けた。勝負タイム9分40秒。その試合が終わると休憩。
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「きょうはテーピングはいいでしょう。次ないですから」
リングコスチュームに着替えた杉浦、ストレッチをしながら出番を待つ。
休憩後のシングルマッチも外人対決。フィアッセネルソンが逆エビ固めでレッドマスカレードを退けた。
そして、セミ前の試合。
「次の試合に登場する杉浦美月選手はこの試合が最後のファイトとなります。ファンの皆様より一層のご声援を賜りたくよろしくお願いいたします」
「Innocent Dance」がかかり、杉浦美月、いつも通りのポーカーフェースでリングへ。
対戦相手は小嶋朱美。馬力は姉譲りなので警戒しなくてはならない。
この日もヘッドバット連打を食らって杉浦、苦しい表情。
それでも、
「はっ」
バックドロップで投げる、しかし小嶋もスクラップバスターで反撃。これで杉浦は腰を痛めた。
「あああ。。。」
ーこれ以上は受けられないこれで終わらせる
いつものようにするっと組み付いて、飛びつき腕ひしぎ。
ドワアアアア
生半可な技術のレスラーは来るとわかっていても防げない。
「あ・・・・が・・・・ぎっ」
懸命にこらえた小嶋だったが、ついに山本レフェリーをタップして意思表示。
「11分37秒、飛びつき腕ひしぎ逆十字固めで杉浦美月の勝ち」
―終わった・・・・
とどろきわたる杉浦コール。
杉浦、しんどそうに起き上がり、一礼して、腰を押さえながら引き揚げた。
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セミファイナルはエアリアル菊澤VSレディ・コーディ。
今シリーズ、コーディの調子がよく、この日も菊澤を16分8秒、馬力でひねり潰して終了。フィニッシュはラリアットだった。これでSPZ3強をすべて撃破。
メインイベントはSPZ選手権、王者美冬に対するはジーニアス武藤。今年最後の大一番なのでトップ対決を組んだ。
「出たとこ勝負で行くしかありません。」
「自分のプロレスをやれば何とかなる相手、では行ってくる」
G武藤相手にはブのいい美冬。互角の展開かと思われたが、20分過ぎに仕掛けた美冬」、裏投げ、そして頭部へのステップキック乱打。これでジーニアス武藤は苦悶の表情。それでもジーニアス武藤、勝負を捨てずエンジェルダイブで反撃して意地を見せ、続くムーンサルトはかわされたものの、
「ならば・・・これでっ」
ノーザンライトスープレックス。一度は返されたものの立て続けに2度目。
ワン、ツゥ、スリ。
吉見レフェリーがマットを3つ叩いた。王座移動。勝負タイム39分42秒。これでジーニアス武藤、7度目のベルト奪取。7度目の奪取というのは伊達遥、吉田龍子に並ぶタイ記録。
「相手が相手なので、無心でやりました。何とか流れをつかむことができました。美冬さんに勝ててうれしいです。」
やはりジーニアス武藤はベルト姿がよく似合う。
「そして、今日は、私にレスリングを教えてくれた、杉浦さんの引退試合です。みなさん、杉浦さんに最後のコールをお願いいたします。」
そういってジーニアス武藤は花道を引き揚げた。
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メイン終了後、杉浦美月の引退式。
スーツ姿に着替えた杉浦美月がリングへ。10カウントゴングの後、花束贈呈。
マスコミ各社の代表、アポカリプス病院の欲野医師、SPZの黒田社長、そして、フローラ小川が久しぶりに公の場に姿を見せて、杉浦と握手。
「お疲れ様。あとは第二の人生、楽しく生きて。」
そのあと杉浦が最後のあいさつ。
「本日はご来場いただきまして、また最後までご観戦いただきまして、まことにありがとうございます。おかげ様で、レスラー生活を完走できました。あの時、SPZに残る判断をして、本当に良かったと思います。みなさんの・・・・熱い声援、ほんとうに・・・ありがとうございます」
少し涙を浮かべていた。もらい泣きするファン多数
脇役レスラーで終わるはずだった杉浦、団体のピンチで一時はSPZのナンバーツーとして奮戦した。その彼女が、後進を育て、ついにリングを去った。
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杉浦美月
本名・同じ
2054年4月26日、新日本ドーム大会での対 フローラ小川戦でデビュー。2063年12月13日、さいたまドーム大会での対 小嶋朱美戦で引退。
稼動月数117ヶ月。出場試合数(概算)808試合
タイトル歴
第123代・第125代 SPZ世界タッグ王者(パートナーは優香)
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