第1,439.3回 もう何も怖くない(中1)
バタン!!
控室の扉を閉めるや、ハルカはその場に倒れこんだ。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・もういやだこんな仕事・・・」
「ハルカさん・・・・」
シューズの紐を解いていた付き人の小川あかり(新人)が声をかけるが、ハルカの荒い息遣いはなかなか収まらない。小川あかり、シューズを脱がせた後、冷たいミネラルウォーターを紙コップについで口元に当ててゆっくりと、少しずつ飲ませる。
「はぁ、はぁ、あー」
フォルトゥナ紫月との息詰まる攻防を30分フルタイムでやった。フォルトゥナ紫月はじわじわと攻め込んでくるので、ハルカにとっては苦手な相手だった。こんかいは集中力を切らすことなくファイトし続けたので結果はドローに終わった。
「小川さん、ありがとう、もう大丈夫だから、藤原さんのセコンドに戻って」
「あ、はい」
まだ会場ではセミファイナルの試合の真っ最中。ハルカは息を整えてから、シャワー室へ向かった。
ザアアアアア
控室に戻ってからのほうが痛い。やってる間は脳内から何かが出ているし、痛み止めもきいているのでさして痛みを感じない。ただ控室へ戻って、ハルカではない・・・そう、ただの女に戻るとどうしようもなく痛くて苦しい。
―もうちょっとだけ頑張ないといけないの・・・?
ハルカ、手早く汗を流して私服に着替え、負傷箇所のケアを済ませた。
荷物をまとめていると、こんどはペガサス藤原がズタズタになって戻ってきた。
「北条さんやばい・・・なんて力・・・・」
セミファイナルで北条咲のパワーボムに敗退したペガサス藤原、荒い息をつきながらその場にへたり込んだ。
―この会社の後半はいつもこうだ。
みんなギリギリのところでやっている。
ハルカ、メインの試合を見ようかどうか考えたが、草薙さんと神塩さんなら内容も結果も見えていると判断したので、マネージャーさんに上がる旨、声をかけてから、会場裏口からタクシーに乗って戸塚へ向かった。
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その翌日の日曜日午後、
「ずいぶんやられたみたいだけど」
「うん・・・・」
戸塚駅近くのカフェでハルカと加藤貴明氏はお茶を飲んでいた。2週間のシリーズを乗り切ったハルカ、歩くのもしんどそうだ。
これは出歩くのは厳しいと考えた加藤貴明、
「俺の家で、ゆっくりするか?」
ハルカ、首を縦に振った。
戸塚駅から藤沢方面にタクシーで少し走ったところに、加藤貴明のマンションはあった。
6畳もないワンルーム和室。
「まあ、狭いが、ここが私のディオゲネスの樽だ」
「ここが、貴明さんの・・・」
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