第1,445.5回 ドナドナ
時に西暦2075年8月
SPZの横浜戸塚合宿所兼道場ビルに招かざる客が。
「明日香、おるか、明日香」
50歳くらいのダブルスーツを着込んだオッサンが玄関で声を張り上げる。
「・・・どなたですか」
応対した村上千秋に
「私は、こういうもんじゃ」
名刺には「株式会社西海物流 代表取締役社長CEO 加賀美寿太郎」と刷られていた。
「お、お父様・・・?」
上階の部屋から加賀美明日香(17)が驚いた表情で降りてくる
「明日香、迎えに来たけん。こんな危険な会社に預けとくわけにはいけん、長崎へ帰ろう」
「・・・・・っ」
「明日香、あんたにはいずれうちの会社の役員で働いてもらわねばならんけん、もしものこともあってはならんのじゃ!」
この後黒田社長が駆けつけ、応接室で押し問答が続いたが、父親の意向が変わることはなかった。
「おたくの会社、ちと管理が甘いんちゃうか」
とかいって週刊ポトフを取り出す加賀美寿太郎氏。付箋がはさまれたページには「SPZプロレスの深淵 管理できなかったその暴力」などと見出しが。
記事の内容は今回のハルカ騒動の顛末を誇張して書いたもので、大意としては「シングルマッチの連発でVIPレースの賞金欲しさに選手間の手加減が利かなくなったからこういう事故に至ったのだ」という書かれ方だった・・・
「けっきょくあんたの会社のやってることはスポーツじゃない、暴力なんだ」
「・・・・・・・・」黒田社長、返す言葉もなく
「お父様、それは・・・・」
「一歩間違っていたらうちの子がああなっていたけんね、クスリとマントは逆から読んだらいけんのじゃ。さあ明日香、帰るで、荷物はトラック呼んだけん」
(こうなった時のお父様は止めようがない・・・)
明日香はわかっていた。今回の事故で父親が動顛してしまっていて、何が何でも私を実家に帰す腹づもりであることを。経営者という職業柄、リスクには敏感すぎるのだ。
・・・・せっかくここまで2年ちょっとやってプロレスの動きもわかるようになってきたのに・・・っ
お父様は長崎の政財界ともつながりがある。いま会社がこういう難しい時期に、会社と長崎の有力者が事を構える事態になりかねない…そう判断した加賀美明日香は険しい表情のまま口を開いた。
「わかりました、この場はお父様の言いつけに沿います」
(時を稼いだのち、実家で粘り強くお父様をもう一度説得するしかない)
「ちょっとだけ待って、身の回りの物を取ってきます」
そう言ったのち、隣の部屋の神田幸子に伝言を託す。
「しばらく帰郷します。ですが自分はレスラーを辞めるつもりはありません。無期限欠場ということにしておいてください」
「加賀美・・・・」
「このままで、いいわけがないとは自分でも思っています・・・っ」
その30分後、加賀美明日香は父親差し回しのリムジンに乗り、SPZ道場を後にした・・・・
(SPZ65期、加賀美明日香、長期離脱・・・・)
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