新説ドラゴンクエスト3 第0日
新説 ドラゴンクエスト3
「大いなる夜明け前」
第0日
はるか昔、
世界は大きな闇に包まれようとしていた。
世界を魔族の支配下に置かんとする魔王軍団が、世界各国で活動を活発化させていき、少しずつではあるが確実に、影響力を増していった。
魔族を統べる者は、魔王バラモス。ネクロゴンド大陸の奥地に自らの居城を構え、ネクロゴンドの南半分は蹂躙され、多くの人間が殺された。魔王バラモスの手勢は、当初は少なかったが、人間の魔道士を調略して自軍に引き入れたり、野生動物を異形の怪物に改造したりという彼らなりの奸智で、たちまちのうちに手勢を増やしていったのである。
世界各地の支配者層は、魔族を掃討すべく大軍を編成し、彼らのアジトへ討伐軍をさしむけたが、総じて結果は芳しくなかった。異形の怪物たちと普通の人間が正面から戦っては人間に勝ち目はまずない。
世界南部にある大陸、アリアハンの地でも魔族の進出が噂されていた。
しかしアリアハンを治める国王マレスは、このことあるを早くから予測し、対応策を練っていた。大軍を編成して魔王討伐の戦いを仕掛けても勝ち目は薄い。ならば少数精鋭で魔族に対抗できる戦士を養成して、かれらに有力な魔族を一体ずつ抹殺させていけば、戦況の悪化を防げるのではないか・・・そう考えた国王マレスは、王城の地下に、戦闘員養成所を設立し、素質ありと思われる数十名の若者に、剣技や魔法の修練を施し、二・三年の修行年限ののち、少人数単位で魔族討伐の指令を与えアリアハンから旅立たせていった。養成所の初代校長には、近衛兵を務めたことのある魔法剣士、オルテガが任命された。
それから十年近くがたった。マレス国王の施策は、半分成功し、半分失敗した。他国のように魔王討伐の軍を大々的に起こさないため、魔族からは目をつけられずに済み、結果においてアリアハンの市民が魔族の被害に遭うことは少なかったが、送り出した戦士たちの戦功は芳しくなかった。彼らのほとんどが魔族に倒され、わずかに残った者も到底魔族にかなわぬと戦意を失い、世捨て人となり隠遁生活を送る羽目になった。責任を感じた初代校長のオルテガは、ならば私が自らバラモスを倒さんと決意し、戦闘員養成所の運営を部下に任せ、妻とまだ幼い娘、セメントを残して、教え子数人とともにバラモス討伐の旅に出た。
オルテガはかつての盟友、サマンオサの戦士サイモンと合流してバラモスの棲むネクロゴンドヘ乗り込む手はずだったが、サイモンはサマンオサ王の奸計にはまり、孤島の牢獄に幽閉されてしまった。オルテガはなお諦めず単独でネクロゴンドに乗り込んだが、ネクロゴンド東部にある火山の火口で魔王の配下に見つかってしまい、激しい戦いの末、火口の穴に落ちてしまい消息を絶った。
勇者オルテガ死す。数週間後、この報は生きのびた教え子によりアリアハンに伝えられた。オルテガの妻コバトフは悲嘆に暮れた。しかしこれでマレス国王の決意はますます強固なものとなり、養成所の規模はやカリキュラムはより強化されていった。オルテガを超える戦士を出さない限り魔族に対抗できるはずがない。養成所では多くの若者が剣や魔法の修行を積んだ。フリーランスの魔道士や老戦士が教官として招聘され、若者たちにその技を伝授していった。
オルテガの娘、セメントも父親の仇を取るべく、14歳で髪を短くして戦闘員養成所に入門した。少女の身でありながら、父オルテガ譲りの才能のなせるわざか、剣技も上達を続け、魔術も勉強を積みいちおう使えるようになった。卒業間近のころは模擬戦でも男子生徒に負けない剣さばきを見せるようになった。
ある年の夏、晴れてセメントは戦闘員養成所の卒業免状を手にした。卒業生の多くは近衛兵、傭兵、魔道研究所などに進みさらに修業を積むのだが、セメントは父オルテガと同じように魔族討伐のためにひとり旅立つ決意を固めた。
「女一人で魔族討伐の旅はあまりにも無謀」
養成所の教官たちは口を並べてそう言った。しかしセメントは孤高の人であり、養成所でも寡黙を通し、特定の友人を作ることはなかった。普通は養成所の友人どうし数人でパーティーを組み、3人から4人で魔族討伐に旅立つのが良くあるパターンであったのだが。
「一人でも、ボクはやります。」
静かに、だが確固たる信念をもってセメントはそう言い切った。
セメントは思慮深い人であった。養成所でも女子生徒は全体の3割くらいを占めていたが、たいていは生来持っている魔力が高く、聖職や魔道士の道を選ぶものが多く、パワーバランスを取るために男の戦士ととりあえずの徒党を組んで旅立つケースもあったが、多くのパーティーが長続きせず自然消滅していった。
「セメント、あなたは女の子です。いくら腕に自信があるからと言っても不調の日もあります。それに戦いに敗れた場合、死より恐ろしい事態になりかねません」
彼女に魔道の基礎を教えた女魔道士の教官が警告したが、セメントの決意は揺るがなかった。
「惜しい」「あれだけの素質のある若者、めったにいるまいて」
養成所関係者の誰もがセメントの前途を悲観した。
そしてセメントは16歳の誕生日、8月29日を迎えた。
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