第1,353回 ハルカ祝勝会
「手加減はしません、アルティマシュート」
がすっ
ジャンピングハイキックがさく裂。崩れ落ちる中森あずみ。
ハルカ、片エビでカバーに行く。
ワン、トゥ、スリー
セブン山本レフェリーがマットを3つ叩いた。
勝負タイム29分15秒。
「え…うそ…獲った…私」
ハルカがSPZ王者に。
ドワアアアアア
ハルカの腰に金色の古びたSPZベルトが巻かれる。信じられないといった表情のハルカ。あっさりチャンスをものにし、団体女王の座に輝いた。笑顔は見せず。呆然とした、いや、厳しい表情を崩さないまま勝利者賞のトロフィーと記念撮影におさまった。
「おめでとーございます!」
セブン山本レフェリー、ガイア尾白川レフェリー、後輩のフォルトゥナ紫月らと控室隅で恒例行事。未成年なのでビールかけはできず、代わりに炭酸水を使用した。
どばどばどば・・・・
ハルカ、こういう状況でも自分が団体トップに立ったという事実を飲み込めていない状況だった。
ー自分はプロレスに向いていない。なのになんで・・・・・
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ガイア尾白川レフェリーの計らいで帰り道、立川駅近くの寿司屋でささやかな祝勝会を行った。若手選手は一心不乱に高級寿司を食いまくっているが、ハルカは浮かない表情だった。
「これから私、どうすればいいんでしょうか・・・・」
「そうねえ・・・」尾白川レフェリーがぼそっと。
「自分もベルト巻いたことはないからよくわからないけど、チャンピオンだって意識しないで今まで通りのファイトを日々やっていけばいいと思うよ。ただ試合順はベルト巻いてる間は一番後ろになるから、それが大変だと思う」
「うん・・・・」
「しっかりしなさい、大月遥!あなたもう入社4年目なんだから。会社を支える側に回らないと」
「は、はい・・・・」
ハルカは鉛のような寿司を食べた。
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シリーズ終了後はオフで、軽めの調整をして巡業の疲れを取るのだが、SPZ新女王となったハルカにはインタビューなど取材の申し入れが相次いだ。
シリーズ終了翌々日にSPZ本社で行った週刊ハッスルのインタビューでも要領を得ない受け答えしかできず、立ち会ったセブン山本は頭を抱えた。
ー3年余りの苦労が報われましたね
「ええ・・・」
ー今後はどんなチャンピオンを目指していきたいですか。
「そ、そうですね・・・・今まで通り・・・自分のプロレスを・・・やる・・・だけ・・・」
取材の連発をこなした後、本社休憩所のイスに腰掛けペットボトルのお茶を飲むハルカ。
ふと廊下に目をやると、
ー自、自分の写真が…貼ってある!
SPZ本社名物、歴代チャンピオンの額縁入り写真の末尾に自分のがある。ベルトを巻いてもらった直後の写真だ。
ハルカ、表情がこわばった。
(ちょ、ちょっと待って・・・・・・っ・・・・・)
その1週間後に発売された週刊ハッスル。取材がああだったにもかかわらず、そこはライターさんと団体サイドが適度に脚色した。そして記事の最後には
「ハルカ18歳、その秘められた力は本人もまだ知らない。彼女がそのすさまじいばかりの眠れる力を解放させたとき、SPZの勢力関係は一変するだろう」などと書かれた。
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