第2,142.5回 あの空の向こうで
時に、西暦2103年。
SPZの現役最年長選手、スカルオークこと雛鶴さやかは、移動バスの中でノートパソコンを広げ、アメリカの格闘技団体のサイトにアクセスしていた。
バスの一番後ろの席、SPZの怪奇派ヒールでも、リングを降りれば物静かで面倒見の良い女性。
(あいつの結果どうなったかな)
昨日行われた、ロス郊外での格闘技興行。それに後輩の窪川希望(TMクローンズ)が出場している。
試合結果が小さく英文で記されている。雛鶴は心もとない英語力で丹念に読んでいくと、昨年までタッグを組んだ後輩の名を見つけた。
2.WINNER Nozomi Kubokawa 2R 1.15 Arm Lock LOSER Bethany
(やったか、あいつ・・・)
ことしの春に活動の拠点をアメリカに移した窪川希望、トレーニングのかたわら月1回のペースで総合格闘技の大会に出場し、4試合目にしてついに勝利をつかんだ。
(ま、相手のレベルがわからんから、話聞いてみるまでは喜べんけどな)
総合格闘技に出てくる選手のレベルはピンキリ。レスラーで稼げなくなった選手が流れるケースもあるし、アマレスやボクシングでかなりのところまでいったファイターもいる。
バスは興行会場である宇都宮市の体育館に到着した。
去年の大晦日、SPZを退職して鳴り物入りで総合格闘技の試合に出場した窪川希望は準備不足もあり惨敗を喫したのであった。この結果を良しとしなかった窪川は、単身アメリカに渡り、生活の拠点を移し格闘家として修行を続けている
(あいつもあの空の向こうで苦しんでいるからなあ、こっちも腰が痛いとか言ってられんよ)
雛鶴さやか、会場の外周を軽く走ってからフリーウェイトのトレーニングと、日課にしている試合前のルーティーンをこなした。
試合開場から第1試合開始までの間で、自分の顔にペイントを施す。これが怪奇派戦士、スカルオークになるための儀式。
(もう少しだけ、頑張ってみるか・・・)
スカルオーク、26歳の秋。
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