第1,451回 事故調査委員会の報告書
67年目9月
SPZ宇都宮市興行の試合後にシャワールームで倒れたハルカの事故から2か月。
いまだハルカは宇都宮市内の病院で生死の境をさまよっている。家族や婚約者の心痛はいかばかりか。
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9月シリーズ開始前日に取りまとめられた事故調査委員会の報告。
欲野深三(よくのふかぞう)委員長がSPZ本社会議室で記者会見。SPZの取引のある病院に勤める医師で、フローラ小川や杉浦美月に引退勧告を行ったこともある名医だ。
「身内同然の人間を事故調委員長に据えてやってるパフォーマンス」という評もあったが、「いや、欲野さんは会社側の意向を代弁するだけの人じゃあない」というベテラン記者の声もあった。これまで有耶無耶で終わることが多かったリング禍の再発防止対策。多くのマスコミ記者さんがSPZ本社に集まった。
再発防止を目的とした事故調査委員会(委員長:欲野深三 アポカリプス病院医師)の出した報告書の骨子は下記の内容だった。
欲野深三医師がペーパーを読み上げる。
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◆事故の直接の原因は、宇都宮大会のメインイベントの試合中の動きおよび試合後のハルカ選手の場外マット転落で、ハルカの脳血管に病変が生じたことが主因と推定される。
◆しかし、60分の当該試合の中で、特に危険な技を仕掛けて、頭部からの落下といった危険な場面は見られず、ハルカ選手の身体にはそれまでに疲労が相当量蓄積していたことが推定され、それが事故の遠因となったものと思われる。
◆SPZの年間96試合のスケジュールで、全試合シングルマッチという選手に過度な負担を強いる制度が今回の事故の遠因になったことは明らかである。
◆したがって、事故の再発防止として、
(1)マッチメイクの再検討
(2)選手とフロント幹部とのコミュニケーション強化
(3)試合後の選手ケア体制の見直し
が必要である。
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レスラー、スタッフへのヒアリングでは「男ができて、ハルカさんはそれまでリングに上がるときの悲痛な表情が消えていた」という声もあったが、それはその人に責任の一端を負わせることになりかねないと判断した事故調が事故原因から除外した。
「事故調の提案を、真摯に受け止めます」
これを受けて黒田社長、記者会見を開き、下期VIPリーグ戦レースの中止を発表した。とはいえ興行予定はあり、新企画の予定もすぐには立てられず前売り券もはけてしまっているので、1日7試合の暫定カードを組み、9月の九州シリーズを実施した。メインの試合はセイウン草薙が全会場で務めることになった。
9月シリーズ「ウルトラソウルシリーズ」開幕。玄海恵理は先月のSPZクライマックスで右ひざを負傷し無念の欠場。
「そうですか・・・ええ、わかりました」
ハルカのいない興行も二か月目。毎日病院に確認の電話を入れるセイウン草薙。シングルマッチ7試合という興行スタイルは変わらないが、試合内容はこれまでより若干抑え目となってしまた。これは仕方のないこと。
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最終戦はさいたまドーム大会。
第1試合は小川あかりVSメイプルマスク。小川あかりと手が合いそうな三下外人をブッキングして連日当てた。同期がおらずまだ体ができていないので、これは仕方がない。この日もネタ外人にいいように遊ばれ、DDTで終わったかと思われたが小川あかり、懸命に返してドロップキックで反撃。
「あ、返しましたね。少しは耐える力がついてきたんじゃないでしょうかね」
解説の杉浦美月が感心する。
だが、小川あかりの粘りはそこまでで、すぐに至近距離に詰め寄られてエルボーでなぎ倒されて敗北。勝負タイム9分54秒。小川あかり、まだレスラーの体をしていないというのもあるが、ただただ勝てない。
続く第2試合はアプリコットつばさVSフェアリー三井寺の同期対決。すっかり前座要員が板についた両者の対戦だが、内容は真剣そのもの、最後は逆片エビを決めた三井寺がギブアップ勝ち。勝負タイム12分47秒。
そして第3試合は神田幸子VS NOTORI。
入社2年目のNOTORI、先輩相手に懸命に向かっていったが、ソバットを受けても平然とした神田。DDTを決めて11分15秒、勝利。
休憩前第4試合は相羽和希VSセモポヌメ。
「ウォォォォォ」
先月のSクラ全敗の恨みを晴らすかのように相羽に襲いかかるセモポヌメ。しかし相羽もノーザンで応戦、両者ダウン、場内拍手。セモポヌメ先に起き上ってバックドロップ。一度はぎりぎりで返した相羽だが間髪入れずに2度目を食らってしまって万事休す。
「YEAAAAAAAAA」
セモポヌメ、コーナー2段目に上がってウァハハハハと勝どき。相羽和希、ここの所めっきり勝負弱くなった・・・・
「相羽選手も最近は大技くらった時に動きが止まるようになってきましたから。ハードな受け身が取れなくなってきていますね」(解説の杉浦美月)
その試合が終わると休憩。
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