第2,005.5回 ある外人レスラーの憂鬱
時に、西暦2097年
プロレス団体のブッカ―は激務である。
「福本さん、12月シリーズ、オリンピアさんダメだって?」
セブン山本社長が英語が堪能な外人係の女性スタッフに声をかける。
「そうですね・・・・ネゴってみたんですけど、本国で家族と過ごしたいと言ってきました」
SPZは外人のお姉さんが多数シリーズ参戦することで有名。しかも12月はタッグリーグなので外人選手の頭数が必要。
「やばいよー、うわー、リーグ戦が成立しないよー・・・福本さん、EWAの下部組織のロドンさんに誰か引っ張れないかあたってみて!」
「かしこまりました・・」
そういって福本さんは国際電話をかけ始めた。
「Hello・・・」
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その翌日、ロシア、モスクワ郊外のハウスショー。
「ワン、トゥ、スリ・・・」
体格のいいロシア人女性レスラーが3カウントを奪われた。試合開始から10分ほどヒールのギミックをやって暴れて、そのあと対戦相手のビッグカムバック(反撃)を受けて、最後はラリアットを食らって負ける役。
そのあと試合後、プロモーターさんから少しばかりのギャラをもらって帰る。
(本当に小遣い稼ぎだ・・・ケーキ代になるかどうか。)
女性の名はストロワヤ・ヤロスラブリヴィチェ、21歳。本業はモスクワ郊外の高校でレスリング教室のコーチをやっているが、薄給で食べていけないため、週末はプロレスラーとして前座のリングに上がっていた。
帰ろうとすると、レフェリーとして手伝いに来ていたらしいエージェントから声をかけられた。
「ヘイ、ストロワヤ、実は日本の横浜にあるプロレス団体から話がきていて、ヒールのギミックができて上背のあるレスラーを欲しがっているらしいんだ」
「Japan、Yokohama?」
なぜ無名の自分を?ストロワヤはその疑問をぶつけた。
「逆に日本で名前が売れていないほうがまだ見ぬ強豪とかで売り出せるそうだ。それに、タッグリーグシリーズだから、もう一人のヒールレスラーとコンビを組んでの出場でシングルマッチは無いからイージーだ・・・試合が作れなくてボロが出る可能性は低いと思う、そしてギャラは2週間で、8マッチでネット(税引き後)16000ドルだ」
ストロワヤ、破格の条件に心が揺らいだ。
「・・・・細かい話を聞きたい」
そのあと近くのカフェでエージェントと打ち合わせ。先方の話ではとにかくトランクひとつだけで成田まで来てもらえればいい。往復の航空券はビジネスクラスで手配する、成田に着いたら迎えのスタッフが来て都内のホテルまで送ってもらい、そこで2泊して体調を整えてから8会場をサーキットするが、基本的にゲストレスラー扱いなのでサーキット中のホテル手配、食事は先方持ち、そして移動バスも完備しているとのこと。
(好条件この上ない話だ・・・)
ストロワヤは参戦を快諾した。
(それに、日本という極東の知らない国に行ってみたかった・・・・そういった経験が自分自身の人生を豊かにするだろう・・・)
この決断が、彼女の人生を大きく変えることになる。
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「Eルートで1名確保しました」
「ありがとう、どんな選手?」
すぐにメールでプロフィルが来た。
「名前がストロワヤ・ヤロスラブリヴィチェ・・・・モスクワ郊外でレスリングスクールの先生をしているようです」
「ちょっと名前が読みづらいな、ヤロスラブリで発表しといて」
「承知しました」
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