(今回は冷凍物ではなく書き下ろし)
バシッ、バシッ、バシッ!!
SPZ道場で夜遅くまでサンドバッグを蹴る音が響いていた。
この団体、日本でも有数の女子プロレス興行会社なのだが、ストイックに練習に取り組む選手は2-3人である。フローラ小川もつい最近までは線の細さをカバーすべく特訓に明け暮れる日々だったのだが、グリズリー山本の凶悪な技を受け続けて腰を痛めてしまい、いまでは身体のケアを優先させている。
そしていま、SPZ道場でもっとも練習熱心なのが、SPZ37期のジャスティスえちご。(本名:田中裕子)リングネームがジャスティスえちごなのはただ単に新潟県出身だから。消して素質の高い選手ではなかったが、猛特訓を繰り返し、会社サイドからは「未来のエース候補」の評価を得るに至った。不器用そうな性格だが、受けが強く、ちょっとやそっとの攻撃では音を上げない「気合いと根性型」の選手だ。
「あとは攻撃面でフィニッシュホールドが出来れば上でも使えるんだけどね」
吉田龍子取締役が辛口の評価。本人もそれは分かっている。いちおう必殺技としてダークレフト(左の裏拳)を持っているのだが、かわされ易いのと、相手が受けきってかうんと2で返した場合もう攻め手が見つからなくなってズルズルいってしまうパターンが多かった。
サンドバッグを蹴り続ける。弱った相手にトドメを刺す蹴り技の精度を上げるつもりらしい。
「一撃で、潰せるようにならなきゃ、山本さんや佐久間さんを倒せない」
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「田中さん田中さん、あまり特訓ばかりやってると身体を悪くしちゃうよ、スポンサーの方から映画のチケットいただきましたから、気分転換に観にいきましょう」
先輩のフローラ小川が特訓に没頭するえちごを見かねたのか、気分転換に誘った。
あくる日の夕方、二人は私服で、目立たないよう髪形とメイクを変えて、関内の映画館へ出向いた。取引先からタダ券をもらった(押し付けられた)映画のタイトルは、下記のごとくであった。
「借金大王~夜逃げ東海道~」
ストーリーはうだつの上がらない弱小工務店の社長が借金を重ねて、悪徳金融業者に追われるというありきたりのストーリー。当然シネマの席は平日ということもありガラガラ。
「微妙な映画ですね」
えちごもつまんなさそうにポップコーンを口に運ぶ
「でも、後半、アクションシーンがあるらしいですよ」
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上映開始から80分、眠気に耐えながらスクリーンを見ていたえちごとフローラ小川。いよいよ後半に入り、ストーリーが動き出した。借金を重ねた社長は、ついに経営再建を断念しこのみ金融に自社ビルの鍵を渡し夜逃げ。そしてその、このみ金融が自社ビルを占有。しかし別の債権を持っていたもう1社、柄の悪いタマキ金融が夜逃げ発覚に激怒。このみ金融が占有する自社ビルへ向かった。施錠されたオフィスの入口ドア。
「おんどりゃあ、開けんかい!」
「それはできないのであります。社長から言われているのであります」
ドア越しの押し問答が続く
「ちくしょう、ラチがあかねえ」
タマキ金融の部長がドアに向かって構えた。
「あけろっつってんだろーーーーーーー」
バーンッ
左足でドアを蹴破った。
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「こ、この蹴りだ・・・・・」
えちご、一撃でドアを蹴破ったシーンでなにか閃いたようだ。
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そのあと映画はハチャメチャなアクションシーンに突入し、このみ金融とタマキ金融の社員同士が大乱闘をおっぱじめた。双方が携帯電話で増援を呼びオフィスは修羅場となったが、最後に現れたタマキ金融の社長がアイアンクローで全員を沈黙させ、このみ金融の債権を買い取る話で一件落着・・・というストーリーだった。
映画を見終わったジャスティスえちご、すぐさま帰り支度。
「小川さん、すぐ会社帰って特訓します、閃きました」
「実家で焼き肉食べようと思ってたのに・・・・」
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1時間後、夜のSPZ本社会議室、
「アイツ、オフィスで特訓とは何やってるんだ」
SPZ本社会議室、中森社長が呆れ顔で。残業していた数人のスタッフも青ざめた表情。
開いている会議室のドアを内側からロックし、えちごが外から蹴破ってゆく特訓。
げし、げし、げしっ!!
しかし一撃でドアを蹴破ることは難しい。何発か入れないとドアが壊れないのだ。
「修理代はファイトマネーから引いとくからな」
中森社長がぼそりと。ついでに京スポ新聞社に連絡して記者とカメラマンを手配。
ジャスティスえちご、本社自社ビルの会議室商談室のドアを破壊しまくること1時間、そしてついに、
バキイッ
社長室のドアを一撃で吹き飛ばした。
「つかんだ・・・このタイミングだっ」
「あんたねえ・・・・」中森社長も呆れ顔。SPZ本社のドアのほとんどが破壊されてしまった。修理代はいくらかかるのやら。
「あとで工務店呼ばないと・・・・」
翌日の京スポ新聞一面は
「女子プロレスラー Jえちご、狂乱の本社破壊」
となってしまった。修復費用はウン百万円になり、ジャスティスえちごは月々のファイトマネーから「分割払い」で返済する破目になった。
「で、田中さん、必殺技のネーミングはどうしますか?」
特訓の翌日、本社でのスタッフへの謝罪フローラ小川が冷静に突っ込み。
「そうですね・・・」
「天空剣なんていうのはどうですか、かっこいい」
「うーん・・・・」
「おお花子、来てたのか。」
SPZ創業者、今野ファウンダー(ファウンダー室のドアも壊されたので見に来た)が缶コーヒーを手にやってきた。必殺技ネーミング談義に加わる。
「なに、必殺技のネーミング?それなら私がハイソでエレガントな案を出してやろう」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ゴートゥーヘル(地獄へ行け)ってのはどうかな」
「・・・いかにもな感じが」
「じゃあゴートゥースリープ(眠っちまえ)」
「男子の団体で既に使われてませんでしたっけ」
「ゴートゥーホスピタル(病院へ行け)」
「いや、病院関係者から苦情が来そうな・・・」
以下喧々諤々。
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3日後、ジャスティスえちご新必殺技発表会がSPZ本社会議室で開かれた。中森社長が話題づくりで仕掛けた。えちごには弁償額を6掛けに減額してやるということで納得させた。
「えちご選手がすごい必殺技を開発したらしいので、次期シリーズでは7番勝負を組もうと思います」
ドアの向こうにえちごがいる。
「それではえちごさん、必殺技の名前を叫びながらドアを蹴破ってください」
少しの間を置いて、ドアの向こうからえちごの声が。
「行きます、ゴ、ゴートゥーベッド!!」
バキイッ!!
せっかく再設置したドアが一撃で蹴破られた。
「この技で、SPZのトップをとりに行きます」
ジャスティスえちご、少し赤面しながらトップ取りを宣言した・・・・
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