大帝国 リプレイ
トワノヘイワを求めて
(1)
時に、統一宇宙歴939年
中帝国の支配する星域に、日本帝国が誇る海軍主力艦隊が侵攻した。
その数、戦艦8隻、巡洋艦17隻、駆逐艦37隻にも及ぶ大艦隊であった。
この大作戦を指揮するのは、海軍長官・前倉弘志。
大宇宙の一隅に位置する日本帝国は、支配する星域は狭いものの、精強な軍事力と勤勉な国民性で、宇宙に植民地主義がはびこる中でも独立の地位をなんとか保っていた。
しかし、日本帝国は4年前から西の星域にある中帝国と戦争状態を続けていた。発端は中帝国の駐留武官が殺害されたことだったが、あれよと戦端は拡大した。日本帝国を治める帝および日本帝国政府は早期休戦の道を探ったが、何度休戦の約定を結んでも向こうから破棄してきて戦争が再開され、日本と中帝国の争いは泥沼化しつつあった。
「中帝国は国と国との約束事も守れない三等国なり。断固として膺懲すべし」
惑星上での戦闘を担当する陸軍はそう絶叫したが、海軍長官の前倉は「石橋を100回叩く」と揶揄される性格ゆえか、防御的な作戦を好み、リスクの高い侵攻作戦をなかなか承認しなかった。
「だが今日の私は違う。北京を攻め落としてやる」
数年前に施行された国家総動員法により、海軍の艦船建造予算も増額され、日本帝国海軍の陣容は質量ともに中帝国のそれを凌駕するようになった。これなら問題ないだろう。そう考えた前倉長官は、北京を大艦隊で制圧する「い号作戦」を承認した。ほどなく中国軍の艦隊と会敵。しかし前倉長官は
「帝からお預かりした新鋭戦艦を初戦で無駄に傷つけたくない」と考え、予備艦隊である第4艦隊の東郷毅提督に、敵艦隊攻撃を指示した。
「今回はもう少し楽ができると思ってたんだがな」
東郷提督は参謀・秋山に呟いた。今回の侵攻作戦の主力は初の実戦投入となる新鋭艦隊。東郷の指揮する第四艦隊はあくまでサブのはずだった。
「ま、前倉長官も初手からエースを投入するのをためらったのだろう。それなりに期待されていると思って頑張ろう」
東郷毅、弱冠27歳、性格は軽佻浮薄、無類の女好きなのだが、戦術眼は評価されており、帝国海軍最年少で提督に就任して第4艦隊を任されていた。
「全速前進だ」
東郷の指揮する第4艦隊は中帝国の旧式主力の艦隊を撃破し、半数近い戦力に打撃を与えた。
「ふ・・・これではせっかくの新鋭戦艦も出る幕はなさそうだ」
海軍長官・前倉弘志大将は勝利を確信し笑みを浮かべた。今の海軍で戦上手な指揮官は貴重だ。しかも東郷は旧式艦隊をうまく取回して敵を撃破しつつある。
「あの男、もう少し真面目ならもっと出世できるだろうに…実に惜しい」
前倉大将はつぶやいた。しかし東郷は出世には興味も関心もなかった。「偉くなると女の子と遊ぶ暇がなくなるから」というのがその理由であった。
日本帝国海軍の主力が中帝国へ向けて全力前進した時、
ズズーン!!
突如、旗艦・日向に徹甲弾が被弾した。けたたましく鳴り響くアラート。
「なぜだ?」動揺する前倉大将。
敵はあらかた潰したはずだ。
「味方です!味方の樋口艦隊からの砲撃です!」
第2艦隊を指揮する樋口豪欲中将が突然裏切り、前倉提督の指揮する旗艦・日向に
「裏切りか・・・・馬鹿な、我が艦隊がこうも脆く、おのれ樋口め!」
前倉艦隊が大混乱に陥っているそのなか、第3艦隊の末山艦隊までも裏切り、旗艦日向に強烈な砲撃をたたきこんだ。
まさかの裏切り。樋口中将と末山中将は事前に中帝国軍とひそかに内通し、裏切りを約束していたのだった。
「くっ…まさかわが日本軍が内側から崩されるとはな」
旗艦・日向は集中砲火を受けて爆沈し、前倉大将も艦と運命を共にし、戦死。
日本帝国艦隊は窮地に陥った。
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