第2,000回 躍動するリング、君の勇姿
時に、西暦2097年、
8月シリーズ、SPZクライマックス。
シリーズ第3戦は広島大会。
きゅっ、きゅっ・・・・
会場前の控室、小川あかりレフェリー(37)がリングシューズを丁寧に布で磨いていた。引退してからも現役時代と同じものを使っている。鈍い光沢を持つ銀色のリングシューズで、ピンク色の縁取りがされている。十数年前に引退してレフェリーに転身してからも続けている日課のルーティン。きょうは休憩後のリーグ戦2試合を担当する。
「シューズを・・・大事にされてるんですね」
若手選手の金井美香が声をかける。
「いや、これはね・・・・祖母の形見だから。私が現役デビュー前のころ、もらった物なの。もとは、いまから85年前くらいに、祖母が初代の社長からもらった物らしいんだけど・・・年代物でも、手入れすれば使えるのよ・・・靴底は何回か貼り換えてるけど」
「そうなんですか・・・・」
金井美香、SPZの歴史を改めて感じた。
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広島大会のリーグ戦公式戦4試合。
瀬戸田(2点、裏投げからの片エビ固め 24.52)スカルオーク(0点)
「ファイッ!!」
ドレスシャツに黒いスラックス姿の小川あかりレフェリーがいつものように試合開始を宣する。あとは目立たないように動きながら、ぱっとしないレフェリングを担当。
試合の方は、スカルオークのラフファイトと力押しに手こずった瀬戸田だが、ジャーマンで突破口を開き、裏投げ2連発で3カウントを奪った。
「ふう」
25分近い熱戦を裁いて喉が渇いた小川あかりレフェリー、ちょっとだけ本部席に戻って、ペットボトルの水を飲み、セミ前の試合を裁く。
遠藤亜美(4点、バックドロップからの片エビ固め 16.31)鳥海(2点)
鳥海のパワースラム、パイルドライバーを食ってしまうなど、危ないシーンが目立った遠藤亜美、それでもSクラを初めて制した時の技、ネックブリーカーで形勢打開するとニーリフト、ハイキックの猛攻。鳥海もバックドロップでやり返すなど大いに健闘したが、最後はお返しでバックドロップを連発した亜美が勝利。
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小川あかりレフェリー、遠藤亜美の手を挙げて勝者をたたえた後、選手の退場を見届けて自らもリングを降り、スタッフ控室に戻りリングシューズを脱いで、軽く湿気をふき取ったあと、扇風機の近くに置いて乾かす。セミメインの2試合は後輩の金森レフェリーが担当するので、あとは運動靴に履き替えて雑用をこなすだけである。
藤田(2点、パイルドライバーからの片エビ固め 17.48)我那覇(2点)
タッグパートナー同士の対戦が広島で実現。握手してから試合開始。しかし試合が始まるや両者真剣そのもの、優位に進めたのは我那覇の方だったが、15分過ぎに藤田がJOサイクロンで仕掛けた、何とか返した我那覇だったが動きが止まった。
「もらった!」
藤田一美、パイルドライバーで我那覇から3カウント。これで初日を出した。
TM(4点、逆片エビ固め 9.25)真美(0点)
まず真美の右腕に狙いを定めたTM、こうやってじりじりと流れを引き寄せる。そして流れの中で繰り出した逆片エビ固め、誰もが痛め技だと思っていたが
「ひああああああっ!」
腰がバクハツしてしまったのか、遠藤真美たまらずギブアップ・・・・
メインイベントがわりあいあっさり終わったので、観客も少しどよめいたが、セミまでの3試合が熱戦続きだったので、満足した表情で帰路につく。客出しが終わった後、選手、スタッフはバスに分乗して広島市郊外の宿舎へ向かう。小川あかりもリングシューズをスーツケースに詰め、車に乗り込んだ。
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第4戦は博多九州ドーム大会
瀬戸田(4点、タイガーSH 22.13)鳥海(2点)
6月の予選会では鳥海が勝っているカードの再戦。リベンジを誓う瀬戸田が若さで動き回るも、鳥海も重爆ミサイルキック、パイルドライバーと大技攻勢。
「これが私のとっておきです!」
瀬戸田、初公開のタイガーSHまで繰り出す。一度目は返されたが
「もう一丁!」
たてつづけにタイガースープレックスをもう一度!こんどは悶絶してしまった鳥海、無念の3カウントを聞いた・・・
真美(2点、パワーボムからのエビ固め12.55 )スカルオーク(0点)
打撃をガシガシ入れて優位に立った遠藤真美がそのまま攻めきり、パワーボムで初日を出した。
遠藤亜美(6点、デスソースキックからの片エビ固め 15.19)我那覇(2点)
昨日タッグパートナー相手によもやの敗北を喫した我那覇、ここで負けると優勝戦線からの脱落が決定的になるので決然としたファイト。タイガードライバー2連発で優位に立ち、見事なジャーマンで亜美を投げ切る。しかし遠藤亜美もここで負けるわけには行けないとデスソースキック発動!かろうじて返す我那覇。どちらに転ぶかわからなくなったが
「ウオー」
我那覇がレッグラリアート発動、一度はギリギリで返した亜美、立て続けに2発目も入れたがこれも返した亜美、4連覇への凄まじい執念!!
「はっ!!」
遠藤亜美この日2度目のデスソースキックで我那覇をなぎ倒しなんとか3連勝。
TM(6点、ティロフィナーレからの片エビ固め 16.19)藤田(2点)
真美をギブアップに追い込んだ逆片エビで藤田が苦悶の表情、これ以上受けきれないと判断した藤田はJOサイクロンを繰り出すが腰の踏ん張りがきかないのか本来の威力なく2で返されてしまう!そしてTMが豪脚、ティロフィナーレを叩き込んで藤田を倒した。
第89回SPZクライマックス、リーグ戦3試合を消化して、下馬評どうり遠藤亜美とTMクローンズが3連勝スタート。この両者は翌日の名古屋大会でぶつかる。勝った方が優勝に大きく近づくのは間違いない。
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筆者より、2007年1月にこのリプレイを始めてから8年9か月、劇中世界では89年目に突入し、ようやく残り10年少々というところまで続いて、連載回数もまさかの2,000回を数えました。自分が採用して、カードを組んだ子たちの勇姿には逆にこちらが勇気づけられ、パワーをもらうこともあります。こんなゲームにマジになっちゃってどうするのかという思いもありますが、もう少しあと少し、1か月ずつ刻んでいきたいと思います。
2015.09.26 AM2:47 konno
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