第1,345.5回 間奏曲
時に西暦2071年、
SPZ入社3年目のホープ、大月遥は順調に出世街道を駆け上げっていたかのように見えたが、内向的な性格ということもあり、精神的な落ち込みは激しいものがあった。
ー生きているのがつらい・・・・
オフの日、寮の自室でひとり落ち込む。
もともと痛いのが嫌なのにプロレス入りしてしまった彼女、周囲の評価は「まれにみる逸材」ということで社内のポジションをどんどん上げていったが・・・・
ーでも、ほかの仕事ではこれほど稼げない。
VIP(SPZ実力上位6名によるリーグ戦)に入ってから、個人グッズも制作されるようになり、売上額の10%が本人に入ってくるので、シリーズ参戦した時の手取りの月収も100万に近くなってきた。生活レベルはさして上げていないのでブルーライト銀行の預金残高が恐ろしい勢いで上がっていった。あと2-3年頑張れば家が買えるだけの金額になる。
でも上原さんの蹴りや草薙さんの投げで頭をやってしまった時の感覚を思い出すと、
ー正直吐き気がする。
試合前の控室、人一倍厳しい表情のハルカ、入場シーンでも厳しい表情を崩さない。試合で競り合いを制して3カウントを奪っても苦しそうな表情で一礼して引き揚げるだけ。それがかえって「真剣勝負に徹している」とファンに解釈されるのだからこの業界何が幸いするかわからない。
ーこのままどこかへ逃げ出したい
締切が迫って夜逃げする作家さんの話を聞いたことがあるが、なんとなくその気持ちがわかる。シリーズ前で地方巡業に出るとき、スーツケースに身の回りの品を詰めるのが本当に苦痛になってきた。
ー来月はリーグ戦じゃないから巡業はラクだけど、最後のトーナメントではだれと当るかわからない。
冬の寒さが身に染みる。会社の期待はどんどん大きくなってきている。上原さん神塩さんのトップ争いに自分や草薙さんが割って入っていく構図を期待されている。毎日メインやセミで戦って、意識が飛ぶまで相手の技を受けて・・・
ー誰か、助けてよ・・・・・
ハルカ、18歳の冬。
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