(55.幕間)
「魔石の力がなくなる前に、王位を譲ります」
けっきょくコッペリアは動くことができなくなってからも50年間、玉座に座り続けたが、辺境地帯での魔物との紛争が多発してきたため、1892年、近衛兵長ヤジウソ・マングーンが第88代皇帝として即位した。器械人形から人間でも伝承法の発動はうまくいった。マングーン皇帝は精力的に手勢を率いて辺境に出向き紛争解決にあたったが、現状維持に手いっぱいで七英雄討伐どころではなかった。
けっきょくマングーン帝は20年間、剣をふるい続けたが歴戦の疲れがたたり、疫病にかかってしまった。1912年、死の床でマングーン帝は後継の王位を王宮司祭・ラーギヤワを指名した。
ラーギヤワ皇帝は国防軍の充実に力を注ぎ、自らは祭政一致をスローガンに掲げ、ひたすら兵士の武運長久を礼拝堂で祈るだけであったが、万単位の兵力で七英雄配下の魔物と対峙したため、損害はすくなく大衆の支持もあった。
1930年、元皇帝・コッペリアが完全に活動を停止。皇帝を退いてからは名誉大臣として王宮の一室に席があったが、ある日部下が訪れたところ完全に活動を停止していた。壊れた人形となったコッペリアは、倉庫に保管されることになった。
ラーギヤワは司祭らしく規律正しい生活を好み、粗食を心がけ、酒も飲まず煙草も吸わず、趣味は読書くらいで、日々礼拝に明け暮れた。ラーギヤワは老いても壮健であり、90歳を超えるまで閲兵と礼拝を欠かさなかった。しかし1978年、ラーギヤワは礼拝に向かう途中、礼拝堂の階段から転げ落ちて頭を打ち死亡。残された詔により、第90代皇帝として女魔道士シブリンが即位した。
魔道研究に携わっていたシブリンだが、礼拝にも欠かさず日参していたため、ラーギヤワの信頼も厚く、ラーギヤワの晩年は身の回りの世話を担当していた。しかしシブリンは非力で、軍勢を統率する力はなく、七英雄配下との戦いでも守勢に回るときが多くなった。1996年、シブリンは側近大臣を集めて、ソーモンで会議を開いた。
「七英雄を全滅させない限り我が国に安寧はない」
「しかし、異形の力を持つ七英雄に正面から事を構えられる人材がいない」
「大臣ベソイ、七英雄はのこり5人。そのなかで町や村を侵略して現体制と正面切って荒らしまわっているのはワグナスとボクオーンだ。この2人を討ち果たせばあとは強さを求める怪物ダンターグ、海の王者スービエ、ノエルは砂漠地帯にいるらしいが休戦協定が生きている・・・・ゆえに2人を討ち果たせば世界の安寧に大いに資することとなろう」
「しかしワグナスは浮遊城にいて手が出せません」
「そうだ。空を飛べる仕掛けを考えないとな。それならまずはボクオーンを討伐しよう。いつまでもステップにあいつを地上戦艦でのさばらせていくわけにもいかない」
けっきょく会議ではボクオーン討伐のために選抜部隊を編成するという話になった。
「しかし我は魔物と血みどろの戦いを行う力は無い・・・・私が皇帝になったのも30年前、ラーギヤワ様にお手付きにされてしまったからだ・・・・もともと皇帝のウツワではないのだ・・・・しからば・・・」
そのあとシブリン皇帝は数年間、選抜部隊の養成に力を注いだ。
1998年、王宮に激震が起こった。金庫に保管してある財宝500万クラウン相当が盗賊団によって盗まれた。数か月に及ぶ捜査の末、盗賊団の頭目、女盗賊ラビットが逮捕された。使用人のふりをして兵士食堂で働くかたわら、財宝の位置をたしかめ、夜中に手下を招き入れ壁を爆破して財宝を奪ったらしい。ラビットは当初、容疑を否認したが、むち打ちの拷問にかけられるや白状するに至った。裁判が開かれ、ラビットは死刑判決を受けた。
2002年、死刑執行の前週、執行命令書に皇帝の署名をするときになって、シブリン皇帝がひらめいた。
「監獄へ案内せよ」
鉄格子越しにラビットと相対
「死刑囚ラビットよ。そなたの犯した罪は重いが、その行動力と知恵はある意味貴重だと考える。よって、いまから話す条件に同意するなら刑の執行を免じてもいい」
「・・・・・私に何をさせたいの」
「七英雄ボクオーンを討ってくれ」
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