第1,614回 フローラ小川、26年ぶりの復活
そしてセミ前の第6試合、小川あかりが「セントポール組曲」に乗って入場。いつものように落ち着いた表情でリングイン。
そして対戦相手、Xの入場を待つ。
しばしの沈黙の末、かかった音楽は
モーツァルトの名曲、
「ディヴェルティメントK138」
ええええええええええええええええええええ?
その意味を知っている固定ファンはどよめき。
花道奥に現れたのは黒いフードつきコートをかぶった謎の女性。なぜか花道を特製電動台車に乗って運ばれ、リングイン。ここでスモークの演出があり、煙の中から姿を表したのは、
フローラ小川だった。
そう、SPZ元王者の、フローラ小川。
現役時代と変わらないリングコスチューム、なぜ、SPZ34期でもう53歳のはずなのに。しかし表情や風貌、体のつくりは若々しく、そんな雰囲気はみじんもない。
「まさか・・・母さんなの?」
「そうよ。欲野先生にお願いしてips細胞を大量注入してもらって若返りに成功したわ」
どええええええええええ!!!
場内爆発
「か、かいせつの杉浦さん・・・・・」
「こ これは・・・・まさか・・・・」
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ips細胞
古来より権力者、科学者、大富豪の間でアンティエイジング、若返りの法は探求が行われてきて 試行錯誤が繰り返されてきたが 21世紀も後半に入り 薬物の力で 老いた肉体を一定の時間内という制約はあるものの 若返りすることができるという魔法の薬が誕生した
周知のとおり老化とは 個々の細胞が分裂を繰り返す際に テロメアDNAが作用し 臓器や皮膚といった 組織器官が老化現象を起こしてゆくのが根幹であるが それではそのテロメアDNAの情報を薬物の力で上書き更新してしまえばいいんじゃね と考えた科学者が 若返りのips細胞を開発しだしたが 最終的に人体に投与するにあたり生命に与える副作用の影響が懸念され 臨床実験は進行しなかった
しかし 第三世界や争乱の繰り返される国家やテログループの間では 巨大製薬企業と結託して地下施設でこっそりと非人道的な実験が繰り返され 実用化へのハードルは確実にさがりつつある この薬品を投与することで 老いた人間を若い兵士の肉体に変化させ 部隊の戦闘効率を格段に上げることで 世界のパワーバランスを変えてしまうのではと 危惧されているが 全容はいまだ闇の中で進行しているというのが 実態であろう
高幡書房 「貴方にも出来る!若返り実践テクニック」より
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「あかり、何回も言ってるけどね、あなたはどんくさいから格闘技に向いてないのよ。母さんがあなたを再起不能にしてあげるわ」
「こんなのって・・・ありえない」
科学常識を無視した、フローラ小川の若返りに動揺する小川あかり、それでも本人かどうかを確認するために、質問をぶつけた。
「1998年横浜ベイスターズ38年ぶりのセリーグ優勝を決めた試合で決勝タイムリーを放ったのは?」
「進藤達哉」
「大関千代大海が封印を解いた超奥義・空気投げを発動した相手は誰?」
「バルト」
21世紀の後半、振り込め詐欺防止のために親子間でしか知らない符丁やクイズを持っておくのは常識である。あっさりと正解を口にしたフローラ小川に、あかり絶句
「そんな・・・つまらないことを知っているのは確かに母さんだわ・・・。」
どわはははははは
「さあ、おしゃべりはおしまいにしましょう。20%の力で相手してあげる。20%。」
もう言葉もない。元SPZ王者のフローラ小川、三流の小川あかりを抹殺するのは20%の力で事足りると判断したか
「フォォォォォォぃ」
気合を込めるフローラ小川、現役時代に使った筋肉細胞を再起動させている。
「問題はこの筋肉の動きに腱や靭帯がついて行かないことだけど、30分くらいなら何とかなるらしいの。さあ、覚悟なさい」
どわあああああああああ!!
異様な雰囲気の中ゴングが鳴った。
覚悟を決めて小川あかり、組みついてスリーパー。そしてグラウンドの攻防をやってアームホイップ。そして腕関節を取りに行く。
「えいっ」
フローラ小川、現役時代の動きそのままのドロップキック。場内どよめき。しかし8分過ぎに異変が。
流れの攻防の中、小川あかりが足を取る。
逆片エビを仕掛けられたフローラ小川が懸命にロープに逃げたが、起き上がろうとしたところ
「ごぼっ・・・」
口から緑色の液体を吐いてしまった。どよめく場内、そのまま棒立ち。
「い、いまだ」
すかさずネックブリーカーを決めた小川あかりがフローラ小川から3カウントを奪取。
勝負タイム9分23秒。
「ギギギ・・・」
口から緑色の液体を垂れ流しながら苦しむフローラ小川。勝ったものの、実の母親の惨状に呆然とする小川あかり。
「おっかしいなあ」
欲野医師がノートPC片手にリングに上がり、フローラ小川の状態をチェック。
「でもこれで実戦データが取れた。再調整が必要やね。」
謎のナース軍団が現れフローラ小川の身体を銀色のシートで包み、ストレッチャーに乗せて引き揚げた。場内爆笑。
「・・・・・・・・・」
小川あかり、呆然とした表情で引き揚げた。
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