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2012年5月15日 (火)

第1310.5回 心の檻

時に、西暦2068年

年内すべての興行を終えて、年の瀬のさなか。ジャージ姿のハルカは本社に出向いた。

「し、失礼します・・・」

横浜のお嬢さまプロレス団体、SPZでは四半期に一度、給与に関する面談がある。各選手が一人ずつ本社の応接室に呼ばれ、総務部長と面談し、評価に基づいて改定された給与辞令を受け取る。

「いつもご苦労さん。で、本題の給与辞令なんだけど、はいこれ」

総務部長がハルカ(本名:大月遥)に小さい茶封筒を手渡す。

「中あけてみて」

ハルカ、封筒を開けて中に入ったA5 1枚の紙を見やる。

**********************

大月遥様。2069年1月1日付で下記の通り給与の改定を行います。

基本給 100,000円

出場試合給 1試合 56,250円

**********************

「まあ、そういうことで。何か聞いておきたいこととか、要望とかありますか?」

「・・・・いえ・・・・特にないです」

「じゃ、これからも頑張って」

ー8試合出れば、額面の月給が55万。手取りでも40万はいく・・・・

デビューした時は確か1試合の出場給が33,000円だった。予想以上の給与の上がり方にハルカは暗然とした。給与辞令をポケットにしまい、帽子をかぶって、用もないのに地下鉄に乗り込んだ。

ー会社は、私に期待をかけている・・・・・の・・・・?

道場での痛い練習、長距離の移動、そして痛い試合前の練習、そして痛い試合。先日ようやく初勝利を得るところまで来たが、相羽さんとの試合ははずみで膝が入っただけ。初瀬さんとの試合は向こうが折れたっぽかった。

ー自分はプロレスに向いてない。

それでも辞めるという言葉を飲み込んだのは、つまるところお金だった。毎月25日にブルーライト銀行の大月遥名義の口座にギャラが振り込まれる。遊びにも行かず、寮生活で衣食住は保障されているので入社して9か月、粘るごとに預金残高が増えていった。実家の母親に相談したが「あなたが稼いだお金だから、あなたが必要とするものに使いなさい」と言われた。

ー生きているのが、辛い。

ハルカ、年末の休みは帰郷しなかった。表向きは「トレーニングに専念したいから」と言ったが、本当のところは実家に帰ったら正月明けに再上京したくなくなるからだった。ボディスラムやブレーンバスターで投げつけられる時の衝撃。ただただ怖かった。

ーもっと頑張ることなんて、できない・・・よ。

地下鉄は闇の中を走り続けていた。

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