第1,375回 ハルカの新生活
時に西暦2072年。
横浜のお嬢様プロレス団体SPZの主力選手・ハルカ(本名 大月遥)は紆余曲折あったものの、どうにか入社して丸4年が経過した。
「当社の規定により・・・・・・」
4月シリーズの巡業中、マネージャーさんが告げる。
「大月遥さんは入社4年が経過したので、退寮していただくことになります」
「た・・・・退寮?」
「今後は通い待遇となります」
この会社、年度中に20歳になる選手は基本的に寮生活から解放している。年長組が寮に多くいると若手新人の息が詰まってしまうという配慮もあるし、第2の人生を選ぶ時期が近くなっているので、寮生活から解放させてさまざまな社会経験を積ませるという意味合いもある。大半の選手はやったーこれで門限がないとか遊べるーとか言って喜ぶのであるが、この人の場合は・・・・
「で、どこに住めば・・・いいのですか」
SPZベルトを失った4月シリーズ終了の3日後、SPZと取引のある不動産業者さんが現れて面談。ブレード上原が同席。
「これなんかいかがでしょうか。ディストラクション西戸塚。今の道場と1kmも離れていませんし、築5年と割と新しい賃貸マンションです、家賃は月々6万円で」
「社宅扱いで会社が3万円までは出してくれるよ」
「は、はい・・・・」
というわけでハルカの退寮、引っ越しが決まった。4月下旬の晴れた日、ハルカは私物を段ボールに詰めて、トラックを待った。
んで、新居の「ディストラクション西戸塚」の3階。
(ど、どうすればいいんだろう・・・・)
今までは寮で三食きっちり管理人さんの作る食事が出てきたのだが、これからはそうもいかない。
自由は、ありすぎると扱いに困る。
かごの鳥は解放されるとすぐ飛び出すのだろうか。
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「家電製品とか買い揃えた?」
その翌々日、全体練習中にブレード上原がぼそっと。
「いえ、まだ、全然・・・・」
「うん、でも、どこに行って…どう買えばいいのか」
「・・・・・・・・」
(そういえば昔からこいつの人見知り癖は激しかった。ひとりでタナカ電機行って買えとかいうのは無理な話だったか・・・・)
見かねたブレード上原、会社オフイスのパソコンでネット通販のサイトにログインし、30分でテレビ冷蔵庫洗濯機掃除機炊飯器その他を手配した。
「う、上原さん…凄いですね」
「なにいってんの。いまどきの大人ならこのくらい当然。27万2500円、ギンフリだからお金用意しといて」
「は、はい」
「自炊する癖はつけといたほうがいいよ。出ていくお金が全然違うから」
だが、料理の全くできないハルカ、途方に暮れた。
(どこかに食べに行こうか・・・)
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