第1,566回 トカレフ、あります?
71年目10月
「もうヘトヘト」
SPZ63期・アプリコットつばさが引退を表明。アイドルレスラーとして活躍したが、軽量ゆえ体の傷みも激しかったか。
「ビッグパワーシリーズ」開幕。
シリーズ第3戦三重サンシャインアリーナ大会第2試合でアイドルタッグが最後の結成。フェアリー三井寺・アプリコットつばさVS長原ちづる、山科瞳のタッグマッチ。まず新人の山科を戦闘不能に追いやってから孤立した長原を一斉攻撃。最後はフェアリー三井寺がSTFで長原を仕留めた。試合後2人は抱き合ってラストタッグを惜しんだ。
三重大会メインはSPZタッグ戦、王者レッドロシアン、マシノ・シアターに対するはカガミ・アスカ、NOTORI組。SPZのベルト総取りをもくろむウルトラ・グレンタイがカガミ、NOTORIの実力者2人を挑戦者に仕立てた。
押していたのは外人組の方だったが、25分過ぎにカガミの仕掛けたスリーパーでマシノがぐったりとしてしまう。ふらふらと起き上るマシノへNOTORIがハイキック。崩れ落ちるマシノ、これで3カウントが入った。勝負タイム28分56秒、カガミ、NOTORI組がタッグ王者に輝いた。
「っふ・・・ベルトを取った後に飲む紅茶もまた格別ですわ」
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シリーズ最終戦は新日本ドーム大会。
第1試合は野村あおばVS山科瞳、ドロップキックを連発するなど善戦した山科だが、頃合いを見て反撃に転じた野村が優位に立ち、最後はムーンサルトで終了。勝負タイム7分36秒。
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第1試合終了後、場内オーロラビジョンにあおりVTRが。場内どよめき。映し出されたのは小川母。アプリコットつばさの記念映像かと思っていたファンはどよめいた。
「本日出場予定の小川母さんは重要な所用のため外出しております」とアナウンス。そのあとVTRで場内沸く。
「先シリーズ最終戦のさいたまドーム大会で・・・・
「ギャーッ」
「悪の道に染まった実の娘、小川あかりに飛び蹴りを食らってしまった小川母。悲しみと錯乱のあまり、小川あかりを自らの手で始末することを決意。
次のシーン、バスに乗る小川母の映像が。場内どよめき
グレーのパンツスーツを着た小川母は吉祥寺駅から中央線に乗り、武器を買いに山梨まで出かけた。特急列車「ハイパーカイジ」の中で思いつめた表情の小川母。
いくつかトンネルを抜けて、ニラサキという駅で小川母は列車を降りた。山沿いの田舎の風景。ここから小川母はバスで県境に向かった。
山梨と長野の県境は山と畑と川に囲まれた寂しい場所だった。国道から少し脇道に入ったところに「レディスファッションの店 てらさわ」と書かれた看板が。小川母はガラスの引き戸をガラリと開けた。入口近くのキャッシャーで中年女性の店主がスポーツ新聞を読んでいた。
小川母、店内に並んでいるババシャツやセーターには目もくれず、
「あの」
店主に話しかけた。
「トカレフ、あります?」
店主はスポーツ新聞の「横浜クライマックスシリーズ出場へ驀進」という記事を見ながら
「あるけど、何に使うの?」と答えた。
「制裁しなければいけないんです」
「誰に、なぜ制裁するの?」
「実は、娘がぐれてしまって、親に暴力をふるいだしました」
「・・・・わかった」
中年女の店主は頷いて、スポーツ新聞を置いて、すこしの間をおいて、キャッシャー背後の引き出しを向いて、「仕入伝票」と書かれたラベルの貼ってある引き出しを開けて、エアーパッキンに包まれたものを持ってきて、カウンターの上に置いた。
「実弾が10発入っているわ。当店通常価格は120万だけど、あなたの動機はよくわかったから98万円でいいわ。」
小川母、エルメスのハンドバッグの中をごそごそやって、100万の札束を取り出し、2枚を抜いて、残りを店主の前に差し出した。店主は無表情でそれを受け取り、枚数を手慣れた手つきで確認してから、、エアーパッキンに包まれたものを包装紙に包んで渡した。
「まいど。」
県境近くのバス停、次のバスは2時間後だ。小川母はバス停のベンチに腰掛けながら、ポケットウイスキーを口にした。
「・・・・もう、戻れないわね」
場内どよめき。ここであおりVTRは終わった。
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