第1,766.5回 権力、財力、そして暴力
時に、西暦2087年。
埼玉県は川越市周辺にある市ヶ谷ホールディングス所有の豪邸。
この豪邸に足を何回か運んだ男が一人。
SPZプロレス統括部長、山本和男。
その交渉力には定評があり、市ヶ谷財閥の一人娘が柔道をやっていてかなりの格闘センスがあるという情報を聞きつけたので、さっそくスカウトに動いた。
「なにとぞ麗華さまのプロレス入りをご検討いただきたく」
ソファに座ったまま沈思するオッサンは、
市ヶ谷家13代目当主、市ヶ谷八六蔵。(いちがや・はむぞう)
「ふむ。きょうのわしはじつに機嫌がいい。条件だけなら聞いていい」
「まず契約金として1500万、そののち最初は年俸400万から・・・」
「年俸400か。安く見られたものじゃのう」
「そ、そのう・・・あくまで弊社の規定に基づいてということで、新人のうちはこの年俸ですが、大成して世界王者クラスになればファイトマネーだけで年俸1400万程度となります」
「ふ、面白い・・・・特別扱いせぬということか…・麗華よ」
「はい、お父様」
「いまわしがこの場で毎月数千万の小遣い金をくれることは容易だが、それでは麗華のためにならない・・・・わかるな」
「・・・・はい」
「千里の道も一歩から。億のカネを動かすものはまず自らの意思と能力で1千万、2千万とカネを生み出さねばならん。・・・それに、麗華」
市ヶ谷八六蔵が真剣な口調で
「世の中には三つの力がある・・・・財力、権力、そして、暴力」
「・・・はい」
「いかに金を稼ごうが、部下をあごで使える権力を持とうが、夜道、不遜な連中に襲われてしまえばそれまで・・・・市ヶ谷家の人間たる者、自分の身は自分で守らねばならぬ。わかるな、だからこそ市ヶ谷家の人間は幼少のころから武術を修得する掟があるのだ」
「・・・・はい」
「暴力をある程度操れなければ、財力や権力などあまり意味を持たない。麗華よ。SPZとかいうプロレス団体に数年、しばし修行してくるがよい。ただ、やるからには頂点を極めるがよい。麗華、カネは札束になってこそ威力を発揮する。億の金を稼ぐまでこの屋敷には戻ってくるな。そのつもりでやれ」
「承知しました。」
かくして、名門財閥、市ヶ谷家の一人娘、市ヶ谷麗華はSPZプロレスに入門することになった。これが今後、SPZの運命を、日本プロレス界の行く末を大きく変えることになるのである・・・・
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